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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
序章:傾いた総合病院
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ⅩⅢ話

 頑丈なシャッターをプッシュバンパーのついた車体が突き破る。弾痕の刻まれたシャッターはそれだけで無残にも弾け飛び、巨大なジープが暗い通路へと躍り出る。

 軍事使用のジープにはライトがついてはいない、変わりに、社内のモニターに映る周囲の映像は鮮明であった。生き物には見えない不可視光線を照射し、それを受信機で受信。CPUに刻まれたプログラムがそのデータを解析してモニターへと映し出す最新式の暗視システムだ。

 故にサイハテの目には光一つ差さない通路は昼間のように見えている。距離感を失わないようにHUDのような物も搭載されており、これなら車に苦手な人間でも使い慣れれば一流のドライバーになれるだろう。

 障害物を見つければ、CPUが判断し、回避アシストまで行ってくれて、進路上にある障害物は縁が赤く光って、ぶつかるぞと視覚で教えてくれる程の致せり尽くせりっぷりだ。


「サイハテー! この銃座、弾道計算システムまでついてるわ! 70mm35口径までの大砲なら積めるわよ!」


 戦車のような運用すら考えられているとは驚きだ、だが、いくら頑丈とは言えど所詮はジープ。大砲を積むことはないだろう。

 ジープの上部に付いている銃座は一応前面装甲のついた20mm55口径機銃座だ。そこの装甲の部分に射撃アシストがついているのだろう。


「積んでも30mmまでだな」


 サイハテは冷静に返事を返す。

 銃弾と言うのは重いのだ、特に機銃なんかは1000発位実包を積まなきゃやっていられないし、弾薬を大きくすればそれだけ重くなり、車の積載量が減ってしまう。砲弾なんか積んだらもっとあれだ。

 サバイバルを強いられている世界で、それはいつしか自分の首を絞めるだろう。


「そう……」


 陽子は少しばかり残念そうな声を上げる。

 そんなこんなしている内に、薄暗く、狭い通路はある場所へと辿り着く。鋼鉄製のレールが走る暗いトンネル……地下鉄の線路と言うやつだ。

 ジープを停車させ、陽子から貰った市内の地図を引っ張り出すと、サイハテはモニターの端に表示されているコンパスを見て、車が出られそうな駅の予想を着けてみる。


「……三駅分か、かなり市街から遠ざかれるな」


 流石に地下鉄網の線路図はなかったにせよ、これくらいなら精度の高い予想が出来ると言うものだ。


「でも、なんか嫌な臭いよ……機械油みたいな、そんな臭いがする」


 銃座に居る陽子から、そんな声が飛んでくる。

 そんな事言われても、ここを通るしか車を持ち出す手段がないのだ。地下鉄の線路は二車線分あり、もしここでグールの大群に遭遇しても車なら振り切れるはずだ。


「だったら急ごう。全員、警戒を厳に。陽子は敵影らしきものを見つけたら即報告を頼むぞ」

「……ええ、急ぎましょう」


 陽子は予備弾倉を銃座へと引き上げて、そう返事をする。

 レアの返事がないのは、後部座席で手榴弾を手持ちの工具で分解してくっつけるのに夢中になっているからだ。結束手榴弾と言うやつで、その場しのぎの急増品でも90式の履帯を外す事なら出来そうな威力になるだろう。

 ジープが薄暗い地下鉄内を進む、崩落している場所があり、そこは迂回して進まなければならないなと思っていたサイハテであったが、その心配はなかった。まるで誰かが掃除したかのように、地下鉄線路は綺麗だったのだ。


(おかしい)


 サイハテはそう感じる。

 もし、あのバンデッドどもがここを拠点にしていたとしても崩落した場所を片付けるような綺麗好きには見えないからだ。そして、奴らが拠点にしていないにせよ、一駅分進んだ今、何人にも遭遇してないのは明らかにおかしいのである。


「さ、サイハテ、アクセル全開!!」


 銃座で陽子が叫ぶ。

 言われた通りに、限界までアクセルを踏み込み、ギアを最速へと切り替えるのだ。水素エンジンが唸りをあげる、モニターの隅に表示された速度計は時速180キロをマークしている。


「どうした?」


 猛スピードを出しながらでも、サイハテは冷静に陽子へと尋ねる。銃座には風防がいつの間にか着いている、強風から身を守る為に、陽子が引っ張り出したのだろうとどうでもいいことを考えた。


「む、むむむむ、ムカデ!!」

「ムカデェ?」


 直線を走りながら、サイハテはちらりを後ろを振り返る。


「……ムカデェ!?」


 そして思わず驚いてしまう。ジープの後方20メートル位に、地下鉄の二車線の幅程の大きさのムカデが、こちらへと疾走していたのである。ジープは今最高速度だと言うのに、ムカデとの距離は一行に開けていない。


(頭の部分だけでも、地下鉄線路一杯の大きさって……体はどれだけデカいんだ!?)


 列車ムカデ(キロピード)と呼ばれる、超危険生物だったと言うのは、後で知る事なのだが、体のサイズ的にも勝てる訳がないと、人間は直感で理解する。

 ジープが唸りをあげて、線路上を疾走する。その背後にはスピードを緩めれば食っちまうぞとばかりに口をあけたキロピードが続く。

 キロピードに取っても久々の餌なのだろう、こちらを逃す気配は微塵も受け取られない。それを感じ取ったサイハテは強く歯噛みをする、こう言った生物の出現はNIAにとってもアクシデントであるに違いない、そうでなければ、サイハテを殺そうとしているかの違いだ。


「サイハテ! 撃っていい!? あいつどんどん近づいてきてる!!」


 その言葉に従って、後ろを見てみると距離が大分縮まっている。

 ジープはそろそろ時速200キロにもなろうと言うのに、奴はそれ以上の加速性能だとでも言うのか。


「撃て! 撃ちまくれ! 食われるぞ~~~~~!!」


 20mm55口径機銃が轟音を上げて弾丸をキロピードへと射出する、当たればヘリコプターだって撃墜する事が出来る大口径の機銃だ、当たれば奴だって無事では……


「サイハテ! 全部弾かれてる!!」


 無事だったようだ。

 後ろを少しばかり振り返ると当たった機銃弾が弾かれて火花を散らしているのが見える、どんだけ分厚い甲殻を持っているんだと、心の中で叫んでしまう。


「なぐも」


 大人しくしていたレアが突如として声を上げる。


「これ、なげる、なぐも、うつ」


 そう言うや否や、レアは窓の部分にあるハッチを開いて結束手榴弾をキロピードへ向かって放り投げてしまう。僅かな放物線を描いて、結束手榴弾は地面に落ちて、キロピードの下腹部へと潜りこんでしまう。

 そこに、陽子の放った弾丸が命中した。

 狭い空間に広がる爆風と、崩落がはじまった爆心地。

 しかしそれを見ている暇はないと、サイハテはアクセルを踏み続ける。


「サイハテ! あいつ追っかけてこないわ!」


 陽子の嬉しそうな声が機銃座から聞こえてくる。


「こっちも脱出する駅が見えてきた! 掴まれ!!」


 脱出地点の駅は高架道路にも近い、このままスピードを落とさずに駅から脱出してそのまま高架道路に逃げるべきであると判断したサイハテは、そう叫ぶ。

 駅の縁に、片輪走行で片足を載せると、先程の爆発で落ちたらしい瓦礫にもう片足を載せ、その反動で駅内に一気に車体を踊り出させた。

 そのまま自動改札機も吹き飛ばして、地上への階段に車輪を載せて一気に走り去る。

 階段にある段差のおかげで車体が激しく揺れる。


「わわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……」


 レアがその振動に合わせて声を上げる、声が不自然な感じに揺れて、思わず笑いを誘ってしまう。


「もう、レアったら」


 陽子はそう言いつつもおかしそうに笑っている、危機を切り抜けて気が抜けているのは十二分に理解できるが、もうちっとだけ緊張感を維持して貰いたいものだとサイハテは呟く。

 何しろ、あいつ(キロピード)が諦めたとは思えないからだ。

 駅の外へと飛び出すと、モニターが白くなるが、それも一瞬の事で、すぐさま周囲の風景……ボロボロになった遺跡ビル群が映しだされるのだ。

 サイハテは時速100キロ程までスピードを緩めて、高架道路の方へと車体を発進させる。

 ここから逃げられれば、後はなるようになれだ。

 高架道路に差し掛かった時、突如して地面が揺れる。


「え!? なに!?」


 陽子が機銃座で悲鳴を上げる、対するサイハテは予想通りと苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


―――――FooooooooooooooooooooooooooooW!!


 背後で大地を揺るがす咆哮が聞こえる、ちらりと視線を後ろへと向けると脱出した駅の辺りから数百メートルにも及ぶ巨大なムカデ(キロピード)がその巨体を天上へと伸ばして咆哮を上げている姿が目撃できた。


「またあいつ!? もう勘弁してよぉ!!」


 キロピードは鎌首を擡げてこちらへと視線を向けている。その姿は、これから起こる追いかけっこ(デッドチェイス)を予想させるものだった。

登場クリーチャー紹介


キロピード:赤と青のだんだら模様の全長600メートルにもなる超巨大なムカデ。背中にVLSやCIWS、挙句の果てには地雷敷設機まで搭載した超生物。挑むときは航空支援有りの一個戦車大隊程の戦力が望ましい。地下鉄構内にその身を潜ませて、夜になると地上へと姿を現す夜行性、群れで生活する習性を持つ。

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