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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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二十三話:踊る刃

時間があったので、作成しました。


所要時間43分程なので、誤字脱字ありましたら報告お願いします。

 レア特製、走るブリキの巨人は千葉の道路を爆走していた。

 走る度にアスファルトが捲りあがり、傾いていた電柱が振動で倒れていくが、怪物達も追いつけない速度で走っているので、何も問題がないだろう。


『うおううおうを~♪』


 通信機からは、ご機嫌なレアの歌が響いてきている、数十分前からこの調子で、グールの大群を蹴飛ばし踏み潰し蹂躙しても気に止める様子すらない。


『はしれー、くだけー、ぼーくらのー、ぎがーすー♪』


 この火花を散らしながら全力疾走している人型ロボットは、ギガースと言う名前らしく、先程から歌っている歌にも何回か名前が出てきているのを、陽子は聞き取っていた。

 今まで陽子やサイハテ、ハルカが戦っているのに何も出来なかったのが不満だったのだろう、今日のレアはいつにない位、ハイテンションであった。


「さ、陽子様。右腕を上げて下サイマシ」

「う、うん……」


 そんな揺れる機械の上で、少女は上半身裸になって、侍女から治療を受けている。

 思ったよりも、痛みが酷かったので一応外科知識はあると言うハルカが、治療を買って出てくれたのだ。

 流石に、誰も居なくなった街とは言え、白昼堂々裸になるのは恥ずかしかった陽子だが、酷い痛みが続くのは体の危険サインでもあるからと、湿布を張られている。


「これで最後デス。痛みはどうデスカ? 肌のかぶれとか、ピリピリするとかあれば、おっしゃってくだサイ」

「うん、大丈夫。ズグンズグンって痛みが、ぐりぐり位には減ったわ。ありがとね」


 鎮痛効果の高い湿布であるから、その効果は覿面だ。


「あくまでも、症状を和らげるだけであって、治療するものではないので、その辺りは留意してくだサイ。陽子様は重度の打撲を負っておりマス、無茶は成されないように」

「うん、もう無茶はしないわ」


 下着を着て、ケブラー繊維の上着と防弾プレートの入ったボディアーマーを着込む。陽子が骨折しなかったのも、全てはこのボディアーマーのお陰だ。

 サイハテは、このアーマーに仕込まれた防弾プレートは強化プラスチックが使われた一品で、防弾能力より衝撃を吸収する力の方が強いのだと言っていた。

 こんな所でも、助けてくれる彼を思って、少女は僅かに微笑む。

 彼に好き嫌いはないが、煮物を作った時は殊更嬉しそうだったなと思い出し、平和な場所に付いたら魚の煮つけでも振る舞ってやろうと、陽子は献立を決めた。


『そろそろ、もくてきちにつく。ついたらおりてほしい』


 無線機からはいつの間にかレアの歌が止んでおり、代わりにそろそろ目的地に着くとのアナウンスが入ってくる。

 無敵のギガースも、狭い室内では足元に取りつかれる可能性などが高いので、随伴歩兵として取りついた感染変異体を排除してほしいのだろう。

 大きな兵器は大きさがメリットにもなるが、同時に大きさによるデメリットも出て来てしまうのだ。

 ここの角を曲がれば目的地の駐車場が見える、そう言った所でレアは機体を停止させ、二人に降りるように促した。

 陽子はギガースの手を借りて、ハルカはそのまま飛んで降り、二人揃って銃を構える。


「……変異体は、来てないみたいね?」

「その代わり、変態の姿も見えマセン」


 先にたどり着いたならば、隠れている可能性もあるが、それだと接触してきてもおかしくない。

 サイハテはまだたどり着いておらず、どこかを走っている可能性が高いと予想する。


『ぼくがせんこーする、から、ふたりは、うちもらし? をたいじしてほしい』


 レアの乗るギガースは近接武装しかついていない、巨大な旋盤と、鋼材を切断する為の巨大な丸鋸位だ。

 打ち漏らしと言う言葉に疑問符がつくのも当然だろう。


「了解、私は近くに来た奴を、ハルカは両腕を潜り抜けた奴を」

「承知しマシタ」


 ブリキの巨人が先行して、鈍重そうな足音を響かせながら駐車場へと入っていく。

 その背後に警戒しながら続くのは陽子とハルカだ。

 三人とも、集団訓練を受けていないので足並みはバラバラで、とても見ていられないような警戒風景ではあるが、お互いの信頼関係はここにきて強まっている。

 連携は苦手でも、士気が折れて混乱する事はないだろう。

 だが、突拍子もない事が起これば……即ち、全員が一斉に唖然としてしまえば意味がないのである。


「……えっ?」

「……ハァ?」

『うんえ?』


 三者三様、陽子ハルカレアの順に反応を示す。

 示した先は病院の玄関前にある、とある人物に対してだった。

 当世具足のような、現代装甲服を着ている事はまだいい方だ。自身の命を預ける装備に、自分なりの改造を施すスカベンジャーは、珍しくない。例えその甲冑が、花のような色合いで染め上げられていても、無関係だ。

 驚かれた彼女が、とびきりの美人だった事も、まあ問題はない。居る所にはどこにだっているのだから。

 そしてその美女が、冗談みたいな漫画肉に大口開けて齧り付いている事も、まあ問題ではない。香辛料と脂の焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐるのは問題だが、それ以外は何もない。

 問題なのは、そんな人物がなんでこんな危険な場所で、そんな行動をしているか、なのだ。

 よく言えば余裕、悪く言えば馬鹿。

 彼女がやっている事は、二つの言葉で表す事が出来る。


「……ああ、来たのか」


 せっかくの美人が台無しになる位、頬袋に肉を詰め込んだ美女は、くぐもった声でそんな言葉を謳った。


「待ちくたびれたよ。貴方達なら、ここに来ると信じていた」


 彼女は骨だけになった漫画肉を放り捨てて、唇に着いた食べかすと脂を拭う。


「それで……ジークはいないの? 貴方達だけ?」


 彼女の甲冑が揺れて、涼し気な音を立てる。

 随分と澄んだ音だったのはさておいて、陽子達は顔を見合わせた。代表として喋るのは、やはり陽子位しかいないだろう。

 集団から一歩前へ出て、珍妙な美女と相対した。


「彼はいないわ。何の用なの? 貴方、誰?」


 とにかく、誰何(すいか)しないと始まらない。


「そうか、いないのか……目論見が外れたな」


 長い髪を側頭部でまとめた美女は、困ったかのように顎を掻くと一歩前に出て、引き攣ったかのように口角を上げてみせる。


「わたしはグラジオラス。ジークを殺すもの。貴方達の敵」


 その言葉と同時に、グラジオラスと名乗った美女は腰から棒状の物を引き抜いて、光る剣を精製した。

 機械の唸り声らしき駆動音と共に、鋭い十字剣となった光の剣を三人に突き付けて、グラジオラスは語る。


「ジークが居ないのはともかく、大義名分は果たさせて貰う。わたしと一緒に来て貰おうか? クイーン」


 切先は陽子に向いており、彼女もクイーンと呼ばれる理由にピンと来たようだ。

 一歩下がった少女を見たハルカは、彼女を押しのける形で前に立ち、叫ぶ。


「陽子様、下がってくだサイ!」


 それと共に展開されるのは、アサルトカービンのフルオート射撃。

 人間よりずっと強い力と、高い安定性で放たれるそれは、カタログスペック並みの集弾率を発揮する。しかしだ、相手は曲がりなりにも魔女と呼ばれる女である。


「ヌルい!」


 罵倒と共に、飛来した弾丸を全て剣で弾き、好戦的に笑ってみせた。

 まるで、出来の悪いアニメーションのような世界が、目の前で繰り広げられた事に、陽子は驚きを隠せない。

 グラジオラスは音速を超えて飛来する、小さな金属粒を女の細腕で全て叩き落としてみせたのだ。自身に飛んでくる弾だけを選別して、あのおもちゃのような光る剣で。


『ぼくが、いく!』


 次に向かっていったのはレアだ。

 近接戦闘しか出来ないから、近寄るしかないと考えたのだろう。

 しかし、あの剣の切れ味は分からない上に、レア自身が戦いに慣れている訳じゃない。


「援護するわ!」


 陽子が選ぶ決断は援護、拳銃しかないとは言え二方向から攻撃を加えれば、その分グラジオラスの手だって空くはずだと考えた。

 ハルカはリロードしているし、援護するにも一手遅れる為、陽子がやらねばならない。手足を狙って拳銃を連射する。

 グラジオラスと名乗った美女は、放たれる弾丸を踊るように動きながら弾き、自身の身を守っている。陽子が持つ能力のお陰で、躱されると言う事態はない。


『ぎがーす……ぱーんち!』


 攻撃する瞬間を声で知らせるのは、子供らしい部分だろう。

 巨大な旋盤を装備した右腕を振り上げ、防御に手いっぱいに見えるグラジオラスに襲いかかるレア、あれほどの質量を前にすれば、彼女とは言え死体になるか、それとも重傷を負う以外の未来は想像できなかった。

 だが。


「うひ!?」


 複数の剣閃と共に、レアの悲鳴が響き、ブリキの巨人は四肢を切り取られて大地に堕ちる。


「さぁ、顔を見せて貰おうかな。お嬢ちゃん」


 そして、グラジオラスはギガースのコックピットハッチを吹き飛ばし、操縦者たるレアを引きずりだした。

 猫のように摘ままれて、両手足を暴れさせる抵抗を試みる物の無駄だったようで、彼女は怯えるレアを興味深そうな目で観察している。


「……あうわわわ」


 怯えてしまっているレアと、半眼で彼女を見つめるグラジオラス。

 陽子とハルカからは射線上、レアに当たる可能性が高いので発砲できなくなっていた。


「これ、誰が作った?」


 足元のギガースを、脚甲で蹴りながら尋ねるグラジオラスに、レアは震えながら自分を指さして宣言する。


「ぼ、ぼく……」

「そうか、君は凄いんだね。わたしにはこんなの作れそうにないよ」


 女性にしては少し低めの、落ち着いた声で褒められてしまい、怯えていた摘ままれ少女はきょとんとした表情で、彼女を見つめた。

 グラジオラスは初めて優しそうに微笑むと、レアをそっとギガースのコックピットへと戻して、ハッチを閉め直してあげる。


「テイクアウトで頼むよ。可愛らしくて、いい土産ができた」

「ふぁ? ふぁああああああああ!? よーこ! はるか! たすけてええええええええええ!!」


 お持ち帰り宣言された少女は、コックピットの内側からハッチを叩いて、助けを求めている。恐らく、無理矢理閉められた為、歪んで開かないのだろう。


「勝手な事を……!」


 自身の主人が攫われると聞いて、黙っているハルカではなく、陽子にアサルトカービンを押し付けて、彼女は刀を引き抜いていた。

 サイハテが拾った、官給品の高周波ブレードを手に、機械侍女の有り余る膂力で一気に戦闘目標との距離を詰める。


「おっとっと」


 高く飛び上がり、位置エネルギーと自身の腕力を利用した斬撃を叩き込むが、グラジオラスは片手でそれを受けてみせた。

 サイハテがよくやっている、刃の上を滑らせて相手の攻撃を受け流す、素肌剣術の防御に、ハルカは完全に刀を振りぬいてしまう。


「なっ……!」


 侍女が驚く、素早く反応するが、グラジオラスは順手から逆手に剣を持ち替える。


「遅い」


 そのまま振り向きもせずに、ハルカの胸部を貫いた。

 メインの発電機をやられた彼女は、サブに切り替える為に一瞬だけ停止してしまう。

 そんな大きな隙を逃すような間抜けだったならば、グラジオラスは魔女なんて呼ばれていないだろう。逆手に持った剣を順手に戻すと、両手で握り、彼女の首を跳ね飛ばしてしまった。

 白い電解液が噴き上げると共に、ハルカの首が陽子の足元まで転がってくる。


「……。…………。……!」


 発声器官がやられたようで、ハルカは何度も口を開閉して何かを喋ろうとしているが、陽子の耳にはノイズが聞こえるだけで意味なんて理解はできなかった。

 彼女の首を拾って、申し訳なさそうな目をしたハルカを見つめていると、突如としてそれを取り上げられてしまい、陽子は顔を上げる。

 ヘッドセットの辺りを掴み、少女と首を交互に見つめているグラジオラスが居た。


「さてと、どうする? クイーン。このバイオロボットはまだ生きている。大人しく着いてくるなら、この子は壊さないでおくけど……わたしと戦う?」


 陽子は理解する。

 これは詰みであると。

 拳銃とアサルトカービンを投げ捨てて、両手を挙げた。


「わかったわ……戦わない、降参、する」

「ああ、よかった」


 そしてグラジオラスは笑顔になると、陽子がまだ装備していたナイフやら弾薬やらを抜き取って投棄すると少女の両手を掴んだ。


「それじゃあ、着いてきて。わたしとアイツには、相応しい決戦の舞台が必要なんだ」

ネクスト変態ズヒーント:花言葉


また、次の更新で出会いましょう。

過去の因縁は殺し尽くすまで貴方を追いかける。

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