小ネタ:サイハテがお引越しするようです
ノリと勢いで書いた。
少々不安。
日本にあるアルファの本部。
申し訳程度に用意された自分のオフィスで、結婚式を終えたばかりの西条疾風は荷造りをしていた。
アルファからの命令で、本拠地を別の場所に移すのだ。
「……大分片付いたねー」
「……あぁ」
その引っ越しを手伝う為に、新妻となった琴音も手伝いに来ていた。
段ボール三つに分けられた私物ではあるが、一応西条疾風個人の物なので彼女に預かってもらう事にしたのだ。
しかし、その状況でもサイハテには大きな疑問が一つあったので、任務を知っているだろう琴音に、尋ねてみる事にした。
「なぁ、琴音。俺が転勤する場所って、どこだ?」
「……そ、それじゃあ、いるものといらないものにわけよっか!!」
「おいィ?」
露骨に話を変えられてしまった。一体全体、自身が向かう場所を聞くのに、そんな不都合があるのかと思ったが、自分の妻は時たま意味の分からないことする。
「……それじゃあ、このスマートフォン。現地で活動するなら必要だろう?」
「これはいらないよ……」
「ん? 何故だ」
いらないものと書かれた箱に投げ入れられた最新型のスマートフォンを見送りながら、サイハテは尋ねた。
「……電波、多分届かないから」
「……そうか、君の声が聞けなくなるのは寂しいな。それじゃあ、この陸軍装備一式。これは必要だろう、電波が届かない状況と言うのは、孤立無援になると言う事でもあるから、現地調達はするにしても……っておい」
陸軍装備一式も、いらないものと書かれた箱に入れられてしまった。
「銃、使っちゃダメだから……」
琴音はそう言って涙ぐんだ。
「……じゃあどうやって戦えって言うんだ」
サイハテの疑問に、彼女はとある物品を渡す事で答えとした。
渡されたのは写真家仕様に改造された、高級なデジタルカメラだった。市販品と比べても、画素数、ピント調整などの性能も比べ物にならないだろう。
「戦う訳じゃ、ないから……」
「……なんだ、それじゃ、俺に写真を取れって言うのか」
「……うん、そうなんだよ」
「マジかよ」
つまりはアレだ。
敵の重要施設に潜入し、痕跡を一切残さずに兵器の写真データでも集める任務だろうと、サイハテは高をくくった。
それならばとまだ片づけていないロッカーから、少し古臭いスニーキングスーツを取り出す。
「じゃあこれは必要だよな? 痕跡を残さずに潜入するならば、これは必須だ」
スニーキングスーツをみた琴音は少しだけ渋い顔をすると、彼らの常識ではありえない事を言い放った。
「あんまり役に立たないと思うけど。潜入任務じゃないし」
「そうか、潜入任務じゃない……え!? じゃあこのカメラ何!?」
「……だから、写真を撮るんだってば」
困惑しきったサイハテは、手に持ったカメラを見つめて、途方にくれてしまう。
涙ぐんでいる琴音が、鼻を啜りあげる音だけがしばらく響き、そんな妻の姿を見かねても、聞かずにはいられなかった。
「そろそろ教えてくれ。俺はどこに派遣されるんだ?」
そう尋ねても、口頭で教えて貰えるわけでもなく。
琴音に差し出された安物の冊子、所謂旅行パンフレットを差し出される。そこには大きな文字で、南アフリカ共和国の観光案内が書かれていた。
「……え、アフリカ? 俺アフリカに派遣されんの!? 何しに派遣されんの!?」
「……ハヤテが悪いんだよっ!!」
困惑していたら、琴音に怒鳴られて身を竦ませるサイハテ。
彼女は涙を流しながら、彼に詰める。
「ハヤテが……ハヤテが上司を仲人にしなかったからっ!!」
「はぁ!? じゃあなんだ、俺はその仕返しっつーか、嫌がらせに派遣されんのか!?」
「そうだよ!! それしかないじゃん!! ピンク色の象さんを撮ってこいだってさ!! 新婚旅行も、初夜だってまだなのにぃ!!」
「存在する訳ないだろ!! そんな象さん!!」
「知らないよ!!」
夫婦二人で言い争いするが、彼らに拒否権なんてある訳もなく、サイハテは派遣されてしまった。
成田空港のロビーで、涙を流しながらハンカチを振る琴音の姿が、彼の脳内に深く焼き付いてしまう。
どうでもいい話だが、その後サイハテは三日でピンク色の象さんを発見し、写真に収める。この功績を見た日本情報局上層部は、もっと無茶ぶりしてもいいのではないかと言う、ジーク万能論を強める事になった。
ちなみに正史。