総合評価1500越え記念小話:サイハテが娼館遊び出来なかったようです
ワンダラータウンの襤褸屋で、サイハテは感じていた。
「そろそろ、チンチンが限界だ」
性欲を我慢しようと思えば、ずっと我慢できるが、遊ぶところがあるのならば、遊びたいと言うのが男心と言う物だ。
彼は財布を引っ掴むと一目散に家を飛び出した。
あまりの慌てぶりに、ベッドでゲームをやっていた陽子があんぐりと口を開けているが、気にしている余裕はない。
スラムを駆け抜け、中央街を飛び越え、川の対岸にある歓楽街へとやってきた。
せっかく抱くのならば、スラムの夜鷹ではなく、しっかりとした女を抱きたいのでわざと足を延ばしてみたのだ。
「さーて、どこがいいかね?」
ずらりと並ぶ、様々な店。
ラインナップは、意味深な旅館多数に、大人の玩具屋、夜の劇場、泥のリングで戦うプロレス会場など様々な物があった。
どれがいいか迷いながら散策していると、呼び込みに声をかけられる。
「よぅお兄さん! まだお店決まってないの? うち、いい子が居るよ!」
「やぁお兄さん! 奇形好きかい? いいの揃ってるよ!」
「お兄さん、美少年好きかい? うちは粒ぞろいだよー!」
「兄ちゃん、おっさん好きかい? 一緒に糞塗れになろうや」
「よう、ジーク。女漁りかい? 僕が相手してやってもいいぜぇ?」
とりあえず邪魔なので、蹴散らして歩く。
何故か、元同僚が居たような気がしないでもないが、一緒に蹴散らしておく、どうせ、ろくでもない事を言いに来たに違いないからだ。
「んー、決まらんな」
街を歩くサイハテは、そうぼやいた。
彼の知っている歓楽街とは、大きく違っているのが原因だろう。
まず、写真がなかった。
実際に店の中に入るまで、嬢を見る事が出来ないと言うのが難点であった。実際に入った店で、変な女をつかまされたら、たまった物ではない。
店構えや、立っているボーイの良し悪しである程度は予想できるものだが、ここは慎重に行きたいのが男心だ。
「どうしたもんか……」
「だから尻貸すって言ってるじゃん」
「ぶっ殺すぞテメェ」
呼び込みの鬱陶しさと、元同僚のサクラがしつこく絡んでくるので、サイハテは疲れて来ていた。
伝説のアルファナンバーズが二人そろって縁石に腰掛け、煙草を吸っている姿はシュールである。
「大体さー、ジークは女の好みが煩すぎるんだよねぇ。何々? まだジルの事引きずってんの? 愛に生きちゃうってかぁ~!?」
「お前が死ぬまで殴るのをやめない」
退き倒したサクラに、馬乗りになりながら、無表情で殴り続ける事にした。
「ま、待って! 流石に冗談が過ぎた!! 謝る! ぐへぇ! 謝るからぁ!!」
「Die Die Die Die Die」
分かって突いたのだから、こうなるのも分かっていただろう。
どうせ死にっこないからと、殴り続けていたら、どこからか聞き覚えの声がする。
「離せ! このロリコン!!」
殴る手を止めて、そちらの方に視線をやると、サイハテの情報源であるリリラが大きな男に抱えられて運ばれているのが見えた。
背中まで伸ばした赤髪と、もみあげを編んだ三つ編みが激しく揺れている。
大男の背中をバシバシと叩いているが、男はびくともしていない。
「とりあえず、助けるか」
痙攣するサクラからどいて、彼の足を掴む。
「……おい、ジーク?」
そのまま引きずりながら、大男の眼前へと立つ。
男が、サイハテを睨む。
「邪魔だ、小僧」
「ソイツは俺の友達だ。返して貰おうか、でくの坊」
大男は鼻を鳴らして、リリラを地面へと落とす。
彼女は両手と両足を縛られており、あのまま逃げ出すのは少しばかり厳しそうだった。
「恰好つけるのは勝手だが……相手を見るべきだったな? ええ?」
拳を鳴らして威嚇する大男、肩に雷の入れ墨があるのを確認する。
「さ、西条さん……逃げて! こいつ、サンダーボルトの一員だよぉ!!」
「……さん? 何?」
リリラに向かって聞き直すサイハテだったが、敵から目を反らすのは普通ならば愚策だ。
「よそ見してんじゃねぇ!」
大男が拳を突き出す。
サイハテよりデカい身長を持つ大男の拳は、それだけで危険な武器になるだろう。
相手が、サイハテで無ければの条件だが。
拳を掌で受け止めて、そのままひねりあげ、大男の後頭部に抜き手を叩き込んで、殺して見せる。
「……で、何、そのー、サンダーボルトって」
逃げようとしているサクラを捕まえながら、唖然としているリリラに尋ねた。
「……サンダーボルトは、この歓楽街を支配する。武装グループです」
「……あー、そうだったの。じゃあ囲まれるかな」
周囲にある店の扉が一斉に開き、鉄パイプや釘バットで武装した連中が列をなして現れ、サイハテ達を取り囲んでいく。
「やってくれt」
リーダー格らしい人間が口を開こうとしたので、射殺する。
「ほれ、ネイト。手伝っていけ」
「はっはー。ジーク、お前馬鹿だろ? 絶対馬鹿だろ?」
そんな事を言いながらも、投げナイフで周囲の人間を排除していくサクラ。
二人は背中合わせになることもせず、敵の群れへと突っ込んでいき、その場には呆然とするリリラだけが取り残される。
十分の戦闘時間が流れて、歓楽街の大通りに死体の山と血の川が出来上がる事となった。
「はい、片付いた。それじゃ僕帰るからね!! 絶対帰るからね!!」
「まぁ待て、残党狩りも手伝っていけ」
「やだー!! 戦いめんどくさいよー!!」
逃げようとするサクラを再び捕獲して、未だ呆然とするリリラに向き直る。
「何があったかは知らないが、家に帰るといい。そのライジングサンとかいうグループは今日で消滅することになる」
「お前ひとりでやれよ!! 僕巻き込むなよ!!」
そう言い残して、サイハテは店の中へと入っていく。
呆然としているリリラは考える事もせずに、帰路について、夕飯の時に、ふと思った。
「……西条さん、ライジングサンじゃなくて、サンダーボルトだよ」
夜の空を真っ赤に照らす位、歓楽街が燃えているので、もう後の祭りだ。