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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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十六話:臨時指揮官陽子

 サイハテと離れて二十分程経過しただろうか。

 陽子達は必死で走り、なんとか危険な場所から離れる事が出来た。

 これも偏に、彼が命を賭けて、少女達の逃げる時間を稼いだからだ。

 彼女達は体力の限界が来たので、サイハテが選びそうな頑強そうな建物に避難し、息を整えていた。ハルカが時折、窓から外の様子を伺うが、追手らしきものは無く、彼の囮が完璧だったことを痛感する。


「これから、どうしマス?」


 車載機銃である20mm機関砲を喪失した為、心許ない装備になってしまったハルカが、そう尋ねる。意見を求める相手は、本来の主人であるレアではなく、その少女の隣で、息を整えている陽子だ。


「……病院に向かう」

「この戦力で、デスカ? 無謀デス」


 陽子の決断に、ハルカは異議を唱える。

 人がいなくなった建築物は、感染変異体の縄張りになっており、その建物が大きければ大きい程、危険な変異体が居ると言ってもいいだろう。

 事実、サイハテは大型スーパーマーケット程度の大きさに、巨大な蜘蛛が巣食ってたのを確認しており、それよりも大きい病院となれば、何が巣食っているか分かった物ではないのだ。


「そうね、無謀だわ」


 機械侍女の意義を、陽子はあっさりと認めてしまう。危険なんぞ百も承知なのだ。


「デシタら……」

「それでもね、長期的に考えれば、サイハテと合流しない、なんて選択肢はないの」


 ハルカの言葉を遮ってでも、少女は語る。


「あの暗殺者だけじゃない。私とレアが国を作るなら、彼等よりもっと大きい敵と戦わなくちゃいけない。その時にサイハテがいなきゃ、勝ち目なんてないでしょ?」


 彼女達は、四人で一つのチームになりかけている。そんな中で、精神的にも、戦力的にも中核になっていたのはサイハテなのだ。

 レアは、陽子一人だったら着いてこなかっただろう、彼女はサイハテが居るからこそ、文句一つも言わずに、歩き続けている。

 陽子に着いてきているのだって、サイハテと合流出来ると言う未来があればこそだ。


「……デスガ、彼が合流する前に、あたしたちがスクラップと死体になり兼ねマセンヨ?」


 ハルカは大昔に作られた汎用戦闘用メイドロボだ、主人たちの危険に敏感であるように作られており、身近な危機、それも命を失うようなピンチには敏感に反応するように作られている。


「それは……」


 陽子は言葉に詰まった。

 自分達の弱さは実感しており、サイハテ抜きならとてもじゃないが、この世界で生きていける自信はない。

 陽子とハルカがお互いに頭を悩ませる中、レアがそっと手を挙げる。

 二人の視線が同時に向いて、少しばかり居心地の悪さを感じた。


「ぼくが、なんとかできる……かも?」


 自信の無さそうな言葉だったが、悩む二人の議論を止めさせるには十分な言葉だったようで、陽子とハルカはお互い顔を見合わせた後、レアに視線を戻す。


「それはどんな手段?」

「えっとね、えっとね。ここからにしに、ななきろほどいけば、こーじょーがある」


 レアの言葉に反応して、陽子が地図を広げ、ハルカがそれをのぞき込む。


「ちーさな、ろぼっとしゅーりこーじょー。そこにいけば、ぼくがなにかちゅくれる」


 噛んだ。

 レアは頬を赤く染めているが、今はそれを弄っている暇はない。というか、弄ったら拗ねてしまいそうだから、喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、本来の言葉を吐く。


「無理してない? 大丈夫?」

「だいじょーぶ。しんぱい、しないで」


 彼女の眠そうな目には、いずこで見たような強い光が宿っている。

 その光はなんだったのか忘れてしまったが、これならば大丈夫と、陽子の直感が言っていた。


「そっか、それじゃあ出発するわよ。私が先導するから、貴女達は後方警戒をお願い」

「承知しマシタ」

「ぼくは、まんなかー」


 三人の返事を聞いて、陽子はリビングの大きな窓から外へと飛び出して、アサルトカービンを構える。周囲に銃口を向けて、グールや敵が居ないかを確認してから、背後の二人に続くようにハンドサインで伝える。

 クリアリングの方法は、サイハテがいつもやっていたのを見ていたから、なんとか出来るようになっていた。

 彼に比べれば、児戯だと笑われても仕方のない事だが、それでもやるとやらないでは、道中の安全度が桁違いなのだ。


「……なぐも、すこしむり、してる?」


 彼女の背を見れば、幼いレアにも推察できる程の頑張りっぷりだった。

 常に気を張って、セーフハウスから出て三十分も、彼女は先頭で気を張り続けている。頼りがいのある背中だとは思うが、齢十三歳の少女がしていい姿ではない。

 サイハテのように、空気が揺れる僅かな振動を察知し、壁の向こうに居る敵を探す触覚はないが、五キロ先の人間が身に着けている時計の針を確認できる、異常な視力で斥候としての役割を果たしていた。


「そうデスネ」


 それは、背後を警戒するハルカにもわかる無理だ。

 大の大人でもへばりそうな暑い気温の中、少女は必死に気を張り続けて、どうにかして安全にレアを移動させようとしている。

 陽子は鍛え上げられた自衛官でもなければ、サイハテのように、生まれながらにして戦う事に特化した存在と言う訳じゃない。


「……にゅーまのとくちょー、はるか、しってる?」

「いえ、存じ上げマセン」

「みらいよち、みえないて、いじょーかんかく。これだけなの」


 唐突に語りだしたレアに対し、ハルカは首を傾げて見せた。

 それが一体なんなのだろうか。


「つまりはね。それいがい、にんげんとかわらないの。みらいよちだって、かんぺきじゃない。みえないて、ぞくにいうと、さいこきねしす……も、じぶんからはんい、すーめーとる、いじょーかんかくも、にんげんとくらべれば、とゆーだけで、どーぶつにおとるばあいも、ある」


 つまりはだ。


「にんげんとくらべて、そこまですぐれてるわけじゃ、ない」


 人間からニューマに変わった奴が、サイハテと戦ったとしよう。

 勝つのは間違いなくサイハテだと、レアは断言できる。


「ほかにも、きんにくがおとろえなかったり、びょーきになったりしないだけで、えんてんかはつらいし、ふつーに、すいじゃくする」

「……まぁ、生物デシタら、誰でも疲れマスネ」


 少女は下がったキャミソールの肩ひもを元に戻して、陽子の背をじっと見つめた。

 そして、ハルカは未だにレアが何を言いたいのか分からない。


「なぐも、よーこ。ただ、やさしいだけのにゅーまくいーん……そっかそっか。やっとわかった」

「……えーっと、何が解ったんデショウカ」


 眠たそうな目が、ハルカを見上げる。


「さばとのもくてきと、しょーたい」

「敵対する共産主義系列の軍事組織、デシタっけ?」


 抑揚のない声で肯定するレアは、その正体とやらを続けた。


「やつら、にゅーまにつごーのいーせかいを、つくろーとしてる。なぐも、よーこは、そこのくいーんにさせるのかも」

「……その経緯に至った事情を、お教え願いマセンカ?」


 レアの語った可能性は、あまりにも荒唐無稽すぎる。

 H-DIEは本来、人類を次のステップへ進めるためのナノマシンだったが、政治家の思惑が入りすぎて、生物を怪物に変えるだけの病原菌になってしまった。

 それは、計画を元にして、世界中にばら撒かれたのだから、もしかしたらウイルスに適応してニューマになった人間も居るかも知れない。

 だが、そいつらが軍事組織を立ちあげて、人類を支配下に置こうなんて、今日日ハリウッドでもない脚本だ。


「まず、ひとつせつめーしなくちゃいけないことがある。さいじょーをいきかえらせたのは、じんるいのはたがしらにするためだけじゃないってこと」


 薬が完成して、人類がH-DIEに耐性を持ったら、国民的な英雄であるジークを蘇らせて、戦う計画は老人のせいでとん挫してしまった。

 しかし、サイハテを蘇らせる計画は、薬の目途が立つ前に計画されていたのだと、レアは語る。


「じんるいのぐんたいを、やっつけたおとこが、いる。さいじょーをさいせーさせたのは、そいつをたおしてもらうことが、おおきなもくてき。そいつは、こーなのった。‘のわーる‘」

物語が動くぞー

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