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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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十五話:グールとサイハテ

プロットの関係上、早めに更新しましたが、更新速度は変わりません。

ご了承下さい。

「走れ走れ走れ!」


 先頭を走るサイハテが、何度も振り向きながら、急かす。

 彼に続いている陽子とレアは、全速力で走るも、背後のグール達を引き離す事が出来ないでいる。それどころか、奴等との距離は徐々に縮まり始めており、追いつかれるのも時間の問題だった。


「クソッ……」


 サイハテは、この速度を維持したまま後二十キロ走れと言われても、平気ではあるが、背後を走る少女達はそうもいかない。

 放浪者の街に居た時も、出来れば毎日走らせて、体力作りをさせたかったのだが、向こうの治安がそうはさせてくれなかった。

 申し訳ないが、少しばかりのリスクを彼女達に許容して貰う他なかった。サイハテは、己の迂闊さに歯噛みする。


「こっちだ!」


 彼は狭苦しい路地に飛び込んで、陽子とレアに向かって手を振った。

 彼女達は考える暇も無く、彼に続いて狭い路地に飛び込むと、絶望する。

 そこの路地には、はるか昔に事故にあったであろう巨大なトラックが存在していたからだ。

 左右両方の壁に埋まる形で、斜めに駐車されたそれは、壁と呼んでも委細違わない存在である。


「ちょっと……これ」


 息も絶え絶えになりながら、陽子は呻く。

 ここは袋小路ではないか、彼女が言いたい事位サイハテだってわかっている。


「荷物を捨てて、下を潜れ! 小さな君達なら、潜れるだろう!」


 そう叫ぶなり、彼はバトルライフルを構えて、路地に侵入してきたグールの先頭集団に攻撃を加えた。

 大口径の小銃弾は、当たるだけで手足や脊椎などの、体を支える部分を吹き飛ばす。しかもそれは長い銃身で撃ちだせば、かなりの貫通力を発揮する。

 撃たれたグールの集団は先程までの速度と比べて、人間が歩く程度の速度まで落ち込んでいた。

 行くなら今しか無さそうだと、迷うレアの背嚢を無理矢理奪って、投棄させる。


「貴女が先よ!」

「で、でも」

「迷ってる時間はないの! ほら行って!!」


 迷う幼い少女の背中を押して、陽子は自分もその後ろに続く。

 一度だけ振り返ると、ハルカが投棄した自分達の背嚢を拾って、トラックの向こう側へ放り投げる姿が見えた。


「ねーちゃ、はやく」


 トラックの下を潜り抜けた陽子に、先に出ていたレアが手を差し出してくれる。


「ありがと!」


 礼を言ってその手を握り、立ち上がった。

 傍に落ちていた背嚢を拾い、レアと自身に身に着けさせた陽子は、銃撃の音と瞬く発砲炎が止まないトラックの向こうを見つめる。

 しばらく……と言っても、ほんの数秒だが待っていると、サイハテの背嚢を抱えたハルカが大きく跳躍して、トラックを飛び越えてきた。

 サイハテはどうしたのか、そう尋ねようとする前に、ハルカが先んじて今の状況を伝えてくれる。


「先に行け、とのご命令にございマス。なんでも、あたし達がここから動かないと、彼も動けないようでシテ」


 ハルカから伝えられた言葉に、陽子は、彼の置かれた状況を理解してしまった。

 この壁を越えても、奴らはまだ追ってくるから、サイハテはここに踏み止まって、彼女達が逃げる時間を稼ごうと言う魂胆だろう。

 陽子は、強く唇を噛んで、向こうに居る彼に、メッセージを伝える。


「病院!!」


 一瞬だけ、規則正しい銃撃に隙間ができた。

 聞こえていると、彼からの返事がきたのだ。


「あんたが行きたがってた病院で待ってるから!!」


 もう一度、リロードとは違う隙間を見て、陽子は向かう事に決めた。


「待ってるから!! ずっと!!」


 そう怒鳴り、不安そうな表情をしているレアの手を握り、脱兎の如く駆け出していく。

 最後に脅しを残していくのが、彼女らしいと、焼け付いた銃身を持つバトルライフルを投げ捨てて、サイハテは笑った。

 丘となった死体の山を乗り越えて、グールの集団はまだこちらに来ている。

 ここで彼が引いてしまったら、あの集団はトラックを押しのけて彼女達を追っていくだろう。まだこの戦場から逃げるわけにはいかないのだ。


「……もう少し年取ったら、いい女になるだろうな」


 サイハテは、背中に結わえた高周波刀を引き抜く。


「お前らもそう思うだろう?」


 丘を乗り越えてきた、一匹のグールに問うてみる。


「ごあああああ……」


 返事があったので、横一閃でそいつの首を跳ね飛ばした。


「そうかい。だが、お前らにはやれないな」


 正眼で刀を構え、迫り来るグールの群れを穏やかな視線で見つめてみる。

 どこまで行っても、気持ち悪い奴等だ。口からは膿が混じったよだれが際限なく垂れているし、皮膚は異常再生が止まらないのだろう、ボロボロになった布のような皮が垂れ下がっている。どこからどう見ても、気持ち悪かった。


「代わりに、俺と遊ぼうか。俺を殺せたら、お近づきになるチャンスがあるかも知れないぞ」


 迫り来るグールの波を切り払いながらの台詞である。

 グール達に、もう少し知能があれば、ここは退いただろう。

 しかし、そんな知能はないので、サイハテに迫り来るのだ。彼等は常に飢えに苛まれているらしく、生物を見つけて飢えを満たそうと言う本能が大部分を占めているらしい。

 拳銃を引き抜いて、遠くのグール達を撃ち抜きながら、彼は口元を歪ませた。


「……全滅させるのは厳しそうだな」


 眼前には、殺しても殺しても減ったように見えない位の大群が溢れている。ここに留まっていたら、数の暴威で殺されてしまうだろう。

 それでも、ここで踏みとどまらなくてはならないのは、己の油断から出たツケだ。

 サイハテは万能に非ず、己の暴威で数万倍の戦力差をひっくり返す事なんてできない。そんな事が出来るのは、神に愛された(作られた)英雄か、それとも神そのものだろう。

 それにだ、奴らを全滅させた所で、奴らに食われる被害者が減る訳でもない。


「自分に出来る事を出来るだけってな」


 彼女達に教え忘れた事をボヤキながら、作業のように数体膾切りにし、手首の内側に向けられた時計のパネルを見つめるのだった。

終末tips


グールの集団から逃げるときは、遮蔽物を乗り越えて進むのが効果的です。

直線距離ではサイハテ並みに早いので、出来るだけ金網や家屋を乗り越えて逃げましょう。

グールは獲物を見続けるので、引っかかって足を止めたりしますが、彼らの怪力でぶち破ってきますので、とにかく逃げ続ける事が重要です。

パルクールの出来ない人は、諦めておやつになって下さい。

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