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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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十三話:強襲

 川にかかる高架線路の上には、放棄された電車が残っていた。

 姿形は変わっているが、いつの時代でも列車は線路の上を走る事は変わらないようだ。

 最早錆の塊と化しているので、どんな姿形をしていたかは想像できないが、送電線もアンテナもない事位は、電車に詳しくないサイハテでも理解できる。

 いつまでも電車の遺骸を見つめている訳にもいかないので、地面に向かって縄梯子を垂らし、下に居る彼女らに声をかける事にした。


「いいぞ、上がってこい」


 ハルカが縄梯子を抑え、運動神経の鈍いレアが最初に登ってくる。

 今日は海岸から吹く風が強いので、ウェーブのかかった黄金の髪が、東の方に大きく靡いており、彼女が落ちるんじゃないかと、少し心配だったが、杞憂だったようで彼女はしっかりと登り切った。


「どやあ」


 そんな言葉と共に得意げな表情を見せている。

 とりあえず視線を外してスルーする事にした。

 気が抜けない状況なのだ、昨日感じていた気配はなくなってはいるが、目立つ高架上を通らなくてはならないのだ。

 遮蔽物もほとんどなく、目立つ場所故に、奇襲にはうってつけのシチュエーションで、奴らが仕掛けてくるのなら、ここが最高の場所だろう。

 陽子が登り、ハルカが登ってきた後で、縄梯子は地面に落としておく。


「それじゃ行きましょ。風も気持ちいいし、今日は長く歩けそう」


 靡く髪を抑えながら、陽子が言った。

 気配が無くなっていると言う事は、向こうがこちらの捜索をやめたと言う事でもある。それは、見失って諦めたか、それとも発見して待ち伏せしているかのどちらかだ。


「ああ、急ごう」


 頷いて返事をし、彼女達を先導する為歩き始める。

 後ろでは、レアと陽子が楽しそうに談笑している反面、前を行くサイハテの気配は剣呑な物だった。

 彼にしては珍しくピリピリしており、頭を動かさずに視線だけを動かして、周囲の様子を事細かに探っていた。最後尾を歩くハルカも、同じような様子で警戒を絶やさずに歩き続けている。

 高架線路の上は、想像よりも足場が悪かった。

 老朽化しており、下手に踏んだら崩れてしまいそうな場所や、崩れている場所も多く、荒れ地に慣れているサイハテ以外は、四苦八苦しながら進んでいる。


「よいっしょ……わたたたたた!?」


 罅が入り、跳ね上がった線路に登った陽子が、バランスを崩して両手を振った。

 それを見ていたサイハテは黙って手を伸ばし、落ちそうになっていた陽子を掴んで引き戻す。逞しい胸板に顔を埋めた少女は、頬を朱に染めて、慌てて彼から離れる。


「あ、ありがとう」


 礼を言った陽子をちらりと見たサイハテは、すぐさま視線を外して背を向けてしまう。


「ああ」


 とだけ返事をし、さっさと歩き始めてしまった。

 様子のおかしい彼を見て、首を傾げる陽子だったが、違和感位しか感じなかったので、特に何も言う事無く彼の後ろに続いて、歩き出す。

 この跳ね上がって段差になった線路を超えれば、高架から降りれる駅があり、そこに行けばサイハテの負担も軽くなるはずと、少しだけ速足になる陽子だったが、それとは対照的に、彼は足を止めて駅を睨んでいる。


「……どうしたの?」


 やはり様子がおかしいので、聞く事にした。


「……おかしい」


 彼の返答に、おかしいのはあんたでしょと言いたくなったが、話が拗れそうなので、やめておく。


「何が?」


 いつもと変わらないサイハテの仏頂面を眺めながら、主語を問いただす。


「静かすぎる」


 彼の視線はずっと駅に向けられており、その表情は険しい。

 恐らく、そこに何かあるのを感じ取っているのだろうが、陽子には彼が懸念する危険がわからない。

 袖を引いて、説明を促す。レアも陽子の真似をして、サイハテの裾を引いている、彼女も、気になっているのだろう。

 一度だけ、二人に視線を配ったサイハテは渋い表情を一瞬だけ見せて、口を開く。


「この街では、どこの建物も感染変異体の縄張りになっていた。だが、あの駅からはそんな気配が微塵も感じられない……鼠一匹居ないだろうな」


 かつて住んでいた放浪者の街にある襤褸屋でさえ、気が付くと床下に電球ネズミの家族が住みついた。徹底的に掃除してもそうなるので、掃除すらされていない駅に、感染変異体がいないはずないのだ。

 すなわち。


「……誰かがあの駅を掃除したって事?」

「そうだ」


 陽子の言う掃除と、サイハテの考える掃除は決定的に違うのだが、結果としては同じことだ。

 彼は言った。


「あの駅に敵が居る。俺達を待っているな」


 その言葉と共に表情が消える彼を見て、陽子は自分を奮い立たせる。

 受信所で証明したのだ、殺す事は出来なくても、自分だって戦えると言う事を、背嚢を下ろして部品状態になったアサルトカービンを引っ張り出して、組み立てる。


「少し待って、レア、弾をマガジンに詰めて頂戴」

「わかったー」


 クリップに保持された弾薬を引っ張り出して、ボックスマガジンに弾を詰め始めるレアと、教えた通りに武器を組み立て始める陽子を、サイハテとハルカはじっと見つめていた。

 悲しそうに表情をゆがませるハルカとは対照的に、二人を見つめるサイハテの表情はどこか嬉しそうだ。

 仕方なしにではなく、自分で決めて武器を握り立ち上がるのは、英雄になる最初の条件でもあり、その片鱗を見る事が出来たので、嬉しいのだろう。

 彼の眼には、将来、武器と旗を握り、凡夫達の先頭に立つ陽子が見えたのかも知れないが、その真贋はわからない。


「準備完了よ! 行きましょ、サイハテ」


 やる気は十二分の陽子が、鼻息荒く進言し、サイハテはそれを受けた。


「ああ、行こうか」


 ニヤリと笑い、バトルライフルを構え、彼は先頭を歩き出す。

 陽子も、地面に置いていた狙撃銃をスリングで肩に担ぎ、アサルトカービンを持って続く。

 電車が止まったままのホームに侵入して、周囲の安全を確認した。


「……敵、居ないね」


 彼の隣で銃を構え、安全確認を手伝った陽子が、そう呟く。


「そうだな、死体ならあるが」


 ホームに登ったサイハテがそう言って、反対車線に向けて指をさす。

 陽子も続いて登り、そちらの方を見てみたら、彼の言う通り、グールと柴犬頭を付けた、毛むくじゃらの熊みたいな死体が複数存在するのを確認した。


「どれも抵抗する事が出来ず、一撃で仕留められているな。こいつ等出来るぞ」


 死体を見分するサイハテが、そう漏らす。

 陽子から見ても、たった一発の銃弾で、眉間をぶち抜かれている死体と、手足や首をねじ切られている死体が見えており、二通りの殺害手段で、始末したのが伺える。


「……片方は50口径の拳銃。もう片方はワイヤーか何かで引っ張ってちぎったのか。傷口から出血は止まっているが……まだ温かい、死んで間もないな」


 死体を触って、彼らの温度を確かめたサイハテは、じっと駅内に続く階段を見つめ、膝を叩いて立ち上がった。

 落ちている死体の数は五十を超える、その全てを抵抗される事無く始末する奴等と言うのは、どんなに恐ろしい存在なのだろうかと、陽子は身を震わせる。


「……………………駅内は狭そうだ」


 階段下を覗いたサイハテが、呟いて、待機する三人へと振り返った。


「レアとハルカはここで待機、もしもの時の為に、退路(ここ)を確保しといてくれ。陽子は俺と来い、俺の背後から援護を頼む」

「畏まりマシタ」

「わかったー」


 快諾する二人とは対照的に、陽子は少しだけ気遅れる。

 狭い構内での戦闘で、自分があまり役に立たない上に、足を引っ張ったらサイハテが死んでしまうかも知れないからだ。

 彼は返事を返さない少女を見つめると、目線を合わせる。


「どうした。怖くなったか?」


 心配そうな声色だったが、それは演技だと見破れた。

 この状況で、彼が心配するはずがないからだ。


「……ううん、大丈夫。行く」


 考えても見れば、アサルトカービンを持っているとは言え、ハルカは砲撃戦が得意な機械侍女で、レアはそもそも戦闘に関しては一切役に立たないのだから、陽子が援護するしかないと言うのが現状である。

 少女は頭を振って、不安と恐怖を振り払うと自分に喝を入れる。


「そうか、少し成長したな」


 サイハテは他人には解り辛い褒め言葉を残すと、さっさと階段を下りてしまった。

 一瞬呆けた陽子だったが、背後で守られている人間ではなく、隣に立つ仲間として少しだけ認められたと気が付いて、心の中でガッツポーズをする。


「待ってよ!」


 何はともあれ、今は援護の仕事を果たさなくてはならないので、おいていった事に抗議しながら、彼の背中を追いかける。

 階段を下り切った辺りで、彼に追いついて、少し後ろから援護する事にした。

 採光窓が潰れており、駅内部は薄暗い。

 物陰なんかに黒い服で隠れられたら、見逃してしまう位の暗さだった。

 幸い、そこまで大きな駅ではないので、中の警戒はすぐに終わるだろう。銃を構えながら、サイハテの背後に続いていく。

 そして、自動改札機の前で、二人のクリアリングは止まる事になった。


「よう!」


 壊れて動かなくなったソレに座って、気さくに挨拶するフードの男が居たからだ。


「いやー、遅かったな! 待っていたよ」


 銃を構えた二人の前で、なんの警戒もなく話す彼は敵意なんてないように見えた。


「……誰だ、貴様」


 彼の胸辺りに照準を付けて、誰何するサイハテを見て、フードの男はケラケラと笑う。


「そっかそっか! 自己紹介がまだだったな。オレは黒野猛(くろのたける)、クロノって呼んでくれるとうれしーぜ!」


 クロノと名乗った男はそう言うなり、フードを取って見せた。

 名前に聞き覚えがあり、首をひねっていた陽子は、彼の面を見て、自分の中で記憶がかみ合い、大声を上げる。


「さ、サイハテ!!」


 呼ばれたサイハテが一度だけ、陽子に視線を向けたが、彼はクロノに視線を戻してしまう。


「コイツ……コイツ、私の時代で世界を震撼させたっ! 殺人鬼よっ!!」


 サイハテに熱視線を向けていたクロノが、初めて陽子を見る。


「あら、オレの事知ってんの? そーゆー君はー……思い出した! プラチナム・ラヴァーのホンナヨーコちゃん! オレ、ファンだったんだよね。後でサインちょーだいっ」


 ニコニコと人懐こい顔で笑う彼を、陽子は恐ろしくて堪らない。


「絶対イヤよっ! なんでアンタ……あんなに殺しておいて笑えるのよ!?」


 サイハテにしがみついて、怒鳴る陽子。

 そんな少女を見て、クロノは少しだけ悲しそうな表情をした後、頬を掻いた。


「んー、やった事を正当化する気はないよ。悪い事をしたって思ってるし、オレはちゃんと司法に則って罰を受けた。何百年も冷凍刑務所で冷凍懲役を受けたんだから、そこは認めてほしいなぁ。司法による裁きを受けた犯罪者が差別されるのは、あってはならない事だろう? 笑うのは誰がやったっていい自由なのさ」


 頬に指を当てて、ニッコリと微笑む彼。


「あんた……十六万人も殺しておいて、その台詞!?」


 陽子の悲鳴に近い問答を聞いたクロノは、笑顔のまま大きく頷いて、陽子の問いに答える。


「そうだよ、オレは人類史上最悪の殺人鬼なんだから……それで、もういいかな? ヨーコちゃん、今日は君にサインをもらいに来た訳じゃないんだ。用があるのは、そこの大男なんだ。少し黙っていて貰えるかな、その囀りは耳障りだよ。君」


 笑顔のままで言われ、陽子は口を開閉するしか出来なくなった。

 クロノは再びサイハテに熱視線を向けている。


「……俺に何の用だ? こっちは急いでいるんだ。あまり下らない用件だったら、付き合っている暇はない」


 サイハテの剣呑さはここに極まっており、今にも殺しそうな視線を、クロノへと向けていた。


「あ、いやいや、時間は取らせないよ。ただちょっと、死んでほしいだけでさっ!!」


 彼の袖口から、複数の金属ワイヤーが走り、サイハテに襲い掛かる。

忙しさで禿る。

とにかく、数更新できない分、5000文字前後で更新していくので、よろしくオナシャッス。

この日に備えて、プロット書き換えたんで、一話一話の質と量は保証しますん。

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