表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
109/284

九話:動き出すサバト

 この街で野営しているのは、サイハテ達だけではない。

 彼らに放たれた賞金稼ぎの二人組をそうだった。

 フードの男と、鈍色の装甲服を纏った少女、奇妙な組み合わせではなるが、所持している武装を見る限り、二人の腕前は相当の物だろう。


「ツクシ、当たってみた感想は?」


 フードの男からくぐもった声が響き、ツクシと呼ばれた少女‐‐北郷月子は率直な感想を述べる。


「銃座の女は所詮子供、運転手の男は見事だったワ」


 弾の切れたロケットランチャーを振りながらの一言だ。

 どれもこれも、当たるように予測して射撃したのだが、悉くが回避され、結局はサブとして仕掛けた地雷原へと誘導する羽目になってしまった。

 地雷原がなかったら、あのまま逃げ切られていただろう。


「ワタシじゃあ、殺せないかも知れないワ。外した一射目で、弾道を全て予測されたノ。あんな理不尽な奴、三万円の賞金がかかってなけれバ。誰も狙わないヨ」


 十字型のカメラアイが搭載されたヘルメットの奥で、ツクシはそう答えた。

 フードの男は彼女が言った感想を聞いて、くぐもった声で笑いだす。


「そりゃそうだ、奴は本物のジークなんだからな。共産主義者(コミュニスト)の夢を木っ端微塵に砕いた男は伊達じゃねーのよ」


 ひとしきり笑った後、男はサイハテをそう評した。

 ヘルメットの奥で、彼女が憮然としたような表情をしているのが予想できて、殊更愉快なのだ。


「それでも、奴は人間だ。オレ達が付け入る隙は必ずある、それまで待っていようぜ。奴には恨みなんてもんはねぇが……オレ達の夢の為に死んで貰おう」


 フードの奥で、彼が笑ったような気配をツクシは察する。

 敵が強ければ強い程、好戦的になる彼の性格は大きなデメリットではなるが、冷静さを失わずに興奮しているのだから、何かを言う事はない。


「ソーネ。でも、なんでサバトの連中は彼を狩ろうと考えるのカシラ」


 態々敵対する必要もないだろうにと、ツクシは考える。


「なーに、サバトの連中は怯えているのさ。あの男が世界に帰ってきた……共産主義者(オレタチ)を狩るものが帰ってきた! 英雄が凱旋する前に殺さなくちゃ、つぶされてしまう! こんな風にな」


 文明が消え去った日本で最も大きな組織が怯える程、西条疾風と言う人間は恐ろしい存在であったのだ。

 何しろ、彼はサバトなんぞ比べ物にならない位、大きい軍事組織(人民解放軍)を機能不全にした実績があり、その脅威をこちらに向けられてはたまらない、と言った具合だろう。


「事実、奴が声明を出せば、奴の元には仲間が馳せ参じるだろうなぁ」


 アルファナンバーズ大集結、希望の未来へレディゴーなんてなったならば、サバトは空中分解するだろう。

 アルファの全容は未来で解明されており、調べれば調べる程恐ろしい組織だったと言うのが解る。何しろ、アルファナンバーズは、敵地に潜入して、全ての装備を現地調達しながら戦える特殊部隊でもあるのだから。

 少数精鋭の利点は、悟られない事と素早い事だ。

 レジスタンスの攻撃をしのぎ、これから反撃だと言うのに、上級指揮官を軒並み殺され、弾薬庫を吹き飛ばされ、戦闘機が全て破壊された人民軍の気持ちは計り知れない。


「フーン? それって、あいつを殺しても意味がないんじゃないノ?」

「アルファナンバーズをまとめ上げれるのはジークだけらしいぜ?」


 アルファはその性質上、個人主義者が多いらしく、まとまりがないらしい。

 本当はそんな事一切ないのだが、サバト上層部はそう信じ切っている。そうでなければ恐ろしくてたまらないからだ。


「……何にせよ。やるしかない訳ネ」

「そう言うこった」


 ケラケラと笑う彼だが、本当に殺せるプランがあるのか、ツクシは不安を感じ取っていた。






 その頃のサイハテは水分補給をしようとしていた。

 飲むのは水ではなく、レアが用足しした中身が入っているペットボトルだ。要するに、幼女のおしっこが入ったペットボトルを片手に、立ち尽くしている。


「……間違って持ってきちゃった」


 サイハテが持っていこうと考えていた水筒は、仮宿のテーブルに置いてあったりする。

 直に飲むならまだしも、出してしばらく経過した小水はたくさんの雑菌が繁殖しており、そのまま飲用するには少々危険だ。

 しかし、火にかけてしまうと臭いが撒き散らされるばかりか、飲んだ時の風味が減衰されてしまうため、悩みの種となっている。


「どうした物か……」


 サイハテは悩む。

 安全を取るか、それとも変態のプライドを捨てるかの究極と言っても過言ではない選択を、選ばなくてはならない。

 彼の脳内に、悪魔の姿をした琴音が現れる。


『飲んじゃいなよハヤテー。命の危機なんて今更でしょぉ?』


 それに対して、天使の姿をした琴音も現れた。


『そのまま飲用すべきだよ。命の危機なんて、今更だもん!』


 結論から言うと、どっちも同じことしか言ってないので、そのまま飲む事にした。


「だよなぁ!」


 天使と悪魔が敬礼をし、サイハテは蓋を開けて、そのまま呷る。

 幸福感に包まれたのはいいが、案の定お腹を壊してしまった。

なんだコイツ(ドン引き)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ