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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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二話:千葉までの旅路で

総合評価が千ポイントを超過しました。


約束通り1000ポイント記念の話を書かせていただきます。

 ワンダラータウンを出発して、もう三日が絶った。

 ウイルス上陸時に、空を覆う程の空爆が実行された為に、僅か百キロの道のりを踏破するのに三日もかかってしまった。

 徒歩とそんなに変わらない速度ではあるが、体力の温存が出来るのはありがたい。

 サイハテは、千葉まで後数キロと言った地点で、休息を提案した。

 休憩場所に選ばれたのは、かつてあの町から脱出した後に使用された、一時的なセーフハウスだった。頑強なバリケードに守られており、サイハテ達が去ってから一度も侵入されていないように思える。


「今日はここに泊まるの?」


 表面上は至って普通ではあるが、未だ心の傷が癒えていない陽子が、そんな事を聞いてきた。

 彼女はあの日以来、僅かだがサイハテに依存する様子を見せている。このままだと非常に危ういが、急がねばならない旅路なのだ。

 あまりゆったりしていると、海岸線で待ち伏せしている連隊がこちらに来てしまうだろう。


「ああ、懐かしいだろう?」

「うん。すごく懐かしいわ」


 サイハテの隣に立って、そっと袖を握る陽子。

 少しでもいいから、寄りかかりたいと言う心境だろう。

 彼女はまだ子供であり、誰かに寄りかかるのが当たり前の年齢だ。無下に振り払うような真似はせずに、入口を塞いでいるバリケードの撤去作業に移る。

 袖を掴んでいては邪魔になると思ったのか、名残惜しそうに袖から手を放した陽子の視線が、サイハテの背中に注がれていた。


「……大丈夫なのデスカ?」


 大きな板を取り外している最中に、ハルカが耳打ちしてくる。

 手伝いながらの密談なので、陽子に聞かれる心配はないだろう、いつの間にか気配りが出来るようになっている彼女に、サイハテは少し驚く。


「ちっとも大丈夫じゃない。このままだと俺に依存し過ぎてしまう」


 少しばかり苦しそうに呟いた彼の表情は険しい。

 元々、陽子は強い自我を持つ少女だ。

 平均的な教育を施される現代では珍しく、有象無象の戦闘に立って、導く事が出来るタイプの人間である。泰平の世でこそ光り輝くとは言ったが、それは彼女の性格の事であって、人間としての性質ではない。

 陽子の性質、才能と言うのは無法地帯となった乱世でこそ輝くのだ。


「西条様からすれば、望むところなのではございまセンカ? 依存させ続ければ、いつか彼女は貴方の物になりマス」


 無邪気とでも表現すればいいのだろうか。

 ハルカに悪意はなく、純然たる事実を言われてしまった。


「それが目的なら、病院で出会った時点でそうしている」


 見る者によっては、邪悪と評されるサイハテではあるが、そうなった女は趣味ではないらしい。

 憮然とした表情をしながらも、彼ははっきりと自分の意思を言った。


「俺は別に陽子が欲しい訳じゃない。彼女の行く末を見守りたいだけだ」


 本棚を横にずらし、様々な瓦礫を固定する為のロープをほどきにかかる。


「何かを成す人間と言うのは、特別な才能がある訳でも、特殊な環境に生まれた訳でもない。陽子やレアのような強い自我を持つ人間の事を言う」


 ロープを丸めて、入口の傍へと置いておく、寝る前にもう一度バリケードを築き直す時に使うからだ。


「英雄、または偉人と呼ばれてきた者達は、彼女達と同じように、心の中に強い正義を持っている。その正義が己に強く囁きかけるから、彼らは何かを成さねばならなかった」


 その論理で行くのなら、流され続けたサイハテは英雄ではないんじゃないかと、ハルカは思う。


「つまり、西条様は己の役割を、次代の英雄を導く事、と、仮定しているのデスカ?」


 じっと、サイハテを見つめるハルカ。


「……いいや、そうじゃない。俺に導ける程の強い個はない、そして、俺はこの世界で何かを成す事はない。現状、俺は何もしていない」


 手に着いた埃を叩き落としながら、彼は言った。

 古来より、蘇った死人が齎すものなぞ、死と災厄以外は何もない。そして彼の言う通り、西条疾風は死と災厄以外撒き散らしていない。


「俺に出来る(許された)事はただ一つ。一人の大人として、二人の少女が答えを出す時まで見守る事だけだ」


 かつて、陽子は言っていた。

 サイハテの目的は全力で戦って殺される事だと。

 それは強ち間違っても居ないが、全面的に正しい訳でもない。

 彼が死を望むのは、己の戦いを引き継ぐ次代の英雄を探す役割でもあったのだ。自身を破る人間が居るのならば、それこそが次代の英雄であり、時代に求められた救世主なのではないか。

 陽子が予想したサイハテの考えはコレだ。

 しかし、それが全てではない。

 サイハテには英雄(ジーク)としての側面と、人間(サイハテ)としての側面がある。


「……つまり、西条様は」


 二人が導いた答えを見て、自身の行い全てが間違いであったと、納得したいのではないのだろうか。

 妻を殺した事、友を食った事、その屍の上に立っていた日本ですらも、全て否定して欲しいと、少女達の小さな双肩に期待を乗せているのではないかと、ハルカは勘ぐった。

 ずっと考えていた、彼女達のどちらかが答えを示した時、かつての秩序は否定されてしまう。それ即ち、サイハテが命を賭けて守った物も、妻や友人達を殺してまでも貫いた戦いを、全て否定する事になる。

 その時、サイハテは敵になるのか味方になるのか分からなかったが、これでようやく合点がいく。


「お二人の敵になるのデスカ」

ちなみに全部ハルカの勝手な予測。

敵対するかどうかは、ルート次第。


僅かなネタバレを書くと、次代に思いを託すと、自身の行いを否定されたいだけはあっている。

マゾなんですかねぇ?

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