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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
序章:傾いた総合病院
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十話

 腹もくちくなった所でと、サイハテは明日のプランを提示する。


「病院の西側に10キロって言うと、およそこの図書館からは3キロ位になる。此方側に逃げていたのは……恐らく、レア、君の策謀だな?」

「そーゆーこと」


 初めからあのレコーダーの中身を知っていたであろうレアは、戦車から逃げる際にもこちらへと逃げるように態々誘導していたらしい。

 サイハテは歯磨きガムを噛みながら、言葉を続ける。


「明朝、午前三時にこの図書館を出立する。朝焼けに紛れながら目標地点へ接近。俺の退職金を回収したい……何か質問は?」


 はい、と陽子が手を上げる。


「私は脱出を優先した方がいいと思うの、退職金も大事だけど、命あっての物種よ。一度脱出して、装備を整えてからもう一度取りに来た方がいいと思うわ」


 至極もっともな質問だ。

 しかし、サイハテとて退職金が惜しいとは思っていないのだ。それを説明する為に、サイハテはゆっくりと訳を説明し始める。


「その脱出するのに、あの戦車と歩兵どもが邪魔なんだ」


 陽子から受け取った警備ファイルの敵性生物の欄を開き、奴らであろう部分を見せつけて見せる。

 ―――――フェーズ1感染変異体バンデッド、ウイルスに適応した人類で、不老の体と病気にならない抗体を持つ、非常に凶暴で粗野な輩どもであるが武器を扱う知能などを持ち、場合によっては同じフェーズの感染変異体。フェーズ2の感染変異体に匹敵する程危険である。

 そう、襲ってきた奴らも立派な怪物(クリーチャー)なのだ。


「故に、俺達に今必要なのは戦車に匹敵する機動力……車だと俺は思う。そして終末前からこんな文書が残っていると言うことは、NIAがこの事態を予測しなかった訳がなく。俺の退職金は……」

「車である可能性が高いって訳ね?」


 言葉を引き継いで、サイハテの望む答えを返答した陽子に深々と頷いて見せる。

 レアはこの会話の内容位は予想していたのだろう、千切った紙で折り紙をして遊んでいる。


「それじゃ私がさっき見つけた地図も必要かしら」


 そう言って陽子は、重大な情報を手渡してくれる。

 サイハテが理由もなく物欲に拘るようであったら、恐らくここから離れて一人で脱出しようとでもしていたのだろう。否、多分レアも連れて行こうとしていたはずだ。


「おお、でかしたぞ」


 そしてサイハテは怒るでもなく、寧ろ諸手を挙げて褒め称えたくなった。

 サイハテが物欲に溺れる人間であったら、この後も危険であり、命を救われたと言えど、その恩を感じて死する程愚かでもなく。自分とレアが生き残る為に最善の手を打った陽子、恐らく、彼女なりの脱出プランもあったに違いない。

 それでも、自分が考えたプランより、サイハテのプランの方が脱出できる確率が高いと一瞬で判断し、決断する思考の柔軟性も素晴らしい。


「陽子」

「ん?」

「お~しおしおし! お~しおしおし!」


 そして某動物王国の王様の如く、サイハテは陽子の頭を撫でるのだ。

 埃塗れの場所を移動していたせいか、陽子の髪は非常に粉っぽい、と言うか、埃っぽい。脱出したらお風呂に入れてやらないとなとサイハテは決意する。


「……撫でられるなんて随分久しぶりだわ」


 陽子は、予想に反して嫌がる事はしなかった。

 むしろ、少しばかり気持ちが良さそうである。


(こう、なんだろうか。陽子のツッコミがないと、物凄く寂しいんだが……)


 対するサイハテの胸中は淋しさと切なさに満ちていた。言うなれば、クリスマスプレゼントに、これじゃないロボットを買ってもらった子供の胸中であろう。

 そんなこんなしつつも、夜は更けていくのだ。

 陽子がお風呂に入れない事をがっかりしたり、便意を催したレアがその場でしようとしててんやわんやになったりと、この辺りは割愛しよう。

終末TIPS


図書館などにはその地図が収められている場合が多く、もし文明崩壊後も残っているなら探してみるのも一興

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