危険な対決
夕方、国也と乃菊はそれぞれの相手に電話をし、国也が真佐雄のところへ、そして乃菊が三千彦の店に向かう。
「もう一度言うよ。僕が真佐雄の方を片づけるまで、絶対に乗り込んじゃ駄目だよ!」
乃菊の無鉄砲さを心配する国也。
「了解!」
乃菊は、国也の心配をよそに、右手を額の横に当て、笑顔で敬礼のポーズをとる。
「絶対だよ!」
念を押して車を走らせる国也。いよいよ対決の時がやってくる。
国也は花田屋の近くに車を停め、張り込みをする。真佐雄の動きを見張るためだ。
「あっ!」
花田屋の前に車が停まると、すぐに店の中から真佐雄と夕衣が一緒に出て来た。
しかし様子がおかしい。真佐雄が夕衣を無理やり車に押し込み、すぐに走り出してしまう。
慌てて車を発進させ、真佐雄たちを追う国也。
防犯カメラには、田之中が夕衣の車のボンネットを開け、細工をしているところが映っている。
「これだ、見つけたぞ!」
亀井は国也に電話をする。
「国也か、証拠を見つけたぞ!」
「それどころじゃないんだ。夕衣さんが真佐雄と田之中に連れ去られて、追いかけてたら、車をぶつけられて、畑に突っ込んじゃったんだ!」
すでに国也の方も、クライマックスのようだった。
「そうか、どこだ今すぐ向かうから!」
「砂丘公園の近くだよ。公園の駐車場へ入って行くのが見えたから、僕は走って行くよ!」
「そうか、だが気をつけろよ。やつら、何するかわからんからな!」
「わかった!」
亀井はすぐに警察署を出た。
国也はやっと砂丘公園の駐車場へたどり着く。膝に手をついて一呼吸、運動不足が身にしみる国也である。
「どこだろう?」
見渡すが、それらしき姿がない。国也は広い駐車場を見て回る。
「あった!」
カーチェイスで傷ついたボディが目に留まる。
「こっちへ来い!」
真佐雄たちだ。
「あなた、やめてください!」
夕衣が真佐雄の手を外そうとしている。
「お前がすんなり死んでくれれば、こんなことにはならなかったんだ!」
真佐雄は夕衣の腕を掴み、海岸へと出る。田之中も二人の後を追う。
「あの事故は、あなたの仕業だったんですか?」
夕衣が聞いても、真佐雄は答えない。
「いいから来るんだ!」
砂浜は歩きづらい。夕衣は何度も膝をつくが、真佐雄はお構いなしに引きずりながら、海の方へと連れて行く。
「あなた、もうやめて!」
夕衣を波打ち際へ押し倒す真佐雄。
「もうバレたみたいだから、最後にお前だけでも、あの世に送ってやりたいのさ」
真佐雄は、田之中からナイフを受とる。
「店もお前も俺のものにならなかったから、お前だけでも殺して、何処かへ逃げるつもりさ」
夕衣は倒れたまま、後ずさりする。
「さあ、こっちへ来な。すぐに済ませるから」
夕衣は立ち上がって、走り出す。それを田之中が追う。しかしすぐに追いつかれもみ合う。
「往生際が悪いぞ!」
夕衣を見る真佐雄の眼が、瞬きをするたび、ワニのように瞳が細くなり、ニヤリと笑う口からは、二つに割れた舌が、ペロペロと出入りする。
羽交い絞めされている夕衣に向かって、真佐雄の持つナイフが音もなく近づく。
「キャッ!」
夕衣が避けて倒れた。
「うっ!」
ナイフは田之中の腕に刺さった。
「やめろ!」
国也が走ってくる。
「もう、諦めろ!あんたらが事故を仕組んだことは、警察も証拠を見つけたんだ!」
真佐雄が、今度は国也に向かってくる。
「何でお前まで、俺の邪魔をするんだ!」
もう正気を失っている真佐雄は、国也に向かってナイフを振り回す。
「あなたに、夕衣さんは相応しくない!所詮、最初から夕衣さんと結ばれる縁を持っていなかったんだよ!」
国也は真佐雄に向かって砂をかける。あまり格好のいい撃退法ではないが、真佐雄は眼つぶしにあい、眼を押さえながら膝をつく。
そしてサイレンが聞こえる。
「国也、大丈夫か!」
亀井や警官が走って来る。
「わー!」
真佐雄は、狂ったように走り出す。
「止まれ!」
警官が銃を構える。
「うわっ!」
砂につまづいた真佐雄は、前のめりに倒れる。そのはずみで、持っていたナイフが首に刺さってしまう。
「救急車を呼べ!」
亀井が警官に指示する。田之中を他の警官が捕まえる。
「夕衣さん、大丈夫ですか?」
国也が、砂の上に座り込んでいる夕衣に手を差し伸べる。
「ダイコクさん」
立ち上がった夕衣を引き寄せ、国也は優しく抱擁する。
「良かった無事で・・・」
涙が出そうな国也。
「もう、あなたは自分の思うように生きてください」
今度は格好いいかも。
「私が今あるのは、あなたや乃菊ちゃんがあの人から守ってくれたから・・・感謝してます」
夕衣が国也の胸で涙を流す。
「あっ!」
急に驚いたような声を出す国也。
「どうしたの?」
夕衣が聞く。
「乃菊ちゃんを忘れてた!」
乃菊は木頭の所にいる。悪人はまだ残っているのだ。
「あ、そうだ、新ちゃん、夕衣さんを頼む!」
国也はすぐに駐車場へ向かう。
「お前も乗って行ったらどうだ・・・」
亀井が声を掛けるが、国也は聞いていなかった。・・・残念。
あわてて駐車場へやって来た国也だが、辺りを見回しても、最初からここに自分の車は無い。
「どうしよう、車はぶつけられたんだった・・・」
途方に暮れる国也だが、砂丘公園から木頭の店までは、かなりの距離がある。それに亀井がいることも頭に浮かんでこない。・・・本当に残念です。
「乗って行きませんか?」
国也の横に車が停まり、運転している男が声をかける。
「最上さん!あなたでもいいや、お、お願いします!」
国也は、急いで車に乗り込む。
「何でここにいるんですか?」
助手席に座るとすぐに聞いた。
「ま、とにかく行きましょう。木頭のところへ・・・」
偶然ではなさそうだ。
「まさか、誰か死ぬんですか?乃菊ちゃんじゃないでしょうね!?」
国也は最上に掴みかかる。
「危ないじゃないですか、落ち着いてください!」
最上は、国也の手を跳ね除け、ハンドルをしっかり握る。
「知ってるんでしょ!」
それでも問い詰める国也。
「結果は見てないもので・・・」
国也は気が気でない。
「早く、早く行ってください!」
最上の運転は、とにかく安全運転だった・・・。