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二人の休息

「おじさん、退院祝いに、お城へ連れてって」

不意に乃菊が言い出す。

「まだ出歩くのは、つらくないかい?」

「大丈夫、若いって言ったでしょ!」

頼まれて嫌だと言えない国也。

「明日は作戦開始だから、今日だけは何も考えず遊ぼうか?」

「やったあ!」

国也は鐘川城へ、乃菊を連れて行くことにした。鐘川城は、浜名から車で1時間ほどの所にある平山城である。

浜名から国道を走り、川を渡るとバイパスになる。

「おじさん、夕衣さんのこと、好き?」

「えっ!」

突然の質問に、ハンドルを持つ手に力が入る。

「そ、そりゃあ、あんな素敵な人、そうそういないからな・・・」

「だから、好きなの?」

乃菊は国也の答えを待つ。

「好きだけど、つき合う対象じゃないんだな、夕衣さんは・・・」

「ふーん・・・。じゃ、私は?」

乃菊が運転席の横まで顔を突き出し、覗き込むように聞いた。

「・・・」

「最近会ったばかりだし、まだどうのこうのの関係じゃないでしょ」

「ぶー・・・」

乃菊は後部座席に深々と座る。

「キスした仲じゃない・・・」

「何か言った?」

乃菊の頬がふくれる。

車はやがてバイパスを外れ、鐘川市内へ入る。そして市街地を走り、鐘川城近くの専用駐車場へ入った。

乃菊はさっさと車から降りて行き、国也はカバンからカメラを取り出して、肩に掛け、乃菊を追いかけた。

「君にお城を見るような趣味があるなんて、まったく思わなかったよ」

「うん、ないよ」

キョトンとして、立ち止る国也。乃菊はかまわず歩いて行く。

「これが門なんだ」

乃菊は説明板を読み、大手門をくぐる。

「無駄に、大きいわね」

「趣味じゃなかったら、どうしてお城へ?」

乃菊は応えずに歩く。川の脇道へ出ると、お城が見えた。

「あ、お城だ」

国也は黙ってついて行く。

「お店があるよ、何か食べよう」

と言い、さっそく国也にねだったのは、抹茶のソフトクリームだ。

「おいしいね」

二人は、店の前のベンチに座って、ソフトクリームを食べる。

「おじさん、夕衣さんと浜名城へ行ったでしょ」

国也は思わずソフトクリームを落としそうになった。

「正確にはそうじゃないよ。僕が浜名城へ行ったら、夕衣さんが来たんだ」

「ホワイ?・・・なぜ夕衣さんが来たの?」

クリームをなめながら聞く乃菊。

「いいじゃないかそんなこと。夕衣さんとは何でもないし、君とは出会ったばかりだし・・・」

乃菊は国也の顔を覗き込みながら、クリームをゆっくりなめる。

「出会ったばかりなんだ、私たち・・・」

かなり不満そうな乃菊である。

「おじさん、行くよ」

乃菊は立ち上がって、お城へ向かう。もうお城は目の前、橋を渡るとすぐ上に城門がある。

「ああ、疲れた」

いつもは威勢のいい乃菊も、十数段の石段を上っただけで音を上げた。

「大丈夫かい、やっぱりまだ身体が・・・」

口は達者でも、身体はまだ怪我の影響が残っているんだ、と国也は思う。

「私はいいから、上に行って来て」

天守へはまだ階段をかなり上がって行く。でも乃菊を残しては行けない。国也は階段を数段上った所から、天守や門、太鼓櫓の写真を撮り、乃菊の所へ戻った。

「乃菊ちゃん、ここに立っててくれる」

国也は登城口の階段の所へ乃菊を立たせる。自分がかがんでカメラを構え、お城をバックに乃菊の写真を撮った。

太鼓櫓も背にして写真を撮る。少し乃菊の表情が柔らかくなったような気がする。

「モデル料は、いくら?」

また始まった。しかしその方が乃菊らしいと思う国也だ。

「内容次第かな」

乃菊が国也に近づいてくる。そして国也の耳元で囁くように言う。

「じゃ、脱ごうか?」

「ば、馬鹿なこと言うんじゃないよ!」

国也があたふたしている間に、乃菊は門を出て、階段を降りて行った。

「あ、イタタッ」

やはり身体は正直である。階段の下の道路でうずくまる乃菊。

「大丈夫かい?」

駆け下りて来た国也が聞く。

「おんぶしてくれないと、死んじゃうかも・・・」

大袈裟な奴だと思いながらも、乃菊の前に出てしゃがみ、背中を差し出す国也。

「それじゃあ、どうぞ」

乃菊はニンマリとし、勢いよく国也の背中に寄りかかる。国也はよろけながらも、しっかりと乃菊を背負った。

「さあ、駐車場まで、レッツゴー!」

掛け声だけは元気な乃菊。国也は苦笑いしながら、駐車場へ向かう。

「あ、今持ち直した時、お尻触ったでしょ!」

「触ってないよ!」

乃菊が回した手で、国也の首を絞める。

「首絞めたら、苦しいよ」

「ちゃんと持ち上げないから、絞まっちゃうのよ!」

「上げてるよ!」

「ほら、また触った。エッチ!」

「触ってないよ、もう下ろすよ」

「駄目、歩けないから。ちょっとだけなら触ってもいいよ・・・」

「触るもんか・・・」

ずっとこんな調子で、二人の漫才が駐車場まで続いた。


挿絵(By みてみん)

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