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素人潜入捜査

数日後、国也は夕衣のいない花田屋を訪れた。夕衣の入院中、店を仕切っているのは真佐雄だ。

「何も頼むものは無いよ」

真佐雄は、そっけなく言う。

「分かりました。それより奥さんが事故に遭ったそうで、大変でしたね」

「まあ、いなくても店は大丈夫だから、しばらく休めばいいさ」

夕衣がいない方がいいって、のが本心かな、と思う国也。

「その事故が、故意によるものかもしれないって、本当ですか?」

鎌をかけてみる国也。

「だ、誰がそんなことを!」

真佐雄の表情が変わる。

「知り合いが警察に行った時、そんな噂をしていたって言ってたんです。それが本当なら、夕衣さんは、誰かに命を狙われたってことですよね」

「そ、そんなことがあるわけないじゃないか。あれは事故だよ、車の整備不良だったんだよ。それに、夕衣は命を狙われるような女じゃない!」

落ち着きがないように見える真佐雄である。

「そうですよね。あんないい方を殺そうなんて、そんな人いないですよね」

「そうさ、当たり前じゃないか・・・」

乃菊の言うように、真佐雄が事故の件に関わっているのは、顔色をうかがえば容易にわかる。国也は確信した。

「さ、用は無いから、さっさと帰ってください」

国也の肩を押し、店から出て行くように指図する真佐雄。国也は外へ出て、事務所の下の階段の陰に隠れる。

すぐに真佐雄が店を出て来て、ポケットから携帯電話を取り出す。

「田之中さん、俺だ。事故の事がばれそうなんだ、カフェ・ウィンドへ来てください」

田之中?共犯者か?カフェ・ウィンドなら知ってる。国也は、先回りすることにした。


帽子をかぶり、サングラスをして、サスペンスドラマの主人公のように、変装したつもりの国也が、カフェ・ウィンドの店内にいた。

隅っこのテーブルでコーヒーを頼み、新聞を読んでいるふりをしながら、二人を待っている。

そしてほどなく真佐雄たちが店にやって来た。そしてつい立を挟んだ隣のテーブル席に座ってくれた。

「冴えてる。そこに座ると思っていたんだ」

・・・偶然である。

国也は、つい立側に座り直し、聞き耳を立てる。

「さっき、しみ抜き屋の野郎が店に来て、夕衣の事故を誰かが故意に仕組んだことだって、噂をしてるって言ってたんだ」

野郎とは、酷い言いかたじゃないか。憤慨する国也。

「大丈夫さ、俺が車に細工しているところなんて、誰も見ていないし、証拠なんてないさ」

こいつが犯人か。国也は、立ち上がって二人の所へ行き、殴ってやりたい気分だった。

「それならいいけど、あのしみ抜き屋も胡散臭い奴だ」

こっちのセリフだ!と言いたい国也である。

「乃菊って娘の方が、怪我が酷かったんで残念だよ。夕衣がいなくなったら再婚して、あの娘を二号にしてやろうと思ってるのに」

新聞を持つ手が震える国也だ。・・・気持ちはわかる。


二人が店を出た後、国也は、浜名警察署に電話をして、刑事をしている同級生の亀井新五郎に会うことにした。

警察署にやって来た国也は、捜査課に案内されて、来客用のソファに座り、亀井を待つ。

悪いことをしてここにいるわけではないが、なぜか緊張する国也である。

「やあ国也、久しぶり!」

亀井が手をあげて挨拶をする。

「やあ、元気そうだね」

国也は、立ち上がって握手をする。

「まあ座れよ。・・・それで花田屋の社長の件って何なんだ?」

国也は、あちこちのポケットに手を入れて何かを捜す。

「あ、あった」

まだ緊張している国也。

「新ちゃん、これは、真犯人が夕衣さんの事故を仕組んだ証拠だ」

国也は、テーブルの上に、ラジオショッピングで買ったペン型録音機を置く。

亀井は、身を乗り出してペンを取る。

「どういうことだ?録音機か?」

国也は頷く。そして身を乗り出し、なぜか小声になる。

「花田屋の社長の事故は、社長の花田夕衣さんの夫の真佐雄と田之中っていう男の二人が、事故に見せかけて、夕衣さんを殺そうとしたんだ」

「本当か?」

「本当だよ!」

亀井は、人を呼ぶ。

「録音機だ。内容を調べてくれ」

部下の刑事らしき男がペンを持って行った。

「二人の会話を録音してあるから、あとは田之中って言う男が車に細工した証拠があれば、逮捕出来るだろ」

亀井は、腕を組んで考える。

「それから、少し前に川で溺れた井和田静夫さんの件をもう一度調べてくれないか。それと22年前、同じように川で溺れた菊野太智さんは、同じ仕事をしていた友人で、二人とも溺れたんじゃなくて、溺れたように見せかけた殺人だったんだ。その理由が、22年前、真佐雄の父親の木頭が菊野さんたちの仕事に損害を与えて、その証拠を掴んだ菊野さんが、木頭の店に乗り込んだ後殺されたんだ。今回の井和田さんも同じなんだ」

国也は、ポケットから手帳を取り出す。

「この手帳は、井和田さんが22年前に使っていたもので、詳細を記した日記のようなメモが書いてある。それを菊野さんの娘さんに、もしもの時のことを考えて預けてあったんだ」

これが事件の真相だと、国也は名探偵のように説明した。

「それより、何でお前がそんなことしてるんだよ。探偵じゃないだろ」

「一般市民だって、悪い奴らをほっておけないんだよ」

亀井が笑う。

「小学校の頃は、花壇の花の世話をするようなおとなしい子だったのに、男らしくなったじゃないか」

「馬鹿にしてるのか?」

「そうじゃないよ」

その花の世話を一緒にしていたのは、お前だろ、と言いたい気持ちを抑える国也である。

「よし、店の近辺の防犯カメラを調べてみる。それと二人の死亡の件も。だが国也、ここからは警察の仕事だから、もう手を引けよ」

「ああ、わかったよ」

もちろん国也は、手を引くつもりはない・・・。

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