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陰謀の実態

数日後・・・。

国也は、病院の駐車場に車を停める。花田屋で夕衣の事故を知り、見舞いに来たのだ。

受付で病室を聞き、エレベーターで5階に上がる。廊下を進むと病室の表札に花田夕衣とある。

「こんにちは・・・」

横になっている夕衣が、国也の顔を見る。

「あっ・・・」

夕衣は、起き上がる。

「大丈夫ですか、起き上がって?」

「ええ、たいした怪我はしていません。どうぞ座ってください」

夕衣は、ベッドの横にある椅子に座るよう勧める。

「それなら良かった。車の事故だって聞いたから、重傷じゃないかと心配していたんです」

夕衣は、ニコリとする。

「私のことを心配してくださるんですね」

「当たり前じゃないですか。お店には、社長に会いたくて行くんだから・・・」

「冗談でも嬉しいわ、ダ、イ、コ、クさん」

笑顔が見られて安心する国也だ。

「どうしてそのあだ名を知ってるんですか?」

「沢田屋さんが教えてくれたんです」

「そうですか、ぜひそう呼んでください」

夕衣の顔が急に真面目になる。

「私より、乃菊ちゃんが重傷みたいで、申し訳なくて・・・」

誰それ?という表情をする国也。

「ご存じなかったですか、一緒に車に乗ってた仕立ての生徒さんの菊野乃菊さんですけど・・・」

やっぱりわからない国也である。

「私をかばって、怪我が酷かったんです」

どんな人なんだろう。夕衣をかばってくれたなら恩人だ。

「隣の部屋なので、様子を見て来てくださいますか?」

夕衣の頼みなら何でも聞こう、と思う国也である。

「それじゃあ、ちょっと行ってきます」

国也は、廊下へ出て隣の部屋の表札を確かめる。

「菊、野、乃、菊、間違いない!」

そっと扉を開ける。ベッドに女性らしき姿がある。静かに近づく国也。

「ストーカーですか?」

ベッドに横たわる女性から、思わぬ言葉が発せられる。

「い、いえ、違います。決して怪しいものではありません!」

そんな返事をする方が怪しまれるかも・・・。

頭や手足に包帯を巻いた女性が、むくっと起き上がる。

「おじさん、いらっしゃい。あ、痛っ!」

その声、その顔、憶えがある。

「き、君は、あの時の・・・」

国也は、初めて乃菊の名前を知った。

「菊野乃菊です。よろし、イタタッ」

頭を下げると痛いらしい。

「大丈夫かい?」

頭に包帯をしているけれど、うかがい見る顔は、結構美人で可愛い。

「心配してくれるんですか?それとも私の美しさに邪念を抱いた?」

相変わらず減らず口を叩く娘である。


挿絵(By みてみん)


「夕衣さんをかばって、こんなに怪我したんだよね」

減らず口には、ぐっと辛抱して声をかける。

「私は、しぶといから大丈夫。それより、夕衣さんがたいした怪我しなくて良かった」

夕衣の夫と禁じられた関係のこの娘が、なぜ夕衣を気遣うのか?・・・国也には謎だ。

「君にとって夕衣さんは、真佐雄さんを巡る敵対関係じゃないの?」

乃菊は、笑う。

「おじさんて、単純。私があの男に近づいたのは、夕衣さんを守るため、あいつらの陰謀を暴くためなのに、おじさん、私を悪者にしてる」

乃菊が、両手で顔を覆う。泣いてしまったのか?

「ごめん、そんな事とは知らず、ごめん!」

乃菊は、手を下ろし、舌を出す。

「やっぱり、単純。すぐ騙されるんだから」

呆気にとられる国也。また遊ばれている。

「君は、家族がなくなったそうだし、こんな事故にも遭って、それでも夕衣さんのことを心配するなんて、どうしてなんだい?」

乃菊が窓の方を見る。今までに見たことがない淋しげな眼をして・・・。

「私は、みんなと縁が切れてしまう運命なの。十五の時に母も亡くし、身内がいなくなって、育ててくれた義父さんも死んじゃった。これからは、夕衣さんが私の拠り所・・・」

国也が乃菊の顔を見ていると、みるみるうちに涙があふれ出てくる。

「ど、どうしたんだい?」

乃菊の涙は止まることもなく、鼻水まで出ている。これも演技か!と思ってしまう国也。

「どうして、どうしてもっと、早く来てくれなかったのよお・・・」

泣きながら話す乃菊。言っていることの意味がわからない国也は、おどおどするばかり。

「心配で、苦しかったんだから・・・」

「何が心配なの?痛くて苦しいんじゃないの?」

「だから、私のことじゃなくて・・・イタタッ」

起きているのが辛そうな乃菊を、国也が寝かせる。

「夕衣さんを守りたいのに、こんな身体じゃ守れないのよ」

歯がゆそうに言う乃菊だが、国也には、何のことなのかさっぱりわからない。ただ寝かせる拍子に手を握り合っている二人。

「おじさん、いつまで私の手を握ってるの?」

「あ、ごめん!」

国也が手を離そうとすると、乃菊が力を入れて離さない。ホントは握っていたいのか?と思う国也。

「ティッシュ」

「?」

「拭いてくれる」

「えっ」

「手がこんなだから、拭いてくれる」

「何を?」

国也は、考え込む。

「こんな顔を、いつまでもおじさんに見られたくないの!」

やっと理解出来た国也。

「かしこまりました」

ベッド脇のティッシュを数枚取り、乃菊の顔を拭く国也。異性にこんなことをするのは、当然初めてである。

「綺麗になった?」

涙や鼻水を拭きながら、乃菊の顔をまじまじと見ると照れくさい。以前から思っていたが、夕衣に劣らず美人だ。それに可愛い。そんなことを思うとドキドキしてしまう国也である。

「おじさん、夕衣さんを身体を張って守った私に、ご褒美はないんですか?」

ご褒美?腕組みしてしまう国也。

「ないんだ・・・」

乃菊は、しょんぼりする。・・・ふりかもしれない。

「私には、名前も言ってくれないし、感謝もなしなのか・・・」

男としてここは、綺麗に決める一発逆転の対応を考える国也。

「縁あって、君の新しい友人になる、大野国也です。よろしく・・・」

国也は、乃菊の額にキスをした。なぜか、誘われるように大胆なことをしてしまった。

決まった!・・・と思い乃菊の顔を見る。・・・睨んでいる。

「私が動けないと思って、勝手なことをするじゃない、おじさん・・・」

格好つけたつもりが、早まったか?

「お、欧米式の挨拶だよ」

口から出まかせ。

「じゃ、おでこじゃないでしょ」

別のとこでもいいの?と思う国也。

「おじさん、やり直し」

いいんだ、してもいいんだ!国也は、ドキドキしながら、目を閉じている乃菊の唇にキスをする。

「ほっぺでしょ!」

またまた失敗か。

「ごめん、今のがホントの欧米式かと思って」

ちょっと得した気分。いや、宝くじに当たったくらいの気分かな?

「元気なら、ビンタものよ、おじさん。あ、イタタッ」

乃菊は、横を向いてしまう。しかし国也から見えない乃菊の顔は、笑顔である。

「おじさん、夕衣さん、殺されちゃうかも・・・」

突然、何だ!

「だ、誰に?」

国也は、驚いて聞く。

「この事故も、夕衣さんのご主人が仕組んだことだと思うの」

乃菊は、自分が関わって来たことを国也に話す。

信じられないことだが、乃菊と真佐雄の実家との関係、三嶋雄平との関わり、夕衣が狙われる理由。乃菊の話には、真実味がある。だから真佐雄に近づいたんだ。国也にもやっと現状が見えて来た。

「一緒に、夕衣さんを守ってくれる?」

乃菊が国也の方へ向き直って言う。

「初めに言ったじゃないか、僕にも夕衣さんを守る理由があるって」

乃菊が包帯の巻かれた手を伸ばし、国也の顔を掴んで引き寄せる。

「君も、守りたいし・・・」

乃菊が自分から唇を寄せ、キスをする。今度は乃菊の唇の温もりが伝わってきて、心臓がバクバクしているのを感じる国也。そして二人の唇が静かに離れる。

「あくまでも、欧米式だから。勘違いしないでね、おじさん・・・」

勘違いするよ、単純な男は・・・、と思う国也である。




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