プロローグ
人は誰しも後悔しながら、生きていく。
悔やみ、涙を流し、それでも前を向いて、明日を信じて、歩いていく。間違った道であったとしても。
南に浮かぶニクス大陸を支配するのは、オルビス王国・ラグーン王国、そして今は亡き、ニクス王国。
ニクス王国跡地には、残された両国の意思により、墓が建てられた。刻むべき名がない墓は、異様としか言いようのない数で、更に不気味さを増していた。一つだけ、名が刻まれた墓がある。ニクス国、最後の主の名前だ。
両国が今までの敬意と感謝の念を込めて作った墓は、時折誰かがやってきては、綺麗に磨かれて、輝きを保っていた。
ニクスが無くなって三十年。オルビス国、ラグーン国は、在りし日を忘れること無く、平和への道を歩んできた。互いに手をとり、血を流す、争いを避け。
ラグーン王国の中心に聳える大きな城。その地下室に、少しばかり年老いた女が、迷うことなく牢獄の鍵を開けて、捕らえられていた少女の頬を撫でる。
少女は目を恐怖に見開き、カタカタと全身を震わして、口元からは、だらしなく涎を垂らしていた。
「さあ、可愛い娘よ。母さんの願いを、叶えてくれるわよね?」
声だけで判断するならば、恐怖なんて感じる訳もない、甘く優しい声だろう。その表情さえ見なければ。
女は頬を撫でていた手を、天に翳して、高らかに叫びだす。何かに取り付かれた獣のように。人間に聞き取れない、雄たけびを。
少女は涙を流し、黙って女――母を見ていた。生まれてきてから十八年間、一度たりとも、笑顔を向けてくれたことのない母と呼ぶべき、狂った女を。
「行きなさい。私の為に、国の為に。そして、ニクスが残した『奇跡』を、成し遂げる為に!!」
女は少女の頭に手を乗せ、何かを呟いた。瞬間、乗せていた手が光を放ち、少女を包む。
「……母さん」
少女は薄れゆく意識の中、女の顔を目に焼き付けた。否、焼き付けさせられた。真っ直ぐに少女を射るその瞳には、深い悲しみだけが、浮かんでいた。
初めての作品なので、見苦しい所や、理解不能な部分が沢山あると思いますが、最後までがんばりますので、どうか、お付き合いください。