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十八話

……はぁ、と内心深いため息を吐く。そして、ちらりと目の前に座る男の人を横目で観察してみたけど……厳つい無表情で例え冗談でも話しかけ安いとは言えない。

 それに、この馬車に乗ってからも一心に前方を見据えたままで一切視線を動かす様子もないし、正直こうも緊張状態が続いたままだと精神的にも肉体的にもキツいものがある……と穏やか代表純日本人の私は思うのだけど?


 「……」


 「……」


 お腹も空いたし、とりあえず……何か食べないと頭の回転が止まりそうだ。

 本当は知らない人から与えられた食べ物を口にするべきじゃないんだろうけど、今の現状を考えたらそんな甘ったれたことを言っていられない。だって、お金もない、言葉だって大して上達しているわけでもないし、家の場所も分からず、頼れる人も……今はいない。こんな状況で、もしあの頃のように道に放り出されたら?そうしたら、……そうしたら、私はまた同じように生きる為に落ちているものだって拾うし、腐りかけた果物でも、カビの生えたパンでも口にする。


 「……(あの頃とは違う。生きることを諦めかけていたあの頃とは……)」


 私は帰るんだ。日本でも、家族の元へでもない。……ドーラの待つ、私の家へ。

 両手を膝の上で握り締めて、男から視線をずらし外を眺める。

 ざわざわと人の声が賑やかで外は何やら商店が立ち並び、お客さんが沢山行き来しているのが見えて、そこで一つ気になるものが。


 「あ、の」


 「っ、はい……なにか?」


 突然声をかけて驚かせてしまったみたいだったけど、構わずに振り返り、彼の瞳を見つめもう一度尋ねた。


 「あれ、は……?」


 通じるか不安だったから、いつもよりももっとゆっくりと言葉を紡ぎ、そして一応指でも指示してみたけど……


 「……あぁ、あれは」


 と、言ったきり口を閉じてしまったので通じなかったのかと不安になった私は、もう一度口を開こうとした瞬間


 「ふじん、あれ……とは?」


 彼がゆっくりと、そう聞き返してくれたので


 「あ、あ、の……たべ もの?」


 その実は見た目林檎のようで、色は橙色だったから物凄く気になったんだけど。


 「たべもの、であれば……キコの実です」


 ……え?


 「き……ききょ」


 分かってはいる。彼は分かりやすく、丁寧に、ゆっくりと口を動かして発音してくれているのだと。


 「キコの実」


 「きにょ?……ぉみ」


 「き」


 「き」


 「こ」


 「き、……こ?」


 何度かそんな練習を繰り返し。

 ……合ってる?間違ってない?と彼を見れば……帰ってきたのは深い深いため息で。


 「……気長に教えて行くしかないのでしょうね」


 「……はぃ?」


 なんて言っているのか分からなくても……傷つきます。


 「全く、どうしたものか」


 私から視線を外して何かを呟く彼を見て、意外と優しそうだとか思った自分を叱りたい。












 「りりぃさま、どこをごらんになっておられるのです?くちもとをごらんください!」


 「は、はい」


 「そこ!えがおをくずさない!」


 「ひっ」


 この屋敷へ連れてこられてからと言うもの、紹介された厳格そうなお婆さんの元で、言葉を覚えるために叱られ続けている私。

 いまいち状況を理解できていない私がここへ着て七日ほどが過ぎ、言葉と並行して礼儀作法までもが教育の一環になりつつあるこの頃。……何度も抜け出そうとしたし、なにか家に帰る手がかりはないかと色々盗み見ているのだけど、私の身長はどこに行っても低すぎて机の上のモノを長時間見ようと思ったら何か踏み台が必要になるわけで。そうなると私には何も出来ない。


 「……くだものをおとさず、すすむよういったはずですが?」


 もう、連日続くこの厳しい声音に心臓はどきりどきりと伸縮し続けて、ストレスが半端じゃない。 あぁ、一体いつになったら家に帰れるんだろう?いつになったら……ドーラに会えるんだろう? 苛々したら胎教に悪いと、日本で見てたドラマのおかげで知ってはいるけど、……お腹が大きくなると逃げ出すときに不利だし、何より子供の為にも危険なことはなるべく避けたい。なんて考え始めると切りがない現状に、今はただ、苛つかずにはいられない。







けれど、それから数日が過ぎた頃……状況は一変することになる。







 お久しぶりです。

 更新が遅れすみませんでした。

 自分で書いていて難ですが(苦笑)速度的に、このままだと物語的にゆったり過ぎて先に進まないので、そろそろドーラも出てくる予定でいます。

 お楽しみいただければ幸いです。

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