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十話


 *****ドーラ・キルシュ・ノールブルク


 ごそごそ、とシーツの上をすべる自分の手のひらは何時まで経っても愛妻へは辿り着かず……


 「……っ」


 もしやベットから落ちたのではあるまいな?!微睡んでいたはずの意識は一瞬で覚醒し、儂はベットから飛び起きた。


 「なんてことじゃ」


 ベットがどれほど広かろうと儂が見渡して彼女を見落とすはずがない。儂は確認の為毛布を全て引きはがし、ベットから飛び降りると床へ這いつくばり、もしや彼女がどこかに倒れていないかと気が焦りつつも捜索していると……あれは


 「あの小さい踏み台は、リリィの」


 彼女がここへ来た最初の頃に色々と不便だろうと思い与えたが、結局のところ儂の活躍によりあまり使われているのを見た覚えのない特殊な模様が彫り込まれた彼女専用の木で作られた可愛らしい踏み台だった。あれがベットの下へ置かれていると言うことは、彼女があれを自分で出し使用したと言うことだ。


 「……まさか」


 また屋敷を出て行ったのでは?……いや、それはないじゃろう。リリィもそのようなそぶりは見せて居らんかったしなぁ。とすると、リビングかの?



 _____


 ぺたぺたと音のなる室内履きをゆっくりと脱ぎ、ベットの傍へ揃え置いた儂はそっとリビングのドアを開け中の様子を窺って見た。


 「……ふふっ」


 すると儂の愛妻はその身体には大分大きなソファへ腰を据え、置かれていたこれまた大きなクッションたちに埋もれて一人、笑っておった。

 彼女を笑わせるようなものは置いていなかったと思うのじゃが……いったい何を見て、


 「……そう、かぁ」


 突然、何かになっとくしたらしい彼女は無意識なのか、自覚あっての事なのか、自身のその腹を……ゆっくり、優しく、撫ぜていた。

 そしていつの間にか、柔らかな表情をしていたリリィは両腕を天へ伸ばし……


 「リリィ!!」


 「っ!?……どぉ、ら?」


 振り向いた彼女は、いつも通り。彼女は知らぬのだろうか?

 遠い昔から言い伝えであり、最近の若者はあまり耳にせんかもしれんが……意味もなく両の腕を天へ掲げ続ければそれは死者の霊を招くことになるのだ。


 「……すまん、驚かせたかの?」


 「……?だい、じょぶ」


 クッションを抱きしめたまま、儂を見上げる彼女を見つめ……


 「リリィ?ここで、なにを?」


 儂は彼女の腰掛けるソファの前まで足を進めると、その場へ跪き尋ねた。


 「なにを?……うぅ?」


 難しい内容を尋ねたつもりはなかったのだが、なぜかリリィは眉間に皺を寄せたまま固まってしもうた。


 「……ふむ。リリィ、答えは食事の後に聞こうかの。さすがに、料理長を待たせすぎたようじゃ」


 「……むぅ」


 何を悩んでおるのかは定かではないが、唸るばかりで反応のないリリィを抱き上げ、儂はリビングから廊下へと続く扉を押し開け歩き出した。

 彼女の返答へじっくりと耳を傾けたいのは山々じゃが、全ては先ほどから空腹に耐えかねたのか本人の意思を無視したまま小さく鳴く愛妻の腹具合の為!!






 





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