第三話 シチューの味
あれから、程なくして俺達はなんのトラブルも無く無事に宿場町らしき所までたどり着いた。現在は最初に発見した宿の中にある酒場で、注文した料理をまっている。
先ほど人間じゃないということだけで襲われた俺だったが、幸いにもこの町は亜種人と人間が共に暮らしている町らしく、町の門番に呼び止められこそしたがなんとか怪しいものではないと納得してもらい中に入る事が出来た。
そもそも、先ほど宿屋のおばちゃんに聞いた話しによると、亜種人を敵対視しているのは人間の中でも白の神と呼ばれる神様を信仰している者だけらしい。
まぁ、どちらにせよ俺とアルの瞳と髪の色に加えてボロボロのフードをかぶった女の子を背負っているせいで町に入ってから終始目線が痛かったが……
ちなみに、宿代は先ほどの甲冑野郎どもからの戦利品で難無くすんでいる。
「で、早速なんだがこれからどうしていこうかアル」
「そうですね、私もそうなのですが、まずは、マスターのステータスが安定なさるまではどうにも……」
この世界には人や生き物、さらには道具などの力量や職業などの適性力、それが持つ危険度を測るためにレベルやステータスというものを用いて測るのだそうだ。
これは、体内などに必ずあるといわれている魔力回路というものから測るらしく、現在俺とアルは生まれたばかりということでその魔力回路が不安定でレベルやステータスが測れないばかりか本来の力すら満足に出せない状態であるらしい。
「ん~なあ、アル。そもそも、精霊って何なの?」
「精霊というのは、私のような何らかの強い力を持った道具や生物が長い年月を経てその身に一定の純粋な魔力を宿した者、または力そのものが集まり意志を宿した者だと聞いています。また精霊は自分が司っている力の管理をし、その力が絶え間なく流れるよう世界の均衡を守る役目があります。そしてマスター、もとい精霊王様はそれら精霊達を取りまとめ時には見守り、時には罰していく我々の父であり母なのです」
「我々の父であり母なのです……っか。なんか、そう言われると俺なんかが精霊王になっちゃっていいのかな? て、おもえてくるよ。現にさっきは、何もできずにアルに存在を消費してまで助けてもらっちゃっただけだし」
「マスター…………大丈夫です。マスターならきっと素晴らしい精霊王様になられますよ」
こんな何のとりえもない俺でもアルは、俺のことを精霊王として認めてくれて、献身的に支えようとしてくれている。
「アルは優しいな」
「い、いえそんな」
アルのためにも立派な精霊王にならなくちゃな……。
「あ、そういえばさ、俺の前の、そのつまりは先王の精霊王はどうなったのさ。それか今までの精霊王は? 会えればこの世界のこととか、精霊のこととか色々詳しく教えてもらえそうだし、俺も少なくとも今よりはうまく精霊王としてやっていけそうなんだけど」
「先王も何も、今までそのような者は一人もいた記録はありませんよ。マスターが最初の精霊王様です」
「は? どうゆうこと」
「私達にとって精霊王様というのは、マスターの世界でいう神々のようなものでして、伝承やおとぎ話でしか知り得なくその存在すらいるかどうか怪しいものでした。ですが、数年前、ちょうど私が生まれた時ぐらいでしょうか、ある人間の魔導師が私達精霊に精霊王がもうすぐ転生してやってくると予言し、そして私達精霊もまたその存在の波動を感じ取ったのです」
…………………………………………驚愕の事実再びである。
「あ、マスター。予定よりかなりはやいですが私達のステータスが確定されようとしていますよ」
ちなみに、数年前に誕生したアルとさっき転生したばかりの俺がなぜ同じタイミングでステータス確定するのかというと。もともと精霊王というのはその存在の力の大きさゆえに成長が驚異的にはやいからだそうだ。そして、精霊王が成長する時に発する特殊な波長に当てられたアルもまた成長が驚異的に促進させられたらしい。
そうこうしているうちに、俺とアルの体が契約をした時みたいに強く光りだした。そしてさらに今度は体中に黒い入れ墨のような線が幾重にも体をめぐった。
「わ、いったいなんだい……………大丈夫かい黒髪のお兄さん」
光と線が現れたのは、一瞬だったがなんとも言えない痺れが体中に駆け巡り思わず目の前の木製の長机に突っ伏してしまった。
「え、ええ。なんとか」
「今は、他の客が少ないからいいけどあんまり室内で魔法はやめとくれよ。ほれ、料理そこに置いとくからね」
気づけば、体中になんとも言えない不思議な力があるような感じがする。これが魔力ってやつなのか。何かふわふわする。体も軽い。
「はは、ありがとうございます。おばさ――おねえさん」
「ん、わかればよろしい」
やべぇ目が本気だった。背すじに感じた寒気により何とか起き上がることができた。
「おや、そっちのフードのおちびちゃんも起きたようだね」
町に着いてから起こそうとしたが起きず。また、俺が離れようとすると寝苦しそうに唸るのでそばで寝かせて置いたのだ。よく見れば頬に涙の筋があったこともあり相当辛いことがあったのだとうかがえ、可哀そうに感じもうすこしぐらいは寝かしておいてもいいかなと考えたからでもある。
「う、ううん。」
「おはよう、って言っても今はもう夜だけどね」
「え、こ、ここは!?」
「取りあえず、座りなよ。ちょうど飯もあることだし一緒に食べながらはなそう」
「は、はい」
すると、少女は椅子ではなく地べたに座った。
「なにしてんのさ? 早く隣にきなよ。料理冷めちゃうよ」
「あの座っていいんですか。私なんかが隣に座って一緒に食事していいんですか」
「はあ、何いってんのさ、さっきからそう言ってるじゃん。ほらはやく、俺もう腹ペコなんだよ」
少女は、おそるおそると座り目の前のシチューもどきをまじまじと見つめる。しかし、見つめるだけで食べようとはせずまだおろおろとこちらを見上げる。
(ん? あぁ、なるほど首輪が邪魔なのか)
(マスター、彼女の首輪取ってあげたらどうです)
(ん、そうだな。……ってアル!? へ、なにこれ)
(先ほどステータスが安定したことによって念話ができるようになったのです。契約している精霊とならどれほど離れていていても会話することができますよ)
(すげー。携帯要らずだな。っとそうだった首輪だな。ていってもあんなごつい首輪どうやって外せばいいんだ? )
(そのまま首輪に手を当て外れよと念を飛ばせばいいのです。ですが、折角ですので今回は私の力を披露しましょう。これからマスターに憑依します)
というやいなや、アルは光だし半透明になって俺と重なる。そして文字通り背後霊のように俺の後ろに憑依した。
(うを、なんだこれ。アル、青白い光の線が見えるようになたっぞ)
(はい、マスターそれこそ私の魔工精霊としての力、魔力観測です。首輪の中に見える青白い線のどれでもいいので切れろと念じながら指で切ってみてください)
いわれる通りに首輪の中に見える青白い線のうち一番太い線を指でなぞるようにしてみると、ぷつんといともたやすく線は切れた。そして、それと共に首輪が光の粒子となって消え去っていく。
「おどろいた、あんた精霊使いだったのかい。そのなりからただもんじゃないな、とは思っていたがまさか精霊使いだったとはね。しかもなんだい、実体化出来る上に人型の精霊なんてめったにお目にかかれないような高位の精霊じゃないか。さらに、完璧服従ときた、はぁ~たまげたもんだ。……それに、奴隷の首輪をはずしてやるなんて粋なことすねやるじゃないか。この~色男が」
「ちょ、やめてくださいよ」
アルの憑依を解き、指でつつきながらからかってくるおばちゃんをあしらいながら料理を一口食べる。お、想像以上に美味しい。
「照れるな照れるな、よかったね。おちびちゃん」
「ほら、君も早く食べなよ。美味しいぞ」
少女は、今起こったことが信じられないのか口をぽかんと開けたまま唖然として固まっている。
いつまでたっても動きそうにないのでその開いた口にシチューもどきをスプーンで掬って入れてやる。
「お、美味しい…………。美味しいです」
「だろ」
「はい、ほんとに……美味しい……ふぐ、えぐ、……ずず……グズ」
「おいおい、泣くこたぁないだろうよ。ほら、旨いもん食ったときはうれしい顔しなきゃ、な?」
「はい」
ニコ
その後、泣きながら嬉しそうに、そして必死に料理をほおばる少女が落ち着くまで話し合いはせず食事をすることにした。遠い昔、星羅と一緒に食べた母さんのシチュウ―の味をおもいだした。