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第二話 馬車の中で竜は眠る

    目蓋まぶたが重い、視界が真っ暗だ。


    俺は死んだのだろうか……不思議と痛みを感じなかったように思える。 


    いや……、あの勢いでトラックに当たっといて即死でないはずがないだろう。 




    じゃあ、一体今のこの俺は、なんだっていうんだろうか?  



    まさか、天国!? いやはや、そういったたぐいは一切信じていなかったんだが。



    こんな、風にそれを否定されるとはな……。って、なんで俺はここが天国って決めつけているんだろうか。目蓋まぶたすらまだ開けていないって言うのに。


    いや、俺だって逝くんなら天国の方がいいし別に好きで地獄に逝きたいともおもわんけどさ。いかんせん。まったく俺よ、どうしてそんなに考えが安易なんだよ。そもそも、あの時だってもっとよく考えて行動していれば――――はぁ、やめよ、なんか寂しくなってくる。







    それにしてもさっきから体中が重たい。と、いうかここかなり寝心地が悪い。背中が痛い。



    ……そろそろ、起きにゃならんよな。いつまでもこのまま寝そべってるわけにもいかんだろうし、なんか、遠くから軍靴の音(・・・・)も聞こえてくるし。はぁ。



    できればこのままずっと寝そべっていたいんだが。体、だるいし。……もういっそ、このままずっと寝てようかな。いやいや、それならもっと寝心地の良いところで……ってまた俺は、現実逃避して。――ん、軍靴(・・)



        

   「よっと、……はぁ、起きちまった。てか、案外簡単に起きられた。じゃなくて、ここ……どこだ?」



    見ればそこは、天国というには余りにも殺風景で。また、地獄にしてはあまりにもおどろおどろしくはなかった。見えるのは、大自然。


    目の前には、7~8メートル程の幅の道のようなものが15メートル程の高さの岩壁沿いにある。


    岩壁と道はかなり長くどうやらここは、岩壁沿いに造られた街道のようだ。さらに背後にある鬱蒼うっそうと茂る木々が制する先の見えない暗い森や、見上げれば岩壁の端からも緑が見えることから、人里からはある程度離れたところであろうということがうかがえる。




    いきなり自分が見知らぬ場所にいるだけでも俺のキャパシティーはパンク寸前だというのに、そこにはそれすらもどうでもよく思わせるような光景が広がっていた。


    人、人、人、――50人程の人がそこにいた、いや、街道らしきところなのだから、人が多少多くいてもさして問題はないだろう。問題なのは、彼らの姿と目の前で繰り広げられている戦闘である。


        そう、戦闘。彼らはなぜか戦っているのだ。


    屈強そうな体躯の男たちがその身に甲冑をつけ40人がかりで馬車3台を取り囲むように守っているところを、耳の上や額に角を生やし、さらに数人だが羽や尻尾までも生やしている人々が襲いかかっている。


    おいおい、何だよこれ! なんであの人ら角とか羽とかナチュラルに生やしてんのよ。てか何、あの髪と肌の色。赤色でさえもありえねぇっていうのに青とか緑とか。……初めて見たぞ、あんなの。


    それに、あの甲冑と剣。本……物か。やべえ、何だあれ、何なんだよあれ!どこぞのRPGゲームですかここは!!




    角を付けた人々は、少人数ながらも常人では計り知れないほどの素早さと自分の身の丈と同じくらいの大きさ程もある大鉈を振りまわし騎士らしき人たちを翻弄していた。しかし、それもやはり数にはかてなかったのか、6人程斬り殺したあたりで次第に取り囲まれ。気づけば一人、二人と順に斬り捨てられていき。ついにはたった1人となってしまった。


    そして、その最後の1人も今、その顔に憤怒の形相をはりつけながら崩れ落ちるかのように倒れた。





   ≪くそう、悪魔どもめ!おい、積み荷は大丈夫か。被害状況は?≫






   ≪はっ、積み荷には問題はありません。……しかし、騎士(ナイト)クラスの者を2人も喪ってしまいました。さらに神官(メイジ)職の者が重傷を負ってしまい。今日はもう進むのは無理かと、すぐにでも野営地点を見つけませんと。≫




   ≪っつ~、しかたあるまい。残りの騎士 (ナイト)クラスの者を中心に3班に部隊を再編成する。くれぐれも、周囲の警備をおこたるな。目撃者は、発見しだい即始末しろ。≫





   やっべ、あいつらこっちにきやがった。どうしよ、隠れるべきか!?あいつらの言葉何一つ理解できなかったけど、どう見てもヤバそうな雰囲気だし。何より目線がやべぇ。



   って、どこにかくれれば!? ここらへんで下手に隠れてもすぐに見つかるだろうし。



   あぁ、ちくしょうどうすれば、と、とりあえずそこの草むらにでも――




        ガサガサ

       ≪あっ≫ 「あっ」



   「あ、あは、あははは、……は、ハロ~な、ナイスミートユー」

    ニコ



   ≪…………死ね≫

    ニヤ



    俺を見つけるなり男はそのロングソードを振りかざしてきた。




   「ちょ。ちょちょ。タンマ、……タンマ!! ほら、俺何も持ってないって。なっ、だからほら、そんな危ないもん早く下せって。スマイル、スマイル――」




    しかし、俺の言葉は男のロングソードと共にむなしく空を切る。

        

        

       

    ≪ちっ、ちょこまかと悪魔が。素直に斬られてくたばりやがれ!!≫


       


    「――スマイルって言ってんジャンよ。うを!あっぶね。」

       

        


     これは、やばい、マジでやばい。言葉通じねぇよ。俺の全力のハッピースマイルセット丁重に返品されちゃったよ。どうしろってんだよ。


       

     なんとか、紙一重で避け続けていた俺だが、それもさも当然のように長くは続かなかった。体には、避けきれなかった斬撃によるかすり傷がいくつもできていた。


           

     さらに、騒ぎに気付いたのか残りの奴らもやってきており、俺は、もう逃げることすらもかなわない状況に陥っていた。



     何だよこれ、死んだと思ったら。見知らぬ場所に倒れていてあげく、わけもわからん奴らに殺されるなんて。


 

     くそ、くそ、くそ、くそ!! 何か、何かないのか。



     俺の思いとは裏腹に、目の前の現実は非常に無情で。囲まれた俺は、俺の命を刈り取らんとする男たちの持つ死神の鎌により蹂躙される。




     じわじわと訪れる死の足音に対し、必死に抗おうと俺の体は、なおも希望を探し続ける。


     頭が痛い。ひどい頭痛だ。


     しだいに、出血のせいか意識が朦朧もうろうとなり始めた。

           

























    そしてこんな状況の中、俺はありえないものを見た。




    神秘的に輝く空色の髪を腰辺りまで伸ばした10人が見ればその10人全てが魅了されるに違いないであろう、人形のような可愛らしさを持つよわい13,4くらいの少女が、その世にも珍しい髪と同じ色の瞳をこちらに、じっと向けていたのだ。



    死の瀬戸際でありながら、俺はその天使のような神秘的な美しさと機械じみた無機質な瞳に目を奪われていた。



    はは、頭に血が回らないせいか、こんな妄想するなんて……。 しかし、妄想であれ何であれこんなかわいい子に最後を看取られるとは、俺も随分出世したもんだぜ。



    無意識に少女の方に手を伸ばしていた。まるで、長年探し求めていたものをやっと見つけたかのように。





    すると、少女は俺の手を取り何かを確信したようなそぶりを見せ。すっと立ち上がった





   ≪所有者(マスター)の存在の認証、完了(オールグリーン)内蔵魔導高炉(ギア)の始動確認、完了(オールグリーン)(エネミー)の位置補足、完了(オールグリーン)。最優先事項の確認、完了(オールグリーン)戦闘を開始します ≫




     キュイーンとタービンを回すような音と共に少女の姿が消えたかと思ったその瞬間、俺を取り囲んでいた男たちの体が一気に爆ぜた。





    ≪な、なんだ。どうしたいったい何があった!?≫





     先ほど全体を取り仕切っていたリーダーらしき男が、異変に気づいて声を荒げながら近づいてくる。




     ≪わ、わかりません。そこの悪魔を仕留めようとしたら、いきなり妙な女が――う、うああああああ≫




      次々と、残りの男たちも爆ぜて死んでいく。



     ≪く、だれか本部に救援要請の伝令を伝えてこい!……おい聞こえてなかったのか!!大至急、救援の要請を――≫


     ≪必要ありません。終了(チェックメイト)です≫









    死屍累々とした中、少女がふわっとまた俺の前に突然現れた。そして、俺の胸にそっと手を置き。




   ≪Sie zu mir Ich zu Ihnen Ein Vertrag!!≫



    その鈴のような澄んだ声を高らかと上げた。



    すると、不思議なことに二人を包むかのように辺りが黄金色の光で満ち溢れていく。




   「マスターとの契約を確認。これから再生治療魔法を展開します。」



    少女がまた呪文を唱えだすと。今度は二人の体が碧色に光りだし見る見るうちに俺の傷はゆっくりだが確実にふさがっていく。



    しかし、俺の傷が治るにつれて、少女が時折だが苦しげな顔をし始め。さらには、その体も下から徐々に薄く透明になっていく。




    「え、えっと。大丈夫なのか?」




    「はい、問題ありませんマスター。マスターの傷は責任を持ってこのアルス・X・マキナが、その全存在を使って治しますゆえ」




    「ちょ、ちょっと待った。そういう意味じゃない、君のそれは大丈夫なのか、消えかかっているぞ。いやまて、落ち着け俺。さっきこの子は何て言った――そう、全存在を使ってマスターを治癒する!?どういう意味だ。今の君の状態と何か関係しているのか!?」




    「ですから、私の存在を全て魔力に変換しマスターを私が消滅してでもお治し―― 「今すぐ、これをやめるんだ!!」



    「しかし、それではマスターの治癒が」 「いいから、早く。」





    「了解、再生治癒を解除します。」




     すると、俺たちから発せられていた緑色の光は消え失せ。そして、彼女の透明化は膝辺りでとまった。








    「ふう、よかった……一時はどうなる事かと。おい、君もっと自分を大切にしろよ!!まあ、ともかく、アルス・X…………マキナさんだっけ。助けてくれてありがとう。」




    「いえ、マスター。私はマスターの僕として当然のことを、したまでです。」




    「そう、それだ、そのマスターってのは何なんだ。それにさっきのは? 君は? そもそもここはどこなんだ?」




    「貴方様はこの世界の我ら精霊の主たる精霊王様になるべく転生なさった存在。そして、私は魔導機構を司る魔工の精霊であり先ほどの契約により晴れて正式にマスターの僕へと加わった者でございます」





       は、……。何、転生? 精霊王? 契約? ナンデスカそれは。



     その後、色々とアルスにこの世界のことを聞いた話をまとめると。



     どうやら向こうの世界でテックソウルなるもの〔たぶん黒沢が持っていた深紅の狩猟用ナイフのことだろう〕を使った儀式により、俺はこっちの世界の精霊王へと転生させられたようだ。そして、なぜだか本人も知らないらしいのだが、生まれた時から精霊王にその存在全てを賭けて仕えよという使命をもったアルスが俺の転生をいち早く感じ取り。俺を迎えに行こうと来たところ、俺のことを人間が敵対している亜種人だと勘違いした奴らが俺を襲っていたのを発見したということらしい。




     いや、バリバリ人間の姿しとるし……と嘆いていたらどうやら、この世界では黒髪黒眼というのは精霊にしろ人間にしろ亜種人にしろありえない色なんだそうだ。


         


    「てか、まあもう、人間やめてるみたいだけど……」


    「どうかしましたか?」

       


    「いや、なんでもねぇよ。それより、アルお前、俺は元の世界に戻ることはできないのか?」



    「アル? マスター、アルとは誰のことです?ここにはマスターと私しかいませんよ」




    「お前だよ、お前。アルス・X・マキナなんていちいち長ったらしくて呼びずらいんだよ。だから、親睦を深めるって意味も込めてアル」




    「アル……アル、いいですねアル!私、とても気に入りました。こんな気持ち初めてです。この名前、大切にしますね!」







     そういうと、アルは少し顔を赤らめ何度もマスターがくれた名前、マスターがくれた名前と呟いている。




    「気に入ってくれたのはいいんだが、アル、お前顔赤いぞ。まださっきの存在消滅の後遺症があるんじゃないのか?あんま、無理すんなよ?」



     いまだ一人で呟いているアルの顔を覗き込む。



    「はひィ、だ、大丈夫ですなんでもありません」



    「お。おう。そうか。ってそうだ。さっきも聞いたんだが俺は元の世界に戻ることはできないのか?」




    「それは、……私にはわかりません。マスターは元の世界に戻りたいんですか?」


 


    「いや、ん~まあぶっちゃけ。長年夢見ていたファンタジー世界にこれてかなり嬉しいよ、しかもいきなり精霊王なんていう胸高鳴るジョブになってるし。さっきは、かなり危なかったけど。これからここで暮らしていくのも悪くないなとおもってるんだ」


    「でしたら――」



    「でも、俺さ、向こうの世界でやり残したことがひとつだけあるんだ。それがちょっと心残りなんだよ」



    「そう……なんですか」



     話しながらさっきの男達からの戦利品をちゃっかりと入手するべく作業をしていると、残すは男達が必死に守っていた馬車だけとなった。



     1台目と2台目の馬車のなかには寝袋や食糧といった冒険するための道具がそろっており、かなり良い収穫であった。

         



     しかし、問題は3台目で起きてしまった。




     そのなかにあったものは、なんと檻の中で眠っている少女であった。しかも、ただの少女ではなかった。少女の整った顔立ちや、その白髪の背中まで伸ばされたふわふわとした髪に掛けられた薄汚れたフードによって隠されているかのようにそこには角があった。


              


     少女の耳の上には羊の角のような少し湾曲した立派な角があったのである。




          「……………………………………」



   「どうかいたしましたか、マスター? ……女の子のようですね。マスターどうしますか?その子」




   「どうするも何も、こんなところに1人置いていくわけにもいかないだろ。夜になったら何がでるかわからんし」


          


   「ですが、マスター連れて行ったところでこの子にとっての安全はさほど変わりませんよ?」



   「え? なんでさ。こっちにはアルがいるし。それに、もしものときは、俺も微力ながらもこの子を守るからここに置いてくよかよっぽど安全じゃね?」 





   「すみません。マスター先ほどお伝えし忘れていたのですが私、先ほどのような力はもう発揮できません。存在を魔力に変換した際に精霊としてのランクが降格した上に契約したばかりなので魔力制御ができない状態なのです。さらに私、最近生まれたばかりなものでそもそものステータスが安定しておりません」


                  

       「うそ」 「ホントです」




    「いやいや、だからって置いていくわけにはいかないよ」





    「わかりました。では、私もできる限りのサポートを尽くさせていただきます」




    「うん、よろしくたのむよ」





     少女を担ぎ。取りあえずは、どこか人がいそうな所を目指そうと、これからの方針を決め、準備を整えた俺たちは、赤くなり始めた夕空を背に街道を進むのであった。












        はあ、星羅いまごろどうしてるだろ。何事もなければいいんだけど――



               






        こうして、俺の異世界転生の一日目は幕を閉じるのだった。


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