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第一話 日常はストーカーと共に

   成績、運動神経ともに普通……あ、いや足だけは少し速いか。


  そして、学校および私生活での問題は一切なし、髪も目も目立ちたくないという理由で、今まで一度も染めたこともなければ、カラーコンタクトなんぞを手に取ったこともない。


   髪の手入れさえふだんあまりしないのでいつもぼさぼさだ。



  容姿は……容姿は、普通である……と、おもう。


  と、とにかく、そんな平々凡々な17歳、神坂優斗かみさか ゆうとには、ある悩み事がある。



「――でね、あまりにもしつこかったから蹴り飛ばしてやったんだ。で、そしたら――」



 なんの取り柄も問題もないはずの俺が、いや、ないからこそなのか、俺には幼いころから悩み事があった。



「――もう、これだからああいう人は――って、ちょ、ちゃんと聞いてるの優斗。聞いてますか~おーい、ゆーとさーん。おーい。」



 友人は皆この悩みについて俺が話そうものなら、<はてろ>だの<唐変木>だの<このイケメンめが……リヤ獣は爆発しろ>だのむちゃくちゃに言ってきやがる。

  

 くそ、なんでだよ……俺はケメンなんぞじゃないっちゅ~に、そもそもイケメンというのはだな――


「ね~てば!! 聞いてるの優斗!!」

  ズイっ!

「っうを!!なんだよ、ちょ、近いってびっくりするじゃないか。」




「ちょと~さっきから話しかけてるのに、ずっとだんまりして……ちゃんと聞いてたの?それとも、そんなにも私と、しゃべるのはいやだっていうの!」



「いやいや、ちがうって!! ちゃんと聞いてたって、ほら、あれだろ……えっと、その~……そう! 委員長の田中が飼ってる猫のジョルジュの話! いや~ほんとあのふてぶてしいデブ猫みてたらなんか癒されるよな~。こないだなんて俺、あのデブ猫のおかげで――――って、あの~星羅さん。お目がお据わりになられていますよ」



「……はぁ、今、私が話していたのは昨日私に告白してきた男の子の話! 優斗が話してくれって言ってきたから話してるんだよ。ほんとうだったらあんな人のこと、思い出したくもないっていうのに」



「あ~そだった。そうだった、ゴメンって。それにしても星羅はほんっとモテるよな、今月で何回目だ?」



 そう俺の悩みとは今、俺の目の前にいる美少女、時任星羅ときとう せいらのことである。


 いや、彼女がどうというわけではない。むしろ彼女は完璧といっていいだろう。


 流れるような黒髪は、肩のあたりまで伸ばされており、雪原を思わせるようなその肌は白く透きとおっている。そして、黒真珠を思わせるかのような勝気な瞳は見ているだけで吸い込まれそうだ。


  さらに、彼女の秀でているところは、容姿だけではない。テストをやらせればいつも満点をとり。スポーツをやらせればその素晴らしすぎる運動神経を隠すことはできようはずもなく。そして何より、極めつけは誰とでも平等に接する性格と太陽を思わせるような笑顔と明るさである。この性格のおかげか彼女のファンは男子だけにとどまらず女子にもたくさんいる。



「む~こっちは、迷惑しているだけなの。ファンクラブとか名乗る意味わかんない集団解散させたばっかなのにぃ……鬱だ~ファンクラブは優斗()だけでいいっていうのに」



「はぁ? なんでそこで俺の名前がでてくるんだよ。俺はお前のファンクラブなんぞに入っとらんての」



  では、問題とは?それは、彼女が幼馴染という理由だけで、俺とほぼ全ての行動を共にしていることである。美少女の幼馴染だと~ふざけんな。うらやましすぎるぞ!と大半のやつはうらやましがるだろう。

   いや、俺だってこんな子が近くにいるだけ(・・)ならそりゃ嬉しいよ。……そう、だけなら。星羅の熱狂的なファン(ストーカ野郎)が星羅に振られたことなどで、何かにつけて俺に逆恨みをぶつけてこなければ。



 「はぁ、ほんっと優斗は鈍感っていうか、にぶチンっていうか……私の気持ちにも気づかないし。」



   さらに、悪質なストーカーとなると時々星羅にまで被害が及ぼうとすることがある。そして、その対処を俺が陰ながらしているせいということもあり、被害は甚大である。    


   今だって、俺はただ穏便に下校したいだけなのに隣の電気屋を曲がって商店街から路地に入った途端に何者かが襲ってこないかと、びくびくしている。こんな生活のせいかいつの間にか俺の足はかなり鍛えられた。……ええい、ちくしょう。どう見ても立派な大根足です。本当にありがとうございました!!



「ん?ゴメン、何て?聞こえなかった。」



「な、っなんでもないわよ」



「……そんな、怒鳴らなくてもいいだろうに。それよかファンクラブ(ストーカー)には気をつけろよ最近の奴は過激だからな」



「それは、こっちのセリフよ」



「うぇ、縁起でもねぇ事いうなよ。俺は、昨日のあいつだけでもうおなか一杯というか、足がいっぱいいっぱいだってのに」



「……昨日のあいつ? って、そういえば昨日なんで先に帰っちゃたの? おかげで私、一人で帰らなくちゃならなかっ――」




『――次のニュースです。○×県の○×○市でまた、連続通り魔事件がおきました。被害者は20代の女性で連日と同じく固執に何度も刃物で刺された跡があり。今回の事件を含めると軽傷者は二名重傷者は四名、死亡者にいたっては二名と異例の事態のなっており、警察は対策本部を○市に移し捜査活動を――』



「また、通り魔? て、言うかこれ私たちの住んでる地区じゃない! こんな身近まで通り魔きてたんだ。なんか……怖いね。」



   ふと足を止め、普段は見向きもしない電気屋の液晶テレビに俺も目を向ける。どうやら通り魔は何かオカルトチックな文字を犯行現場にいつも残しているようだ。かなり不気味だ。最近までいたい病気からいまだに抜け出せずそういったものに憧れを抱いていた俺でさえうすら寒く感じるほどなので星羅のそれは、普段のストーカーのせいもあいまって相当のものだろう。



「ふっ、大丈夫だよ、星羅だったら通り魔なんて拳ひとつでけちょんけちょんさ。そして、俺はそんな白馬の王子様にメロメロメロンってね」



「はぁ、優斗そこは、嘘でも俺が守ってやる。とかそういったこと言うべきでしょ、メロメロメロンって……。なんか、色々と不安がってた私のほうがバカみたいじゃないまったく」



  そう言うやいなや、星羅は先ほどのニュースのことなど忘れたかのように、また昨日のことの不満を俺にぶつけてきた。


 

    日はもうほとんど落ちあたりは薄暗くなってきている。





 罵倒を聞き流しているうちに、気づけば俺達は、商店街の喧騒を抜け自宅まで後数10メートルといったところまで来ていた。


 目の前の青信号を渡りさえすれば我が家はもう目と鼻と先だ。ちなみに、星羅の家は俺の家のすぐ向かいである。



「ねえ、ちょっと優斗。」



「なんだよ、早く渡っちまわねーと信号変わるぞ」



 現に信号の色はもう点滅を始めている。周りの人はもう渡り切っており残すは自分達二人だけであった。




  「ねえ、あの人なんかおかしくない? さっきからずっとこっちを睨んできてるんだけど。ほら、あの黒っぽいカッパ見たいなのかぶってるひと」



  「ん? って、あれ隣のクラスの黒沢浮世くろさわ うきよじゃね?ほらいつもタッロト占いとかしてる変わり者って有名な女子。そんなことより、信号変わっちまったじゃねーかよ」


  

   「そんなとって……。いくら変わった子だからって普通あんなところ構わずに睨み付けてくる?それにあの子普段は大人しい子だよ――――っえ、ちょ!!黒沢さん赤、赤、信号赤だってば」


     まだ少し離れているが、トラックがこっちにきていた。


     さらに運が悪いことは、こういう時に限って重なるらしく。よく見れば運転手はうつらうつらとしている。


     星羅の悲鳴じみた声と黒沢の突発的な信号無視が辺りを騒然とさせる。

     

    「みぃつけた」


     なんなんだあいつ、あんなにずっとこっちを睨みつけていたのに、俺と目が合ったとたんニヤけ出しやがったぞ。


     ぶつぶつと呟きながらニヤけ続けている黒沢は、おもむろに今までその黒フードのなかに隠すようにしていた右手を振り上げ星羅に飛び掛かった。


     振り上げられたその右手を見れば、そこには刃渡り30センチはあるかというぐらいの深紅の狩猟用ナイフが握られていた。


     異形の物のあまりの禍々しさに誰もが唖然としてしまう。


     

     それは、星羅も例外ではなかった。



     「あぶねぇ」     

      

     「きゃっ」


      ナイフが星羅を切り刻まんとしているすんでのところで、星羅を抱きかかえるようにその脅威から庇った俺は、腕に刺さったナイフをそのままに痛みをこらえながら黒沢の方へ向いた。


      「っつ~、ちくしょう、痛ってぇなあおい。てめ~黒沢いきなり切りかかってくとはどういう了見だぁおい」


      「そっそんな、なんで。なんでそんな()を……。私はただ、優斗様に最後の供物を捧げようとしていただけなのに。なんでっ……」


       黒沢は意味の分からないことを叫びだし、この世の終わりだと言わんばかりの形相で、その焦点が合わない目をさ迷わせながら、しかしその足取りはしっかりと、あとずさるように元来た道(・・・・)を逃げだした。



       「おい、まて逃がすかよ」


        ここで、俺が庇った時に浴びた血で震えている星羅のことを考えてやっていられれば、こんなことにはならなかったのだろう。星羅が襲われたということに激昂し我を忘れていた俺は、黒沢を無意識のうちに追いかけてしまっていた。



        眩しいくらいのトラックのライトのなかで、最後に聞いたのは、つんざくような誰かの悲鳴じみた俺の名をよぶ声だった。


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