第十話 亜種人の同行者
またしても長らく投稿ができず誠に申し訳ございません。
また寛大なお心で読んでやってください。
ダンジョン “深緑の遺跡”は最近発見されたばかりの注目の新ダンジョンだと聞いていたが……予想以上に人が多いなこれは。
鬱蒼とした “静寂の森”を抜けたそこには、わずかにその面影を残したまま様々な種類の植物達に浸食され風化しつつある石造りの都市があった。
そして、目の前には都市をぐるっと一回り囲っているであろう高さ50メートル程の城壁があり、その城壁にあるぽっかりと空いた門の前のちょっとした広場らしき所では、多くの冒険者や学者達が野営をしてたむろっていた。
「あら珍しい。期待の黒髪ルキーくん達じゃない。」
俺達が野営所から少し離れたところで様子をうかがっていると、後ろからふと声がした、振り返ればそこには冒険者らしき風貌のエルフとドワーフの三人PTがいた。
「えっと、あなた達は――?」
「ああ、そっか。私達は黒髪くん達のこと知ってるけど。黒髪くん達は、私達のこと知らないよね。私はメル。メル・ジュリー・ピサ冒険者よ。こっちのドワーフはホセ爺。そして、こっちのエルフはルルセ」
「どう も~はじめましてぇ。ルルセ・メルセラ・キルスよ。よろしくねぇ」
「…………ホセ・メビ ル・クロウじゃ」
メルさんもルルセさんも美人な人だなぁ。やっぱりエルフっていうのはみんなこんな風に美系ばかりなのだろうか。というか、メルさんはいかにもって感じの金髪碧眼だけどルルセさんの髪の色、あれもしかしなくてもピンクブロンドじゃないのか。ほんわかしているその外見と雰囲気にすんごくあってはいるんだけどまさかマジ物のピンクブロンドを拝める日が来るとは。
ホセさんはホセさんでいかにもドワーフって感じの人だな。その真っ白で立派な髭もやっぱりデフォなのだろうか。
「どうも、ユート・カミサカです」
「は、初めてクラン・ク ル・マ--、マルニーです!!」
おおう、危なかったぞクラン。情報通の冒険者なんかにクランの姓を言ったりしたら危うくまたクランの素性がばれるところだ。
「ふ~ん、ユート・カミサカにクラン・クル・マルニーねぇ……ふむふむ。よろしくね。あれ?そういえば、空色ちゃんは?いつも三人一緒なのに、これまた珍しいわね。あ!もしかして空色ちゃんに黙って抜け駆けデート。や~んお姉さん妬けちゃう」
「ちっ、違いますよ。わ、私なんかがユートさんとででで、どぅぇートだだなんて!!」
「あらあら~可愛い~。顔真っ赤にして焦っちゃってぇ。」
「というか、そもそもダンジョンでデートって……危険すぎでしょ。なにしにいくんですか。それと、クランはいい加減落ち着いて」
仮にも俺とのデートはそんなに嫌なのか?……ちょっと凹むぞ。
「は、はい……」
「ふふふ、どうやら黒髪君はかなりの鈍感さんのようね。それともあえて気づかないふりをしてるのかしら?」
気づかない?何のことだ。まさか、俺が人じゃなく精霊であるってことがばれているのか。いや、今は疑っても仕方ないだろう。迂闊に何かを口走って墓穴を掘るわけにもいくまい。
「それにダンジョンデートもあながちありなものよ?“静寂の森”はわりかし安全なダンジョンだし。あと、ほらなに、最近流行りの吊り橋効果ってやつ?」
「例えその効果が期待できたとしても、俺の場合その吊り橋を渡りきれず落ちてしまうでしょうね」
と言うかブームなのか吊り橋効果。
「あらそぉ?でもでも、それじゃあ何で空色ちゃんはいないのかしら?あんなに仲いいのに。それとも今空色ちゃんがいないのは、普段雑務系のクエストしか受けない黒髪君達がなぜか珍しくここにいるのと何かあるのかな?」
「彼女――は、今日はたまたま朝から体調が悪いって言うんで宿で休ませているところです。あといくら俺達が雑務系のクエストしかしてなくても、俺達だって冒険者のはしくれですよ?それなりにダンジョンに興味がありますって」
「ほんとにぃ? あやしいわね」
「ほんとですよ、なあクラン」
「え、ええ。その通りです!」
め、目線がいたい。
実は彼女は精霊で、今は彼女が感知した敵に備えて俺に憑依してもらっているんだ。――なんてことは口が裂けてもいえない。
「も~メルったらぁ。あんまりユートくんとクランちゃんをいじめちゃだめよぉ。ごめんなさいねぇ二人ともぉ」
「そうね、ちょっとやりすぎたわ、許して、ね。」
「い、いえ。俺達は気にしてませんから」
(あ、そうだ。なあ、アル)
(なんでしょうマスター)
(さっき感知した複数の魔力源っていうのはここでたむろしている冒険者達じゃないのか?)
(確かに冒険者の物であったものもありますが、その数をはるかに超えた得体のしれないものが城壁の内部に居るようですので。くれぐれも油断なさらいようにしてください)
(そうか、わかった。クランにもそう伝えておく)
「よし、それじゃあ気を改めてダンジョンへと行きましょうか」
「あ、はい、それじゃあまたどこかで。俺達が言うのもなんですけど。気をつけて行ってくださいね」
「ん?何言ってるのよ、黒髪君。もちろん君達も一緒よ」
は?
「せっかくこうやって知り合った仲なんだし一緒に行きましょうよ」
何!! おいおい何を言ってるんだこの人は。それじゃあ俺達が行動しずらくなるじゃないか
「ええっと、せっかくのお誘いなんですけど。俺達みたいな駆け出しが皆さんにくっ付いて行ったりなんかしたら足手まといにしかならなさそうなんで。遠慮しときますよ」
「はぁ――わかってない、なぁわかってないよ黒髪君は。駆け足だからこそじゃない。あなた達、もしかしなくても遺跡系のダンジョンってこれが初めてでしょ?」
「え、ええ。その通りですけど」
「やっぱり――あのね。遺跡系のダンジョンにある危険っていうのは魔物だけじゃないのよ? こういったダンジョンには侵入者を拒む様々なトラップがあるの。攻略難易度の低いダンジョンならまだしもこの“深緑の遺跡”は駆け出しの冒険者だけで入るなんて無謀にも程があるわ」
う、確かにそう言われてみるとこのまま何も考えず進むのは危険すぎるような気もする。俺だけならまだしもクランもいるのだ、もしものことがあってはならない。
「大丈夫よ、心配しないで。こう見えても私達はCランクPTなんだから。あなた達二人がついて来るぐらいなんてことないよ。おおよその中間地点までだけどそこまでの道のりも知ってるしさ」
なんと!メルさん達はCランクPTなのか。
ん~っとそうなってくると、ここでたかだかF-ランクの俺達が彼女らの誘いを断るっていうのは後々何かと角が立つ。
(アル。ここから魔力を吸い取っている奴のいる正確な位置は分かるか?)
(そうですねー。まだはっきりとは、わかりませんが少なくてもこの感覚から遺跡の奥地に居る模様かと。どのみちこの遺跡内部をくまなく探さなくてはならないでしょうし、何よりじきに目を覚ますはずだったレネさんが目覚めなかったことが気がかりです。時間短縮のためにも途中までであれ順路を知っている彼女らの誘いに乗ってみてはどうですかマスター)
(そう、だな。仕方ないメルさん達と一緒に行くか)
「わかりました。それじゃあお言葉に甘えさせてもらいます。クランもそれでいいか」
「ええ、私は構いません――けど、いいんですかユートさん。何かとまずいのでは?」
「この際仕方ないさ。それに、俺達がダンジョンにおいて全くもってのド素人であるのは事実だしな」
心配そうにしているクランを耳打ちで安心させる。
「よし、それじゃあ改めついておいでお二人さん」
遺跡の中は崩れかけた古代の街並みと縦横無尽に生い茂った巨大な植物たちの蔓や根によって三次元的な迷宮を作り出していた。
雄大な自然が生む幻想的な木漏れ日と何とも言えない厳めしい雰囲気がある古代建造物が織りなす目の前の光景に俺とクランはここが危険なダンジョンの中であるということも忘れて目を見開き唖然としてしまっていた。
「すげ~。さっきの門もそうだったけど建物の一つ一つがこんなにもでかい上に相当しっかりした造りで出来てる」
「それだけじゃないですよ、見てくださいユートさん。壁という壁全てにこんなにも細かい装飾が――こんな技術、今じゃ復元することすらできるかどうかあやしいですよ」
クランが言った通りこの遺跡の至るところには、まるでどこぞの魔女が使うような記号でできた文様でびしっと敷き詰められている。
「ちょっと、ちょっと二人共。そんなところでつっ立てないでさっさと歩いた。歩いた。そんなんじゃすぐに日が暮れちまうよ」
「すっすみません。余りにも幻想的過ぎて」
「見とれるのはわかるけど。 ぼさっとしてると足元すくわれるよ?美しいのは外面だけで中はどん引きする程のトラップ祭なんだから。って、ああ!!待って!そこは――」
再び前方の大通りのような開けた道を歩き出した俺達に荒げた声をかけるメルさん。
「これですか?」
今踏みそうになったあからさまに怪しい一角だけ苔が生えていないブロックを反射的にひょいと横に避けると同時、俺は後方に居たホセさんに襟首を凄まじい勢い引っ張られた。
すると、さっきまで俺が立っていた場所が紫色に光ったと思ったとたん、自分のいた場所から向こう数10メートル先までの大穴があいた。
「うをぉおう!!」
「――遅かったか……そういったコケや雑草が生えていないブロックはね、だいたいが周りにあるトラップを誘発させるためにあるダミートラップなの」
(大丈夫ですか!!マスター)
(あ、あぁ。大丈夫。生きた心地はしないけど)
「……気をつけろ、小僧。」
「すみませんホセさん。助かりました」
メルさんの誘いを断ってなくてよかったぁ。こんなん俺達だけだったら絶対あのままトラップの餌食になってたな。
「もう、ほんと気をつけてよ黒髪君。――でも、まあみんな無事で何よりだよ。それはそうとしてどうしようか。この大穴じゃあ下に降りるのも難しそうだし」
「そっちの路地では、いけそうにないんですか?」
今いる大通から枝のように無数に延びている脇道の中から比較的大きな道を指差す。
「んん~、その道はちょっと厳しいかな」
「何かあるんですか?見た感じ他の所のようなあからさまに怪しそうなものはありませんし、何より建物の風化が比較的ましで進みやすそうですけど?」
「確かに、その道はトラップもあんまりないし建物の損傷も少ないから進みやすいんだけど……魔物が多く棲み付いてるみたいなんだよ、そっちは。中間地点までに着くだけならまだしもその先を冒険するからには魔力とアイテムはなるべく消費したくないからねぇ」
そっか。そうなるといけないな。
俺達の目的も最悪魔力を吸ってる奴と戦闘になるかもしれないってだけに、できるだけ色々と温存して先に進んで行きたいしな。
「こうなると、いったんもどって別のルートから行かなきゃならなくなるわね」
「メルぅ。どうやらそうするわけにもいかないみたいよぉ」
「え、どうして!?」
「ほらぁ。あれ」
ルルセさんが指さす方を見ると、そこにはいまだ遠く離れているにもかかわらずそれでもバカでかいとはっきりとわかる緑色の異形がいた。
「な、何なんだあの鬼は!?」
そう鬼である。様々な種類の植物の蔦が絡み合ってきたどう見ても鬼としか言いようのない化け物が、その巨体を震わせこちらに一歩ずつ、しかし確実に向かってきているのだ
「ちょっ、うそ!なんで!?なんでこんなところにウッドオーガなんかがいるのよ!!本来ならこんな人工物があふれているところになんか居ないはずなのに」
ウッドオーガ?
「クラン、あのウッドオーガってのは!?」
「う、ウッドオーガっていうのはですね、ユートさん。C+ランク指定の、ある一定の条件を満たした森にしかいないオーガの亜種です。ただでさえオーガは強い上位種の魔物なのに、魔力持ちの亜種だなんて……あれは、本来なら最低でもC+以上のランクの冒険者10人で戦うクラスの魔物なんです」
っな!いくら俺達に精霊補正があるとしてもそんなのと戦える自信なんてないぞ。ましてや、俺とクランはまともな戦闘すらいまだしたことないって言うのに
「見るんじゃ、どうやらあちらさんは一人で来たわけじゃなさそうじゃぞ」
そんな! 先ほどまで一体だったウッドオーガがいつの間にやら2体に――いや、いま路地の一つから出てきたのをいれて3体に増えてる!?
(マ、マスター!!)
(どうしたんだ。アル)
(先ほどあいた大通りの穴の方から複数の魔力源が這い上がってきています!)
(何!)
アルに言われて10数メートル程ある大穴を急いで覗いてみると。中で赤ん坊程の大きさの巨大芋虫がうねうねと這いずりまわっているのが見えた
「皆! 大変だ!!」
「何!? 今度はなんだっていうのよ」
「後ろの大穴からもなんか芋虫みたいのがっ!」
「む、あれは――リップバタフライの幼虫じゃな。厄介な奴が現れおった」
「ひー!!ユートさん!ユートさん!ユートさん! いも、いも、芋虫があんなにたくさんんんん!?」
「わぁ。囲まれちゃったねぇ~どぉする? メル」
「っ~こうなりゃしかたない。さっき黒髪君が言ってたあの道を強行して進むわよ」
「でも、あっちは」
「しかたないわ、あんなぞろぞろといられちゃどれだけ強くてもらちが明かないわ、その上今はこんな崩れやすいしかもトラップだらけの遺跡都市の中なのよ。 中級魔法ですら怖くておちおち使ってられないわ」
(っく。アル!あっちの道に敵はいるか?)
(残念ながら。あちらにもいくつかの魔力源があるのを感知しました。ですが、幸いにもどうやら今こちらに向かってきている数よりは劣るようです)
「兎にも角にも行くわよ。遺跡の中間地点までにさえたどり着ければ魔物避けの警備装置がまだ起動している所で身を隠すことができるはずよ。ホセ爺は先鋒を頼むわ!」
「うむ、了解じゃ」
「黒髪君達はホセ爺の後につづいて彼をフォローして頂戴。私とルルセが殿を務めから」
「わかりました!!」「はい!」「わかったわぁ」
「とにかくみんな、遺跡中央まで死ぬ気で走りなさい!!」