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第八話 傲慢な偽善者



    市場はただでさえ人の行き来が多い所だというのに、俺と新しく発見されたダンジョンのせいでさらにあふれんばかりの人でごった返していた。




    普段はない出店なども出ており、まるで祭りに来たかのように思える。



    いや、実際に彼らにとっては祭りのようなものなのかもしれない。




   「これだけ、混雑していたら大人でも迷子になっちまいそうだな。って、あれ、クラン?」




    ふと気がつくと先ほどまで隣にいたクランがいなかった



    早くもプラグ回収!?




   「どこ行ったんだ。--って、あんなとこにいる」



    なにやら熱心にショーウインドーを覗きこんでいる。



    なになに、メロナ小物商店。なるほど確かに女の子がいかにも好きそうな店だな。





   「クランそれが欲しいのか?」



   「ゆ、ユートさん!?い、いえ。ただちょっと綺麗だなぁと」



    いやいや、そんなあからさまに目を泳がされて言われても……。




    クランが見ていたのはどうやら蝶の形を模した首飾りのようだ。




    鉄で作られた羽にステンドグラスのような物がはめこんであるもので、確かにそこには目を引きつけられる美しさがあった。



   「すみませーん、おじさんこれ、いくらですか?」




   「銀貨3枚だよ」



    うっ、た、高いな。



   「じゃあこれでそれを3つぐださい」



   「あいよ、お釣りの銀貨1枚だ」



   「ゆ、ユートさん!?」



    可愛い女の子があんなにも欲しそうにしていたのだ、ここで買わないでどこで買う。



   「はい、クラン。それとアルにも」



   「え、私にもですか? ――あぁなるほど 」



    どうやら、アルも俺の考えに気づいたようだ。



    買ったばかりの首飾りを2人に渡す。





   「そうだよ、ほらこれで3人お揃いだ。これは遅くなったけど俺達のパーティーの結成祝いと、ここ数日の働きに対する自分達へのご褒美ってとこかな」




    こうでもしないと、クランはまた遠慮して受け取ってくれないだろうからな。



    それに今言ったことだって本当のことだ。実際俺達は、ここ数日ひたすらクエストを受けて働いていた。そして、その中でもクランは俺達への恩返しのつもりもあってか、人一倍頑張っていたことだって知っている。



     さらに、俺達の仕事が評判になっているのはこのクランの頑張りのおかげだというのはここだけの秘密だ。



   「で、でも」



    しかし、それでもクランは申し訳なさそうに口ごもっている。



   「それにこういった綺麗なものは、クランやアルのような可愛い女の子に似合うと思うんだ。それともクランは俺達とのお揃いはいや?」



   「そんなことはっ――!!」



   「クランさん、ここは素直に受けっとっておきましょう。それと、以前も言いましたが私達の間で遠慮は無用ですよ。なにより、マスターがそれを望んでいらっしゃいますから」



   「すみません。お二人とも――いえ、違いましたね。ありがとうございますユートさんアルさん。でいいの――かな」



    恥ずかしそうに、お礼をいうクラン。心なしか俺達三人の絆が深まったように感じた。



   「よし、じゃあ買い物の続きに行きますか」



   「はい、マスター。野営道具や食糧、調理器具などは粗方買いましたので、後はマスターとクランさんの装備品だけですね」





   「ん? アルのはいらないのか」



   「私の戦闘スタイルは、基本魔法での後方支援ですので。それに、今は精霊な上に元々が魔工ですので魔導具(マジックアイテム)無しでも魔法は使えます。あ、防具とかもいりませんよ。基本戦闘中は、マスターに憑依させて頂かせてもらうつもりですので。あの、それでいいですかマスター」



   「勿論いいよ。そうか、なるほどそうなると装備は俺とクランだけか。というか、ここまで来て言うのもどうかと思うが。本当に一緒に戦うのかクラン」



   「なにを、言うんですかユートさんあり前じゃないですか。あんまり私をお子様扱いしないでください」



   「いや、だけどなぁクラン」



   「大丈夫ですよ、ユートさん。これでもただの温室育ちのお姫様ではないんですよ。それなりに武芸も教わってきています。それに、私は竜人(ドラグーン)ですよ。並みの人間達よりは、頑丈ですし力もあります」



    クランはまっすぐと俺の瞳を見ながらここだけは譲れないと訴えかけてくる。



   「はぁ、わかったよ。しかたないな。納得はしてないけど、これ以上は何もいわないよ。それじゃあ装備はどうする? クランも魔法で後方支援?」



   「いえ、私は剣での近接戦闘の方が得意です。それにいざとなったら竜化もそちらの方が、アルさんやユートさんに迷惑かけないで済みますし」



   「あ、やっぱり竜人(ドラグーン)の人達は、竜化ができるんだな」



   「あ、いえ、そんなことはないですよ。これは私が竜人(ドラグーン)の王族だからできるんです。一般の竜人(ドラグーン)は竜化できませんよ。なんでも、私達の先祖が竜神様だったらしくそのおかげで竜化が使えるんです。竜化はその見た目だけでなくステータスも同様に一時的にですが爆発的に上がるんです。それゆえにこの力を欲しがる人達が私達の血を欲しがるってこともざらにあるんですけどね」




   「そうか……わかった。じゃあクランには剣と防具を買って前衛を務めてもらうことにするよ。っと、そうなってくると俺はどうすればいいかな。能力的に前衛だろうけど何を使えばこの無属性魔法を生かせるだろうか」




   「籠手を買われたらどうですか? ユートさん」



   「ん~、いくら相手の魔力回路を弄って戦うたって、魔物相手に素手で戦うのはなぁ。ずっと魔法が使えるってわけでもないしどうやらスライム種とかもいるらしいからなちょっと抵抗が……。日本刀とかがあればいいんだが」



    こちらに来る以前は、星羅のせいで剣道を少しだがしていたのだ。というのも星羅の家が我流の剣道の道場をやっていたからである。幼いころから強かった星羅に引きずられる形でよく道場に連れて行かされたものだ。ホントあの地獄をよく生きてたな俺……。 



    まぁ、結局俺は全然できなかったんだけど、全然使い慣れていない物よりはいいだろう。あと、日本男児として刀に憧れを抱いているというのも無きにしも非ずだ。



   「ニホントウ? 聞いたことないですね。なんですかそれは」



    う、やっぱりないのか日本刀。



   「日本刀っていうのは、こう片側にしか刃がついていない剣で、ロングソードとかのように叩きつけるように使うんじゃなくて断ち斬ることや突くことに特化している武器のことだよ」




   「そのような武器は私は見たことないです。アルさんは?」



   「私もありません。どうやらニホントウというのはマスターの世界だけの物みたいですね」



   「そうなのか……ま、まあこんな道端で悩んでいても仕方ないよな。とにかく店に行こう、もしかしたらそれらしいものが見つかるかもしれない」



   「そうですね。行きましょう、マスター。確か武器屋は向こうにあるメインストリートを右に曲がってギルドガある方へ行ったところです」




































    予想外に、この町の武器屋には結構な種類の武器が揃えられていた。それこそ、普段じゃ滅多にお目にかかれないだろうドラゴンの鱗を使った装備なんかもあったほどだ。



    だが、結局俺に似合う武器は見つからなかった。とういうか刀に似たものが一つもなかったのだ。仕方がないのでクランのロングソードとバックラーと共に俺も同じ剣と皮の籠手を買うことにした。



   「素手だけじゃ心持たないからロングソードも買っちゃたけど、はたして俺にこれを扱いきることができるのだろうか」



    正直かなり不安だ。重さ的には難なく振るうことができるが、やはりどこか違和感を感じてしまう。


   「大丈夫ですよ、マスター。マルターの速さには並みの相手では、見ることさえかないませんから。それに、私の“魔力観測”はただマルターに魔力回路を見せるだけではありませんよ」



   「え、そうなの?」



   「はい、“魔力観測”では、魔力回路同様マルターから半径10mだけですが、マスターの最良の行動になるであろう次の行動をも予測し見せるのですから」



   「そうかそれは頼もしいな。まぁ、まだ日本刀への名残はなくなっていないけど当分はこのロングソードで我慢するか――」



   「ど、ドロボー!!」



   「――な。なんだ、なんだ?」




    声のする方を振り返ると、俺と同じく何事かと驚いている人々の波を掻き分けてフードお化けと毛むくじゃらお化け。もとい、大柄のおっさんとぼろ衣をまとった10歳そこそこの少年がこちらに向かって走ってきていた。



   「きゃ!!な何」「いて!まて、このくそ餓鬼」「っわ、な、何だ」


   「くぉらぁ待ちやがれ~!!誰か~そこのくそ餓鬼つかめぇてくれ~」



   「だれが、待てと言われて待つもんか!!」



    どうやら、あのおっさんはあそこにいる少年に何かを盗まれたようだ。というか、あのおっさんどこかで見たような? はて、誰だったか。




   「っく~すばしっこい奴だ。おぉい、そこのフード被ってるあんた捕まえてくれぇ!!」



    ふむ、まだ距離はあるがこちらに真っ直ぐに向かってきている、さてどうしようか。少年の方も見てくれからしてなにやら訳ありのようだが――。




   「っとくそ、どけ、そこの黒チビ女」








       かっちーん。







   「うぇ?な、ナニ!?は、離しやがれ。このくそばばぁ!!」



    俺は、瞬く間に少年の後ろに回り込み首根っこをつかみ上げる。



   「だーれーが女だ!!俺は男だー! あと、チビでもない。断じてチ・ビ・ではない。つか。お前の方がチビだろが!!」



   「お、男!? ってそんなことはどーでもいいー。離せーくそー!!」


 

   「はぁ、はぁ、あ、ありがてぇ。その餓鬼を捕まえてくれて。誰だか知れねえがほんとたすかった。――って、なんでぇ、ユート達じゃねぇか」




    ――あ! 思い出した。どっかで見たことあるなと思ったらこのおっさん、確か回復薬専門の薬草屋の店主のマブリタさんだ。




    このマブリタさんという人は俺達のことを御用達にしてくれてる人の一人で、クエストを受けるうちに次第に仲良くなっていったのだ。



    ん? って、ことはこの少年が盗んだのは回復薬かそれに関する薬草ってことか……。どうやら、本当にただの万引きとかではなさそうだ。もし、ただ金に困っての万引きなら先ほどの小物店などから盗むことだろう。


   

   「お前達には助けてもらってばかりだな。ホント助かったありがとうな」



   「いえ、それよりもマブリタさん、何を盗まれてんですか?」



   「ん? あぁグリーンポーションのもとになる薬草をな」



    グリーンポーションの元ってことは銅貨50以下のものだよな。


    グリーンポーションとは、冒険者にとっては欠かせないアイテムの一つで体力をある程度回復させ、かすり傷程度なら即座に癒すことのできる回復薬のことだ。



   「すみませんがこの子の盗んだ物を4倍の銀貨2枚で買い取る代わりに、この子のことを俺達に任せてくれないですか?」



   「え!? ん~~本当ならしょっ引いて騎士団の所へ連れていくとこだけど、仕方ねぇな。いつもお世話になってるユート達のお願いだ。その餓鬼くれてやるよ。ただし、今回だけだからな。――しかし、なんでまた、そんなことを」




   「ただの気まぐれだと思ってください、では俺達はこれで」



   「お、おう」



    マブリタさんにお金を払って少年を連れていく。









   「お、おい。お前……オレを助けたりなんかして、な、何が望みだ、って、いて!何しやがる」



   「お前じゃない。俺の名前はユート。ユート・カミサカだ。こっちの2人は仲間のアルとクラン。君は?」



   「……キア・ソルト・メディスン」



   「キアを助けたのは、さっきも言ってた通りただの気まぐれだ。気にしなくてもいい」



    厳密にいうと気まぐれとは少し違っていて俺は、この少年に少し興味が湧いたのだ。



    この町は、いくらど田舎で寂れている町であってもストリートチルドレンや浮浪者などといった人達が粗全くと言ってよいほどまでにいないある程度豊かな町である。



    どうやら、ギルドが国と一緒に孤児院の設備を設けたり仕事を与えていたりすることに力を注いでいるかららしい。



    なのに、このキアという少年は、それこそ出会った頃のクランのような、見るからにぼろぼろの服装をしている。ここの孤児院の子供達だってもっとましな格好をしているだろう。



    この町でこのような格好をしている者に出会おうものならそれこそ数少ない奴隷の者達にでも会わなければならないだろう。しかし、この少年は奴隷の証ともいえる“奴隷の首輪”をしていない。これはおかしなことだ。それに、なぜグリーンポーションの元になる薬草を盗もうとしたのだろうか。



   「そんなことよりもキア、どうして薬草を盗もうとなんかしたんだ? 」






   「……………」



   「だんまりか。それは、キアのそのぼろぼろの格好と何か関係があるんじゃないのか?」



   「っつ!!――そ、そんなこと、ユートには関係ないだろ。なんで俺がそんなこと答えなきゃいけないだよ!だいたい、俺とユートはさっき出会ったばっかりの赤の他人だ」


 

   「うん、確かに俺とキアはさっき出会ったばっかりの赤の他人で、全くこれっぽっちも関係性はない。それこそ、こそ泥とそれを捕まえた一介のF-ランク冒険者だ。それに俺は、善徳を説いて人々を導く聖職者でも全てを救おうとする聖人君子でもない」



   「じゃ、じゃあなんで」



   「俺はな、キア。とっても我が儘なやつなんだ。自分の気に入らないことがあれば力ずくででもそれを捻じ曲げて自分のやりたいことを押し通す。俺は俺のルールを貫きやり通す。例え誰が何と言おうがな。それが俺の正義でありモットーだ。そして、キアはそんな横暴で傲慢な偽善者である俺に運悪く見つかってしまった。これは、もう俺に助けられるしかないな」



   「そんなの……滅茶苦茶だ……」



   「そうさ、滅茶苦茶さ。だけど、そんな滅茶苦茶な俺でもキアの話を聞いて何かできることがあるかもしれない。そうだろ?」


    俯いて若干涙ぐんでいるキアの頭をそっとなでてやる。やはり、強がっていても子供のようだ。



   「こ、こんなのずるいよ……グス……こんなに優しくされちゃあどうしようもないじゃないか……もう誰も俺達を助けてくれないと思っていたのに……神様なんていないんだと思っていたのに……」




   「すまない、クラン、アル。そういう訳でこの子を助けたい。悪いが協力してくれ」



   「ふふ、わかってますよ、ユートさん。勿論手伝うに決まってるじゃないですか。それに、ここ数日ただ一緒に過ごしていたわけじゃないんですよ? ユートさんがそういう優しい人だって重々わかってますから」



   「マスターはマスターのやりたいことをやられればいいのです。」




   「すまないな二人とも」



    優しいのはクランとアルも何だがな。笑顔で了承してくれた二人の優しさにつられて俺も微笑んでしまう。









   それじゃあ、この優しい竜と精霊と共に偽善者がいっちょ一人の少年を助けてみようじゃないか。














   「キア、もう一度聞く。どうして薬草なんかを盗んだんだ?」











     俺は傲慢な偽善者だからな。

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