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第3章「噛み合う歯車:五人の連携」

朝の訓練が始まる前、駐屯地にはいつもと違う緊張が漂っていた。

兵士たちの動きがどこかぎこちなく、視線が落ち着かない。

レオンはその空気の変化を肌で感じながら、杖を握り直した。

――何かが起きている。

昨日までの穏やかな空気とは明らかに違う。

だが、その理由はまだ分からない。

エリシアが歩いてくるのが見えた。

鎧を身につけ、外套を翻しながら、いつもより早い足取りで。

「レオン、来て」

声は落ち着いているが、どこか急いでいた。

レオンは少し遅れて頷き、エリシアの後を追った。

向かった先は、駐屯地の中央にある指揮官用のテント。

普段は近づくことすらない場所だ。

「……ここに?」

レオンが戸惑いを口にする前に、エリシアは布を押し開けた。

中には、見慣れない男がいた。

濃紺の軍服に身を包み、胸には複数の勲章。

鋭い目つきで書類をめくっている。

エリシアが短く告げた。

「レオン。この人は“方面軍本部”から来た監察官、ヴァルド・グレイア」

レオンは息を呑んだ。

軍の上層部――自分には縁のない世界だ。

ヴァルドは書類から目を離し、レオンを一瞥した。

その視線は冷たく、測るようで、感情が一切読み取れない。

「……君が、例の補助魔法士か」

レオンは返事をしようとして、少し遅れた。

「……はい」

ヴァルドは書類を閉じ、指先で軽く叩いた。

「昨日の戦闘記録、そして小隊の報告書。どれも“異常な強化魔法”について触れている」

エリシアが一歩前に出た。

「異常ではありません。レオンの魔法は――」

「黙りたまえ、隊長」

ヴァルドの声は低く、鋭かった。

エリシアが言葉を飲み込む。

レオンの胸の奥がかすかに疼いた。

昨日宿ったはずの熱が、異物のように皮膚の裏側を逆なでする。

ヴァルドはレオンを見据えた。

「君の魔法は、通常の補助魔法士の枠を超えている。重ねがけが可能で、効果が累積する。これは軍にとって“戦略級”の価値を持つ」

レオンは言葉を失った。

自分の魔法が、そんな大げさなものだとは思っていなかった。

ヴァルドは続けた。

「ゆえに――君は本部の管理下に置かれるべきだ」

エリシアが即座に反論した。

「待ってください。レオンは私の小隊の一員です。勝手に連れていくことは――」

「隊長。これは命令だ」

エリシアの表情が固まる。

その横顔を見て、レオンの胸が強く揺れた。

――連れていかれる?

そんなこと、考えたこともなかった。

ヴァルドは淡々と続ける。

「君の魔法は、もはや個人の技能という範疇を超えている。過去、制御を失った特異魔力保持者が、一晩で一個小隊を消滅させた事故を知っているか?」

ヴァルドは冷淡な視線をエリシアへ向けた。

「隊長、君の『信頼』という言葉は、軍事的な担保にはならない。王国の軍法において、解析不能な術式は『準・禁呪』として扱われる。 これを前線の未認可部隊に放置しておくことは、敵国に戦略兵器を無防備に晒しているも同義だ。」

「レオンは私の部下です! 管理は徹底しています!」

「では聞くが、彼が魔力暴走を起こした際、君は一秒以内に彼の首を撥ねて事態を収束させる覚悟があるのか? できないのであれば、本部の封印施設で管理するのが最も合理的で、かつ彼自身の安全にも繋がる判断だ。」

レオンは喉が乾くのを感じた。

声が出ない。

エリシアがレオンの前に立った。

「レオンは危険ではありません。私が保証します」

ヴァルドは鼻で笑った。

「君の保証など、何の価値もない。問題は“軍がどう判断するか”だ」

レオンの胸の奥が冷たくなる。

昨日までの熱が、急速に冷えていく。

ヴァルドは書類を持ち上げ、淡々と告げた。

「レオン。君には本日中に本部へ移動してもらう。準備を――」

「待ってください!」

レオンの声が、思わず響いた。

自分でも驚くほど大きな声だった。

ヴァルドが眉をひそめる。

「……何だ?」

レオンは息を吸い、震える声で言った。

「俺は……ここにいたい。小隊のみんなと……エリシア隊長と一緒に」

エリシアがわずかに目を見開いた。

ヴァルドは冷たい目でレオンを見つめる。

「……感情で軍は動かない」

レオンは言葉を失った。

胸の奥が締めつけられる。

エリシアが一歩前に出た。

「監察官。レオンの魔法は確かに特異です。しかし、彼はまだ不安定で、環境の変化に弱い。本部に移せば、逆に魔力が暴走する可能性があります」

ヴァルドは目を細めた。

「……暴走?」

エリシアは頷いた。

「はい。だからこそ、私が管理します。彼は私の小隊で育てるべきです」

レオンは息を呑んだ。

胸の奥の疼きが、波紋のように静かに広がった。

それは熱と呼ぶにはまだ、あまりに心許ない微熱だった

ヴァルドはしばらく沈黙した。

その沈黙は重く、冷たかった。

やがて、低い声で言った。

「……いいだろう。猶予を与える。ただし――」

レオンとエリシアが同時に顔を上げる。

「一週間だ。その間に“危険性がない”と証明しろ。できなければ、強制的に本部へ連れていく」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアの表情も固い。

エリシアは去りゆくヴァルドの背中を見据え、毅然とした声で言い放った。

「監察官、彼が『兵器』に見えるなら、あなたの目は曇っている。彼を管理可能な箱に閉じ込める損失と、私の下で戦力として昇華させる利益。どちらが王国への忠義か、一週間で見極めてみせましょう。」

ヴァルドは背を向け、テントを出ていった。

残された空気は、重く、冷たかった。

レオンは震える声で言った。

「……俺、どうすれば」

エリシアはレオンの肩に手を置いた。

その手は、昨日よりも強く、確かだった。

「大丈夫。私が守る」

レオンは息を呑んだ。

胸の奥に、熱が戻る。

エリシアは静かに言った。

「レオン。君は、ここにいていい。絶対に」

その言葉が、レオンの胸に深く沈んだ。

――もう、戻れない。

その感覚が、昨日よりもはっきりと形を持っていた。


監察官ヴァルドが去ったあと、駐屯地の空気は明らかに変わった。

兵士たちの視線は落ち着かず、どこか探るようだった。

レオンが通りかかると、会話が途切れ、沈黙が落ちる。

昨日までの慎重さとは違う。

もっと重く、もっと遠い沈黙。

レオンは歩幅をわずかに乱した。

胸の奥がざわつく。

昨日までの熱が、少しだけ冷える。

そのとき、カイルが駆け寄ってきた。

「レオン、大丈夫か?」

レオンは少し遅れて答えた。

「……うん。大丈夫、だと思う」

カイルは眉をひそめた。

「監察官の話、聞こえてた。あいつ、レオンを本部に連れていくつもりなんだろ?」

レオンは視線を落とした。

「……そうみたい」

カイルは拳を握りしめた。

「ふざけんなよ。レオンは俺たちの仲間だろ。勝手に連れていかれてたまるかよ」

その言葉に、レオンの胸が少しだけ温かくなる。

だが、その温かさはすぐに別の感情に押し流された。

――俺のせいで、みんなが巻き込まれている。

リナが歩いてきて、二人の会話に加わった。

「レオン、気にしないで。監察官なんて、どこにでもいるわ。上から来た人間は、現場を理解しないものよ」

レオンは返事をしようとして、少し遅れた。

「……でも、俺のせいで……」

リナは首を横に振った。

「違うわ。あなたの魔法が特別だからよ。特別なものには、必ず“管理したがる人間”が現れる」

レオンは言葉を失った。

胸の奥がざわつく。

ガルドがゆっくりと近づいてきた。

その足音は重く、地面に響く。

「……レオン」

レオンは顔を上げた。

ガルドは腕を組んだまま、低い声で言った。

「お前の魔法は強い。だから狙われる。それは事実だ」

レオンの胸が強く揺れた。

ガルドは続けた。

「だが――お前がいなければ、昨日の戦闘はもっと危なかった。俺たちは、お前の力に助けられた」

レオンは息を呑んだ。

ガルドは視線を逸らさずに言った。

「だから、お前がここにいる理由は十分だ。誰に何を言われようと関係ない」

その言葉は、重く、確かだった。

レオンは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

ガルドは少しだけ間を置いた。 視線をレオンから外し、自分の大きな掌を見つめる。 「……昨日の群れとの戦い。お前、魔力が底をつきかけて、膝が震えてたな」 唐突な指摘に、レオンは肩を揺らした。ガルドの視線が射抜くように戻ってくる。 「それでもお前は杖を離さず、俺たちの後ろに踏みとどまった。エリシアが突っ込みすぎた時も、お前は顔を真っ青にしながら、補助の光を絶やさなかった。……普通なら、あそこで詠唱をやめて逃げ出す」 ガルドは短く鼻から息を抜いた。その目は、昨日までの「新入りを見る目」ではなかった。 「……昔、仲間がいた。俺より強い前衛だった。ある戦で、補助魔法士が怖気づいて逃げた。強化が途切れた瞬間に……そいつはやられた」 ガルドは腕を組み直し、岩のように動じない声で告げる。 「お前の魔法が強いから認めてるんじゃない。お前が、俺たちの背中を預けられる『兵士』だからだ」 「お前は逃げなかった。それだけで十分だ」

低い声は、独り言に近かった。

「俺より強い前衛だった。

ある戦で、補助魔法士が怖気づいて

逃げた。強化が途切れた瞬間に……

そいつはやられた」

ガルドは短く鼻から息を抜いた。

「補助がいれば、生きてた」

レオンは息を呑んだ。

ガルドは視線を戻し、

レオンをまっすぐ見た。

その目は、怒りでも悲しみでもなかった。

ただ、確認するような目。

「お前の魔法が強すぎるとか、

身体がついていかないとか、

そういう話じゃない」

腕を組み直し、淡々と続けた。

「お前は逃げなかった。

それだけで十分だ」

レオンはその言葉をどう受け止めればいいか分からなかった。

ただ、胸の奥の熱が、静かに広がった。

だが、その温かさはすぐに別の感情に押し流された。

――でも、俺のせいでみんなが……

そのとき、背後から声がした。

「レオン」

振り返ると、エリシアが立っていた。

鎧を身につけ、外套を翻しながら、いつもより鋭い表情で。

「少し来て」

レオンは頷き、エリシアの後を追った。

小隊の三人も心配そうに見送る。

エリシアは駐屯地の外れまで歩き、ようやく立ち止まった。

風が草を揺らし、遠くで兵士たちの声が聞こえる。

エリシアはレオンの方へ向き直った。

「……辛かった?」

レオンは返事をしようとして、少し遅れた。

「……みんなに迷惑をかけてる気がして」

エリシアは首を横に振った。

「迷惑なんかじゃない。君の魔法は、誰よりも仲間を守る力だよ」

レオンは視線を落とした。

「……でも、俺のせいで監察官が来て……」

「違う」

エリシアの声は静かだったが、強かった。

「君のせいじゃない。君の魔法が特別だからだ。特別なものは、必ず誰かに狙われる。それは君の責任じゃない」

レオンは息を呑んだ。

エリシアは続けた。

「それに……」

少しだけ沈黙が落ちた。

昨日までとは違う沈黙。

“言葉を選ぶための沈黙”。

「……私は、君を手放すつもりはない」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアはレオンの肩に手を置いた。

その手は、昨日よりも強く、確かだった。

「レオン。君は、ここにいていい。絶対に」

レオンは返事ができなかった。

喉が少しだけ動くが、声にならない。

エリシアは静かに言った。

「一週間。私たちで証明しよう。君が“危険ではない”ことを」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……うん。やってみるよ」

エリシアは満足したように微笑むでもなく、ただ静かに頷いた。

「期待してる」

その言葉が、レオンの胸の奥に深く沈んだ。

――俺は、ここにいていい。

その感覚が、昨日よりもはっきりと形を持っていた。

だが同時に、

――外側からの圧力が、確実に迫っている。

その現実もまた、レオンの胸に静かに刻まれていた。


監察官ヴァルドが去った翌朝、小隊の訓練場にはいつもとは違う緊張が漂っていた。

兵士たちの動きはどこかぎこちなく、視線が落ち着かない。

レオンが姿を見せると、会話が途切れ、沈黙が落ちる。

昨日までの慎重さとは違う。

もっと重く、もっと遠い沈黙。

レオンは歩幅をわずかに乱した。

胸の奥がざわつく。

――俺のせいで、空気が変わっている。

その事実が、静かに胸に刺さった。

カイルが気づいて駆け寄ってきた。

「レオン、気にすんなよ。みんな、監察官が来たからピリついてるだけだ」

レオンは少し遅れて答えた。

「……そう、だといいけど」

カイルは笑おうとしたが、その笑みはどこか固かった。

「大丈夫だって。隊長も、俺たちも、お前を守るからさ」

その言葉に、レオンの胸が少しだけ温かくなる。

だが、その温かさはすぐに別の感情に押し流された。

――俺のせいで、みんなが巻き込まれている。

リナが弓を整えながら近づいてきた。

「レオン、昨日のことは気にしないで。監察官なんて、現場を知らない人間よ。上から来た人は、いつもああ」

レオンは返事をしようとして、少し遅れた。

「……でも、俺の魔法のせいで……」

リナは首を横に振った。

「違うわ。あなたの魔法が特別だからよ。特別なものは、必ず誰かに狙われる。それはあなたの責任じゃない」

レオンは言葉を失った。

胸の奥がざわつく。

ガルドがゆっくりと近づいてきた。

その足音は重く、地面に響く。

「……レオン」

レオンは顔を上げた。

ガルドは腕を組んだまま、低い声で言った。

「お前の魔法は強い。だから狙われる。それは事実だ」

レオンの胸が強く揺れた。

ガルドは続けた。

「だが――お前がいなければ、昨日の戦闘はもっと危なかった。俺たちは、お前の力に助けられた」

レオンは息を呑んだ。

ガルドは視線を逸らさずに言った。

「だから、お前がここにいる理由は十分だ。誰に何を言われようと関係ない」

その言葉は、重く、確かだった。

レオンは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

だが、その温かさはすぐに別の感情に押し流された。

――でも、俺のせいでみんなが……

そのとき、訓練場の中央から声が響いた。

「全員、集合!」

エリシアの声だった。

いつもより鋭く、強い声。

小隊の面々が集まると、エリシアは全員を見渡し、静かに言った。

「昨日の監察官の件で、不安に思っている者もいるだろう。でも――」

エリシアはレオンの方を見た。

その視線は、昨日よりも深く、揺るぎなかった。

「レオンは私の小隊の一員だ。誰にも渡さない」

レオンの胸が強く揺れた。

周囲の兵士たちもざわつく。

カイルが小さく呟いた。

「隊長……」

リナは目を丸くし、ガルドは静かに頷いた。

エリシアは続けた。

「監察官は一週間の猶予をくれた。その間に、レオンが“危険ではない”ことを証明する。だから――」

エリシアはレオンの前に歩み寄り、静かに言った。

「レオン。今日の訓練は、君が中心だ」

レオンは息を呑んだ。

「……俺が?」

エリシアは頷いた。

「君の魔法の“安定性”を示す必要がある。重ねがけの限界、魔力の流れ、身体への負荷……全部、私たちで確認する」

レオンは胸の奥がざわついた。

昨日までの熱が、少しだけ揺らぐ。

「……俺のせいで、みんなが……」

エリシアは首を横に振った。

「違う。君のせいじゃない。君の魔法が特別だからだ。特別なものは、必ず誰かに狙われる。それは君の責任じゃない」

レオンは言葉を失った。

エリシアはレオンの肩に手を置いた。

その手は、昨日よりも強く、確かだった。

「レオン。君は、ここにいていい。絶対に」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……うん。やってみるよ」

エリシアは満足したように微笑むでもなく、ただ静かに頷いた。

「期待してる」

その言葉が、レオンの胸の奥に深く沈んだ。

だが同時に、

――外側からの圧力が、確実に迫っている。

その現実もまた、レオンの胸に静かに刻まれていた。


訓練場に集まった小隊の面々は、いつもより静かだった。

昨日の監察官の言葉が、まだ空気に残っている。

レオンは杖を握りながら、その重さを肌で感じていた。

エリシアが前に立ち、全員を見渡した。

「今日の訓練は、レオンの魔法の“安定性”を確認する。重ねがけの限界、魔力の流れ、身体への負荷……全部、私たちで把握する」

カイルが手を挙げた。

「隊長、俺たちはどう動けば?」

エリシアは迷いなく答えた。

「普段通りでいい。ただし、レオンの強化を受けた状態での動きを細かく確認する。無理はしないこと」

リナが弓を構えながら言う。

「昨日より慎重に、ってことね」

ガルドは腕を組んだまま、レオンを見つめていた。

「……レオン。お前の魔法、遠慮するな。必要なら言え」

レオンは少し遅れて頷いた。

「……うん。ありがとう」

胸の奥がわずかに熱くなる。

だが、その熱は昨日よりも不安定だった。

エリシアがレオンの方へ向き直る。

「レオン。まずは私に強化を」

レオンは深呼吸をし、杖を構えた。

「……《フィジカル・ブースト》」

光がエリシアを包む。

続けて二度目、三度目。

エリシアの足元の土がわずかに沈む。

身体能力が跳ね上がった証拠だ。

エリシアは軽く剣を振り、動きを確かめた。

「……問題ない。昨日よりも安定してる」

レオンは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

だが――

その瞬間、エリシアの動きがわずかに止まった。

「……?」

レオンは息を呑んだ。

「隊長、どうした?」

カイルが駆け寄る。

エリシアは首を横に振った。

「大丈夫。ただ……少し、魔力の流れが変わった」

レオンの胸が強く揺れた。

「……変わった?」

エリシアはレオンの方へ向き直る。

「昨日までの強化と違う。重ねがけの“質”が変化してる」

ガルドが眉をひそめた。

「質が変わる……? そんなことがあるのか?」

リナも弓を下ろし、レオンを見つめた。

「レオン、何かした?」

レオンは首を横に振った。

「……何も。いつも通りの魔力の流し方で……」

だが、胸の奥がざわついていた。

昨日から続く“熱”が、どこか違う形で脈打っている。

エリシアはレオンに近づき、静かに言った。

「レオン。もう一度、強化を」

レオンは頷き、杖を握り直した。

「……《フィジカル・ブースト》」

四度目の光がエリシアを包む。

その瞬間――

エリシアの外套が風もないのに揺れた。

カイルが驚いた声を上げる。

「おい……今の、何だ?」

リナも目を丸くした。

「魔力の圧が……上がってる?」

ガルドは一歩前に出て、低い声で言った。

「レオン。お前、昨日より魔力が増えてないか?」

レオンは返事ができなかった。

胸の奥の微熱が、トクトクと脈打つような違和感に変わる。

自分の魔力でありながら、自分のものではないような、落ち着かない疼きだ。

エリシアは深呼吸をし、動きを確かめた。

「……制御はできる。でも、確かに“質”が変わってる」

レオンは喉が乾くのを感じた。

「……俺、何か……変わってるのかな」

エリシアはレオンの肩に手を置いた。

「怖がらなくていい。変化は悪いことじゃない。むしろ、君の魔法が“本来の形”に近づいているのかもしれない」

レオンは息を呑んだ。

「……本来の形?」

エリシアは頷いた。

「補助魔法士の枠に収まらない力。昨日の監察官も言っていたけど……君の魔法は、まだ底が見えない」

レオンの胸が強く揺れた。

――底が見えない。

それは褒め言葉なのか、警告なのか。

レオンには分からなかった。

カイルが言った。

「でもよ、これ……逆に証明になるんじゃねえか? レオンの魔法は“危険じゃない”って」

リナも頷く。

「そうね。制御できてるなら問題ないわ」

ガルドは腕を組んだまま言った。

「問題は……監察官がどう判断するか、だ」

レオンの胸が冷たくなる。

エリシアはレオンの方へ向き直り、静かに言った。

「レオン。君は、ここにいていい。変化しても、変わらなくても」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……ありがとう」

その言葉は、昨日よりも深く、重かった。

だが同時に、

――自分の魔法が“何かを変え始めている”。

その事実が、レオンの胸に静かに刻まれていた。


午前の訓練が終わる頃、訓練場にはいつもとは違う空気が漂っていた。

レオンの魔法が“変質”している――その事実が、小隊の誰も口にはしないまま、沈黙として残っている。

カイルが剣を肩に担ぎながら言った。

「なあレオン、今日の強化……なんか、昨日よりすげえよな」

レオンは返事をしようとして、少し遅れた。

「……そう、なのかな。自分ではよく分からないんだ」

カイルは笑おうとしたが、その笑みはどこか固かった。

「いや、悪い意味じゃねえよ。ただ……なんつーか、身体の奥がビリビリする感じがあってさ」

リナが弓を整えながら言う。

「私も感じたわ。魔力の密度が上がってる。昨日よりも“濃い”」

ガルドは腕を組んだまま、レオンをじっと見ていた。

「……レオン。お前、魔力の流れが変わってないか?」

レオンは胸の奥がざわつくのを感じた。

「……変わってる、かもしれない」

その言葉に、三人は一瞬だけ沈黙した。

その沈黙は、昨日までのものとは違う。

“理解しようとしている沈黙”だった。

エリシアが歩いてきた。

鎧の隙間から光が差し込み、輪郭が淡く揺れる。

「レオン。少し来て」

レオンは頷き、エリシアの後を追った。

小隊の三人は心配そうに見送る。

エリシアは訓練場の端まで歩き、立ち止まった。

「……魔力の流れ、変わってるね」

レオンは息を呑んだ。

「……分かる?」

エリシアは頷いた。

「昨日までは“重ねるほど強くなる”だけだった。でも今日は違う。重ねるたびに“質”が変わってる」

レオンは胸の奥が強く揺れた。

「……危険、なのかな」

エリシアは首を横に振った。

「危険じゃない。少なくとも、今のところは。制御できてるし、暴走の兆候もない」

レオンは少しだけ安堵した。

だが、その安堵はすぐに別の不安に押し流された。

「……でも、監察官は……」

エリシアの表情がわずかに鋭くなる。

「監察官は“危険性”を探してる。だからこそ、私たちは“安定している”ことを示さなきゃいけない」

レオンは視線を落とした。

「……俺のせいで、みんなが……」

エリシアはレオンの肩に手を置いた。

その手は、昨日よりも強く、確かだった。

「違う。君のせいじゃない。君の魔法が特別だからだ。特別なものは、必ず誰かに狙われる。それは君の責任じゃない」

レオンは息を呑んだ。

エリシアは続けた。

「それに……私は、君を手放すつもりはない」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアはレオンの目をまっすぐ見つめた。

「レオン。君は、ここにいていい。絶対に」

レオンは返事ができなかった。

喉が少しだけ動くが、声にならない。

エリシアは静かに言った。

「午後は、魔力の“質”の変化を詳しく見る。君の魔法がどう変わっているのか、私たちで確かめる」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……うん。やってみるよ」

エリシアは満足したように微笑むでもなく、ただ静かに頷いた。

「期待してる」

その言葉が、レオンの胸の奥に深く沈んだ。

だが同時に、

――自分の魔法が“何かを変え始めている”。

その事実が、レオンの胸に静かに刻まれていた。

そして、

――その変化が、誰かを巻き込むかもしれない。

その予感が、レオンの胸に重く残った。


午後の訓練が始まる頃、空は薄い雲に覆われていた。

陽光は弱く、風は冷たい。

だが、レオンの胸の奥には、午前中の訓練で感じた“熱”がまだ残っていた。

――魔力の質が変わっている。

その事実は、レオン自身が一番よく分かっていた。

胸の奥で脈打つ魔力が、昨日までとは違う形で流れている。

重ねるたびに、何かが“目覚めていく”ような感覚。

エリシアが訓練場の中央に立ち、全員を見渡した。

「午後は、魔力の“質”の変化を詳しく見る。レオン、準備は?」

レオンは少し遅れて頷いた。

「……うん。大丈夫」

エリシアは満足したように頷くでもなく、ただ静かに言った。

「では、始めよう」

カイルが剣を構え、リナが弓を引き、ガルドが前に出る。

三人とも、午前中よりも慎重な動きだった。

レオンは深呼吸をし、杖を構えた。

「……《フィジカル・ブースト》」

光が三人を包む。

続けて二度目、三度目。

その瞬間――

訓練場の空気がわずかに震えた。

カイルが驚いた声を上げる。

「おい……今の、何だ?」

リナも目を丸くした。

「魔力の圧が……午前より強い」

ガルドは腕を組んだまま、低い声で言った。

「レオン。お前、魔力の流れがまた変わってる」

レオンは返事ができなかった。

胸の奥の熱が、午前よりも強く脈打っている。

エリシアはレオンの方へ歩み寄り、静かに言った。

「レオン。怖がらなくていい。変化は悪いことじゃない」

レオンは息を呑んだ。

「……でも、これ……」

「制御できてる。だから問題ない」

エリシアの声は落ち着いていた。

だが、その瞳の奥には、わずかな緊張があった。

レオンはその緊張に気づいた。

胸の奥がざわつく。

――俺の魔法が、何かを変えている。

その事実が、静かに胸に刺さった。

エリシアは小隊の三人に向き直った。

「次は連携の確認。レオンの強化を受けた状態で、動きを合わせる」

カイルが地面を蹴り、ガルドが突進し、リナの矢が空を裂く。

その動きは、午前よりも速く、鋭かった。

だが――

「……っ!」

カイルがわずかにつまずいた。

レオンは息を呑んだ。

「カイル!」

カイルはすぐに体勢を立て直したが、額に汗が滲んでいた。

「だ、大丈夫だ……ただ、身体が軽すぎて……」

リナが眉をひそめる。

「強化が強すぎるのよ。身体が追いついてない」

ガルドも低い声で言った。

「レオン。お前の魔法、今日だけで二段階は変わってる」

レオンの胸が強く揺れた。

「……俺、どうすれば……」

エリシアがレオンの肩に手を置いた。

「大丈夫。君のせいじゃない。魔力が“本来の形”に近づいているだけ」

レオンは息を呑んだ。

「……本来の形?」

エリシアは頷いた。

「補助魔法士の枠に収まらない力。重ねるたびに質が変わる魔法。これは……」

言いかけて、少しだけ沈黙が落ちた。

「……君だけの魔法だよ」

レオンの胸が熱くなる。

だが、その熱は不安と混ざり合っていた。

そのとき――

訓練場の外から、複数の足音が近づいてきた。

「……誰だ?」

ガルドが警戒する。

エリシアも剣に手をかけた。

やがて、軍服を着た兵士たちが姿を現した。

胸には“方面軍本部”の紋章。

レオンの胸が冷たくなる。

兵士のひとりが声を上げた。

「エリシア隊長。監察官ヴァルド殿の命により、訓練の視察に来た」

エリシアの表情が固まる。

「……視察?」

兵士は頷いた。

「レオン・アーデルの魔法の“危険性”を確認するためだ」

レオンの胸が強く揺れた。

カイルが小さく呟く。

「……マジかよ」

リナは唇を噛み、ガルドは拳を握りしめた。

エリシアはレオンの前に立ち、静かに言った。

「レオン。大丈夫。私がいる」

レオンは返事ができなかった。

胸の奥の熱が、冷たさと混ざり合って揺れている。

――外側からの圧力が、ついに“目の前”に現れた。


視察の兵士たちが訓練場に入ってきた瞬間、空気が一段階冷えた。

その冷たさは風のせいではない。

兵士たちが纏う“本部の権威”が、場の温度を奪っていた。

レオンは杖を握り直した。

指先が少しだけ冷たい。

胸の奥の熱はまだ残っているが、それを押しつぶすような圧力があった。

兵士のひとりが前に出て、無表情で告げる。

「監察官ヴァルド殿の命により、レオン・アーデルの魔法行使を視察する」

エリシアが一歩前に出た。

「視察の範囲は? 訓練の妨げになるようなら――」

「妨げにはならない。記録を取るだけだ」

兵士の声は冷たく、感情がなかった。

カイルが小声で呟く。

「……絶対妨げになるだろ、これ」

リナは唇を噛み、ガルドは拳を握りしめていた。

エリシアはレオンの方へ向き直り、静かに言った。

「レオン。いつも通りでいい。私がいる」

レオンは少し遅れて頷いた。

「……うん」

だが、胸の奥のざわつきは消えなかった。

エリシアが訓練場の中央に立ち、声を上げる。

「では、訓練を再開する。レオン、強化を」

レオンは深呼吸をし、杖を構えた。

「……《フィジカル・ブースト》」

光がエリシアを包む。

続けて二度目、三度目。

その瞬間――

視察の兵士たちがざわついた。

「……魔力密度、異常に高い」

「重ねがけの反応が通常と違う」

「記録を取れ」

レオンの胸が強く揺れた。

――見られている。

その事実が、魔力の流れをわずかに乱す。

エリシアがレオンの方へ歩み寄り、声を落とした。

「大丈夫。呼吸を整えて」

レオンは頷き、深く息を吸った。

だが――

視察の兵士たちの視線は、レオンの魔力の流れを“監視”していた。

その視線は、敵意ではない。

だが、理解しようとする目でもない。

ただ、“危険性を探す目”。

レオンの胸が冷たくなる。

エリシアは剣を構え、動きを確かめた。

「問題ない。制御できてる」

カイルが地面を蹴り、ガルドが突進し、リナの矢が空を裂く。

三人の動きは、午前よりも鋭かった。

だが――

「……っ!」

リナがわずかに体勢を崩した。

レオンは息を呑んだ。

「リナ!」

リナはすぐに体勢を立て直したが、眉をひそめていた。

「大丈夫。でも……強化が、さっきより“重い”」

視察の兵士たちが記録を取る。

「強化の質が変化している」

「対象の身体能力に負荷がかかっている可能性」

「危険性あり」

レオンの胸が冷たくなる。

「……俺のせいで……」

エリシアが即座にレオンの前に立った。

「違う。君のせいじゃない」

視察の兵士が一歩前に出た。

「隊長。強化の変質は事実だ。危険性がある以上、本部への報告は――」

「報告するのは自由だ。でも、判断は私がする」

エリシアの声は静かだったが、鋭かった。

兵士は眉をひそめた。

「……監察官は、レオン・アーデルの魔法を“危険”と判断している」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアは一歩も引かずに言った。

「監察官の判断は“推測”だ。私は現場で見ている。レオンの魔法は危険ではない。制御できている」

兵士は沈黙した。

だが、その沈黙は“納得”ではなく、“保留”だった。

レオンは胸の奥がざわつくのを感じた。

――俺の魔法が、みんなを巻き込んでいる。

その事実が、静かに胸に刺さった。

エリシアはレオンの方へ向き直り、静かに言った。

「レオン。続けよう。君の魔法は、君が思っているよりずっと安定してる」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……うん。やるよ」

だが、その声はわずかに震えていた。

視察の兵士たちの視線が、レオンの魔力を“監視”している。

その視線は、昨日までのどんな敵よりも冷たかった。

――外側からの圧力が、ついに“直接”レオンを押しつぶし始めた。


視察の兵士たちが訓練場の端に並び、無表情で記録を取り始めた。

その光景は、まるで“裁判”のようだった。

レオンは杖を握り直し、胸の奥の熱と冷たさが混ざり合うのを感じていた。

エリシアがレオンの方へ向き直る。

「レオン。大丈夫。いつも通りでいい」

レオンは少し遅れて頷いた。

「……うん」

だが、視察の兵士たちの視線は、レオンの魔力の流れを“監視”していた。

その視線は、理解しようとする目ではない。

ただ、“危険性を探す目”。

胸の奥がざわつく。

エリシアが声を上げる。

「では、次の強化を。カイル、ガルド、リナ、準備して」

三人が頷き、それぞれの位置につく。

カイルは剣を構え、リナは弓を引き、ガルドは前に出る。

レオンは深呼吸をし、杖を構えた。

「……《スピード・ブースト》」

光が三人を包む。

続けて二度目、三度目。

その瞬間――

訓練場の空気が震えた。

「……っ!」

カイルが驚いた声を上げる。

「おい、これ……速すぎる!」

リナも目を丸くした。

「魔力の密度が……午前よりさらに上がってる!」

ガルドは歯を食いしばりながら言った。

「身体が……追いつかねえ……!」

視察の兵士たちがざわつく。

「強化の質が急激に変化」

「対象の身体能力に過負荷の可能性」

「危険性あり、記録を――」

レオンの胸が冷たくなる。

「……俺のせいで……!」

エリシアが即座にレオンの前に立った。

「違う。君のせいじゃない」

視察の兵士が一歩前に出る。

「隊長。強化の変質は明らかだ。危険性がある以上、本部への報告は――」

「報告するのは自由。でも、判断は私がする」

エリシアの声は静かだったが、鋭かった。

兵士は眉をひそめる。

「……監察官は、レオン・アーデルの魔法を“危険”と判断している」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアは一歩も引かずに言った。

「監察官の判断は“推測”だ。私は現場で見ている。レオンの魔法は危険ではない。制御できている」

兵士は沈黙した。

だが、その沈黙は“納得”ではなく、“保留”だった。

レオンは胸の奥がざわつくのを感じた。

――俺の魔法が、みんなを巻き込んでいる。

その事実が、静かに胸に刺さった。

エリシアはレオンの方へ向き直り、静かに言った。

「レオン。続けよう。君の魔法は、君が思っているよりずっと安定してる」

レオンはゆっくりと頷いた。

「……うん。やるよ」

だが、その声はわずかに震えていた。

レオンは深呼吸をし、杖を構えた。

「……《フィジカル・ブースト》」

四度目の光がエリシアを包む。

その瞬間――

訓練場の空気が一気に張り詰めた。

エリシアの外套が風もないのに揺れ、足元の土がわずかに沈む。

視察の兵士たちがざわつく。

「……魔力の圧が跳ね上がった」

「重ねがけの反応が異常」

「これは……!」

レオンの胸が強く揺れた。

「……っ!」

胸の奥の熱が、一瞬だけ“形”を持った。

脈打つような、何かが目覚めるような感覚。

エリシアがレオンの方へ振り返る。

「レオン、今の……!」

レオンは返事ができなかった。

胸の奥で何かが動いている。

昨日までとは違う、もっと深い場所で。

視察の兵士が叫ぶ。

「危険だ! 魔力が暴走する可能性――!」

エリシアが即座にレオンの前に立った。

「暴走なんてしない! レオンは制御できてる!」

だが、兵士たちは聞く耳を持たなかった。

「本部へ報告する!」

「監察官に緊急連絡を――!」

レオンの胸が冷たくなる。

――俺のせいで、みんなが……!

その瞬間、

エリシアがレオンの肩を掴んだ。

「レオン。大丈夫。私は君を信じてる」

レオンは息を呑んだ。

胸の奥の熱が、冷たさを押し返すように広がる。

エリシアは静かに言った。

「君は、ここにいていい。絶対に」

その言葉が、レオンの胸に深く沈んだ。

だが同時に、

――外側からの圧力は、もう“引き返せない段階”に入った。


視察の兵士たちが訓練場の端に並び、無表情で記録を続けていた。

その姿は、まるで“判決を待つ裁判官”のようだった。

レオンは胸の奥の熱と冷たさが混ざり合うのを感じながら、杖を握り直した。

エリシアがレオンの方へ向き直る。

「レオン。深呼吸して。魔力の流れを整えて」

レオンは頷き、ゆっくりと息を吸った。

だが、視察の兵士たちの視線が、魔力の流れを“監視”しているのが分かる。

その視線は、理解しようとする目ではない。

ただ、“危険性を探す目”。

胸の奥がざわつく。

エリシアが声を上げる。

「次は、強化の持続時間を確認する。カイル、動いて」

カイルが地面を蹴り、素早く前へ飛び出す。

その動きは、午前よりも速く、鋭かった。

だが――

「……っ!」

カイルがわずかに体勢を崩した。

レオンは息を呑んだ。

「カイル!」

カイルはすぐに立て直したが、額に汗が滲んでいた。

「だ、大丈夫だ……ただ、身体が軽すぎて……」

リナが眉をひそめる。

「強化の“質”がまた変わってる。午前よりもさらに“濃い”」

ガルドも低い声で言った。

「レオン。お前の魔力……まだ変わってるぞ」

レオンの胸が強く揺れた。

「……俺、どうすれば……」

エリシアがレオンの肩に手を置いた。

「大丈夫。君のせいじゃない。魔力が“本来の形”に近づいているだけ」

レオンは息を呑んだ。

だが、視察の兵士たちは冷たく記録を続けていた。

「強化の密度が上昇」

「対象の身体能力に過負荷の可能性」

「危険性あり、報告を――」

レオンの胸が冷たくなる。

――俺の魔法が、みんなを巻き込んでいる。

その事実が、静かに胸に刺さった。

エリシアは視察の兵士たちに向き直り、静かに言った。

「記録は構わない。でも、判断は私がする。レオンの魔法は危険ではない」

兵士は眉をひそめた。

「監察官は“危険”と判断している」

エリシアは一歩も引かずに言った。

「監察官は現場を見ていない。私は見ている。レオンの魔法は制御できている」

兵士は沈黙した。

だが、その沈黙は“納得”ではなく、“疑念の保留”だった。

レオンの胸がざわつく。

エリシアはレオンの方へ向き直り、静かに言った。

「レオン。次は私に強化を」

レオンは頷き、杖を構えた。

「……《フィジカル・ブースト》」

光がエリシアを包む。

続けて二度目、三度目。

その瞬間――

訓練場の空気が一気に張り詰めた。

エリシアの外套が風もないのに揺れ、足元の土がわずかに沈む。

視察の兵士たちがざわつく。

「……魔力の圧が跳ね上がった」

「重ねがけの反応が異常」

「これは……!」

レオンの胸が強く揺れた。

胸の奥の熱が、一瞬だけ“形”を持った。

脈打つような、何かが目覚めるような感覚。

エリシアがレオンの方へ振り返る。

「レオン、今の……!」

レオンは返事ができなかった。

胸の奥で何かが動いている。

昨日までとは違う、もっと深い場所で。

視察の兵士が叫ぶ。

「危険だ! 魔力が暴走する可能性――!」

エリシアが即座にレオンの前に立った。

「暴走なんてしない! レオンは制御できてる!」

だが、兵士たちは聞く耳を持たなかった。

「本部へ緊急報告を!」

「監察官を呼べ!」

レオンの胸が冷たくなる。

――俺のせいで、みんなが……!

その瞬間、

胸の奥の“熱”が、強く脈打った。

レオンは思わず胸を押さえた。

「……っ!」

エリシアが駆け寄る。

「レオン!」

レオンの視界が揺れる。

魔力が、胸の奥から“溢れようとしている”。

だが――

暴走ではない。

もっと静かで、もっと深い“何か”。

視察の兵士が叫ぶ。

「魔力反応が急上昇! 危険だ、離れろ!」

エリシアは一歩も引かなかった。

「離れない。レオンは大丈夫」

レオンは震える声で言った。

「……エリシア……俺……」

エリシアはレオンの手を強く握った。

「大丈夫。私は君を信じてる」

その瞬間――

胸の奥の熱が、静かに落ち着いた。

視察の兵士たちはざわつき、記録を続けていた。

だが、レオンは気づいていた。

――今のは、“暴走”ではない。

もっと別の、

もっと深い“変化”の兆し。


視察の兵士たちが慌ただしく記録を取り続ける中、訓練場の空気は極限まで張り詰めていた。

レオンは胸の奥に残る“熱”を押さえながら、深呼吸を繰り返していた。

――暴走じゃない。

でも、確かに“何か”が変わっている。

その感覚だけが、胸の奥で静かに脈打っていた。

エリシアがレオンの前に立ち、低い声で言った。

「レオン。もう一度、魔力を整えて」

レオンは頷き、ゆっくりと息を吸った。

だが、視察の兵士たちの視線が、魔力の流れを“監視”しているのが分かる。

その視線は、理解ではなく、疑念。

危険性を探すための目。

胸の奥がざわつく。

エリシアはレオンの肩に手を置き、静かに言った。

「大丈夫。君は制御できてる」

レオンは小さく頷いた。

「……うん」

だが、その声はわずかに震えていた。

エリシアが小隊の三人に向き直る。

「次は、強化の持続と反応速度を確認する。カイル、動いて」

カイルが地面を蹴り、素早く前へ飛び出す。

その動きは、午前よりも速く、鋭かった。

だが――

「……っ!」

カイルが再び体勢を崩した。

リナが駆け寄る。

「カイル、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ……でも、これ……速すぎる……!」

ガルドも眉をひそめた。

「強化の“質”がまた変わってる。午前よりもさらに“濃い”」

視察の兵士たちがざわつく。

「強化の密度が異常」

「対象の身体能力に過負荷の可能性」

「危険性あり、報告を――」

レオンの胸が冷たくなる。

――俺のせいで、みんなが……!

その瞬間、胸の奥の熱が強く脈打った。

レオンは思わず胸を押さえた。

「……っ!」

エリシアが駆け寄る。

「レオン!」

視界が揺れる。

魔力が、胸の奥から“溢れようとしている”。

だが――

暴走ではない。

もっと静かで、もっと深い“覚醒”の気配。

レオンの足元の土が、わずかに沈んだ。

視察の兵士が叫ぶ。

「魔力反応が急上昇! 危険だ、離れろ!」

エリシアは一歩も引かなかった。

「離れない。レオンは大丈夫」

レオンは震える声で言った。

「……エリシア……俺……何か……」

エリシアはレオンの手を強く握った。

「大丈夫。私は君を信じてる」

その瞬間――

胸の奥の熱が、静かに落ち着いた。

だが、次の瞬間。

レオンの周囲の空気が、わずかに揺れた。

視察の兵士たちがざわつく。

「……今のは?」

「魔力の波動が……補助魔法の範囲を超えている」

「これは……!」

レオンは息を呑んだ。

――今のは、俺じゃない。

魔力が“自分で動いた”。

エリシアはレオンの肩を支えながら、視察の兵士たちに向き直った。

「記録は構わない。でも、判断は私がする。レオンの魔法は危険ではない」

兵士は首を振った。

「……監察官は、レオン・アーデルを“本部管理対象”と判断している」

レオンの胸が強く揺れた。

エリシアは一歩も引かずに言った。

「監察官は現場を見ていない。私は見ている。レオンは危険ではない」

兵士は沈黙した。

だが、その沈黙は“決定”の前触れだった。

やがて、兵士は短く告げた。

「……本部へ緊急報告を行う。監察官ヴァルド殿が直接来られる」

レオンの胸が冷たくなる。

カイルが叫ぶ。

「おい、待てよ! レオンは危険じゃねえだろ!」

リナも声を上げる。

「そうよ! 暴走なんてしてない!」

ガルドは拳を握りしめた。

「現場を見ろ。レオンは制御してる」

だが、兵士たちは動かなかった。

エリシアはレオンの前に立ち、静かに言った。

「レオン。大丈夫。私が守る」

レオンは震える声で言った。

「……俺、どうすれば……」

エリシアはレオンの手を握り、強く言った。

「君は、ここにいていい。絶対に」

その言葉が、レオンの胸に深く沈んだ。

だが同時に、

――外部の圧力は、もう“引き返せない段階”に入った。

その現実が、レオンの胸に重く刻まれた。

そして、

胸の奥の“熱”は、静かに、確実に形を持ち始めていた。


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