先輩方と2
「次は何について話す?」
「次は視聴者のみんなが知りたいことにしない?」
:質問コーナーだ!
:三期生の裏話とか聞きたい!
:最近は何してるの?
「最近は何してるの? だって、ノアちゃんは何かある?」
「僕ですか? うーん、いつもと違うことと言えば、料理を始めましたね」
「え? ノアちゃんの料理⁉ アタシ食べたい!」
「まだ練習中なんですけど……最近はカレーとか、簡単な炒め物を作ってます」
今までは、料理することなんて、ほとんどなかった。
それは、料理をすると、どうしてもお母さんとの思い出がよみがえってしまうからだ。
でも、最近はその記憶を避けるんじゃなくて、少しずつ受け止めてみようと思った。
だからこそ、練習を重ねて、自分の手で作ることに挑戦している。
:料理いいね
:ノアの手料理食べたい
:写真アップ希望!
「へー、何か難しいこととかあった?」
「そうだね……玉ねぎを炒める時に、焦げそうになったり、涙が止まらなくなったりして」
「あるあるだね」
「それでも、料理をすることは楽しくて、これからも作って行こうって思ったよ」
「そっか。今度わたしと料理してみない?」
「ほんとに? 思わず聞き返してしまった。まさかユイからそんな提案があるなんて、想像もしていなかったからだ。
「もちろん。二人で作れば楽しいし、失敗しても笑い話になるでしょ?」
「それなら、挑戦してみたい!」
:ユイノアてぇてぇだ
:ほんとに仲いいよなこの二人
「あ、アタシも……」
「駄目よ。姉として、ここは見守らないと」
「そうそう。二人の後をつけて、背後から見守るくらいじゃないと」
「それも駄目よ」
:これだからツバサはさぁ
:あの二人の間に挟まろうとするな!
:あと、ヒナタがストーカーをしようとしてるのは駄目だろww
「……やっぱり、あの二人は警戒しておかないと」
「ははは……」
たぶん、ツバサ先輩は、純粋に僕たちと一緒に何かをしたくて、ヒナタ先輩は興味を持っただけなんだろうな。
……みんなと一緒に料理するのも楽しそうだけど、最初はユイと二人で料理をしたい。
「それで、ツバサ先輩たちは最近、何かしているんですか?」
「アタシ? アタシは歌の練習をしているくらいかな。前の三期制コラボでのノアちゃんの歌も聞いて、アタシも歌が上手くなりたいって思ったからさ」
「え?」
急に褒められるとは思ってなかった。
胸の奥が少し熱くなる。照れくさくて、どう返せばいいのか分からない。
やっぱり、褒められることには慣れないな。
:ツバサが褒めてる!
:ノアの歌はほんと良かったからなぁ
:照れてるノア、かわいい
「そう言えば、ユイも褒められるの苦手そうだったよね」
「ヒナタ先輩⁉」
「ふふっ、確かに。さっきノアとユイのことを褒めたんだけど、二人とも耳まで真っ赤になってたからね」
「シュウ先輩も⁉」
:wwww
:えー、それ配信で見たかった!
:もっとkwsk
「そ、そんなことより、ヒナタ先輩は最近何しているんですか? ノアちゃんも気になるよね」
「う、うん。僕も気になってます」
ユイが、全力で話を逸らそうとしている。
その姿は必至過ぎて、余裕なんて何一つなかったけど、褒められた時のことをばらされるのは僕も恥ずかしかったから、全力で協力することにした。
「えー、恥ずかしがらくていいのに」
「恥ずかしがってません!」
「ほんとかな? まぁいいや。わたしは最近したことと言えば、富士山のてっぺんに登ったことくらいかな」
:え、何それ。聞いたことない
:配信で言った⁉
:初めて聞いたよ!
「だって、言ってないもん」
あまりにもさらっと言うから、一瞬聞き間違えたのかと思った。
「……富士山って、あの富士山ですよね?」
「そうだよ。ちょっと時間ができたから、挑戦してみただけ」
「えぇぇ……」
ユイが目を丸くして固まる。僕も驚きすぎて言葉が出なかった。
:ノリ軽すぎるだろ
:そんなんで登れたら苦労しねぇよ!
:たぶん、気になったから程度の理由で登ったんだろうな……
「わたしも初めて聞いたよ。怪我は無い?」
「大丈夫! 見ての通りぴんぴんしてるから!」
「ほんとに? それならよかった。ヒナタは凄いね」
「……本物の姉妹みたいな会話をしてる」
:姉かよ! 姉だったわ……
:いや、姉じゃないだろ
:まぁ、シュウだしな
「普段から登山しているんですか?」
「ううん。前が初めて!」
「えぇ……」
「まぁ、ヒナタ先輩なら不思議じゃないけど……」
:本当に凄いな
:その行動力は尊敬する
:暴走する時もあるけど
「シュウは最近何かしているの?」
「わたしは、お姉ちゃんらしさをさらに伸ばしているところよ」
:だから、その姉のこだわりは何なんだよ!
:シュウにとって、姉と神は大して違いが無いのでは?」
:いや、姉の方が上だろ
「なんで、シュウ先輩はそこまでするんですか? 今でも、十分姉っぽいですけど」
「ううん。わたしなんてまだまだよ。お姉ちゃんは、妹や弟が辛い時には、必ず側にいないといけないの。でもね
前はそれが出来なかった。その子は、その子の友人たちのおかげで立ち直ることが出来たけど、次も同じようなことになるとは限らない。だから、わたしは妥協をしないの」
それって、もしかして――。
胸の奥で言葉が浮かびかける。問いかけてしまいたい衝動が、喉元までせり上がってきた。
けれど、僕の過去については、配信で触れる気が少しもない。だって、配信はみんなを笑顔にする場所だと思っているし、僕は同情してほしいだなんて思っていないからだ。
そのせいで、僕の疑問は声にすることはできず、ただ心の中で飲み込むしかなかった。
でも、その子が僕のことを表しているのは確信できた。
だから、心の中で感謝を伝える。
伝わるかどうかはわからない。でも、もし少しでも届いているなら――それだけで十分だった。
(僕のことを気遣ってくれてありがとうございます。でも、安心してください。僕はもう、前を向くことが出来ましたから)
「それじゃあ、ここらで配信を終わる?」
「そうですね、いろいろ話すことは出来ましたし」
ヒナタ先輩とユイが顔を見合わせて頷いた。
「えー、もう終わり? アタシまだ話したいことあるんだけど!」
「また次の機会にしましょう。今日は十分盛り上がったと思うわ」
「……そうですね。楽しかったです」
:あっという間だった
:次の料理企画楽しみにしてる!
:歌コラボも期待してます!
「それじゃあ、今日はここまで。みんな、最後まで見てくれてありがとう」
シュウ先輩の柔らかな声で、配信は静かに締めくくられた。
笑いと驚き、そして少しの温かさを残して――今日のコラボは幕を閉じる。
次話から第四章「最愛の君へ」が始まります。
前を向いたノアたちが紡ぐ物語を、どうか見届けてください。
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