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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
番外編

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86/120

ユイと一緒に1

 ――――――――――――

 月夜ユイ

 ねぇ、暇な日ってある?

 ――――――――――――

 朝霧ノア

 休日は常に暇ですけど……

 ――――――――――――

 月夜ユイ

 だから、敬語じゃなくていいって

 それなら、次の土曜日にどこか遊びに行こうよ!

 ――――――――――――

 朝霧ノア

 遊びに?

 いいで……いいよ

 ――――――――――――

 月夜ユイ

 ほんと? やった!

 それなら、土曜日の朝九時に事務所の最寄駅に集合ね!

 ――――――――――――


 そんな会話が数日前にあり、僕は珍しく外出して、駅の前でユイのことを待っていた。

 ……まぁ、友人と遊ぶなんて初めてのことだから、ちょっとだけ楽しみで朝八時についてしまったんだけど。


(遊ぶ……。うーん、何をするんだろう? かくれんぼかな?)


 過去にいろいろあったせいで、思いつく遊びはそれくらいしかない。

 やっぱし僕っておかしいのかな?


(それにしても、もし楽しくない遊びだったらどうしよう? 空気を呼んで笑顔にしたほうがいいのかな? いいや、それじゃあ駄目なんだ。それのせいで、りょうとの関係が悪くなったんだから。でも、笑顔にならないのは駄目だよね? せっかくユイが僕のことを考えてくれているんだし……。いや、ユイのことだから、僕が笑顔になれなくても嫌な気持ちにならないはずだ……って思うのは、やっぱり無理だよね。まだ僕の人間不信は治ったわけでは無いんだし。ああ。どうしよう? あ、朝八時に着いたのも駄目だったかな? さすがにユイでも引いてしまうよね。本屋にでも寄って待ち合わせ場所から離れるべきか。でも、ユイを待たせてしまうのは申し訳ないし……。こんなことになるんだったら、祖父――おじいちゃんに聞いておくべきだった。そしたら、いい方法を教えてくれたはずだから。あ、今から聞けばいいのか。でも、朝八時だよ。こんな時間に連絡するのは迷惑になるのかもしれない。やっぱり僕は……。いいや、この自責思考が駄目なんだ。こんなことをしたら、ユイにまた迷惑をかけてしまう。……よし、いい方法を自分で考えよう。――というか、もし楽しくない遊びだったらどうしよう、なんて考えるのはユイに失礼じゃないか。こういう時は、何が何でも楽しんでやるって気持ちじゃないと。これだから、僕は……)


 自分で言うのもなんだけど、これって新手の怪文書かな?

 自責が駄目だって言ってるのに、結局最後は自責しているし、これだから僕は……(以下略)。


 そんなことを考えている内に、時計はどんどん回っていき、ついには八時十分になった。

 あれ? 思ったより時間が経ってない。体感では、三時間くらい経ってたのに。


「……へぇ、友達を待つのって、こんなにも時間が遅くなるんだ。知らなかったよ」


 やっぱり、Vtuberになってよかったと思う。

 Vtuberになってなかったら、こんな当たり前のことを知ることが出来なかったし、実感することも無かった。

 ……いや、Vtuberになったからじゃないか。ユイたちのおかげで、僕はこの気持ちを知ることが出来たんだ。


「まだかなぁ」


 口ではそんなことを呟いているけど、案外僕はこの時間が嫌いでは無かった。

 この待つっていう行為自体が、胸の空っぽを埋めてくれるし、友人がいるって事実を実感させてくれるから。

 そんな時。


「だーれだ」

 

 背後から誰かが僕の視界を塞ぎ、耳元でささやいてきた。


「わっ……ユ、零さん?」

「正解、澪ちゃん、さすがに八時十分に待ち合わせ場所にいるのは早すぎるよ。もっと後でよかったのに。後、敬語禁止ね」

「……零さ、零だって、この時間にいるじゃんか」

「……ノーコメントで」


 視界をふさいでいた手が離れ、振り返った僕の目に映ったのは、初めての友人である月夜ユイ――日向零だった。

 朝の冷たい空気の中で、彼女の笑顔だけがやけに鮮やかに見える。


「ノーコメントって……」

「そ、そんなことより、早く遊びに行こうよ」


 なんか、いつもよりテンションが高い気がするけど……まぁ、いいか。


「それで、今日はどこに行くの?」

「……あっ」

「え?」

「……決めてなかった」

「嘘だよね?」


 やっぱり、今日の零はおかしい。

 いつもの零はもっと冷静で、いろんなことを準備して、安心感がある人だったのに。……あ、でも、かなりの負けず嫌いだったか。莉緒さんと六時間以上勝負するくらいには。


「……だって、友達と遊ぶのは初めてだし。楽しみすぎて昨日寝れなかったし」

「……十八歳だよね?」


 何その小学生みたいな理由。

 

「零ちゃんも十六歳で、友達と遊んだことが無いんでしょ」

「うっ」

「零ちゃんは昨日寝れたの?」

「……ノーコメントで」


 よし、この話はやめよう。互いに傷つくだけだ。


「ま、姉さんとは何回も遊んだことがあるから私に任せて。……あ、ゲームセンターで負け続けたことを思い出すと腹が立ってきた」

「……やっぱし、零ってかなりの負けず嫌いだよね」

「何か言った?」

「ううん、何も」


 そう言えば、零のお姉さんって、あのルミナ先輩と同格の人だったらしいし、そんな人の側で負けず嫌いでいることが出来たのは、零の美点であると思う。……莉緒さんの影響もありそうだけど。


「それなら、ゲームセンターに行ってみたい。人生で一回も行ったことが無いし」

「そうなの? それなら、私が案内するよ。私は、何度も行ったことがあるしね」


 そうして、僕たちは歩き、ゲームセンタ―の前に辿り着いた。

 そこは、きらきらと輝いていて、大きな音で音楽が鳴り響いていた。……慣れていないだけかもしれないけど、ちょっと苦手だ。


「澪ちゃん、まずは何からする?」

「えーっと、あのクレーンゲームをしていい?」

「いいね。あっ、お金は私が出すから気にしないでね」


 えっ、そんなことをしてもらうなんて……。


「気にしないで。年上っぽいことをしたいっていう自己満足だから」

「それなら、きちんと計画してくれるだけで……」

「うっ、それは忘れて」

 

 零は慌てて手を振った。


「……じゃあ、クレーンゲーム、やってみるね」

 

 僕はコインを入れて、ゆっくりとレバーを動かす。

 猫のぬいぐるみを掴み、真上に上がったと思った瞬間――あっさりと滑り落ちた。


「……やっぱり難しい」

「ふふっ、初めてなら仕方ないよ。私でも、初めてできるようになるまでに、何回も失敗したんだから」

「一度、見本を見せてくれない?」

「いいよ。じゃ、隣の台でやってみるよ」

「あ、それ……」

「しっかりと見ててよ」


 何故か、オチがわかったような気がしたけど、零が楽しそうならそれでいいか。


「まず、こういうのはね、一回で取ろうとせずに、何回も挑戦して、ぬいぐるみを穴に寄せていくんだ。端を持って転がしたり、少しだけ持ち上げたりしてね。この時は、重心を理解してするとやりやすいから、澪ちゃんもそうやって試してみてね」


 そうして、零はだんだん――のぬいぐるみを寄せていき、八回目でついにアームがしっかりと掴み、穴の中へと落とした。


「……ほらね。こうやって少しずつ動かしていけば、必ず取れるんだよ。こんなに大きいぬいぐるみで……あっ」


 そう。零は説明することに意識が行き過ぎて気付いていなかったようだけど、今取ったぬいぐるみはオオカミのぬいぐるみで、どこかの性格の悪い一期生を思い出させるものだった。


「オオ、カミ……」


 しかも、それが零だったことがさらに良くない。だって、ついこの前のコラボで、零は莉緒さんに六時間以上も負け続けていたし、零がVtuberになる前からも関わりがあって、その時から煽られ続けていたのだから。


「ふーん、へぇ……オオカミか」

「れ、零?」

「別にぬいぐるみには罪なんて無いしね。ストレス発散に使えそうだし」

「あ、駄目だこれ」


 零がここまで言うなんて、あの人は一体何をしたんだろか。

 あ、でも零って負けず嫌いだし、あの人の性格の悪さはすごく実感してるから、案外想像しやすいかも。


「まぁ、いいや。見本を見せたから、澪ちゃんも挑戦してみて」

「う、うん」


 僕はコインを入れて、慎重にレバーを握った。

 ……でも、手が震えているのが自分でもわかる。

 

 クレーンがゆっくりと動き、ぬいぐるみの頭の部分を掴む。


(後は、このまま引っ張って、穴の方に寄せていったら……)


 そうして、ぬいぐるみが持ち上がると、そのまま落ちることなく移動して、一回で手に入れることが出来た。


「……え?」

「……え?」


 僕と零の声が、同時に重なった。


「い、一回で……」

「ははは、偶然かな……?」


 零が、すごく悔しそうな表情をしている。

 初めてゲームセンターに来た僕に負けたのが、そんなにも悔しいのかな?


「澪ちゃん、待ってて。今度は、私が一回で取るから」

「れ、零! 今のは偶然だから……」

「運も実力の内って言うでしょ。だから、私も一回で取って見せる」


 そうして、零は何度もクレーンゲームに挑戦していた。

 やはり、零はクレーンゲームが得意だったようで、三回や四回でぬいぐるみを取っていく。でも、中々一回で取ることが出来ず、まだ気分が晴れていない様子だった。

 やっぱり、零もNeoverseなんだなぁ。


(取ったぬいぐるみのことを考えているのかな?)


 零の足元には、回収したぬいぐるみが三個も転がっていて、まるで戦利品の山のようだった。

 ……お互いに電車で来たから、持ち帰るのに苦労しそうだ。


「零、もうそろそろやめないと、持ち帰れなくなるよ」

「え? あ、あと一回……」

「駄目。ほんと、どっちが年上なの?」


 でも、やっぱり僕はこれだけでも楽しかった。

 友人と遊んで、はしゃげる――そんな当たり前のことが、僕にはずっと遠い世界の出来事だった。

 でも今は、零と一緒に笑っている。


「ほんと、楽しいな」


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