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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
朝霧ノア

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80/120

僕の初配信1

 スタジオの扉を押し開けると、照明の光が再び視界を満たした。

 社員の人や仲間たちの視線が一斉にこちらへ向く。

 その瞬間、胸の奥がきりきりと痛み、足がすくみそうになる。

 けれど、もう逃げない。


「……ごめんなさい」


 まずは謝罪を口にした。

 どんな事情があっても、僕がしたことは許されるものでは無く、未成年だからと言っても許されるものでは無いはずだ。


 「逃げて、みんなを裏切って、壊してしまった。本当に、ごめんなさい」


 声は震えて、スタジオの空気に溶けていった。

 沈黙が落ちる。照明の光が痛いほどに眩しく、視線の重さに押し潰されそうになる。


 けれど――。


「大丈夫ですよ、気にしないでください」


 マネージャーさんが柔らかく微笑んだ。

 その声は、張り詰めていた空気を少しだけ和らげる。


「逃げたことよりも、迷惑をかけたことよりも、戻ってきてくれたことが、何より大切なんですよ。先輩方の方がもっと迷惑かけているんで、私達も慣れています。では、準備が出来たらステージに立ってください」


 ステージの方に目を向けると、マサさんとユイトさんが親指を立ててこっちを見ていた。

 あの二人も、僕の言葉を責めることなく、ただ笑顔で僕のことを待っている。

 その仕草が、胸の奥にじんわりと広がっていく。


「はい!」


 そうして、僕はステージに上がってく。


「みんな、喜べ! ここでようやく彼女たちが帰って来たぞ!」


:おおー!

:やっとか……

:45分くらい?

:よく二人で持ちこたえたな

:確か、UFOにさらわれてたんだっけ?


 チャット欄が一斉に流れ始める。


「UFO?」

「我は関係ないぞ。マサが勝手に言っただけだ」

「裏切り者!」


 何故だかわからないけど、視聴者の人たちには、僕たちが遅れた理由がUFOにさらわれたことになっていた。

 

:宇宙人に連れていかれたんだろ?

:地球に帰ってきてくれてありがとう!

:次は火星配信かな?


「そ、そんなことは置いといて、まずは自己紹介から」

「逃げたなコイツ」


:逃げたwww

:まぁ、女子組がいない間に色々やらかしたからな……

:やっぱし、マサは問題児


「じゃあ、最初はわたしから。みんな、遅くなってけど、こんばんは! Neoverse三期生、月夜ユイと」

「同じく、Neoverse三期生、猫塚ニヤにゃ! そして――」


 視線が僕に集まる。喉がきゅっと詰まり、僕の弱いところが胸を締め付けてくるけど、その弱さがあるおかげで、前に進める。


「みんなー! こんばんは! 僕はNeoverse三期生、朝霧ノアだよ! ……遅れてしまって、本当にごめんね!」


:おおー!

:やっと全員そろった!

:あれ? ノアちゃん、いつもより明るい?

:こんなに明るいノアちゃんを見たのは初めて!

 

 ユイが隣で微笑み、ニヤさんがにやりと笑う。

 仲間と視聴者の声に囲まれて、照明の光はもう痛くなく、舞台を照らす温もりとして僕を包んでいた。


「じゃあ、みんなそろったことだし、今から予定していたことを始めていくよ。最初は……えっと、三期生で格付けチェック?」

「そうそう! 三期生で格付けチェックにゃ!」

 

 ニヤさんが勢いよく声を上げる。


「内容は簡単にゃ。とある料理と市販の料理を食べ比べて、どっちが本物か当てるってやつにゃ。ただ、とある料理は、先輩方が作っているから、外したら後でめちゃくちゃ怒られるにゃ!」

 

 ニヤが説明を補足すると、チャット欄が一斉に盛り上がった。


:おおー!

:格付けきた!

:絶対間違えるやつw

:先輩の手料理を外したら地獄w

:これは罰ゲーム案件だな


「マサさん、自信ありますか?」

「ふっ、あると思うか?」

「ですよね」

「我も自信はない」


 その言葉を聞いて、僕たちは完全に絶望していた。


:全滅www

:誰も当てられない未来しか見えない

:これは伝説回になる予感


「じゃあ、一問目! 今回の料理は――カレーで、作ったのはシュウ先輩です」


:これなら、わかるだろw

:シュウは料理上手いからなぁ


 そうして、僕たちの目の前に二つのカレーが運ばれてくる。

 片方が、市販のレトルトカレー、もう片方がシュウ先輩が作ったカレー。


「ちなみに、コメントも来ていて、シュウ先輩曰く「姉の料理は世界一」だそうです。……どういう意味でしょうね?」


:相変わらずだな……

:ほんとぶれない……

:姉より母じゃね?


「まぁ、いつまで見てるのもあれだし、食べてみましょうか」

「そうにゃね。案外簡単かもしれないからにゃ」


 僕たちは二つの皿を前に並べられ、スプーンを手に取った。

 見た目はほとんど同じ。香りも似ている。けれど、どちらかはシュウ先輩の手作りだ。


「……いただきます」

 

 恐る恐る一口すくって口に運ぶ。


 舌に広がるのは、スパイスの香りとじんわりした甘み。

 もう一方を食べると、こちらは少し単調で、レトルト特有の後味が残る。


「え、これ……わかるかもしれない」

「そうだね。結構わかりやすい」

「これなら、我でもわかる」

「じゃあ、一斉に答えを言うにゃ」


「せーの!」

「「「「左!」」」」

「右!」

「……えっ?」


 見事に意見が割れた。スタジオの空気が一瞬止まり、すぐに笑いが弾ける。


「おい、我だけ右なのか!?」

 

 ユイトさんが慌てて周りを見渡す。


「いや、ユイトの舌は信用できないにゃ」

「我は本気で右だと思ったんだ!」


 チャット欄も一斉に盛り上がる。


:割れたwww

:ユイトだけwww

:正解発表が楽しみすぎる

 

 僕はスプーンを握りしめたまま、心臓がどきどきしていた。

 果たして、僕たちが選んだ答えは正しいのか――。


「では、正解を発表します!」

 

 マネージャーさんの声が響き、スタジオの空気が一気に張り詰めた。


「答えは左です!」


「やっぱり……!」

 

 僕たちが一斉に声を上げる中、ユイトさんだけが固まっていた。


「な、なぜだ……我の舌は確かだったはず……」

「いや、確かじゃなかったにゃ」

 

 ニヤさんが即座に突っ込む。


「ユイト、見事に外したね」

 

 マサが笑いながら肩を叩く 。

 チャット欄はさらに盛り上がった。


:ユイトだけwww

:伝説の舌w

:これは罰ゲーム確定だな

:姉の料理を外すとか大罪w


「くっ……姉の料理は世界一だと、シュウ先輩が言っていたのに……!」

「それを外したのはユイトさんだけってことですね」

 

 マサさんが冷静にまとめると、スタジオに笑いが広がった。

 緊張はすっかり解け、舞台の光はもう痛くなく、ただ楽しい時間を照らす温もりとして僕を包んでいた。


「二問目の前に、ちょっとした裏話。最初、カレーはヒナタ先輩が担当したのですが、ついペッパーXという世界一辛い唐辛子を入れてしまったらしく、没になったそうです。……あ、そのカレーはヒナタ先輩とツバサ先輩がおいしく? 食べました。ツバサ先輩大丈夫かな?」


:何やってんだよww

:ツバサって辛い物苦手なのに……

:どうせ女子に良いところ見せようとしたからだろ

:本当に学ばねぇ……

:ヒナタは、普通においしく食べてそうw


「次の二問目は、オムライスです。料理したのはツバサ先輩……えっ? これは、サービス問題?」


 ユイが首をかしげる。……まぁ、心当たりはあるけど、まだ言わないでおこう。


:もしかして……

:ツバサならやるぞ

:まだ決まったわけでは……いや、なんでもない


 そうして、それぞれオムライスが運ばれてきた。……ただ、右の方に置いてあるオムライスには、女子の物だけハートが書かれていて、本当に、わかりやすかった。


「……いや、これもう答え出てるじゃん」

 

 マサさんが苦笑する。


「右のオムライスだけ女子の皿にハートって……ツバサ先輩、分かりやすすぎるにゃ」

「我は逆に罠だと思う。ここまで露骨だと、逆に市販の方が本物に見えてくる……」

 

 ユイトさんが真剣な顔で言うと、スタジオに笑いが広がった。


:ツバサやらかしたwww

:女子にだけハートは草

:逆にフェイク説あるな

:ユイトがまた外す未来しか見えない


「まぁ、食べてみればわかるよ」

 

 ユイがスプーンを手に取り、オムライスをすくう。

 右のオムライスを一口食べてみると、卵はふわっとしていて、ケチャップの甘酸っぱさも悪くない。

 けれど――驚くほど美味しいわけでもなく、失敗でもない。……なんか、シュウ先輩のカレーがおいしすぎたせいもあるけど、すごく不憫に感じた。


「普通においしいにゃね」

「そうだな、シュウ先輩のカレーの完成度が高すぎたせいで霞んでいるけど、これはこれで結構おいしいぞ」

「順番が逆ならな……」

 

:順番のせいwww

:ツバサ不憫すぎ

:いつか報われて……いや、報われなくていいや


「せーの」

「「「「「右」」」」」

「正解です」


 そうして、二問目がとても雑に終わった。

 

:あっさりwww

:二問目の扱い雑すぎる

:ツバサの努力とは……

:サービス問題すぎて草


 

 

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