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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
朝霧ノア

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電話

 時刻は夜八時。

 莉緒さんと、通話をすると約束した時間だった。


「はぁ、気が進まないなぁ」

 

 でも、スマホの画面には、約束の時刻を告げる数字が並んでいる。

 指先が通話ボタンの上で止まったまま、動かない。


 押せば、莉緒さんの声が聞こえる。

 でも、その一歩がどうしても重い。


「……どうしよう」


 胸の奥でざわめく不安と、約束を守らなければという義務感がせめぎ合う。

 結局、僕は深く息を吸い込んで、震える指を画面に近づけた。


「もしもし」


 声を出してすぐに、彼女の言葉が返ってくる。


『お、やっと連絡知れくれたね。待ってたよ』


 その声には、連絡が遅れたことに対する怒りなど無く……とは言え、優しさも無かった。


「すみません、連絡が遅れてしまって」

『いいよ、謝らなくて。別に、ボクは気にしてないからね。それで、最近はどうだい? いろんな人とコラボして――ついには、ルミナとティアとまでコラボしたそうじゃないか! アハハッ、その二人とコラボするのは凄いことだよ。二期生の人たちでさえ、かなり時間が掛かったんだからね』

「……そうですね。僕なんかが、あの二人と一緒にやれるなんて思ってもみませんでした」


 言葉を返しながらも、胸の奥ではまだ緊張が渦巻いていた。

 莉緒さんの笑い声は明るいのに、どこか突き放すような響きがある。


『いやいや、君が発案したんでしょ? ならば、それは誇るべきだよ! だって、それは彼女たちが君のこと認めたってことなんだから』


 口では、そうやって僕のことを褒めているけど、それが本心から出たものなのかはわかない。

 やっぱり、この人は……何を考えているのかわからない。

 褒め言葉の裏に、試すような視線が隠れている気がしてならなかった。


「それで……何の用があって、通話をしようと言ってくれたんですか?」


 問いかけると、通話の向こうで一瞬だけ沈黙が落ちた。

 その間が、妙に長く感じられる。


『まぁまぁ、今はそんなことを置いておいて、少しばかりおしゃべりしようよ。久しぶりに話すんだからさ』


 軽い調子の声に、逆に胸の奥がざわついた。

 わざと話題を逸らしているようにしか思えない。


「……おしゃべり、ですか」


 言葉を返しながらも、心の中では警戒心が膨らんでいく。

 この人は、何を隠しているんだろう。


「そうそう、僕の同期――ルミナとティアと関わってみて、どんなことを思ったのか聞きたいんだ。なに、それ以外の意味は含まれていないよ。ただただ、興味を持っただけだから』


 信用は出来ない。

 莉緒さんの言葉には、嘘が含まれていたり、重要な言葉をあえて言わないこともあるから。

 でも、今この場面で嘘を言う必要なんて無いし、嘘を吐かれていたとしても、僕に影響があるわけでもない。

 だから、正直に感想を言うことにした。


「そう、ですね……ルミナ先輩も、ティア先輩も凄い人でした。ルミナ先輩は、言わずもがな天才という物を体現している方で、それだけに留まらず、決してその才能に胡坐をかくことなく、努力を積み重ね続けている姿が強く伝わってきました」


 ルミナ先輩と交わした言葉は多くない。でも、その実力に至るまで、どれだけの努力をしてきたのかは伝わって来たし、その姿は――まるで、星のように輝いていた。


「ティア先輩は、少し失礼になりますけど、ずっとあがき続けているのが凄いなと思いました。普段の配信を見て、莉緒さんとルミナ先輩の凄さは伝わってきます。ただ、その二人に挟まれていても、ティア先輩は気後れすることなく、必死に食らいついていました。それが――とても凄いなと思います」

 

『……アハハッ! なるほどね』


 短い相槌が返ってきた。

 それだけなのに、胸の奥が妙にざわつく。


『いいじゃないか、よく彼女たちのことを理解できてる。なら、それを見て、君はどう感じた? 彼女たちのようになりたいと思ったのか。それとも……彼女たちのようにはなれないと思ったのか』


 そんなの、答えは決まっている。ボクならば、きっとこう答えるだろう。


「それは、先輩たちみたいになりたいと思いました。どれだけ時間が掛かっても――必ず」

『アハハッ! そっか。君はそう答えるのか。……まぁ、及第点ってとこかな。長い長い前置きも終わったことだし――やっと本題に入ろうか』


 その言葉に、背筋が自然と伸びる。

 試されている感覚は消えないまま、次に何を告げられるのかを待つしかなかった。


『前話した企画について覚えているでしょ? そのための試験として、三期生たちに事務所のスタジオを使って、配信をしてほしいんだ。事務所のスタジオを使うなんて、初めての試みだからね。よろこんでいいよ」

「え? 一期生や二期生の先輩たちは使ったことが無いんですか?」


 そんなものがあるのなら、先輩たちがもう使っているかと思っていた。


『ああ、それはね、つい最近できたから。一期生や二期生の頃には、まだ設備が整っていなかったんだ。だから、君たち三期生が最初の挑戦者になるわけさ』

「え?」


 つい最近できた? なら、それこそ先輩たちがするべきなのではないだろうか。


「何で僕たちが?」

『ティアが家から出てくるわけないでしょ。だから、一期生は無理。二期生は……我が強いからね、こういう初めての試みをやらせると、さすがにリスクが大きすぎるから。あ、でも、消去法ってわけじゃないよ。君たち三期生は、こういうことに適任だと判断したから提案したんだ。どう? やってみる?』


 「……僕たちが、適任……」


 言葉を繰り返しながら、胸の奥がざわめいた。

 消去法ではないと言われても、結局は押し付けられているように感じてしまう。


『アハハッ! もちろん、嫌なら断ってもいいよ。ただ、その場合は――君が言った必ず先輩たちのようになりたいって言葉、ちょっと軽く聞こえちゃうけどね』

 

 ……ほら、言質を取られてた。だから、嫌いなんだ。

 

「……」


 答えを出すまでの沈黙が、やけに長く感じられた。


「はぁ、わかりました。挑戦してみます」

『本当に? 良かったよ、了承してくれて。じゃ、日付と時間はまた連絡するから。またね』


 そうして、莉緒さんは電話を切った。

 言いたいことを、言いたいだけ言って。


「はぁ、嫌ではないんだけど……ちょっと気が進まない」


 大丈夫なのだろうか?

 もう……あの夢は見たくないのに。

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