ユイとベオ
これは、少し前――ユイとベオがコラボした時の話。
「今日のボクのコラボ相手は、最近デビューした三期生、月夜ユイだよ!」
「……よろしくお願いします」
:ええ⁉
:大丈夫?
:最初の先輩とのコラボが狂狼でいいの⁉
ユイは少し緊張した面持ちで挨拶を返す。
だが、ベオはそんな空気を気にも留めず、いつもの調子で畳みかけてきた。
「いやぁ、三期生ってまだ謎が多いから、今日はユイの素顔を全部暴いていくよ!」
「それなら、帰っていいですか?」
「アハハッ! 冗談だって、そんなに心配しないでいいよ。君が嫌がることはしないつもりだから」
「信じませんよ。ベオ先輩が口にする言葉って、信用できませんから」
「おお! ボクのことをよくわかってるじゃないか!」
:ほんと終わってる……
:いや、本当のことも言うよ。その中にちょっとだけ嘘を紛らわせるけど
:性格悪すぎだろ
:自覚あるなら直してくれw
「結局、今日は何をするんですか?」
「それはね、いろんなゲームで勝負しようと思っているんだ。勝負事って盛り上がるでしょ?」
「……嫌な予感しかしません」
「大丈夫大丈夫! 変なゲームとかは無いから、そこらへんは安心していいよ」
:ほんとに大丈夫か?
:まぁ、知っているゲームか、ルールがわかりやすいゲームしかしないでしょ
:ベオと勝負すると、めっちゃ煽ってきそうw
「最初は何にしようかな……。五目並べでもするかい?」
「それにしましょう。結構自信あるんで」
「おお、言うねえ。なら先手を譲るよ。君の実力を見せてくれ」
:自信あるのか
:ユイって結構万能だよな
:狂狼に痛い目を見せてやれ!
――――――――――――――――――――――――――――
「これで五戦五勝っと。おお、白星が五つ並んだよ。五目並べの勝ち方って、こういうことでいいのかい?」
「……うるさいです」
:狂狼強すぎだろww
:ユイが弱いわけでは無いんだけどな……
:ルミナがバグってるだけで、ベオも大概おかしいスペックしてるからな
:相手が悪い
「あれ? 自信があるって言ってなかったっけ?」
「……言った覚えがありませんね」
「『結構自信あるんで』――こんな音声が残ってるけど?」
「……AIの合成音声じゃないんですか?」
「アハハッ! さすがに、その言い訳は無理があると思うよ?」
:諦めなw
:俺らがちゃんと聞いてたから……
:どんまい
「ぐっ、別のゲームをしましょう」
「いいよ、何がいい?」
「じゃあ、この将棋で!」
「おお、良いのを選んだね。じゃあ、それにしようか」
――――――――――――――――――――――
「▲同飛成」
ベオの駒が金を取り、盤面に龍飛が現れる。
「△4一玉」
ユイは冷静に玉をかわす。まだ攻め筋は残っている。
「これで王手は外しました。次はこちらの番です」
「ふむ、落ち着いてるね。じゃあボクは……▲5一銀」
銀が玉の退路を塞ぐように進む。
「……厄介ですね。でも、△3三角成」
ユイが角を成り、攻めの形を整える。盤面は一気に緊張感を帯びた。
:ユイちゃん攻めてる!
:これは詰みまで持っていける流れだろ
:狂狼が押されてるの珍しいw
「おっと、これは危ないな。……▲2四龍」
ベオが龍飛を動かすと、ユイの攻め筋が一瞬で崩れた。
「えっ……」
「王手、そして次で詰みだね」
「そんな……」
:逆転きたあああああ
:ユイちゃん惜しかったのに
:狂狼の終盤力バケモンすぎる
:相手が悪いわこれは
「▲2三金まで」
ベオが最後の駒を打ち込み、詰みが完成する。
「これで六戦六勝。いやぁ、楽しい勝負だったよ」
「……楽しくないです」
盤面は静かに決着を迎えた。
ユイが優勢に見えたのはほんの一瞬。最後の最後で、ベオの読みの深さがすべてをひっくり返したのだった。
:でも、惜しかった!
:次は勝てるかもしれないよ!
「……一個聞きたいんですけど、最後の瞬間まで手を抜いていました?」
「そうだけど? だって、いい勝負をした方が面白いじゃないか!」
:え?
:手を抜いてた⁉
:あれで?
「あれ? もしかして、さっきのが本気だと思ってた感じ? ああ、ごめんね。ほんとのこと言っちゃって」
「……」
「どうする? ここで棄権したほうが、見栄えがマシになるかもしれないよ? まぁ、六戦六敗の地点で気にする意味はないかもしれないけどさ」
:煽りすぎだろw
:確かに、六戦六敗の地点で見栄えは良くないけどさぁ!
「……」
ユイはしばらく黙り込んだまま、盤面を見つめていた。
「おや? 本当に棄権するつもりなのかな?」
「……そんなこと、するわけないです。わたしが勝つまで、続けますよ」
低い声で返すユイ。その言葉には、悔しさと闘志が入り混じっていた。
「アハハ! いいねぇ! 君の諦めない所は好きだよ!」
「……好きとか言われても、嬉しくありません」
「そう? でもボクは本気でそう思ってるよ。ずっと前から、君のそういう所は気に入ってたんだからさ!」
:おおー!
:なんか急に熱い展開になってきたぞ
:褒めてるのか煽ってるのか分からんw
「次は、リバーシで!」
――――――――――――――――――――――――――
「これで、七戦七勝っと」
「……次は、テトラス」
――――――――――――――――――――――――――
「八戦八勝」
「……次は、チェス!」
――――――――――――――――――――――――――
「あれから、いろいろやって来たけど、これで十三戦十三勝だよ。心とか折れてない?」
:強すぎだろ……
:ユイも決して弱くないのに
:ユイもだけど、なんでこんなにたくさんの引き出しがあるんだよw
この差は何なのだろうか。何をやっても、どんな手段をとっても、莉緒さんに勝てる気がしない。
それに……ここまで戦ってわかったことだけど、莉緒さんは姉さんのような万能な天才じゃない。姉さんは、初めての時は弱いけど、その途中でコツを見つけて強くなっていった。
でも、莉緒さんは最初から強い。それは努力をして、今の強さを手に入れたという証だ。……本当に嫌だけど、それは私と同じタイプであり、完全な上位互換ということを示している。
「……大丈夫です。諦めたりはしませんから」
本当に性格が悪いし、嫌な思い出は大量にある。でも、その努力だけは尊敬できる。
「へぇ、諦めないんだ。……前から思ってた疑問なんだけど、何で諦めないの?」
:おい!
;それは言いすぎだろ!
確かに、私は諦めた経験なんてほとんどない。姉という天才に負け続けて、切り捨てたことはたくさんあるけど、姉を追い越すという目標は捨てたことが無い。
……唯一、諦めを知った瞬間があるとすれば、あの日からだ。
姉が私を庇ってせいで死んでしまい、残された私は自分を責め続け、努力することすら忘れてしまった。
勝ちたい、追いつきたい、追い越したい――そう願い続けてきた心が、あの日からは完全に折れていた。
でも、今は新たな目標がある。
それは、私を救ってくれてノアちゃんの隣に立つことだ。
ノアちゃんは今も、ひたむきに努力を続けている。
それは、ニヤさんという大きな存在を目標にしているからでもあり、そして――自分自身の夢を叶えるために、あえて本来なら向いていないはずのVtuberという世界へ飛び込んできたからだ。
その選択は決して楽なものではないはずなのに。
けれど、彼女は自分を変えるために挑戦を選び、夢へと近づこうとしている。
その姿は、とても輝いているように見え、私にとっての星となった。
けれど、そんなノアちゃんですら、辛い時や心が折れそうになる瞬間はあるだろう。
だからこそ、私はその時に隣にいて、支えなければならない。
それが、今の私にとっての使命であり、諦めない理由なんだから。
「わたしにとって、ノアちゃんは――夜空を照らす星です。だから、その星が揺らぎそうになった時には、隣にいて支えたいんです。それが、わたしが諦めない理由であり、ここに立ち続ける意味なんです」
そう言うと、莉緒さんは――大きく笑い声を上げた。
「アハハハッ! なるほど、そういうことだったんだ! やっぱし、ボクたちは似ているよ!」
「え……嫌なんですけど」
「方向性は全く違うけど、互いの原点がこんなにも近いだなんて!」
「あれ? この人、話聞いてない?」
: ユイの本心を知れてよかった。こんなにも、ノアのことを思ってたなんて……
:ユイは真剣なのにこの温度差よ
:これだから狂狼って言われるんだよ
:でも似ているって言葉はちょっと気になる
「さぁ、もう一度勝負を始めようか!」
「それには同意ですけど、急にどうしたんですか?」
「アハハ! 何でもいいじゃんか! こんなに面白いことが起きてるんだから、他のことはどうでもいい!」
「話が通じない……」
:駄目だこれ……
:過去一でおかしくなってね
:何時もおかしいからわかんない
「どうしたの? さっきのは口だけだった?」
「ああっもう! 次は、囲碁にしましょう! ルールはわかりますよね⁉」
「当然。さぁ、面白くなってきたよ!」
そうして、わたしたちはずっと戦い続けた。チェスも、将棋も、カードゲームも――気づけば数え切れないほどの戦いを重ねていた。
配信の時間は六時間を超え、勝敗の数は二十八戦二十八敗。
一度も勝つことがは出来なかった。
:いつまでやってるんだ……
:ユイは、大学生だろ……
「じゃあ、ここらで終わっておくかい?」
「ま、まだ!」
「いいや、ここで終わりだね。君は疲労もたまってるだろうし、これ以上戦っても勝ち目はないよ」
わたしは疲れ果てているのに、莉緒さんはまだぴんぴんしていて、このまま戦っても勝ち目はない。……というか、体力でもわたしが完敗していた。
「……じゃあ、いつかリベンジしますから!」
「そう? なら、楽しみに待っておくよ」
そうして、わたしと莉緒さんのコラボが、ついに幕を下ろした。
【コラボ】ベオ先輩と戦う!
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