反省
「ノアちゃん、本当にごめんね」
「……別にいいよ。僕も迷惑をかけたことがあるんだし、これで帳消しってことで」
まだタメ口に慣れないけど、何とか言葉を繋げる。
その瞬間、場の空気が少しだけ柔らかくなった。ただ――。
「先輩方は別ですけどね」
「「本当にごめん!」」
先輩方が謝ってくる。その謝罪からは、心の底からの後悔がにじみ出ていた。
「……まぁ、反省してるならいいです。それに、止めきれなかった僕にも責任がありますから」
「ノアちゃん、本当にごめんね。ただ、あの時言ったことは本し「ツバサ先輩?」――ひぃ!」
ユイの鋭い声が遮る。その瞬間、ツバサ先輩はびくりと身体をすくませた。
どうやら、あの時の出来事が本当にトラウマになっているらしく、ユイの怒った声を聞くだけで反射的に怯えてしまうようだ。
「あはは! またトラウマが出来たの?」
「うるさい! そもそも、あのハバネロの一件はヒナタのせいでしょ!」
「えーっ、面白いのに」
「食べ物に面白さを求めるな!」
「……一つ質問なんですけど、二期生って普段からこんな感じなんですか?」
そう言うと、ツバサ先輩が肩をすくめて苦笑した。
「そうだよ。ヒナタやシュウ、それにコウジは、話が通じない時なんてざらにあるからね。真面なのはアタシぐらい、しいて言うなら社長もだけど、あの人も結構ぶっ飛んでるし」
「え? ツバサちゃんも大概だと思うけど?」
「砂漠に言った人に言われたくない! ……はぁ、可愛い女の子と接することが出来ると思ったのに、どうして同期はこうなんだ?」
「……三期生でよかった」
「うん。私もそう思う」
一応、僕の同期にも癖が強い人はいるけれど、さすがに二期生ほど癖は強くない。
二期生の惨状を見てると、僕が三期生でデビューして本当に良かったなと思う。
「そう言えば、ノアちゃんは一期生とコラボしないの? ユイちゃんは前にコラボしてたけどさ」
そんなことを考えていると、ツバサ先輩がそんなことを尋ねて来た。
確かに、今まで一期生とコラボをしてこなかったけど、その理由は……。
「今のところは、コラボをする予定は無いですね。 ティア先輩は普通に断られそうだし、ルミナ先輩とのコラボはちょっと気が引けてて。ベオ先輩とコラボするのは、ユイの配信を見てたら、絶対に避けようと思いました」
「うん、それが良いよ。あの人とコラボするのはやめたほうが良い」
「あー、確かにベオ先輩って性格悪いしね。ヒナタはどう思う?」
「根は悪い人ではないと思うよ。よく菓子を配ってるし。ただ、合わない人には合わないと思うから、無理に関わらなくていいんじゃないかな?」
あの人は、二期生の人にもそう思われているんだ。まぁ、別に意外ってわけでもないんだけどさ。
「そう言えば、先輩方も企画のことを聞かされてるんですか?」
「うん、知ってるよ。確か……あれはベオ先輩が発案者だったはず」
「え?」
それは、予想外のことだった。
僕たちに説明するのは別の人でもいいはずなのに、なんで莉緒さんがわざわざ説明してくれたのか疑問を抱いていたけれど、まさかそんな理由だったとは思いもしなかった。
それならなんで、あの人は一~三期生を集めてコラボしようだなんて、言い始めたのだろうか。
「理由は知ってますか?」
「ううん、アタシは知らない。ヒナタは?」
「企画のことを今思い出したんだけど」
「……はぁ、興味が無いことも、少しくらいは覚えてほしいな」
莉緒さんの真意は、ここにいる誰もが知らないようだった。
いや、それは当然のことだ。まだ三回しか話したことが無いけれど、あの人が本心を全て言う姿が予想できない。それほどまでに、莉緒さんは掴みどころがない人だった。
「ま、気にするだけ無駄だよ。ルミナ先輩なら知ってる可能性が無くはないけど、それでも知らない確率の方が高いだろうし、理由を知ったところで何も変わらないんだからさ」
「……そうかもしれませんね」
僕は曖昧に頷いた。気にならないと言うと嘘にはなるけれど、これ以上探っても、新たな情報は出てこないということがわかりきっていたから。
「その企画がいつになるのか知っていますか?」
そんなことを思っていると、ユイがツバサ先輩にそう尋ねていた。
「ごめんね。アタシもそこまで興味が無いからよく知らないんだ。でも、七月ぐらいじゃない? 準備があるから今すぐってわけにもいかないだろうし、夏休みと合わせることが出来れば、視聴者も集まると思うしさ」
「今は五月の中旬ですけど、そこまで先になるんですか?」
「まぁ、視聴者たちが三期生のキャラについて理解する必要もあるし、そんなもんじゃない?」
「……なるほど。確かに、今のままじゃ僕たち三期生のことを知らない視聴者も多いですし」
「そうそう。だから、七月くらいがちょうどいいんだよ」
ツバサ先輩は軽く笑って肩をすくめた。
「だからさ、まだ時間もあるし、いろんな先輩とコラボしてみたら?」
「じゃあ、明日わたしとコラボしようよ!」
「馬鹿、アタシたちはしばらく後だよ。マネージャーから叱られるのは確定しているんだし」
「……そうですね。今は準備期間みたいなものですし、いろんなことに挑戦してみます」
僕はそう答えながら、心の奥で少しだけ期待していた。
七月の企画がどうなるのかは分からない。けれど、それまでに先輩たちとコラボを重ねていけば、きっと何かが見えてくるはずだ。
「じゃあ、ここらで終わりにしよっか」
ツバサ先輩の言葉に、全員が小さく頷いた。
「次はもっと気をつけてくださいよ」
「ごめんね、今度は迷惑かけないから」
「アタシも気を付けるよ」
「たぶんわたしは大丈夫だよ」
「……全く信用できない」
それぞれが反省とも決意ともつかない言葉を口にする。
配信は終わっているのに、まだ少しだけ熱の残る空気が漂っていた。
七月の企画。
その時、僕たちはどんな姿を見せられるだろうか――。
胸の奥で静かに期待と不安が交錯していた。
ツバサ(可愛い子と関われるのなら何でもいい)
ヒナタ(三日後のことまでしか考えられない)
このような理由があって、企画に対しての興味が薄くなってます。
……大丈夫なのか? この先輩たち




