事務所2
「先輩と、ですか?」
予想外の言葉に、思わずもう一度聞き返してしまう。
僕たちがデビューしてからしばらくしたこともあって、三期生のファンたちが定着し、安定した同接を稼げるようになったけど、それでも先輩方とコラボするのは、まだ早いのではないだろうか。
「そうだよ。でも、君たちが不安になるのもよく理解できる。だから、理由も説明するよ」
そうして、莉緒さんは語り始めた。
「実はね、一から三期生の全員でコラボをしないかって計画が上がったんだ。ほら、ボクたち一期生やあの二期生は、協調生ってものが無かったから、今まではこんなことが出来なかったんだけど、君たちのおかげで目処が立ったから」
「自覚あったんですね」
「客観的な評価は必要だからね。そんなことより、この計画を進めるにあたって、一つ問題がある。それは、三期生とボクたち一二期生の関わりがないことだ。人間である以上、相性というものもあるし、緊張して本来の自分が出せない可能性もある。どうかな? やってみる気になった?」
確かに、その提案は悪くない。前もって先輩方と関わることができれば、先輩と関わることになれる可能性もあるし、自身のチャンネルに新たな人を呼び込むチャンスになる。
でも、その先輩方が問題だ。僕たちの先輩は癖が強くて、集団ならともかく一対一で関わるのは……少しだけ、難しい。
「もちろん、ボクとコラボをしてもいいよ。特に、零やノアは何回も関わってるから、練習としていいんじゃない?」
「絶対に嫌です」
「僕も遠慮しときます。話したのはこれで、3回目ですし」
「えぇ? 零だけじゃななくて、ノアにも嫌われてるの?」
莉緒さんは驚いたように声を上げていたが、その表情なは驚いている様子は無く、むしろ僕たちの返答を予想していたような気がした。
「まぁいいや。あと、コラボしたい先輩がいるなら、ぼくに連絡してね、最大限力になるからさ。それで、どうする?」
いい提案だけど、どうするべきなのかな。
「うーん、にゃーは結構ありだと思うにゃ。確かに先輩たちは癖があるけど、それはにゃーも同じだし」
「それなら俺も同じかな。ニヤとの最初のコラボもアレだったし、きっとなんとかなるはずだ」
「マサがそういうなら、我もそうしよう。良いチャンスになるしな」
「ノアちゃんはどうする?」
どうするべきなんだろうか……?
『理想のボクにならないと』
今朝見た夢が、もう一度蘇ってくる。
それは、誓いめもあり、呪いでもある。だから、それに対して嘘をつくことが出来なかった。
「僕も、挑戦してみます」
「それなら、私もやってみるよ。挑戦するからこそ、成長できるわけだしね」
ユイさんは、僕を気遣ってくれていなのか、答えを言うことを待ってくれていた。
その優しさが、少し嬉しい。
「そうか、君たちがそう決めたのなら、ボクに異論はない。じゃあ、今日はここまで、あとは誰が誰とコラボするのか決めといて。本当に、誰でもいいから。社長でも、ティアでも。じぁあね」
そう言って、莉緒さんは部屋から出て行った。どうやら、誰が誰とコラボするのかは興味が無いようで、むしろ先輩とコラボするという行為に対して満足しているように見えた。
「はぁ、あの人は掻き乱すだけ掻き乱して、あとは放置するんだから……。気にするだけ無駄だけどさ」
「雰囲気さえなければマシな人だったのにゃ? いや、まだ本性を見せなかっただけにゃね。ユイトはどう思ったのにゃ?」
「同感だ。あの人は善意ではなく、自身の目的のために提案してきたのだろう。目的がわからない以上、まだ評価が出来ない」
「ユイトがそう言うならば、それが正しいんだろうな」
そうして、それぞれ莉緒さんに対する感想を言った後、誰とコラボするのか相談し始めた。
「みんなどうするにゃ? にゃーは、ヒナタ先輩がいいにゃ。多分、相性がいいと思うにゃから」
「そうですね。むしろ、ニヤさんぐらいしか、あの人に対応できないと思うので、それが最善だと思います」
ヒナタ先輩というのは、初配信を砂漠でするような、好奇心と行動力の擬人化のような人であり、そばにいると溶けてしまいそうになるほど明るい人だ。
「なら、俺はコウジ先輩でいいか? 女性と一対一で絡むのは、今のうちはやめた方がいいと思うから」
「それなら我は社長とコラボしよう。何故だか似た人物のような気がするからな」
そうして、男性陣が決定していく。
「ノアちゃんはどうする?」
「それなら……僕はシュウ先輩とコラボしたいです。たぶん、一番相性がいいと思うんで」
「確かにそうだね。……じゃあ、わたしは……心底嫌だけど、莉緒さん……ベオ先輩にするよ。良くも悪くも話しやすい人だし、前の配信で会ったことがあるって言及しちゃったから」
「が、頑張って下さい……」
こうして、僕だちがコラボする相手が決まっていった。まだ、正式に決まったわけではないし、日程の調整もあったりするけれど、しばらく後にはきっとコラボすることになるだろう。
いつになるのかはわからないけど、今のうちに僕は覚悟を決めた。……みんなを笑顔にする理想のボクになるために。
「じゃあ、帰ろっか」
ユイさんの言葉に、僕たちは自然と立ち上がった。
さっきまで張り詰めていた空気は少しずつ解けて、廊下に出る頃には、いつもの雑談が戻ってきていた。
窓の外には夕暮れが広がっていて、街の灯りがぽつぽつと点り始めている。
今日の出来事は、きっとこれからの僕たちを大きく変えていく。
それでも――今はまだ、仲間と並んで歩けることが嬉しかった。
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「まさか、ノアにも嫌われていたなんてね……。でもいいさ、全ての人に嫌われる覚悟は疾うの昔に決めていたから」
一匹狼は、誰もいない廊下を歩いていく。




