第二回三期生コラボ4
「マサさん、結果がどうなってもいいんで、自分がしたいなと思っている案を提案してください」
ボクがこういうと、マサさんは一瞬だけ押し黙った。
「……ノアちゃん、それはどういう意味?」
「言葉通りの意味ですよ。それ以上でも、それ以下でもない。ボクたちはマサさんの提案に従うだけですよ」
「いや、俺じゃなくて……例えば、ニヤさんの提案にした方が……」
「あぁー、寝不足で頭が回らないにゃ~」
「ということですので」
「いや……わざとらしすぎるだろ」
:wwww
:演技下手すぎだろw
:ゲームがうまくても、演技がへたくそな猫w
チャット欄の笑いが広がり、緊張していた空気が少しだけ緩んだ。
けれど、ボクは真剣なまなざしを崩さない。
「マサさん。ふざけてもいいですけど、今は本気の案を聞かせてください。ボクたちはそれに従います」
「……失敗しても?」
「いいですよ。失敗なんて、誰だって経験してますから。あの一期生たちでもね」
そう言うと、マサさんは黙り込んで、しばらく視線を落とした。
いつもの軽口も、ふざけた笑みも浮かべない。
ただ、唇を噛みしめて、何度も言葉を飲み込んでいるようだった。
「……本当に、俺の案でいいのか?」
「もちろんです。僕たちは信じます」
「にゃーもだにゃ。失敗しても、笑って済ませるにゃ」
その言葉に、マサさんは小さく息を吐いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「それなら、一つ提案がある。全員が生存するのではなく、生き残るのは物資を持っている人だけになるけどな」
「……物資を持っている人だけにゃ?」
「ああ、ヴォーデンは音に反応する。だから、誰かが囮になってわざと倒される。その人は近くのベッドでリスポーンして、ヴォーデンの注意を引きつけ続ける。残りのメンバーは物資を抱えて、静かに脱出するんだ」
「でも、ベッドの近くにしか復活しないから、大して物資を持ったメンバーと距離を開けることが出来ないにゃよ」
「ベッドが一つだけならな。でも、この古代都市は羊毛が生成されている。その羊毛を使って、ベッドを大量に作り、一つ一つ遠くの方へ置いていくことで、リスポーン地点を物資を持ったメンバーと離れさせていくんだ」
その考えは、ボク――そしてニヤさんすら、思いつかない者だった。
チャット欄も一瞬、静まり返る。
:え、そんな方法あるの?
:ベッドを鎖みたいに並べるってこと?
:いい意味で頭おかしいだろw
「……確かに、羊毛なら大量にあるにゃ。ベッドを作って、少しずつ遠くへ置いていけば……囮役の復活地点を伸ばせるにゃね。ただ、死んでしまうと。持ち物が周りに飛んで行ってしまうから、その隙に物資を持ったメンバーの方に行く可能性があるにゃ。……よし、それならにゃーも囮になるにゃね」
「えっ、ニヤさんが……?」
ボクは思わず声を上げた。
チャット欄も一斉にざわめき始める。
:マジで猫が囮役w
:勇気あるけど危険すぎるだろ…
:PS的には適任だろうけど……
:ニヤ、かっこいい!
「でも、囮役は何度も倒されるんですよ? そんな危険な役を、ニヤさん一人に任せるわけにはいきません」
「ああ、俺の案を出したのは俺だ。なら、囮役は俺がやるべきだろ」
「あのにゃー、全員が囮になってどうするにゃよ。ただ、この方法は一瞬の隙で崩壊する可能性があるから、囮は少なくとも二人以上はいるにゃ。にゃー無しだと三人、にゃーありで二人ってところがいい塩梅にゃね」
「……二人か。なら、俺とニヤでやる」
「ちょっと待ってください。マサさんが囮になったら、作戦を指揮する人がいなくなりますよ!」
「それなら、ここに適任がいるよ」
ユイさんの声が、静まり返った空気を切り裂いた。
その瞳は真っ直ぐで、迷いの色は一切なかった。
「ユイさんが?」
「ううん。わたしじゃない。わたしでもある程度出来るかもしれないけど、本体こんなまとめ役って、わたしが適任じゃないからね。ちょっと前まで、わたししか出来るような人がいないって思ってたけど、案外すぐそばに適任がいた」
「何を言って……」
ボクは、ユイさんが何を言っているのか理解できなかった。今までボクたち三期生を纏めていたのはユイであり、誰もがそれを当然だと思っていたからだ。
「わたしはね、どちらかというと、個人技の方が得意なんだよ。身近な天才に追いつこうとしていたせいで、周りとの温度差が常にあったから。だから、まとめ役って言っても、みんなの力を引き出すことは出来ていなかった。そうだよね……ユイトさん」
「……ッ」
急に、名前を呼ばれて、ユイトさんは息を詰まらせていた。
でも、その言葉を否定することは無く、ずっと黙っている。
「わたしは、ずっと目標だけを見ていて、周りを見てこなかったでも、ユイトさんは違うはずだよ。わたしとは違って、ずっと周りを見てきた。天才と比べて卑下していたわたしと、仲間の長所を見て卑下していたユイトさん。似ているようで、根本は全く別物なんだ」
暗闇の奥で、ヴォーデンの低い唸り声が響く。
空気が震え、誰もが息を呑んだ。
「何となくだけど、思ってたんだ。ユイトさんは、三期生の長所を全部理解して、ずっと自分と比べて来たから、受け身に見えた。でも、それは他者を正しく見ていた証拠だよ。――それが出来る人は、指揮官にこそ相応しい」
「……」
ユイトさんは唇を噛み、拳を握りしめる。
やがて、震える声で口を開いた。
「……そうだ。我は比べてばかりで、前に出るのが怖かった。けど……その分、みんなの強さを知っている。ニヤの勇気も、マサの奇策も、ユイの努力も、ノアの優しさも。我は自分を誇れない。でも、仲間を誇ることはできる」
:ユイトが本音を言った…
:仲間を誇るって、熱すぎる
:凡人だからこそ見える景色か
「だから……指揮は我が執る。――これは、証明だ。平凡な我でも、成し遂げられるってことを」
その言葉に、張り詰めていた空気が一変した。
ヴォーデンの足音が近づく中、仲間たちの視線がユイトに集まる。
「異論はあるか?」
「先ほど言った通りです」
「にゃははっ! 無いにゃよ」
「ああ。ユイトなら、俺の案を任せれる」
みんなは、ユイトさんに全ての信頼を寄せていく。
「ノアは?」
まだ不安はある。
けれど、先ほどの宣言を聞いた以上――答えは一つしか存在しない。
「ボクも、ユイトさんを信じます。貴方なら、みんなを導くことができる」
その言葉に、ユイトさんは小さく頷いた。
ヴォーデンの足音がさらに近づく。
緊張が極限に達する中、ユイトさんは初めて指揮官として声を張り上げた。
「よし、作戦を開始する! ニヤ、マサは囮役。ノアは物資を抱えて脱出ルートを確保しろ。ユイは支援役兼保険だ!」
:ユイトが指揮を執った!
:凡人から指揮官へ…熱すぎる展開
:三期生、ここからが本番だ!
仲間たちは一斉に動き出す。
その瞬間、三期生は本当の意味で一つになった。




