話し合い
何故このような発言をしたのか。その理由は、第二回三期生コラボが始まる前まで遡る。
「というわけで、僕は莉緒――ベオさんにこんなことを言われたんです」
「なるほどなにゃー。孤独な猫――確かに、にゃーのことをよく表してるにゃ。ただ、会ったことも、話したことも無いのに、ここまで正確に評価できるなんて、一期生の狂狼は恐ろしいにゃね」
「あの人の他者への評価は、癪ですけど大抵正しいんで……」
コラボの前に、僕とユイさん――そして、ニヤさんは三人で話し合いのようなことをしていた。
「それにしても、弱さを隠している子供に、平凡な凡人――どっちがどっちの評価なのかわからないにゃね」
「ええ、私から見たら、あの二人にはこのどちらの評価も正しくないように思えてしまって、ニヤさんに相談したというわけです」
「でも、弱さを隠している子供……平凡な凡人……。どちらにしても、あまり良い意味ではないですよね」
「にゃーはそうは思わないにゃ。弱さを隠すのは、生きるための知恵だし、凡人であることは、逆に強みになることもあるにゃ」
「……強み、ですか?」
「そうにゃ。特別じゃないからこそ、出来ることだってあるにゃよ。それについては、狂狼だって理解しているはずにゃ」
「確かに、あの人は全員に強みがあるって言ってましたね」
強み――それは、なんのことなのだろうか。ニヤさんの孤独な猫はともかく、弱さや平凡といった言葉に、良い評価が含まれているようには到底思えない。
「まずは、あの人たちの印象をあげていきませんか? そうすれば、別の一面も見えてくるかもしれませんから」
「そうにゃねー。でも、にゃーから見たら、あの二人はふざけてばかりの人ってイメージしかないにゃ」
「私も同じです」
ユイさんと、ニヤさんがそんなことを話している。
けれど、僕はそのようには思えなかった。……少なくても、マサさんとユイトさんの本質は、全くの別物のように思えたから。
「僕は、そう思いません。少なくとも、ユイトさんは自分からふざけたことはなかったはずです」
そうだ。ユイトさんは自分からふざけていたことなど無かった。
話し方はあれだけど、クリーハーに爆発された時も、マサさんと殺し合ってた時も、自分からそう動いたのではなく、他者から仕掛けられたことに応じただけだった。
「それに、マサさんはふざけていますけど、面白いからそうしているんじゃなくて、何か別の理由があるような気がします」
自分の力を隠すため……莉緒さんは、マサさんの行動の意図をそのように表現していた。
けれど、その自分の力を隠すとはどういうことなのだろうか。
マサさんの行動は、ニヤさんとは違う。ニヤさんは、予想外の行動ばかり続けていたけれど、行動から自身の能力の高さがにじみ出ていた。建築もかなり上手であり、集めた物も珍しい物ばかりだった。
そして、マサさんは……言い方が悪いけれど、僕たちに対して、プラスになる行動はしていなかった。
ユイトさんを巻き込んで、殺し合いを続けていたり、みんなで話しているときもふざけてばかりで、自分から話を進めることはしていなかったはずだ。
その理由は……。
「失敗するのを、当たり前にするため……?」
「にゃ? それはどういうことにゃ?」
「つまり……マサさんは、常にふざけることによって、誰にも頼られないようにしているんじゃないかって」
そう。あのコラボを得て、僕たちはみんな――マサさんは面白いけど、重要な役目を任せるにはふさわしくない。そんな印象を抱いたはずだ。
この考えが正しいとするならば。
「弱さを隠している子供――それは、マサさんのことを指しているはずです」
「失敗を恐れている、か。マサは面白い人物だし、失敗なんて誰にもあるものなのだから、恐れる必要はないはずなのにゃ」
そう、それが謎なんだ。失敗を恐れる人はいるけれど、ここまで失敗を嫌うなんて、あまり想像できない。
「……もしかしたら、そこまで失敗を恐れる理由は、マサさんの考え方が影響しているかもしれません」
すると、ユイがそんなことを呟いた。
「マサさんは、発想力が高いのかもしれません。前のコラボの時も、ふざけていばかりでしたけど、よく考えれば普通なら思いつかないことばかりしていましたから。だけど、それは裏を返せば奇策ばかりしているということ、王道の行動だと失敗しても、あまり責められることは無いでしょうが、奇策だと「余計な行動」として責められるかもしれません」
「確かににゃ……。王道なら“仕方ない”で済むけど、奇策は失敗したら“余計なことをした”って言われるにゃね」
「そうです。だからマサさんは、常にふざけているように見せて、自分の発想を本気じゃないと隠しているんじゃないでしょうか」
「……なるほどにゃ。そうすれば、失敗しても笑い話になる。責められることもないにゃ」
「でも、それって逆にすごいことですよね。発想力は簡単に鍛えられるものじゃないはずですから」
ふざけてばかりに見える行動も、ただの無意味ではなかった。奇策を恐れ、失敗を恐れ、それでも仲間の空気を壊さないように――マサさんは、自分の強みを隠しながら生きているのかもしれない。
「なら、平凡な凡人って言うのは……」
「きっとユイトのことにゃね。あの口調は特徴的にやけど、行動は常識の範囲内だったにゃから」
「むしろ、あの特徴が無いからこそ、口調で特徴を作ろうとしているんじゃないでしょうか」
確かに、あの厨二病的な口調は、かなり目立つ特徴になるだろう。
そんな目立つ部分があれば、平凡なところを隠すことが出来るだろう。
ただ、そこに強みはあるんだろうか……?
「ただ、ベオさんが言っていた強みって何のことなんでしょうか?」
「そうにゃよね。平凡だけだと、強みになることは無いにゃ……」
そうやって、僕とニヤさんが悩んでいると、少しだけ考えこんでいたユイさんが口を開いた。
「その件は、私に任せてくれませんか。その強みについて、少し心当たりがあります」
それは、ユイさんだからこそ気付けたのかもしれない。
僕は、早熟と言えるほど、物事の習得速度は速い方だし、ニヤさんも友達を置いて行ってしまうほど、習得速度が速かった。
けれど、ユイさんは常に天才と称されている姉が目の前にいて、自身の凡才さをずっと痛感していたからだ。
「それは何なのにゃ?」
「まだ確証が無いから言えません。だけど、私に任せてください」
ユイさんの声音は、いつになく真剣だった。
その瞳には、確かな自信と、どこか過去を思い出すような影が宿っている。
「……ユイがそう言うなら、にゃーは信じるにゃ」
「ええ、僕も。ユイさんが気付いたことなら、きっと意味があるはずです」
僕とニヤさんがそう答えると、ユイさんは小さく頷いた。
けれど、それ以上は語らなかった。まるで、今はまだ言葉にしてはいけない秘密を抱えているかのように。
「これで話し合いは終わりにしましょう」
「そうにゃね。次のコラボで、あの子たちの強みを引き出して見せるにゃよ」
そうして、話し合いは終わった。
「全員が、笑えるようになってほしいな……」
僕の原点を一人呟く。
その願いが、叶うように。




