安堵
「ふぅー、緊張した」
初配信が終わり、モニターの光だけが残る部屋に、ノアの小さな声が落ちた。
胸の奥でドキドキと鳴っていた鼓動は、まだ完全には収まっていない。
「……でも、楽しかったな」
思い出すのは、流れ続けたコメントの嵐。
こんな僕のことを見てくれる人がいると思うと、胸の奥が温かくなってくる。
でも、油断はしてはいけない。すぐに飽きられて離れていく可能性もあるし、期待に応えられなかったら、あっという間に忘れられてしまうかもしれない。
しかも、企業勢だから、結果が求められている立場なのだ。こうしている間にも、同期たちは着実とファンを増やしているし、ぼーっとしている暇なんて無い。
「うーん、次の配信はどうしようかな? 歌……歌うのは好きだけど、まだ勇気がいるし。ゲームなら気楽にできるけど……いいジャンルが思いつかない」
普段の僕がしているゲームは、ノベルゲームやソシャゲ、それにFPSなどだから、二回目の配信に向いていない。
まぁ、FPSならインパクトを持たせることが出来るけど、その分反感を買う可能性もあるから、それを使うタイミングは見極める必要性がある。
「……よし、次は雑談にしてみようかな。ちゃんと出来るか心配だけど、何とかなるでしょ」
そう呟くと、少しだけ肩の力が抜けた。
配信はまだ始まったばかり。
不安もあるけれど、灯火のみんなが見守ってくれる限り、きっと前に進める。
「次も、みんなに会えるのが楽しみだな」
そう呟いて立ち上がり、配信部屋から出ていく。
廊下に出ると、急に静けさが押し寄せてきた。
さっきまで耳に残っていたコメントのざわめきが嘘みたいに消えて、家の中には自分の足音だけが響く。
キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
「……あ、スーパーに行くの忘れてた」
結局、夜遅い時間だけど、コンビニまで弁当を買いに行った。
買ってきた弁当をテーブルに置き、ノアは小さく手を合わせる。
「いただきます」
一口食べると、ようやく張り詰めていた緊張がほどけていく。
「……ふふ、やっぱりお腹空いてたんだ」
向かいの席は空っぽ。
けれど、さっきまで画面の向こうにいた灯火のみんなのことを思い出すと、不思議と寂しさは薄れていった。
「次は……どんな話をしようかな」
箸を動かしながら、ノアは小さく笑った。




