裏話
事務所の一室、そこには一期生のベオ・オーリスとルミナ・セレスティア――莉緒と冴が、ノアのコラボ配信をモニター越しに見ていた。
「アハハッ! やっぱりあの子は気付いてくれた! よかったよ、ボクの見る目は間違ってなかった!」
「うるさい。もっと静かに見ることが出来ないのか?」
莉緒は椅子の背にもたれ、足を組みながら楽しげに笑っている。対照的に、冴は腕を組み、冷ややかな視線を画面に注いでいた。
「そんなことを言わないでよ。ほら、今日はチョコケーキを作って来たんだからさ。お一つどうだい?」
「ああ、一つ貰おう」
冴は視線をモニターから外さずに、差し出された皿を受け取った。
フォークで小さく切り分け、口に運ぶ。その仕草は無駄がなく、感情の揺らぎも見せない。
「……悪くない。甘すぎないのは評価できる」
「アハッ、やっぱり冴は正直だね。相変わらず褒め言葉が少なすぎるけど」
莉緒は肩をすくめ、楽しげに笑った。
その笑みは柔らかいのに、瞳の奥には獲物を見定める狼の光が宿っている。
「ところで、冴から見てニヤの動きに特筆すべきことはあったかい?」
「評価すべき所は無数にあった。一つ一つの動きに、何度も試行錯誤をした形跡があり、無駄が削ぎ落とされている。ただの才能ではなく、積み重ねの結果だ」
冴の声は淡々としていたが、その言葉には確かな重みがあった。
「へぇ、冴がここまで評価するなんて、よっぽど凄いんだねぇ。まぁ、どうせ冴にも出来るんだろうけどさ」
「当然だ」
冴の即答に、莉緒は目を細めて笑った。
まるで、それでこそ冴だと言うように。
「それで、何故わざわざ私を呼んだ? 自分一人で見ればいい話であろう?」
「たまには、一期生で集まって後輩の配信を見るのもいいじゃないか! どうせ、あの子は誘ってもここに来ないんだから、冴に声を掛けるのは当然のことだよ!」
「それで誤魔化せると思っているのか?」
「いいや、全く。この程度の嘘で、冴を誤魔化すことが出来るだなんて、一ミリたりとも思ってないよ」
莉緒はフォークを弄びながら、愉快そうに笑った。
その声音は軽やかだが、瞳の奥には鋭い光が宿っている。
「ならば、何故だ」
「決まってるだろう? ボクの目的のために、冴の反応を見る必要があっただけだ」
「目的?」
「そう、目的。ただ、冴ですらボクの目的に気付くことは出来ない! いくら君との付き合いが長くても、いくら君が天才だったとしても、ボクという狂人の頭の中を除くことは出来ないのだから」
「……相変わらず大仰だな。自らを狂人と呼んで悦に入るのは、お前の悪癖だ」
冴は淡々と告げ、フォークを皿に置いた。
その声音には揺らぎがなく、氷の刃のように鋭い。
「悪癖? アハハッ、そうかもしれないね。でも、狂人だからこそ見える景色もあるし、行動を予測されることなど無くなるんだよ。ハハッ、本当にいいことだらけだよねぇ――狂人になるってことは!」
狂気を孕んだ莉緒の笑い声が、部屋中に響き渡る。
「愚かだな」
しかし、その笑い声を、冴の冷たい声が切り裂いた。
「狂人を気取るのは勝手だが、結局は自分を正当化するための方便に過ぎん」
「ふーん、冴はそう思うんだ。……まぁ、いいや。またね、ボクは帰るよ――これから、大事な用があるんだ」
扉が閉まる音が響き、部屋に静寂が戻る。
冴はしばらく無言のままモニターを見つめていた。
配信はとっくに終わっていて、画面は暗闇に変わっている。
「昔から変わったやつだったが……何がお前を変えたんだ? 莉緒」




