猫塚ニヤ4
「さぁさぁ、次が今日の配信で最後に覚えてほしいことにゃよ!」
「えっ、ま、まだあるんですか!? もう頭がパンクしそうなんですけど……!」
:ラスト課題きたw
:ノアちゃんの悲鳴助かる
:ここまでで十分成長してるのに、さらに詰め込む先生w
:先生より距離が近いから、姉って感じがする
「最後は、フレイムとの戦い方にゃ!」
「フ、フレイム!? スポナーから湧いてくる、火の玉飛ばしてくるやつですよね!? あれと装備無しで戦うんですか⁉」
「耐火のポーションがあるから、大丈夫にゃ。覚えるのは、フレイムロッドの効率のいい集めかたぐらいにゃから」
そう言って、ニヤさんは要塞をどんどん進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備が……!」
慌てて追いかけるボクの前で、ニヤさんは迷いなく通路を進んでいく。
:ニヤ、スパルタすぎるw
:ノアちゃんの声裏返ってるw
:でもフレイム戦は見応えあるぞこれ
そうして、たどり着いたのはスポナーがある場所。
そこは、今まで歩いていたところとは違い、マグマの海の上で、天井なんてものは存在しなかった。
「ベッド爆破とかしないから、無いとは思うにゃけど……。地獄絵図になるかもしれないから、頑張れなのにゃ! 」
「頑張れって、無責任なことを言わないでくださいよ!」
そんなことを話していると、さっそくスポナーからフレイムが湧いてしまう。
ゴォォ……と炎が渦を巻き、フレイムが宙に浮かび上がる。
その数、ひとつ、ふたつ……三体!
「あ、運が無いにゃね」
「そんなこといわないでください!」
「大丈夫、耐火のポーションがあるなら、たぶん問題ないにゃ!」
:たぶんw
:不安だw
「たぶんって、何ですか!」
「そんなことより、フレイムはHPが♡10個なのにゃ。その体力は、鉄斧で通常一発とクリティカル一発で倒せるのにゃ。最初は通常にした方が、ノックバックしなくて楽にゃよ!」
「そ、そんな冷静に言われても……!」
フレイムたちがぐるぐると回転し、火の玉をチャージしている。
心臓がバクバクと鳴り、手汗でマウスが滑りそうになる。
「……っ、しまった!」
焦りでエイムがずれ、振り下ろした攻撃は空を切った。
その隙を逃さず、三体のフレイムが一斉に火の玉を放ってくる。
「……あれ、熱く……ない? そっか、耐火のポーションを飲んでたんだ……!」
けれど、それはダメージを防ぐだけ。敵を倒せるわけでもないし、永遠に無敵になるわけでもない。
画面上に映る数字――一分三十七秒。それが、ボクが生きることが出来る時間だ。
「……逃げてるだけじゃ、終わっちゃう……!」
自分に言い聞かせるように呟き、斧を握り直す。
:ノアちゃん覚悟決めた!
:ここから攻めるのか⁉
今度は外さない。しっかりと狙いを定めて斧を振るう。
でも――
「あれ?」
ボクの攻撃は、フレイムたちに届かない。
フレイムたちは、上空に飛び立ち、ボクの手が届かない所から見下ろしていた。しかも、そのうちの二体はマグマの海の上まで移動していて、そこに行こうとしたら、ボクはきっと落ちてしまうだろう。
この状態を巻き返すには、ブロックを使わないといけない。でも、そんなことをしていると、耐火のポーションの効果時間が切れて、ボクは瞬く間にやられてしまうだろう。文字通り、火の中に入る夏の虫になって。
「どうすれば……」
今日は、致命的に運が無い。
さらに、スポナーから三体のフレイムが湧き、ボクのことを囲んでいく。
:は⁉
:運悪すぎだろw
:上限に達したから、もう湧かないけど……初心者には厳しい
:初心者じゃなくても厳しいわ!
「うそ……」
「ノアちゃん、これは初心者には厳しいから、いったん下がらないかにゃ?」
「いったん……下がる……?」
確かに、こんな状況で戦い続けても、生き残ることは難しいだろう。逃げることは恥じゃないから、ここから逃げるべきだ。
なのに――ボクの頭の中にあったのは、全くの別のことだった。
(初心者には厳しい? こんな状況は、上級者でも厳しいことには変わりないと思うけど、それでもそんなことを言うってことは……)
今まで、ずっと疑問に思っていた。三期生全体でのコラボでもそうであったように、普段の彼女の配信は、誰も予想していたにような奇行ばかりしていた。でも、今日の配信は、何一つおかしいことをしておらず、むしろまっとうに教えてくれている。それはきっと、普段の行動はわざとしていることで、今の――真面目なニヤさんも、彼女の一面なのだろう。
もしそうだとするならば、何故普段はふざけているのだろうか。そのために、少し記憶を遡ってみると、案外答えに近づくことが出来た。
前のコラボで、ニヤさんが集めて来た物は、どれも珍しい物ではあったが、建築には使えないモノばかりで活躍したとは言えない。けれど、それだけものをあの短時間で集めることが出来たこと、それにあの建築センス、優秀さの片鱗はかなりあった。
今回のコラボだってそうだ。ボクに教えてくれたことは、難しいことばかりだったし、ボクがガスドの戦いで死んでしまった後、戻ってくるまでに三体ものガスドに襲われながら生き残り、それに加えて耐火のポーションまで手に入れていた。
しかも、この要塞でも、ボクと違ってニヤさんは耐火のポーションを使っていないのに、今この瞬間まで生きている。こんなこと、ただの上級者でも難しいだろう。
前に、零さんと喫茶店で話した時のことを思い出す。
『冴さんと莉緒さんは、姉さんの同級生で、二人とも姉さんと同じように――とくに冴さんは成績も部活動もずば抜けていて、周りから特別扱いされていた』
それは、裏を返せば誰も近づいてこなかったということ。そして、悪い方向に転べば――嫉妬のようなものを向けられうるということもあるはずだ。
最後の人ピースは、ほんっとうに癪だけど、莉緒さんの言葉――孤独の猫、だ。孤独――この言葉が、ボクの推測の正しさを証明してくれる。
(それなら、ボクのすべきことは一つしかないよ。それに、もとから目指していたことを口にするだけだから、大して難しいことでもない)
「ニヤさん、ボクは逃げないことにしました。だって、ここで逃げたら、ニヤさんに追いつけなくなると思っちゃったんで」
一瞬、フレイムの炎よりも強く、ニヤさんの瞳が揺れた気がした。
「もちろん、ニヤさんがみんなが思っているよりも、ずっとすごい人だってことは分かってますから。それをわかってて、追いつくと宣言したんです」
:え?
:どういうこと?
チャット欄に、混乱の言葉がちらほらと上がっている。それもそうだろう――意味が分からないことを言っている自覚はあるんだから。
でも、そんなことは関係ない。ボクが、ボクであるために、しなくてはならないことを、やらなければならないのだから。
「ノアちゃん……」
背後でそんな声がする。でも、今は振り返っている時間なんて無い。
――三十六秒。
それは、耐火が消えるまでの残り時間。
この少ない時間で、ボクは証明して見せる。
「よし……行くよ」
フレイムに向かって、走り出す。
『鉄斧で通常一発とクリティカル一発で倒せるのにゃ』
教えは、しっかりと頭の中に染みこんでいる。
まずは、一発――
:おおおお!
:やっと、当たった!
:あとはクリティカル!
そして――地面を踏みしめ、空へ飛び跳ねる。
「やぁぁっ!」
ガキンッっと、重い音が鳴り響き、白い煙となって、この世界から消えていく。
:きたあああああ!
:クリティカル決まった!
:ノアちゃん初撃破!
:ロッド落ちてるぞ!
「次っ!」
――残り十九秒。後一体やれるかどうか。でも、諦める理由になりやしない。
そんな時、目の前に人影が立った。
「ニヤさん……?」
「にゃははっ、ノアちゃんにこんなことを言われるとは思ってなかったにゃ。ユイちゃんが気に入っているのもよくわかるにゃよ」
こんなことを言っている間にも、フレイムたちは次の火の玉を撃つ準備をしている。
「あぶないっ!」
「ノアちゃん、にゃーに追いつくって言葉に嘘は無いにゃ?」
「……嘘じゃないです。何があっても、絶対にこの心は揺るぎません!」
「にゃははっ、それなら――にゃーの実力を、見せてあげるにゃよ」
ニヤさんの、雰囲気が変わる。今までの軽く、明るい声では無く――低く、鋭い声。
そして、ニヤさんは一瞬でフレイムがいる高さまで駆け上がった。
「え?」
どうやってそうしたのか。それを説明するのは簡単、ジャンプすると同時に、二段、三段と足元にブロックを積み上げていき、宙に足場を作っただけだ。
でも、その速度と正確さは、目を見張るものだった。
「まずは――一体」
瞬く間に、一体のフレイムが倒される。けれど、今いる場所は空中――このままでは落ちてしまう。
でも、そんなことは起きなかった。
ニアさんは、地面から伸ばした足場に一瞬でブロックを置いていき、自分がいる空まで横一線に足場を伸ばした。
:は?
:テリーブリッチ⁉
:ニヤちゃんって、pvp勢⁉
「にゃははっ、それだけじゃないにゃよ」
そう言うと同時に、ニヤさんは足場を蹴ってさらに加速した。
置かれるブロックが、まるでリズムを刻むように次々と宙に並んでいく。
猫を思わせる身軽な動きに、思わず簡単な声をあげてしまう。
「二体、三体――そして、四体目」
瞬く間に残り二体となる。でも、それと同時に炎のチャージが終わった。
「あぶないっ!」
一体三つ、合計四つの火の玉が、ニヤさんに襲い掛かる。
でも――そのすべてがニヤさんにぶつかることは無かった。
「タイミングさえ見れば、避けることは簡単にゃよ。にゃー以外のRTA勢も、このくらいはやって見せるにゃ」
:は?
:pvp勢に加えて、RTA勢⁉
:建築も上手かったよな
:化け物かよ
そして、火の玉を撃ち終わったフレイムになすすべなど残されていない。
「これで――終わりにゃ」
六体に囲まれてなお、無傷でニヤさんは立っていた。
「これが、猫塚ニヤの本領にゃ。――ノアちゃん、まだ思いは変わらないにゃ?」
身体が熱い。
それは、恐怖でも、憧れでもない。
胸の奥からせり上がってくるのは――決意だ。
「……変わりません!」
声が自然と張り上がる。
「ニヤさんがどれだけすごくても、ボクは追いつきます!」
「にゃははっ、いい心意気にゃ! にゃーはずっと、待ってるにゃよ」
:うおおおお!
:熱い展開!
:最高だ! 二人とも!
【ブロクラ】ニヤさんに教えてもらう!
高評価11,047 低評価23
チャンネル登録者26,396人
再生回数45,431回
作者より
今回の物語に登場した「猫塚ニヤ」の超人的な動きや技術は、あくまでフィクションとして描かれたものです。
けれど、そのモデルとなったのは、実際に存在するRTAやPvPのプレイヤーたちが日々積み重ねてきた努力と研鑽です。
彼らの操作精度、瞬時の判断力、そして何よりも「限界を超えよう」と挑み続ける姿勢。
それらは物語のキャラクターを通して誇張されてはいるけれど、根底にあるのは現実のプレイヤーたちが見せてくれる本物の技術と情熱です。
この場を借りて、すべてのRTA勢・PvP勢の方々に敬意を表します。
彼らの挑戦があるからこそ、物語に命を吹き込むことができたのですから。
ぜひ、皆さんもYouTubeなどで公開されている彼らのプレイ動画をご覧ください。
きっと、物語の中で描かれた熱狂の源泉を感じ取れるはずですから。




