猫塚ニア3
「ほんとうに、大丈夫かな……?」
そうして、ボクたちは要塞の中に入っていった。
要塞の中は、少し不気味な雰囲気があって、どこからかカラカラとした骨のぶつかり合う音がする。
……というか、今気づいたけれど、ボクたちは何も装備を着ていないじゃないか。こんな防御力で、生き残れるわけがない。
「ニヤさん、装備は……?」
「あっ、忘れてたのにゃ。まぁ、これがあるから多分大丈夫にゃ」
ニヤさんは、そう言って、オレンジ色の液体が入っている瓶を、ボクに渡してきた。
「なんですか、これ?」
「耐火のポーションにゃ。これがあれば、火がついてもダメージを受けることがないにゃ」
「え? でも、火以外は……?」
「避ければノーダメにゃ」
「えぇ……そんな簡単に言いますけど……」
:www
:プロの発想w
:初心者に避けろは無理w
:ノアちゃんの声が震えてるw
「大丈夫にゃ。にゃーが横にいるんだから、安心して突っ込むにゃ!」
「つ、突っ込む!? そんな無茶な……!」
:無茶ぶりきたw
:ニヤ先生スパルタすぎる
:でも隣にいるって言葉がちょっと安心感あるの草
「……でも、ニヤさんがそう言うなら……やってみます」
震える声でそう答えると、チャット欄が一斉に盛り上がった。
:覚悟決めた!
:ノアちゃんの挑戦、見届けるぞ!
:これは成長イベントの予感
怯える心を、何とか沈めて、ボクは足を進めていった。
暗い回廊の奥から、カラカラと骨の音が近づいくる。
「……っ!」
石の剣を持った黒いスケルトンが、一歩、また一歩と近づいてくる。
「ウェザースケルトンにゃ! 攻撃を食らうと、衰弱状態になって、徐々にダメージを受けるようになってしまうにゃ! だけど、背が三マスだから、二マスの天井を作れば入ってこれないにゃ!」
二マスの天井……?
でも、ここは、赤い石の天井が高さ三マスの場所に合って、どうやっても塞ぐことができない。
だから、今の言葉なんて、少しも手助けにならない。
……でも、ほんとうにそうなのかな? ニヤさんが、そんな意味のない言葉を、このタイミングで言うはずがない。
まだ、二回しか話したことが無いけど、それくらいは信用してる。
「もしかしてっ」
頭の中で、ニヤさんの言葉が繋がった。
このゲームは、戦うだけのゲームじゃない。ブロックを壊すことも――置くことも出来る。
手元には、あのガスドに荒らされた地面にあった、大量のブロックがある、これを使えば。
「こう」
手に持ったブロックを、震える指で置いていく。目の前の床に、横一列に置いて行けば――そこは二マスの天井となり、ウェザースケルトンは入ってくることが出来ず、一方的に攻撃できる。
「おお、正解にゃ! 初心者なのに、ようく気付いたにゃ」
「よかった、これであってたんだ……」
ニヤさんは、答えを直接教えるわけでもなく、自分自身で答えを導けるように、ほんの少しだけ背中を押してくれていた。
そのことに気づいた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……ニヤさんは、最初からこうなるってわかってたんですね」
「にゃふふ、どうかにゃ。ただ、ノアちゃんが自分で気づけるって信じてたにゃ
:導きの師匠感ある
:ノアちゃんの成長を見守るニヤ先生尊い
:これは名コンビの予感
「……ありがとうございます。自分で考えて、勝てたのが嬉しいです」
「そうにゃ、それが一番大事にゃ。にゃーが全部やってしまったら、ノアちゃんの成長にはならないにゃ。ついでに、応用もあるにゃよ。例えば、天井がない時とかにゃ。自分で考えてみるにゃ!」
「天井が……ない時……?」
思わず呟く。
さっきは二マスの天井を作って閉じ込めた。じゃあ、天井がなければ……?
:次の問題きたw
:ニヤ先生のスパルタ授業続行
:ノアちゃんの脳トレ配信助かる
「……ブロックを上に積んで、足場を作れば……?」
頭の中でイメージを組み立てる。
敵の動きを制限するのは、天井だけじゃない。壁や段差だって使えるはずだ。
「そうにゃ、それでいいにゃ! でも、それに加えてあることをすれば、武器が無くとも一撃で倒すことが出来るにゃよ。ノアちゃんは、先輩方の配信で、この要塞の構造を知っているはずにゃから、きっとわかるにゃ」
一撃で……?
そんなこと、このゲームの武器では出来ないはずだ。拳の攻撃力なんて、たかがしれてるはずだし、エンチャントも出来るはずがない。
「ヒントを言うと、ドロップ品が回収できないことが欠点なのにゃ」
その言葉を繰り返した瞬間、頭の中でひらめきが走った。
「……もしかして、落とすんですか!?」
「正解にゃ!」
ニヤさんが嬉しそうに笑う。
「でも、敵は落ちやすい位置に自ら移動することは無いにゃ。だから、落とすためには、にゃーたちの方から誘導しないといけない――どうすればいいか、わかるかにゃ」
「誘導……?」
思わず呟く。
敵は自分から落ちることはない。なら、こ
ちらが動かしてやらなきゃいけない。
「……攻撃でノックバックさせる?」
「惜しいにゃ。でも、それだけじゃ落とすことは出来ないにゃ。だって、この要塞の道には、一マスの段差があるのにゃから」
:おしい!
:ノアちゃん考えてるのえらい
:先生のヒント待ちw
ブロックを積む。敵を落とす。一マスの壁。敵を誘導する……敵って、確かボクとの距離を縮めていくはず――もしかしてっ。
「道の中央で、三マス……いや、四マス積むことが出来れば、スケルトンたちはボクとの距離を縮めるために、その一マスの段差に昇ってくる?」
「おお! よく気付いたにゃ! 段差を登ったせいで、三マスの高さに攻撃が届くようになるというひっかけにも気付くだにゃんて、たいしたもんにゃ!」
ニヤさんに認められて、思わず胸が熱くなる。
自分で考えて、仕掛けを作って、敵を誘導する――ただの初心者だったボクが、少しずつ戦い方を覚えていってる。
「……でも、今の要塞は通路が狭くて壁があるから、この方法は使えないにゃ」
ニヤさんが肩をすくめる。
「じゃあ、これは……」
「知識として覚えておけばいいにゃ。いつか必ず役に立つ時が来るにゃよ」
:なるほど、布石か
:知識を積み重ねていくの大事
:ノアちゃんが次に使うの楽しみだな
「……はい。覚えておきます!」
ボクは強く頷いた。
今はまだ実践できなくても、確かに戦い方の引き出しがひとつ増えた気がする。
胸の奥がじんわりと熱くなる。少しずつだけど、前に進めている。
でも、それと同時にある疑問が湧いてくる。
どうして、ここまでニヤさんはこのゲームに対する知識があるのに、普段の配信ではこのゲームをしないのだろうか。




