猫塚ニヤ2
そうして、ボクはニヤさんに導かれるまま、水入りバケツと溶岩だまりで地獄へのゲートを作った。
何回も失敗してしまったけど、そのたびにニヤさんが優しく教えてくれて、 最後にはボク一人で作れるようになった。
黒曜石の枠が完成した瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「や、やった……! できました!」
:おおおおおおお!
:ノアちゃん初ゲート成功!
:成長してるとこ見てると泣けるw
「にゃーにゃー、よく頑張ったにゃ。最初は誰でも失敗するにゃけど、こうして一人で作れるようになったのは大きな一歩にゃよ」
ニヤさんの言葉に、思わず顔がほころぶ。
失敗ばかりで情けなかったけど、こうして形になったことが嬉しかった。
「……ありがとうございます。これで、ボクも少しは前に進めた気がします」
:努力の結晶ゲート
:ここからが本当の地獄だぞw
「じゃあ、さっそく入って行くにゃ」
「わかりました!」
ゲートの中に飛び込むと、視界がぐにゃりと歪んだ。次の瞬間、赤黒い世界が広がった。
「わ、わぁ……ここが……地獄……」
「そうにゃ! ここが地獄にゃ!」
:きたあああああ!
:敵に囲まれないといいけど…
:絶対パニックになるやつw
「ひっ……! あれ、なんですか!?」
「ガスドにゃ! 火の玉を撃ってくるから気をつけるにゃ!」
「ええええええっ!?」
:さっそくw
:落ち着いてw
「とは言っても、アレの対処方法は簡単にゃ」
そう言って、ニヤさんは火の玉の前に立ち、それを殴って打ち返した。そのままガスドの顔面に直撃し、甲高い悲鳴を上げながら爆散した。
【nekodukaniyaは差出人に返送を達成した】
「にゃははっ、こんなもんにゃ!」
:一撃www
:タイミング完璧すぎる
:ノアちゃんの出番がないw
「す、すごい……! 本当に打ち返せるんですね」
「そうにゃ。慣れれば簡単にゃよ。ノアちゃんもやってみるにゃ」
「えぇっ……ぼ、ボクにできるんでしょうか……」
「大丈夫にゃ! 火の玉が飛んできたら、タイミングを合わせて殴るだけにゃ!」
「そ、そんな簡単に……」
:フラグ立ったw
:絶対失敗するやつ
「あっ、あそこに沸いたにゃ」
ニヤさんが指さした先、空中にふわりと浮かぶガスドが、口を開いて火の玉を吐き出した。
「き、来た……!」
ボクはマウスを握りしめ、画面に釘付けになる。
「今にゃ! 殴るにゃ!」
「えいっ!」
ボカンッ
「きゃっ」
タイミングよくクリックをしたつもりだったけど、火の玉は跳ね返らず、地面に激突して爆発した。
……いや、それだけならよかった。その爆発で地面が壊れ、マグマへと直行する小さな穴が、 ボクの足元に出来てしまった。
「えっ、ちょ、ちょっと待って……!」
画面の中で、ボクのキャラが足を滑らせるように穴へと吸い込まれていく。
【asagirinoaはガスドに撃ち落された】
「きゃあああああっ!?」
:wwwwwww
:爆発からのマグマ落ちは草
:ノアちゃんの悲鳴助かる
:これはトラウマw
「にゃはは! まさかのコンボにゃ!」
「うぅ……なんでこんなことに……」
リスポーンボタンを押し、また現世に生き返る。ただ、当然のことながら、そこには誰も居なくて、その静かさが少しだけ胸を締めつけた。
「もう一回、挑戦させてください」
「何回でも挑戦していいにゃよ。にゃーは、ノアちゃんが諦めない限り、何度でも付き合うにゃ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
画面の向こうにいるはずのニヤさんの声が、すぐ隣で聞こえたような気がした。
:名言きた
:ニヤ先生かっこいい
:これは惚れる
:ノアちゃんの背中押してくれるの優しいなぁ
そうして、ボクはまたゲートの方へ歩き出した。
*
「戻ってきまし……えっ、何ですか⁉ この地獄絵図はっ!」
目の前には、火の玉を吐き続けるガスドが三体。
その周囲を、豚ゾンビの群れがうろついていて、地面は爆発でボコボコ。
しかも、さっきの爆発でできたマグマの穴が、さらに広がっていた。
「え、えぇ……? これ、さっきよりひどくなってませんか!?」
:地獄が進化してるwww
:ノアちゃんの声が震えてるw
:誰か整地してあげてw
「にゃーがちょっと遊んでたら、増えちゃったにゃ」
「遊んでたって……!」
ボクは思わず画面を見つめたまま固まる。
でも、チャット欄の笑い声と、ニヤさんの軽い口調が、少しだけ緊張を和らげてくれる。
「……これって、足場を整えることが出来ますかね?」
「うーん、無理だと思うにゃ。だから、一発勝負にゃね」
「い、一発勝負……!? そんなの、失敗したらまた……」
「また挑戦すればいいにゃ。何度でもやり直せるにゃよ」
ニヤさんの軽い声に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
怖いけど、挑戦しなきゃ前に進めない。
「……わかりました。やってみます!」
:ノアちゃん覚悟決めた!
:これは成功フラグ
:いや逆に死亡フラグw
:どっちに転んでも面白いw
「よしにゃ! じゃあ、次の火の玉はノアちゃんに任せるにゃ」
その時、ガスドが再び口を開き、赤い火の玉を吐き出した。
「き、来た……!」
心臓が跳ねる。手のひらは汗でじっとりと濡れていた。でも、さっきの失敗から学べば、きっと成功出来る。
「えいっ!」
火の玉は見事に跳ね返り、一直線にガスドの顔面へ。甲高い悲鳴が響き、怪物は爆散した。
【asagirinoaは差出人に返送を達成した】
「……や、やった! 本当にできた!」
:成功きたあああああ!
:成長してるの見て泣きそうw
:さっきの爆発からの大逆転w
「にゃはは! よく頑張ったにゃ。それじゃあ、後はにゃーに任せるのにゃ」
そう言うやいなや、ニヤさんは軽やかに動き、残りのガスドに次々と火の玉を打ち返していく。爆発音が連続して響き、あっという間に空は静かになった。
「……え、もう終わったんですか?」
「当然にゃ。ノアちゃんが一体倒したんだから、残りはにゃーが片付けるのが筋ってものにゃよ」
:ノアちゃんの出番が一瞬で終わったw
:でも初撃破は大金星!
:二人のコンビ感いいなぁ
「さぁ、まだ冒険は終わってないにゃよ。ここからが本番にゃ」
「えっ」
:まだ序章だったw
:ノアちゃんの顔が青ざめてそう
:地獄はここからが地獄
「さすが、初心者に廃要塞はいかせないけど、普通の要塞ならば挑戦してもいいにゃ」
「よ、要塞……って、あの強い敵がいっぱい出るところですよね!?」
:死亡フラグw
:ノアちゃんの悲鳴がもう聞こえるw
:でも成長のチャンスだぞ!
「そうにゃ。フレイムもいるし、スケルトンもいるにゃ。でも、ノアちゃんが一歩進むたびに、にゃーが隣で見てるにゃ」
「……うぅ、心強いような、怖いような……」
:ニヤ先生の安心感
:ノアちゃんの葛藤かわいい
「大丈夫にゃ。失敗しても、また挑戦すればいいにゃよ、何度も何度も失敗して、その先に掴める物もあるのにゃから」
「……わかりました。じゃあ、行ってみます!」
:覚悟決めた!
:ニアのセリフ、名言だろw
:でも声が震えてるw
:この緊張感がたまらん
「ほら、あそこに見えるにゃ。あれが要塞の足にゃ」
そう言って、ニヤさんが向けた指先に、赤黒いレンガで組まれた巨大な建造物が浮かび上がった。
「あれが、要塞……」
「そうにゃよ。それじゃあ、今から行ってみるにゃ」




