喫茶店にて2
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僕は深く息を吸い込み、あの部屋での出来事を思い返した。
白い壁、甘い香り、そして鋭い笑み。 莉緒の声が、耳の奥で鮮やかに蘇る。
「……あの人は、最初から僕を試しているようでした」
それは、ずっと感じていたことだ。莉緒は、僕に何かを期待していて、それを答えるように誘導していたのだ。
そして、それはおそらく……。
「きっと、僕たちの初めてのコラボの時のように、他の同期の問題点を直してほしかったのだと思います」
僕は、零さんとの初めてのコラボの時、彼女の自己否定や自己肯定感の低さを改善した。
だから今回も、莉緒は同じように――同期の欠点を矯正する役割を、僕に押しつけようとしているのだと思った。
けれど、その考えを口にした瞬間、胸の奥にざらついた違和感が広がる。
本当にそれだけなのか? あの人が望んでいるのは、ただの改善なんかじゃない。もっと別の……もっと厄介なものではないのか。
「なるほどね。だけど、きっとそれだけじゃないよ」
「……はい、僕もそう思います」
僕の声が、思った以上にかすれていた。胸の奥でざわつく違和感は、言葉にすればするほど形を失い、代わりに不安だけが濃くなっていく。
零さんは静かに頷き、視線を落とした。
「莉緒さんはね、相手の欠点を直させることで満足する人じゃない。むしろ、もっと先の何かを望んでいるはずなんだ。……でも、それをいくら考えても答えは出ない。あの人の本音なんて、きっと誰にも掴めないから。だから今は――ニヤさんたち、同期の問題点の方を考えた方がいいかもしれないね」
「……同期の、問題点」
でも、思い当たる節など、何もなかった。ニヤさんも、マサさんも、ユイトさんも、全員凄い人で、僕なんかよりずっと頼りになる存在に思えた。
「私には思いつかないや。澪ちゃんは心辺りがある?」
「僕にも心当たりは……。でも、莉緒さんが同期のことをどう評価していたのかは覚えています」
零さんが顔を上げる。
「……どんなふうに?」
「どれが誰のことを表しているのかわからないけど、孤独の猫に、弱さを隠している子供、平凡な凡人と評していました」
「孤独の猫……弱さを隠している子供……平凡な凡人……」
零さんは小さく繰り返し、眉をひそめた。
「猫はニアさんのことだろうけど、他は判別がつかないね。……いや、もしかすると、わざと判別できないように言ったのかもしれない。どれも当てはまるようで、当てはまらない。そうやって澪ちゃんに考えさせるのが、あの人らしい」
僕は息を呑んだ。確かに、三つの言葉は同期の顔と重なりそうで、重ならない。まるで、答えを探す僕自身の反応こそが、莉緒の狙いだったかのように。
「まぁ、考えても仕方ないか。実際に、探っていかないと。でも、男性と二人でコラボするのは難しいし……次の三期生での全体コラボに賭けるしかないのか……」
「そうですね……ニヤさんなら、それまでにかかわることが出来ますけど」
「よし、次の三期生コラボまで、一回はニヤさんとコラボできないか掛け合ってみようか。澪ちゃんはどうする? 私一人でも、何とかなるかもしれないけど」
零さんが、人見知りの僕を気遣ってくれていることがわかった。
その気遣いはありがたいけど、今の僕には必要なかった。
「ごめんなさい。そのコラボ、僕一人ですることは出来ませんか?」
「いいけど、急にどうしたの?」
零さんが心配そうに聞いてくる。
その視線に胸がざわついたけれど、僕は逃げずに言葉を続けた。
「僕はずっと、莉緒さんに怒っているんです。あの時に言われた言葉が、とっても許せなくて。だから、僕の手で――あの人を見返したい」
そう言うと、零さんは一瞬だけ目を見開いた。
驚きと、少しの戸惑いがその瞳に浮かんで――やがて、静かな笑みに変わる。
「そっか。それなら、澪ちゃんに任せるよ。……私は、澪ちゃんのそういう所を、とっても尊敬してる」
「何か言いましたか?」
「ううん、何でもない」
そう言って、零さんは立ち上がった。
「長居しすぎると、店にもよくないし、もうそろそろ帰ろっか」
「そうですね」
僕も慌てて立ち上がり、テーブルの上を片づける。
「それと――。
私は、絶対に澪ちゃんの味方だから」
その言葉が、胸の奥に静かに灯をともした。どんなに試されても、僕は一人じゃない――そう思えたんだ。




