表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS転生したぼっちJK、Vtuberで人生逆転中  作者: 月星 星那
三期生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

【金狼】ベオ・オーリス

 ベオ・オーリス――それは、僕が所属している事務所における一期生の名前。

 チャンネル登録者五十万人を超え、この事務所の中で二番目に多い人物だ。

 けれど、彼女がどんな人物なのか説明できる人は少ない。その理由は、彼女の性格がとてもつかみにくい物だからだ。

 口から発する言葉には、本当のことも、嘘も、そしてそのどちらでもないものさえ混ざっている。だからこそ、誰もが彼女を理解したつもりになりながら、結局は振り回されるのだ。


 ただ唯一、ファンの人たちに理解されているのは、性格がとっても悪いということだけ。


「あれれ? どうしたの、急に黙っちゃって。………さっきみたいに怒りをぶつけてきてよ。それとも、偉大なる先輩だということがわかって、怯えてしまったのかな?」

「……怯えてなんか、いません」


 胸の奥で渦巻く怒りが、恐怖を押しのけていく。

 今は、この怒りに感謝したい。この感情があるからこそ、人見知りの僕でも、この先輩と向き合って言葉を返せるのだ。


「そう? それならよかったよ。これ以上、失望しないでいいからね。それに、君は喜ぶべきだよ。ボクが期待しているのは、君と今のユイだけ……それ以外の人物には、全く期待していないからね」

「それは……二期生の人たちも、期待していないんですか?」


「ハハッ、いい質問だね。――そうだよ。ボクは彼らに全く期待してない。でもね、その理由は三期生とは全く違う。ただ単に、彼らとボクの期待している人物像と、タイプがかけ離れているだけなんだ。だから、ボクは彼らに期待はしていないけど、それ以上に認めているんだよ」


 その言葉には、侮辱では無く敬意のようなものが含まれていた。

 だからこそ、ますます莉緒のことが理解できない。彼女には独自の基準があって、それで他者を測っているのだと思っていた。

 けれど、その基準から外れていても、なお高く評価する――その矛盾が、僕の頭を混乱させた。


「あなたは、いったい……」


 そんな時だった。


 ドアが勢いよく開き、人影が僕の前に――僕のこと庇うように立ちはだかった。


「れ、零さん?」

「また会ったね、澪ちゃん。だけど、再会の挨拶はまた後で」


 それは、僕の同期――月夜ユイを演じる彼女だった。

 思わず息を呑む。なぜ、彼女がここに……?


「莉緒さん……澪ちゃんに、何をしたんですか?」

「何って、ただの世間話だよ。暴力なんて振るってないし、悪口すら言ってない。ボクが責められるいわれはないよ。……むしろ、少しは感謝してほしいくらいだね。だって、アドバイスをしたくらいなんだから」


 二人のやり取りは、旧知の者同士にしか見えなかった。

 その事実が、僕をさらに混乱させる。


「あと、久しぶりに会ったんだから、再会の挨拶くらいあっていいんじゃないか?」

「あなたに対するいい思い出なんてありませんから」

「ああ、思い出したよ。ボクは君に嫌われているんだった。あの葬式から追い出されるくらいには」

「あれは、あなたの自業自得ですよ」


 零さんの声は冷たく、迷いがなかった。

 その一言に、莉緒は一瞬だけ目を細め、すぐに愉快そうに笑みを浮かべる。


「アハハッ! 確かにそうだ! アレはボクが悪い。まさか、ここまで言い返されるとは思わなかったよ! やっぱり君は予想外のことばかりしてくる。姉が生きていた頃とは大違いだ!」

「姉さんのことを……軽々しく口にしないでください!」


 零さんの声が震えた。怒りか、悲しみか、僕には判別できなかった。

 けれど、その一瞬で空気が張り詰め、莉緒の笑みすらも凍りついたように見えた。


「軽々しく? 違うよ。ボクは君の姉と友達だったからね。死んだと聞いた時は本当に悲しんだよ。もちろん、あの子が君のことを誰よりも大事にしていたことも知ってる。でも……いや、だからこそ――」

「莉緒」

 

 そんな時、空いたドアから女性の声が響いた。

 現れたのは、鋭い眼差しを持つ長身の女性だった。その姿を見た瞬間、莉緒の笑みがわずかに引き締まる。


「おや、冴じゃないか。アップルパイを食べるかい?」

「社長が呼んでいる。さっさと戻れ。それに、後輩をいじめるのをやめろ」


 その声音には、感情の揺らぎが一切なかった。

 まるで氷の刃を突きつけられたようで、僕は思わず息を呑んだ。


「相変わらず、つれないなぁ。それに、ボクは後輩のことをいじめてないよ。ね? 零」

「……」

「わぁ、とぉっても嫌われてたみたいだ」


 莉緒が肩をすくめて笑う。

 零さんは唇を噛みしめ、視線を逸らした。その沈黙が、かえって答えを示しているように思えた。


「……くだらない。そんなことをして何になる?」

「何になる、か……フフッ、冴ですら気付かないんだね。それなら、ボクの本音をわかる人なんて、いないってわけだ!」

「正直に答えろ!」

「正直に、か……。まぁ、それもいいけど、良い先輩ぶるのはやめたほうがいいよ。そもそも、勝手に期待して失望しているボクと、そもそも他人に期待をしない君では、どっちの方が優しいのかな?」


 莉緒は口元に笑みを浮かべ、わざとらしく首を傾げた。

 冴の瞳が細められる。氷のような沈黙が、部屋を支配する。


「まぁ、いいや。今日はここまで。ノア、これを持っときな」


 そう言って、莉緒はくちゃくちゃにされて、丸くなった紙を僕に渡してきた。


「それは、ボクの連絡先だから、困ったことがあったら連絡してきて。先輩として、誠心誠意対応するからさ。……三期生のこととか、教えてあげるからね」


 そう言って、莉緒は部屋の外へ出てく。

 僕は、渡された紙を開く勇気が出ず、ただ握りしめることしかできない。


「じゃあね、ばいばい」


 扉が閉まる音が響き、部屋に静寂が戻る。

 冴は何も言わず、ただ鋭い視線を扉の方へ向けていた。


「もう戻ってくる気配は無いな。零、大丈夫だったか? それに……ノアも」

「はい……ありがとうございます。冴さん」

「そうか、それならいい」


 そう言って、冴は部屋から出ていった。残されたのは、僕と零さんだけ、静寂の中で、握りしめた紙がやけに重く感じる。開けば何かが変わる気がして、けれど指先は動かなかった。


「……澪ちゃん」

 零さんが小さく僕の名を呼んだ。

 その声は震えていて、さっきまでの強さが嘘のようにかすれていた。


「さっきのこと……気にしないで。あの人は、昔からあんな感じで、他人を煽ることを趣味としていたから」

「う、うん。零さんは、大丈夫?」

「私? 私は、何回も経験したことだから……。ただちょっと休憩したいかも。近くの喫茶店でも行かない?」


 零さんの声はかすれていたけれど、その瞳には僕を気遣う色があった。

 僕は小さく頷き、握りしめていた紙をポケットに押し込む。

 まだ開ける勇気は出ない。けれど、今は――零さんと一緒に外の空気を吸いたかった。


「……うん、行こう」


 そうして、僕たちも部屋の外に出た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ