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TS転生したぼっちJK、Vtuberで人生逆転中  作者: 月星 星那
三期生

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人生を変える出会い

『今週の土日に、事務所まで来てくれませんか?」

『え?』

『ディスコード上では無く、実際に顔を合わせて、少し話をしたいんです』

『……話、ですか?』

『はい。最近の配信について、どう感じているか、楽しめているかどうか』

『……』

『無理をしていないか、コメントに傷ついていないか、そういうことを確認したいんです』

『……わかりました。土曜日に行きます』


 数日前に、こんなやり取りがあって、僕は一人で事務所まで来ていた。少しだけ緊張はしているけど、今日はここで配信をするわけではないし、マネージャーさんとは何回かあったことがあるから、そこまで酷いものでは無い。


 受付で名前を告げると、すぐに応接室へと案内された。

 静かな部屋に入ると、マネージャーさんが既に待っていて、机の上には資料と湯気の立つカップが置かれていた。

 

 「来てくれてありがとうございます。学業もあるのに、事務所まで足を運んでもらって申し訳ないですね」


 そういって、マネージャーさんは頭を下げる。


「あ、頭を下げないでください。学業があるのに、Vtuberになろうとしたのは僕ですし、狩場さんが僕のことを考えてくれているのはわかっていますから」

「そう言ってもらえると助かります。でも、だからこそ無理をしていないか心配なんです」

 

 狩場さんは、机の上のカップを僕の前にそっと差し出した。

 

「今日は、ただ君の気持ちを聞きたいだけですから。気楽に話してください」

「は、はい」


 カップを受け取りながら、姿勢を正す。

 

「配信をやってみて、どう思いましたか?」

「もちろん大変なこともありますけど……やっぱり楽しいんです。視聴者さんが笑ってくれると、それだけで続けてよかったって思えるんですよ」

「そうですか。それを聞けて安心しました。――では、これから先に挑戦してみたいことや、やってみたい企画はありますか? 内容次第では、私達が補助することもできますが」

 

 やってみたいこと……ないことはないけど、それはマネージャーさんに手伝ってもらうほどじゃない。


「……小さなことですけど、もっと視聴者さんとの距離が近くなりたいなと思ってます。他の人と比べて、僕は強みが少ないので」

「強みが少ない……?」

「はい。ニヤさんやマサさん、ユイトさんは、それぞれの在り方だけで視聴者を惹きつけられますし……。ユイさんはみんなをまとめられるし、努力を積み重ねてきた分、何でもこなせる万能さがありますから」


 それに比べて、僕の強みなんてほとんどない。僕は基本的に早熟で、プレイングで惹きつけていくことは出来ないし、人見知りのせいでまとめ役とかも出来ない。だから、僕でも出来ることで、なんとか差別化を図らなければならない。


「ノアさん、これはユイさんにも言えることですけど、自分のことを低く見積もりすぎですよ。私には、ノアさんにも充分強みがあるように思えますが」

「……そうですか」

「ええ。ただ、今はまだ自分でそう思えないのかもしれませんね。でも、それでいいんです。無理に強みがあると信じ込む必要はありません。少しずつ、自分で納得できる瞬間を積み重ねていけばいいんですから」

「それなら、今はまだ強みを自覚できなくても、少しずつ探していけばいいんですね」

「ええ。その通りです」

 

 狩場さんは穏やかにうなずいた。

 

「今日は来てくれてありがとう。学業もあるのに時間を割いてくれて助かりました。また何かあれば、遠慮なく相談してくださいね」


 そうして面談は終わり、僕は応接室を後にした。胸の奥に残ったのは、不安と……ほんの少しの安心だった。

 春の空気が、事務所の廊下を静かに流れていき、窓から差し込む柔らかな光に包まれている。そんな穏やかな景色の中を歩きながら、胸の奥に残った不安も、少しずつ和らいでいくような気がした。


 ――そして、この時。ある意味、ユイ以上に僕の人生を変えてしまう出会いが訪れる。


「おや、君は高校生かい? ということは、君が朝霧ノアだな」


 振り返った先に立っていたのは、金色の髪を揺らす人物だった。耳元で光るイヤリングが、春の光を反射してきらめく。整った顔立ちは男性とも女性ともつかず、柔らかさと鋭さが同居している。その微笑みは穏やかに見えるのに、瞳の奥には狼のような鋭さが潜んでいた。


 ただそこに立っているだけで、廊下の空気が変わる。

 その存在感は、僕にとって抗いがたいほど強烈だった。


「どう? 少し話をしないかい? 今日はアップルパイを焼いたから、一緒に食べながらでも」


 その声は驚くほど柔らかく、まるで旧知の友人に語りかけるようだった。

 けれど、瞳の奥に潜む鋭さが、僕を簡単には安心させてくれない。


 甘い香りと、背筋を撫でるような緊張感。

 相反する二つの気配をまとったその人物を前に、僕は言葉を失って立ち尽くしていた。


「ああ、安心して――ボクは遺伝子も、自認も女性だから。それに、ただの世間話をしたいだけだから、そう警戒しないでよ。取って食おうってわけじゃないんだからさ」


 冗談めかした口調なのに、不思議と笑えなかった。その言葉の裏に、何か別の意図が隠されているような気がしてならない。

 僕は喉が渇いたように声が出ず、ただ相手の瞳を見返すことしかできなかった。


「沈黙は肯定ってことでいいよね。じゃあ、おいでよ――歓迎してあげるから」


 


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