三期生コラボ
『準備は出来たかにゃ』
配信が始まる直前、ニアさんがボクたちに向かって、にやりと笑いながら声をかけてきた。
その軽い調子に、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
『いつでも大丈夫ですよ。ノアちゃんも大丈夫そう?』
『う、うん』
ユイも、ボクの様子を気にかけてくれていた。
その優しい声に、胸の奥の緊張が少しだけほどけていく。
『フッ……我はいつでも準備万端だ』
『俺も問題なしー、いつでもボケる準備は出来てるよ』
ユイトさんも、マサさんも、同じようで――それぞれのやり方で緊張をほぐしているのが伝わってきた。
『ふふ……じゃあ、わたしがしっかりまとめますから。みんな、暴走しすぎないでくださいね』
ユイが小さく笑いながら言うと、通話の向こうでニアさんが「にゃはは!」と楽しそうに返す
その瞬間、画面にカウントダウンが表示された。
5、4、3……
心臓の鼓動が速くなる。
でも、不思議と怖くはなかった。
仲間が隣にいる――そう思えるだけで、胸の奥に勇気が灯る。
(よし……行こう)
0の数字と同時に、配信が始まった。
*
「にゃー、にゃにゃにゃ」
「にゃにゃにゃにゃー?」
:うっ
:トラウマが……
:え? これコラボだよね……
配信が始まると、ニヤさんとマサさんがなぜか鳴き声だけで会話を始めていた。
「にゃーにゃにゃ!」
「にゃにゃにゃー!」
:やめろwww
:また始まったぞ
:一時間半耐久配信の再来か⁉
:翻訳班はよ
チャット欄が一気にざわつく。
ユイが慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょっと! ふたりとも、ちゃんと喋ってください!」
「フッ……混沌の幕開けにふさわしい挨拶だな」
このままでは収集が付かなくなると思ったのか、ユイさんが慌てて止めにかかる。ユイトさんも、ふざけている二人に若干引いているような様子を見せ、それでも「……まあ、我も嫌いではないが」と小さく呟いた。
ユイさんが深く息を吸って、再び声を張る。
「はぁ、この二人は置いといて……はじめましての人も、そうでない人もこんばんは。NeoVerse三期生の月夜ユイです。今日はよろしくね」
「我は、黒木ユイトだ闇の帳より招かれし者……この世界に混沌をもたらす影の使徒――」
「にゃーは、猫塚ニヤにゃ」
「まだ話している途中なのだが‼」
「にゃーにゃー、ユイトの長いのは後で聞くにゃ~」
「我の影の詠唱を遮るとは……許されざる暴挙……!」
:ユイトの詠唱、止められてて草
:ニアちゃん自由すぎるww
:この空気感ほんと好き
「はいはい、次マサさん。頼みますよ」
ユイさんが若干疲れた声で促すと、マサさんが話し出す。
「みんな、こんばんはー。この中で一番真面の近藤マサだ! 元気にやっていくから最後まで見てくれよな!」
「誰かさんのせいで、もう元気では無いんですけどね……」
ユイさんがぼそっと呟くと、チャット欄がすぐに反応する。
:ユイちゃんの疲労が見えるw
:まとめ役おつかれさまです
:この空気、三期生って感じで好き
「にゃー! ユイちゃん、元気出すにゃ~!」
「我の詠唱を最後まで聞いてくれれば、癒しの光が――」
「はいはい、次いきましょうね!」
そして、視線が自然とボクに集まる。心臓が跳ねる。でも、もう逃げない。この空気の中に、自分の居場所がある気がした。
「えっと……みなさん、こんばんは。NeoVerse三期生の朝霧ノアです」
少しだけ息を吸って、笑顔を作る。
「今日は……みんなと一緒に、がんばります!」
:ノアちゃん!
:挨拶できた! えらい!
:がんばれー
「自己紹介も終わったし、これからやることを説明するにゃ」
ニアさんが胸を張って宣言する。
「今、にゃーたちがいるワールドは、先輩方もいるNeoVerseのの公式サーバーにゃ!」
ニアさんが胸を張って言うと、チャット欄が一気に盛り上がる。
:公式サーバー!?
:先輩たちの建築物あるやつか!
:絶対荒らすなよwww
「今日はここに、三期生みんなで拠点を作るにゃ。三期生の共同拠点を建てて、先輩たちに負けない存在感を出すのが目標にゃ!」
「フッ……我が闇の城を築き上げる時が来たか」
「いやいや、普通の家を建てるんだって!」
「俺、爆破担当でいい?」
「そんな役目ないから!」
:カオス確定w
:ユイちゃんの胃が心配
:ノアちゃんがんばれー!
笑い声とツッコミが飛び交う中、ボクは小さく息を吐いた。――でも、不思議と嫌じゃない。
「じゃあ、まずは探索から始めるにゃよ」
ニアさんが元気よく宣言し、キャラクターを走らせる。
「フッ……闇の気配を感じる。北の森に、何かが潜んでいるな」
「先輩方の配信を見ているので知っていますけど、そこには何もいませんよ」
「じゃあ、俺は緑色のモンスターを狩ってくる」
「だから、爆弾を作ろうとしないでください!」
:もう方向性バラバラで草
:ユイちゃんのツッコミが止まらないw
:ノアちゃんはどこ行くの?
「えっと……じゃあ、ボクはゲートを作って、地獄の方に行ってきます」
一瞬、通話が静まり返った。
「……は?」
「ノアちゃん、いきなりスケール大きすぎない?」
「フッ……地獄遠征とは、なかなか良い選択だ」
「いやいやいや! 初心者が最初に行く場所じゃないから!」
:ノアちゃんwww
:命知らずすぎる
:逆に見たい
「にゃはは! ノアちゃん、勇者にゃ! でもまずは鉄装備くらい揃えようにゃ!」
「このゲームは生き返ることが出来るから、無くても大丈夫だと思いますけど……」
そう言った瞬間、ニヤさんが心の底から引いているような様子を見せた。
「まさか、三期生の中で一番ぶっ飛んでいるのがノアちゃんだったとは……このリハクの目をしても見抜くことが出来なかったにゃ」
「いや、ニアさんが言うんですかそれ!?」
「フッ……勇者ではなく、狂戦士の素質を感じる」
:一番まともそうに見えて一番やばいw
:ノアちゃん天然最強説
:ユイちゃんの胃がまた削られていく……
:これは推せる
「あれ? もしかして……地獄だと、一人だから会話しなくて済むとか考えてないよね?」
「すぅー」
一瞬、通話が静まり返った。
:草
:地獄に逃げる理由がそれwww
:ユイちゃんの胃がマジで心配
:ノアちゃん人見知りかわいい
「ノ ア ち ゃ ん ?」
ユイさんの声が、低く、しかしはっきりと響いた。
「ひ、ひぃっ……! い、いや……地獄の素材とかを取りに行こうかなって――」
「怒らないから、正直に言って」
「すみませんでした」
小さく項垂れるボクに、通話の向こうから笑いが漏れる。
「にゃはは! やっぱりノアちゃんって面白いにゃ」
「フッ……孤高の戦士は群れを嫌うもの。理解できるぞ」
「俺たちはまだまだだな。もっとボケていかないと」
「マサさん、何か言いましたか?」
ユイさんの声が、氷点下の温度で突き刺さる。
「ひぃっ!? い、いや、俺はただ……場を盛り上げようと……!」
「盛り上げる方向性が間違ってるんですよ!」
:ユイちゃんの圧www
:マサ即死で草
:三期生の力関係が見えてきたな
「ということで、罰としてノアちゃんはわたしについてきて。一人でいるなんて許さないから」
「えっ……あ、はい……」
思わず小さく返事をしてしまう。胸の奥がじんわり熱くなる。
「にゃはは! ユイちゃん、完全にお母さんポジにゃ!」
「フッ……保護者と庇護対象。美しい構図だ」
「俺も罰でノアちゃんについていこうかな?」
「マサさんは来なくていいです」
:ユイちゃんの保護者力w
:ノアちゃん守られてる感かわいい
:マサくん即切り捨てられてて草
:三期生の関係性が見えてきて最高
笑い声とコメントに包まれて、ボクは小さく息を吐いた。
(そっか、ユイさんは、ボクのことを気遣ってくれていたんだ)
「ユイさん、ありがとう」
「……っ」
:ユイちゃん照れてるwww
:ノアちゃんの破壊力やばい
:保護者から急にヒロイン感出すのやめろw
:二人の関係性ほんと尊い
「……さっさと、物資を集めに行くよ」
「はいっ!」




