ユイのFPS
「こんばんはー。今日は、FPSを人生で初めてやっていくよー」
:きたー!
:ユイちゃんは初めてなんだ
「そうそう。わたしは、こういうゲームに触れてこなかったから、さっぱり分からないんだよね。まずは操作方法から確認しないと。えーと、これが前に進むボタンで……」
:操作から始めるの草
:初心者感あってかわいい
:絶対すぐパニックになるやつw
「ちょ、ちょっと! そんなこと言わないでよ! ……あ、ジャンプできた!」
:おおおお!
:ジャンプ成功で盛り上がる配信w
:かわいいwww
移動はWASD、ジャンプはホームボタン。……うん、慣れるまでは時間が掛かりそうだけど、そこまで難しいものではなさそうだ。
「よし、移動方法がわかったことだし、さっそく試合を始めよっか」
:がんばれー!
:神プレイ、期待している
:いや、まずは生き残ることからw
「確か、ノアちゃんはここに向かって降りてたよね」
画面が切り替わり、キャラクターが空から降下していく。空から見た街の風景は、とても綺麗で、今から銃撃戦が始まるなんて、想像できない。
そうして、地面に辿り着き、宝箱を開ける。そこから出てきたのは……。
「えっと……出てきたのは……なにこれ? ピストル? ……弱そう」
:草
:最初はそんなもんw
:でも当たれば……弱かったか
:当たらないし、当たっても弱いんだよなぁ
コメント欄でも酷い言われようで、本当に弱い武器なんだと理解することが出来た。どうして、このゲームの運営は、ここまで弱いと言われている武器を強化しないのだろうか? まぁ、ろけっとらんちゃーだっけ? そんな強そうな武器があるゲームで、ピストルが強いってことは、ありえないのかな。
「まぁ、無い物ねだりをしている暇は無いから、あるものだけで勝つ戦い方を探っていかないと」
:そうだね
:名言っぽいw
:なんかの漫画で読んだことがあるようなセリフ
そんなことを言いながら、辺りを見渡していると、視界の端に人影が動いた。
「っ……! いた!」
:きたきたきた!
:初戦闘w
:ピストルで勝てるのか⁉
初戦闘、敵はまだわたしに気付いていない。でも、わたしはまだこのゲームを始めたばかりで、複雑な操作することが出来ない。ただ奇襲するだけじゃだめだ、勝つためには、どこか工夫しないと。
(こんな時、姉さんならば……いいや、わたしはわたしだ。わたしのやり方で、戦おう)
覚悟を決めて、わたしはマウスを持つ手に力を入れた。
(複雑な移動やエイムには期待できない。それなら、近距離で戦えばいい)
先ほど見えた人影が進んでいた方向から、どんな道を通っているのか予測する。わたしの予測は、百パーセント正しいというわけじゃないけれど、ある程度の正確性はあるはずだ。
(あの方角に走っているということは、目的地はあそこらへん。そして、出来るだけ射線を切りながら走りたいはずだから、通る道はあそこしかない)
潜伏する場所を決めると、わたしはそこまで最短距離で移動していった。その移動の最中は、射線が切れていない大通りなども通ったけれど、運よく敵に見つかることが無かった。これならば、あの人影よりも先に着くことが出来る。
そして、 わたしは角の陰に身を潜め、息を殺した。そんなことをしたところで、ゲームの中には何の影響も与えないということは理解しているけれど、無意識いそうしてしまう。
:おお、真剣だ
:わかる。潜伏する時は、つい無言になるよね
だから、チャット欄に反応することさえできない。配信者として失格かもしれないけど、今日だけは許してほしい。
そして、足音が近づいてくる。予測通り、敵はまっすぐこちらへ――。
「……今!」
飛び出しざまに引き金を引く。乾いた銃声が響き、弾丸が敵の体に吸い込まれた。
:おおおお⁉
:当たった!
:でもダメージは低いw
(大きなダメージは与えられてない。でも、大丈夫――目的は別だから)
倒しきれていないことを確認すると、わたしは敵がいる方向へ、足を踏み出した。
:へ?
:ユイちゃん?
チャット欄が、わたしの奇行に対しての驚きへ埋まっていく。そりゃそうだろう。誰だって、敵に突っ込むなんて思っていない。――ソレは、敵も同じだ。
敵は、わたしの奇襲に加え、急な突撃に驚いて、武器の持ち替えを失敗し、手には医療キッドが握りしめられていた。これがもし、上位の……いや、中位以上の敵だったら、こんなことは起きなかったのだろうけど、わたしが初心者だったおかげで、まだ低ランク帯であり、このような単純なミスをしてしまう。
それに、焦った時にミスしてしまうのは、ノアちゃんとコラボした時のわたしがいい例だ。
「まずは……一発」
そうして、わたしは敵の胸元に踏み込んで、大きく拳を振りかぶった。
:ええええ⁉
:パンチ⁉
:FPSとは?(哲学)
まだ始めたばかりで、動きながら正確に当てることが出来ないわたしが勝つためには、これしか方法が無い。
拳が敵の胸にめり込み、鈍い音が響いた。
「っ……当たった!」
:wwwww
:まさかの格闘キル⁉
:ピストルより強い説
敵はよろめき、慌てて距離を取ろうとする。
でも、わたしはもう止まらなかった。
「次で終わらせる!」
再び拳を振り抜く。二撃目が決まった瞬間、画面に「撃破」の文字が浮かび上がった。
:!?!?!?
:パンチで勝ったwww
:FPSとは一体……
:何を見ているんだ、俺たちは……
チャット欄が驚きの声で埋まっていく。
「……っ、勝った……! ほんとに、勝てちゃった……」
マウスを握る手が震えている。心臓はまだドクドクと早鐘を打っていた。
:名言からの格闘勝利w
:ピストルより拳の方が強い説、証明されてしまった。
「いやいや……これ、FPSだよね? わたし、間違えて格ゲーやってないよね?」
:wwwww
:FPSは格ゲーだった
:まぁ、ユイちゃんがかわいいからよし!
自分がやったことだけど、本当にこんな勝ち方でいいのだろうか? でも、勝ちは勝ちだし……わたしの力だけでつかんだ勝ちなんだから、これは喜んでいいはずだよね。
「よし、次に行こう!」
:がんばれー
:応援してる!
まぁ、この戦法がもう一度成功することは無く、普通に負けてしまったんだけど。
「ああ、負けちゃった。……よし、これからも練習しよう!」
(いつか、ノアちゃんと一緒にコラボが出来るように)
「じゃあ、また次の配信で。またね! みんな」
:お疲れ様ー
:応援してるよ!
:またね!
……追記しておくと、拳で敵を倒したシーンの切り抜きがバズって、チャンネル登録者が一気に増えた。……それと同時に、拳で殴る人というイメージもついてしまった、
【ゲーム実況】初めてのFPS!
高評価8,432 低評価34
チャンネル登録者21,343人
再生回数23,414回
次回から、二章が始まります。ぜひ、読んでください!




