ノアのFPS
「みんなー、こんにち……あ、もう夜か。こんばんは! 今日はなんと、初めて配信でFPSをしていくよ!」
ユイとのコラボから数日たち、ボクはまだあの日の余韻を引きずっていた。あのコラボは、成功したと言うことができ、数字にもそれが表れている。また、あの日のおかげで、ボクもユイも一歩前へ進むことができて、少しずつだけど、勇気を持てるようになっていった。
――だから、今までしてこなかったことにも挑戦できる。
「FPSは、Vtuberになる前からちょこちょこ遊んでたんだ。だから、今日はちょっとだけ自信あるかも。……まぁ、せいぜい中の上くらいの実力だけどね!」
もちろん、プロゲーマーみたいに毎日練習していたわけじゃない。一緒に遊ぶ友達もいなかったから、ソロか野良と一緒で潜っては飽きてしまうことも多かった。
――はぁ、本当は誰かと一緒にやってみたいな。
そうして、試合が始まる。
最初は、気球に乗って空を滑るように降下していく。眼下に広がる街並みは、どこか作り物めいているのに、心臓の鼓動は妙にリアルだった。
「えっと……どこに降りようかな。安全そうなとこ……いや、物資がある場所がいいか」
:お、あまり敵がいない
:初動は簡単そうじゃんか
ボクは、地面に降り立ち、近くにある宝箱を開けていった。
「ショットガンと……スナイパーライフル。げ、中距離武器が無い」
:極端すぎる構成で草
:近距離か遠距離しか戦えないやつw
:初心者あるある装備
「うぅ……これじゃあ中距離で戦えないじゃんか。……まぁ。スナイパーライフルがあるから、何とかなると思うけど」
:フラグ立ったw
:ノアちゃんのスナイパー芸、期待してるぞ
:外しても笑う準備できてる
武器を握り直し、ボクは建物の影からそっと外を覗いた。すると、遠く離れた建物の窓に人影がちらりと動いた。
その刹那。思考よりも先に、身体が動いていた。
パァンと乾いた音が響き、スコープを除いた先に赤いスパークが散った。人影がぐらりと揺れ、そのまま窓の奥へと崩れ落ちていく。
「よし」
:え???
:スナイパーライフルで早打ちw
:よしじゃないんだが?
:中の上とはいったい?
ボクのプレイを見て、コメント欄がざわついている。まぁ、その理由は予測できる。中の上程度の実力と言っていたのに、このようなプレイングをするなんて誰も思わないだろう。
「まぁ、スナイパーライフルは得意だからね。例えば……射程管理や状況判断、他の武器だと中の上――いや、中の真ん中くらいしか実力が無いと思うよ」
:ああ、そういうこと
:万能型だと思ってたけど、案外特化型なの?
:スナイパーライフルが出来るんだったら、他の武器とかも使えるだろw
「そりゃ、スナイパーライフルはすっごく練習したからね。だってさ、一撃で仕留めるのってカッコよくない? 男のロマンてものだよ」
この意見は、共感してもらえると思って、胸を張って言った。だけど……。
:www
:男のロマン(ノアは女性)
:わかるけど、そうじゃないw
:かわいくて、カッコいい……最強か?
「ちょ、ちょっと! ロマンはロマンなんだから、性別とか関係ないでしょ!」
:正論w
:でも、最初に男って言ったのはノアちゃんだよ
:かわいいのにロマン語るのギャップ好き
「うぅ、何も言い返せない……」
前世のせいで、まだ僕が男だった時の感覚が抜けず、つい男のロマンなんて言葉が口をついてしまう。十七年くらい生きているのに、なんで男だった時の感覚が抜けないんだろうか? 誰かに相談したいけど、誰にも相談できないな。
「……まぁ、そんなことは置いといて、さっさと移動しようか。物資もまだ足りないし」
:切り替え早いw
:さっきまでロマン語ってたのにw
:でも真面目に立ち回るの助かる
わざと明るく声を張り上げる。胸の奥に沈んでいる違和感を、コメントのざわめきでかき消すように。
――今は考えない。今はただ、みんなと一緒に楽しめばいい。
そう自分に言い聞かせながら、ボクは次の建物へと駆け出した。
*
そうして、試合は進んでいき、残り二十人。
これまでに、ボクはスナイパーライフルで三人くらいキルすることが出来て、その死体から物資をある程度補給することが出来ていた。
「うん、結構順調じゃない?」
:いやいや順調すぎるw
:中の上(大嘘)
:スナイパーライフル上手すぎだろw 一度も外したことないしw
:ノアちゃん覚醒してるなぁ
「ち、違うってば! ほんとにたまたまなんだから! ……でも、ここからが本番だよね」
数字が減っていくたびに、胸の鼓動が速くなる。けれど、不思議と指先は落ち着いていた。
――この緊張感を、みんなと一緒に味わえるのが嬉しい。
建物の影に身を潜めながら、次の円の位置を確認する。
「……うわ、次の安置、ちょっと遠いな。走らなきゃ」
:走れノアちゃん!
:ここからがサバイバルだぞ
:移動中に撃たれるフラグw
辺りを確認して、深呼吸をひとつ。
「……よし、今なら行ける!」
ボクは建物の影から飛び出し、次の安置へ向かって駆け出した。草むらを踏みしめる音がやけに大きく響いて、心臓の鼓動と重なる。
:走れー!
:撃たれるなよw
:この瞬間が一番ドキドキするんだよな
「や、やめてよ! ほんとに撃たれそうで怖いんだから!」
冗談めかして返しながらも、視線は常に周囲を走り回る。――残り二十人。ここから先は、誰がどこで見ているかわからない。
それでも、不思議と足は止まらなかった。
――でも、ここでボクの弱点が出た。
パァンと乾いた音が響き、シールドが割られる。
ボクの索敵が甘くて、上からショットガンを持った敵が降って来た。慌てて反撃しようとするも、隙を突かれた一撃のせいで、体力にかなり差があり、このまま戦っても勝てる気がしない、
:あああああああ!
:奇襲はずるい!
:ノアちゃん逃げろー!
:回復回復‼
いや、この距離で逃げることは出来ない。この体力差、この距離、この状況ですべきことは一つだけ。
スナイパーライフルを、この近距離で敵に向ける。
:え?
:ノアちゃん?
大丈夫、この距離でも、ボクなら出来る。
「……ここで外したら終わり。でも、当てれば――勝てる!」
息を止め、引き金を引いた。
轟音とともに閃光が走り、至近距離で放たれた弾丸が敵の頭を撃ち抜く。
:!?!?!?
:近距離スナイパー成功www
:中の上(大嘘)
:ノアちゃん、やっぱり天才だろ!
「……っ、やった……! あ、あぶなかったぁ……!」
手が震えるほどの緊張感。けれど、画面の向こうで沸き立つコメントを見て、自然と笑みがこぼれた。
「よし、倒した敵から物資を取ろう」
そう呟いた時だった。
右の方から大きな銃声が聞こえ、画面上にGAMEOVAERの文字が浮かんでいた。
「え?」
:あ
:狙撃されたw
:wwwww
「……え、ちょ、ちょっと待って⁉ 今のなに? どこから⁉」
:油断したなw
:物資漁りは狙われがち
:最後まで気を抜くなってやつだ
:でもナイスファイト!
「うぅ……せっかくここまで来たのに……。でも、楽しかったからいいや! 今日の配信はここまで、またね!」
:おつかれー!
:ナイスファイト!
:楽しかった!またやってね!
【ゲーム配信】FPSをやるよ!
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