終わり
「二人とも、世話が焼ける」
「「申し訳ございませんでした」」
「え? 声が小さい」
「「申し訳ございませんでした!」」
:何これ?
:さっきまでの雰囲気、どこに行った?
:雰囲気が迷子になってるww
その理由は――いつまでたっても、互いにわかり合おうとしなかったこと。そして、当事者だけじゃなく、見守る側の気持ちも考えろということだった。
正直、悪いことをしたとは思っている。あれほどすれ違って、あれほど拗らせて、あれほど周りを巻き込んだのに……原因は、驚くほど単純なことだったのだから。
でもね、人間関係ってそういうものなんだ。
どれだけしょうもない理由でも、どれだけ小さな誤解でも、それが積み重なれば、一生残る傷になることだってある。
だから――
「ベオ?」
「何でもありません。何も思ってません」
「……嘘だろ」
「ルミナ!?」
:絶対、脳内で言い訳してたww
:やっぱりベオはベオだ
:問題児じゃないベオはベオじゃないw
「ねぇ。喧嘩売ってる?」
「私も同意見だが?」
「ルミナは、さっきからどっちの味方!?」
何故か、味方から背中を撃たれている気がするけれど、きっと気のせいだよね。うん、そうに違いない。
それにしても……さっきのやり取りは配信で世界中に晒しちゃったんだよね。ああ、本当に嫌だ。タイムマシンで過去に戻りたい。……でも、そうすると、ルミナとの関係が元に戻るのか、それはそれで嫌だな。
「社長、この配信をアーカイブに残さないってことは……」
「無理に決まっています」
「……諦めろ」
:そうだよww
:ざまーみろ、狂狼ww
:一生煽ってやるからなwww
:普段の配信の仕返しだwww
「ユイ、これって大丈夫なの?」
「ノアちゃん、気にしないでいいよ。普段の配信で視聴者を煽ってたベオさんが全面的に悪いから」
ユイたちがそんなことを話してる。本当にうるさい、自業自得なのは、心の底から理解しているから、本当に言わないでほしい。
というか、何でルミナは平気そうにしているんだよ。いや……どうせルミナのことだから、どうにもならないことを悟って諦めているだけか。
「はぁ、もう終わろうよ。ほら、もう夜遅いじゃないか」
「それはそうですね、終わりにしましょうか。皆さん、こちらにきてください」
もういいや、さっさと終わらせよう。
社長の声に、みんながゆっくりとステージ中央へ集まってくる。さっきまで涙と怒号と告白でぐちゃぐちゃだった空間が、嘘みたいに落ち着いていく。
「ふふっ、妹たちがやっと仲直りできて、お姉ちゃんは嬉しいわよ」
「……ボク達の方が年上ってことは、言わないでおくよ。シュウ姉」
「筋肉が足りないから、すれ違いが起きるのだ!」
「コウジ、ルミナに負けてたよね?」
:ww
:シュウはぶれないなw
:筋肉は関係ないだろw
はぁ、後輩たちがいじってくる。……いや、これは遊ばれているのか?
シュウ姉は相変わらずマイペースだし、コウジは相変わらず筋肉で全てを解決しようとするし、ニヤは後ろでずっと笑ってるし、ユイトとマサは「いやぁ青春だねぇ」とか言ってるし。ろくなことが無い。
「ベオ先輩、ベオ先輩! 告白を世界中に配信した気分はどうですかー?」
「……」
「あれ? 何も言えないんで――ぐぇ!」
:ツバサが死んだ!
:この人でなし!
:まぁ……自業自得だな、これ
よし、静かになった。
「つ、ツバサ先輩大丈夫ですか?」
「……小さくてかわいい子が、アタシの背中をさすってくれてる。ははは……役得だぁ」
「ノアちゃん、この汚物からは離れて」
「汚物!? ユイ、アタシに対して、当たり強くない!?」
:wwww
:ぶれねぇな、コイツ
:ツバサだし……
「ベオ先輩、ルミナ先輩、おめでとうございます!」
「ありがとね、いろいろと。やっぱり、ヒナタが一番マシだよ」
「確かにそうだな」
「クラッカー、千個くらい買ってきます!」
「ストップ! 加減はしなよ、加減は!」
「……シュウの方がマシだったか?」
ツバサとは違って、ヒナタは普通に祝福してくれてる。けれど、クラッカー千個は、自分が楽しむためでしょ。ヒナタは、派手なことが好きだし、そうに違いない。
まぁ、善意ということはわかっているから、ありがたくはあるんだけどね。
(あとは……)
「ノア」
「え? ベオ先輩!?」
ボクはヒナタと話した後、ノアの方に歩いて、話しかけた。ノアは、まるで自分に話しかけられるとは思ってなかったという顔で、目をぱちぱちさせていた。
その反応があまりに素直すぎて、逆にこっちが戸惑う。
「ノア、さっきは……ありがとね」
「えっ……あ、あの……何が、ですか?」
「ボクの背中を押してくれたこと」
これは、しっかり言うべきだと思った。
もちろん、ティアや社長やユイのような、この場を作ってくれた人たち、ヒナタやシュウのような、ボク達のことを見守ってくれた人たちにも感謝はしている。
けれど、最後の一押しをしてくれたノアには、どうしても……ちゃんと伝えたかったから。
「ありがとね。ノアがいなければ、ボクは逃げたと思うから」
「ベオ先輩、善意は巡るんですよ。あのとき、僕はベオ先輩に助けられました。そのお返しです。お礼なんて、いりませんよ」
ノアの言葉は、あまりにも自然で、あまりにも真っ直ぐで、胸の奥にすっと染み込んだ。
「……そっか」
そう返した瞬間、ノアはふわっと笑った。
その笑顔は、今日のどんな祝福よりも柔らかかった。
「ベオ先輩」
「なに?」
「まだ、星は嫌いですか?」
星……ボクが憎んだ、孤独の在り方。
けれど、その星はボクの傍にやって来て、ボクの心を照らしてくれた。
だから……
「大好きだよ」
そうして、Neoverse全員が揃ったコラボが、幕を下ろした。
このコラボで、ボクたちはようやく――長い長いすれ違いに、終止符を打つことができた。
配信画面がフェードアウトし、スタジオの照明がゆっくりと落ちていく。
けれど、未来へ続く道は、眩しいほどに輝いていた。




