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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
最愛の君へ

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出会い

「わー、莉緒ちゃん、凄い!」

「ははっ、当然だよ」


 小学生の頃のボクは、今思い返すだけで胃が痛くなるほどの天狗になっていた。……本当に、あの記憶だけは消したい。


 だって、周りに相手がいなかったんだ。

 努力なんてしなくても、テストは満点。運動も一番。先生に当てられても即答。

 そんな環境で、心が満たされるわけがない。


(はぁ……つまらない)


 みんながボクの言うことを「すごいね」と褒めるたび、胸の奥が冷えていく。

 話しても通じない。競っても相手にならない。

 だから、いつの間にかボクは“ひとり”が当たり前になっていた。


 退屈しのぎに、他人の秘密を暴いて遊んでいた。

 先生の不倫を見つけたときなんて、教室の空気が一瞬で凍りついて……あのざわめきと視線の集中が、妙に心地よかった。


(あれは楽しかったなぁ。次は誰の秘密を暴こうかな)


 当然、嫌われた。でも気にしなかった。

 子供の浅い悪意なんて、ボクには届かない。

 先生たちも警戒していたけど、ボクが暴くのは“世間が味方する秘密”だけだったから、誰も強く出られなかった。


――そんな日々が、突然終わった。


「星見冴、よろしく」


 転校生の冴。

 その瞬間、空気が変わった。

 冴は、ボクが今まで当然だと思っていたものを、軽々と超えてきた。


 テストは満点どころか、ボクが解けなかった応用問題まで正解。

 運動会では、ボクが全力で走っても追いつけない。

 授業中の発言は、先生が一瞬黙るほど鋭い。


(……は? なにそれ)


 頭脳でも、身体でも、存在感でも。

 冴は、ボクの上位互換だった。


(認めない……ボクは天才なんだ。負けるはずがない)


 プライドが粉々になったボクは、冴に執着し始めた。

 冴の後をつけ、ノートを盗み見て、家まで尾行して……今思えば完全にストーカーだ。


 でも、観察すればするほど、残酷な事実が突きつけられた。


(ずるなんてしてない……)


 冴は、ただ圧倒的な才能を持ち、その上で、ボクが逃げてきた努力を積み重ねていた。


 夜遅くまで机に向かう姿。

 走り込みで汗だくになっている姿。

 誰も見ていないところで、何度も何度も繰り返す姿。


(……すごい。すごすぎる)


 気づけば、ボクの中の執着は、静かに尊敬へと変わっていた。

 ボクもあのような人になりたい。冴は、ボクが初めて尊敬した人だ。もちろん、同じ年であり、ボク達は上下なんて物は無かったのだけど、そんなものはどうでも良かったんだ。


(話してみたい。その在り方について聞いてみたい)


 ボクは、枕の顔を埋めながら足をバタバタとさせていた。

 ああ、本当にボクは運がいい。だって、学校に行けば毎日憧れの人と会うことが出来るのだから。


「よし! 決めた! 明日、星見冴と話してみよう!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の朝、ボクはいつもより早く学校に着いた。

 教室の扉を開けると、まだ誰もいない……と思ったら、一人だけ席に座っていた。


 星見冴だった。


 窓から差し込む光の中で、冴は静かに本を読んでいた。

 ページをめくる指先が綺麗で、思わず見とれてしまう。


(……話しかけるなら、今しかない)


 胸がどきどきして、足が床に貼りついたみたいに動かない。

 でも、逃げたくなかった。


「お、おはよう……冴」


 声が裏返った、最悪だ。変な人だと思われていないかな?

 でも――


「……」


 冴はボクのことを見向きもしなかった。どうやら、彼女は本に集中して、ボクのことに気付かなかったらしい。

 ムカつく。でも、我慢しないと。そういう集中力が高いところも、ボクが尊敬しているところの一つなんだから。


 ボクは、冴の後ろに回り込んで、どんな本を読んでいるのか眺めてみた。すると、その本に書いてあったことは、天文学に関することであり、まだ小学生だったボクには、半分くらいしか理解できなかった。

 ……冴だって、小学生のはずなのに。


(何これ、相対性理論? へー、特殊相対性理論と一般相対性理論の二つに分けられているんだ。光の速さが一定であることを前提にすると、速く移動する物体の時間は遅く進む……か、なるほどね。でも、重力が時空のゆがみ? それについては、よくわからない)


 憧れの人に追いつきたくて、後ろから本の内容を理解しようと読み進めていく。今まで、こんなにも頭を働かせたことが無かったから、少しくらくらし始めて来たけれど、冴と話すという目的がある以上、ここで諦めるという選択肢はない。

 すると――


「さっきから何? 邪魔なんだけど」


 本から目を離さなかったものの、ついに冴がボクに話しかけて来た。

 てっきり、冴はボクに気が付いていないと思っていたから、驚いて足を下げてしまい、後ろにある机にぶつかってしまう。


「わっ、びっくりした。いつからボクに気が付いていたの?」

「最初って、ボクが話しかけた時から?」

「そうだけど」


 冴はページをめくりながら、まるで当たり前のことを言うみたいに答えた。


「……じゃあ、なんで返事してくれなかったの?」

「返事したら、本の内容が飛ぶから」


 あまりにも真っ直ぐな理由に、ボクは言葉を失った。冴がどれほど努力をしているのかは知っていたけど、ここまで自分の知識を取り入れることに全力だとは思っていなかったから。


(……すご。こんな人、初めて見た)


 胸の奥がじんわり熱くなる。

 悔しいのに、嬉しい。

 追いつきたいのに、追いつけない。

 そんな矛盾した気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざっていく。


「……その本……難しくないの?」


 気づけば、自然と口が動いていた。

 冴はようやく本を閉じて、ボクの方を向く。


「難しいよ。でも、面白い」


 その一言が、妙に眩しかった。


「実際、君も読んでいたでしょ」

「うっ、それはそうだけど……でも、半分くらいしか理解できなかったよ」

「それで十分だと思うけどね」


(話せてる? 失礼なこと言ってないかな?)


 こんなことになるくらいなら、今までも色んな人と話しておくべきだった。だって、今までは他人のことを見下していて、誰かと話すことがほとんどなかったから、ちゃんと話せてるか自信が持てない。

 ほんと、ボクは今まで、全ての時間を無駄にしていた。


「ねぇ、何で冴は努力をやめないの?」

 

 自分でも驚くほど、声が小さかった。

 でも、冴はちゃんと聞いてくれていた。


「成長するため」

「成長するため?」

「うん。人って、やればやるほど上に行けるでしょ。限界って、たぶん思ってるよりずっと遠いところにあるんだと思う」


 冴は少しだけ窓の外を見た。

 朝の光が横顔に当たって、なんだか本当に遠くを見ているみたいだった。


「天体もそう。最初は空を見るだけ。でも、望遠鏡を使えば月が見える。もっと強い望遠鏡なら火星も見える。技術が進めば、太陽系の外側だって見えるようになる」


 冴は本を軽く叩いた。


「努力って、それと同じなんだよ。昨日より少しだけ遠くを見られるようになる。それが楽しいから、私は努力をやめないの」


 その在り方は、ボクには無かった考えだった。

 だから、ボクは――


「ねぇ! それなら、ボクもそうしていい?」

「私の許可なんていらないでしょ」

「そうだけど! 冴と一緒に努力をしたいの!」


 冴は少しだけ目を丸くして、ボクをじっと見つめた。

 責めるでもなく、呆れるでもなく、ただ観察するみたいに。


「……一緒に?」

「う、うん……ダメ?」


 冴はほんの一瞬だけ考えるように視線を落とし、それから静かに笑った。


「別にダメじゃないよ。努力って、誰かとやっちゃいけないものじゃないし」

「ほんとに?」

「うん。ただ――」


 冴は指で本の角を軽くトントンと叩いた。


「努力ってね、誰かのためにやると続かないよ。莉緒が自分のためにやりたいなら、一緒にやってもいい」


 胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

 冴は優しいけど、甘やかさない。

 その距離感が、逆に心地よかった。


「……自分のためにもやりたい。冴と話したいし、冴に追いつきたいし……もっと遠くを見たいから」


 言葉にした瞬間、冴の目が少しだけ柔らかくなった。


「そっか。じゃあ、いいよ。今日から一緒にやろう」

「言ったね! 約束だから!」


 それが、ボクと冴の出会いだった。



 

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