Fromマサ&ユイト
「さて、第六戦がニヤの勝ちで二勝四敗に! でも、まだ一敗も許されない状況は変わってないよ。次は、近藤マサ&黒木ユイトVSルミナ・セレスティア! 二人とも、前に出てきなよ!」
「よし、次は俺たちの番か」
「フッ、我らの力を見せてやろう」
ベオ先輩の声がスタジオに響き、マサさんとユイトさんが舞台上へと歩みだす。
その歩みに緊張なんてものは一切見えず、自信と高揚感に満ち溢れていた。
「ノアにユイ、しっかり待っておけ。絶対に勝って帰ってくるからな」
「ああ、俺たちは二人で最強だからな!」
「……なんかフラグが立った気がするんですけど」
「しっ! 言っちゃダメ!」
:フラグwwww
:ユイトがいる時点でな……
:不憫枠がいるせいで、フラグになった説あるんだけど!
本当に大丈夫なのかな?
あの二人の実力を疑ってるわけじゃないんだけど、よくフラグを立てて失敗してたりするし、正直不安だ。
(そう言えば、ずるをするって言ってたけど、何をするんだろうか?)
一応、社長に話を通して許可されたらしいけど、許可される程度のずるがルミナ先輩に通用するか分からないし、不安がぬぐえることは一度も無かった。
でも、あの二人のことだ。きっとなんとかしてくれる……はず。
「それで、君たちはどうやってルミナに挑戦するんだい?」
「フン、我たちがするのは……」
「野球のビデオゲームだ!」
「我が喋ってる途中なんだが!?」
:www
:野球ゲームか
:意外だな
へー、あの二人って、野球が好きなんだ。
「ちなみに、君たちは野球をやったことがあるのかい?」
「我がチームスポーツなんてするわけがないだろう」
「俺はテニスだな」
:なんで野球にしたんだよ!
:まぁ、Neoversに入る人がチームスポーツなんてするわけが無いか
:……否定できんな
「まぁ、君たちが決めたのなら、ボクは否定しないよ。準備も終わったようだし、席に着きな」
ベオ先輩がそう言うと、マサさんとユイトさんは同時に頷き、まるで戦場に向かう兵士のような顔で席に座った。
「待たせたな」
「気にしないでいい。時間なんて、私に影響を与えないのだから」
:それはそう
:どうなるんだろ?
:マサユイト頑張れ!
「てことで、第七戦近藤マサ&黒木ユイトVSルミナ・セレスティアはじめ!」
球場は、両翼百メートル、センター百二十メートル。センターからホームベースへ秒速三メートルの風が吹いており、ホームランが出にくい、完全に投手有利のコンディションだった。
今回は時短のため二イニングのみ。
マサさん達が先攻、ルミナ先輩が後攻だ。
「どっちから打つか?」
「それなら、我からいこう」
まずは、ユイトさんがコントローラーを握る。
「ユイト、頼んだぞ」
「任せろ。打てばいいんだろう、打てば」
:いや簡単に言うな
:野球ゲームって意外と難しいぞ
:ユイトの自信はどこから来るんだ?
まずは初球。外角低め、ストレート。
「フン」
:空振りwww
:おい!
「ユイト……?」
「今のは様子見だ。仕方がない」
「様子見?」
:様子見にしては狙ってたな
:強がるなよww
「二球目、投げるよ」
「ああ、問題ない」
内角低め、外から来るスライダーが少し外れる。
ユイトさんは、しっかり見逃した。
「――ぶなっ」
「ナイス! ボールよく見えてるよ!」
「やるな」
三球目。内角に食い込むカットボール。
ユイトさんは何とか食らいついてファールにした。でも……
「おいこんだぞ」
「ま、まだまだっ」
四球目。外角低めにスプリット。
ユイトさんは手を出せず見逃し三振。
:三振!
:手が出ず!
:せめて振れよ!
「悪い。いいって、まだチャンスはある」
そして、バッターが変わり、マサさんがコントローラーを握る。
「こいっ!」
「声はいいな」
マサさんの初球は、真ん中低めのチェンジアップ。
マサさんは、ストレートのタイミングで強振していて、尻もちをついてしまう。
:まじか!
:山を張ってたのかよ
「まじか……」
「……結構読みやすかったぞ」
:おい!
:なんで読まれてるんだよ
山を張ってるのを読まれたら意味が無いだろうに。
そして、二球目。今度は、内角高めのつり球に手を出して、ツーストライク。
「しまっ……」
:つり玉に手を出すな!
:ユイト以上に悪いぞ
そして、運命の三球目。内角低めのボール球に手を出し……けれど、何とかバットに当てて、打球が大きく上がる。
打球はレフト後方へ。しかし、ボールは風に押し戻され、グラブに収まってしまう。
「低めのボール球を芯に当てるとは」
「ちっ、あとちょっとだったのに」
:おしい!
:凄いな、あれをあそこまで飛ばすなんて
:少しだけど、ルミナの予想を上回ったぞ
「後は頼んだ」
「ああ、任せておけ」
ユイトさんの二打席目。初球は外角低めのカーブ。
ユイトさんはしっかり流して、ライン沿いのファール。
:おしい!
:当たってるよ!
二球目。内角低めのストレート。少し外れてボール。
「選球眼は良いな……」
三球目。ど真ん中のストレート。
ユイトさんは、驚いて振り遅れてしまい、ファール。
「しまった……」
:何してんだよ!
:今のは打てるだろ!
(そっか、予想外のボールが来て、手が止まってしまったんだ)
ユイトさんは、観察眼が良い。そのせいで、予想を上回られてしまった時に、一瞬止まってしまう。
ユイトさんの弱点を上手くついた形になるが、ホームランになるかもしれないボールを投げた、ルミナ先輩の勇気に息を呑んでしまう。
そして、四球目。外角低めのチェンジアップ。
さっきの残像が残ってたのか、ユイトさんは空振り三振に終わって、スリーアウト、チェンジ。
:手玉に取られてる……
:次は、ルミナのバッティングだろ
:何点取られるんだ?
一回の表。マサさん達の攻撃だったはずなのに、ルミナ先輩の凄さが際立つ結果となってしまった。
そして、次はルミナ先輩の攻撃。
「どっちから投げる」
「ああ、我から投げよう」
どうやら、守りの時も一回ずつ交代して投げるようだ。
でも、それなら二対一の意味が無いんじゃ……。
「さぁ、こい」
ルミナ先輩の一打席目。初球、内角低めのシンカー。ストライクゾーンぎりぎりに決まってストライク。
ユイトさんが捜査しているピッチャーは、右投げのサイドスローだ。
「良いコースだ」
:いいぞ、その調子
:いけいけ!
しかし、二球目。外角低めの少し外れたスライダーを流されて、ライト前ヒット。
:まじかよ
:ミート打ち!?
「悪い、任せた」
「ああ、後は任せろ」
次はマサさんが操作する。
初球、内角高めのストレート。
けれど――
「よし」
「は?」
乾いた金属音が響いた。打球は高く、高く舞い上がり――レフトスタンドへ一直線。
:えええええええ!?
:初球ホームラン!?
:なんで打てるんだよそれ!
0対2 しかも、まだ一度もアウトを取れていない。
:ルミナ化け物すぎ
:読めてたの?
試合はまだ続いていく…………
――――――――――――――――――――――――
「なんとか、収まった……」
スコアは0対5。
コールドになる前に、何とか抑えることが出来たのだが、ルミナ先輩相手にこの点差はきつい。
「まだするか?」
「まだまだ!」
「たかが五点差。我たちなら余裕だ
:無理だろ……
:ルミナの勝ちか……
視聴者たちはあきらめムード。
正直、僕もここから勝てるとは思わない。
「マサ、一発ぶちかませ」
「ああ、わかったよ!」
盛り上がっているのは、二人だけだった。
けど、諦めていないのなら、まだ勝つ可能性は少しだけ残っている。
初球、内角低めスプリット。
マサさんは見逃して、ボール。
「あぶなっ」
「見逃した?」
ルミナ先輩は予想を外したのか、首を傾げている。
二球目、内角のストレート。マサさんは、バットに当てて、ライン際に落とした。
:ヒット!?
:走れ走れ!
落ちた場所が良くて、ランナーは二塁に進む。
五点差もあるけれど、ノーアウト二塁。反撃することは、まだできる。
「よしっ」
「いいぞ、後は我に任せておけ」
そして、ユイトさんの初球。内角のチェンジアップ。
しかし――
「フッ」
打球は伸び、レフトフェンスに直撃する。
:打った!
:一点目!
:タイムリーツーベース!
:ナイス!
これで、1対5 点差はあるが、またノーアウト二塁だ。
「初球を……」
これもまた、ルミナ先輩の予想を外していたようで、首を傾げている。
これなら、勝てるかもしれない。
次、マサさんの打席。
初球、なんとど真ん中のストレート。しっかりとらえて、センター後方――超えた! ホームラン
「しゃぁぁぁっぁっぁ!」
「よくやった!」
:3対5!
:いいぞ!
:しかも、まだノーアウト
どうかしたのだろうか? あのルミナ先輩から、一気に三点も取ったのだ。
次、ユイトさんの初球。これも、外角低めのスライダーを流して、ライト前ヒット。
次、マサさんの初球。内角低めのスプリットを引っ張って、サードとショートの間を抜けようとしたところを、何とかショートが掴んで、ショートゴロ。ワンアウト二塁。
次、ユイトさんの三球目。高めのつり玉を打って、レフトの前にぽてんヒット。ワンアウトランナー一三塁。
次、マサさんが十球粘って、フォアボール。ワンアウトランナー満塁。
:すげぇ、勝てるぞ!
:ヒットで同点!
「まさか……いや……」
あのルミナ先輩が動揺を隠せていない。あの二人はどんなことをしたのだろうか?
「さぁ、我が決めてやる」
次、ユイトさんの初球、外角低めストレートを見送ってボール。
:いいよ、見えてるよ!
:フォアボールでも一点とれる!
二球目。内角低めストレート。ファール
三球目。外角低めカーブ。見逃し、ストライク。
:追い込まれた
:でも、まだある!
四球目、背後から来るスライダーが内角低め。少し外れてボール。
:あぶなっ!
:その調子
五球目、外角高めのストレート。食らいついてファール。
六球目、外角低めスプリット。少し外れてボール。これで3-2。
七球目、今度は内角高めのストレート。しっかり当ててファール。
八球目、外角中断ストライクコースぎりぎりのストレート。ボールがバットが掠って、ミットに収まりかけるが、何とかミットから離れ、ファール。
そして、勝負の九球目。
互いに一言も発しないほど集中し、ボールが放たれた。
それは、まさかの真ん中! ユイトさんは、今度こそ捉えるために、振り遅れずバットを振る。
しかし、ボールはどんどん曲がっていき、外角低めに吸い込まれて行った。
(スライダー。でもっ)
このまま行けば、ボールになる。バットを止めれば――
けれど、バットは止まらない。次の瞬間には、ボールが打ちあがり、ライトの方へ高く飛んでいく。
「よしっ」
ルミナ先輩が喜びの声を上げる。この飛距離だと、タッチアップをされるだろうが、それでも4対5。勝負は決まらない。
(あれ?)
けれど、ボールが中々落ちてこない。少し、少しずつ伸びていき――
ライトスタンドに突き刺さる。
「は?」
:逆転満塁ホームラン!
:7対5!
:すげぇ、あそこから逆転した
「ホームラン? ユイトが? 何故?」
ルミナ先輩は、何でこうなったのか理解が出来ていないようだった。
「ナイス!」
「フッ、我の力、思い知ったか!」
流れが一気にこっちにやって来た。
これなら、もしかしたら勝てるかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――
二回裏ツーアウト二三塁。7対6
あの後、ルミナ先輩は何とか落ち着いて後続を抑えた。
でも、完全に落ち着けてはいなかったようで、次の攻撃ではツーアウトまでに一点しかとれていない。
しかし、これが最終イニング。ヒット一回で逆転される。
「今度は俺だな」
ピッチャーは、マサさん。操作するのは、左の変則フォームのムービング使いだ。
「……」
ルミナ先輩は、これ以上ないほど集中している。
そこから放たれる圧だけで、暴投してしまいそうなほど。
初球。内角低めツーシーム。鋭い打球だが、三塁の横を通り過ぎて、ファール。
「ぶなっ」
二球目。外角高めのムービング。バックネットに突き刺さるファール。
三球目。外角低め、カットボール、バックドア。少し外れてボール、カウント1-2
四球目。内角高めツーシーム、詰まらせてファール。
そして、勝負の五球目
(マサさんなら、外角低めのストレート。あの人なら、絶対そうする)
きっと、ルミナ先輩も、それを読むだろう。
マサ先輩のことだから、最後はストレートで見逃し三振を取ろうとしてしまうはずだ。
ボールが放たれた瞬間は、ただの外角低めストレートにしか見えなかった。
回転も、軌道も、初速も。誰もがストレートの決め球だと信じて疑わなかった。
ルミナ先輩のバットがそこを狙って回転してくる。
――だが。ボールが消えた。
「……スプリット?」
「しゃあああ!」
バッター三振、ゲームセット! マサさんと、ユイトさんの勝利!
:すげぇぇぇ!
:ナイス!!!
:大金星!!!
:負けだと思ってた!
初回に着いた五点差を、見事取り返して逆転勝利。
視聴者も、僕たちも、誰も敗北を疑わない中で足掻き続けた、二人の勝利だった。
「な、ぜ……?」
みんなが喜んでいる時、ルミナ先輩が疑問の声を上げた。
「何が、起きたんだ?」
「ちょっと、ずるしました」
マサさんが正直に言う。
そう言えば、あの二人はずるをするって、明言していたんだった。
「ずる?」
「はい、とある漫画で使われてた方法なんですけど、コントローラーを持つ人物を変えて、入れ替わってたんですよ。俺たち」
「それは考慮したけど、通用しなかった……」
「それは我の観察眼のおかげだな。入れ替わるタイミングは、我が観察することによって、ルミナ先輩に気付かれないようにしたのだ」
それは、予想外の事実であり……とは言え、ずると言ってもとても小さなずるだった。
けれど、この小さなずるは――。
「漫画では、心を読んでくる相手に使った戦法だったんですけど、ルミナ先輩は似たようなことできるでしょ? だから、うまく刺さるかなって」
「ちなみに、我の最後のホームランは、最後のボールだけマサに代わっていて、マサの最後のスプリットは、我が操作したボールだ」
それは、こんな結果になってしまうだろう。ルミナ先輩は頭が良すぎて、相手の思考を完全に読み切ることが出来る。
これは、シュウ先輩との戦いでも示されており、実際にマサさんたちとの戦いでもしていたのだろう。
それが、一イニング目の0対5という結果を編み出した。
しかし、二イニング目に入れ替わりを使い始めると、読みと現実のずれが出始め混乱してしまう。
ルミナ先輩相手では、バレる危険性もあるが、そこはユイトさんの力で何とかすることで、ぎりぎり成り立っていた小さな戦法だった。
「ふふっ」
その時、予想外の声が漏れた。
「あははっ、そんなっ……そんな戦法で私に勝つなんて」
今まで聞いたことが無い、ルミナ先輩の笑い声だった。
ルミナ先輩はいつも表情が変わらないから、冷たく笑わない人だと持ってた。でも――この姿を見ると、普通の女性の様に見えてしまう。
「ほんと、おもしろいよ。……おめでとう、二人とも。そして、ありがとう。私を楽しませてくれて」
時が止まっていた。
それほどまでに、ルミナ先輩の笑う姿は予想外だったのだ。
視聴者も、僕たちも、社長やティア先輩でさえも。しかし、この中でいつも通り動けた人が一人――
「ということで、第七戦。近藤マサ&黒木ユイトVSルミナ・セレスティア、近藤マサ&黒木ユイトの勝利!」
いつも通りのベオ先輩の声によって、第七戦は幕を下ろした。




