Fromコウジ
「そして、次は第四戦。金剛コウジVSルミナ・セレスティア! さぁ、勝つのはどちらでしょうか?」
:コウジ対ルミナか、どんな勝負をするんだろう
:コウジだよな……あれしかないだろ
:筋肉は正義だからな……
「その内容、説明してくれるかい?」
「ああ、もちろんだ。俺が提案したのは、長時間の筋持久力勝負だ」
:あー、やっぱり来た
:これはコウジ勝つだろ
:男女の差を考えろ
「ほらほらー、言われてるよー。男女の差を考えろって」
「棒読みで言われたくない。そして、確かに男女差はある。だが低負荷の持久力は筋肉量の差がほとんど出ない。筋肉の質と使い方の勝負になるのだ」
:あ、意外と考えてる
:筋肉を信じすぎているけど、脳筋ってわけじゃないからな
:でも、地味な戦いになりそう
「……あ」
「アハハッ! コウジ、言われてるよー」
「……シュウとのジェンガがあった時点で、地味という面では問題だろうに」
:それはそう
:高度な読み合いがあったんだろうけど、伝わらなかったからな……
:それでも、面白かったけど
「まぁ、地味でも勝負は勝負だ。筋肉は派手さじゃなくて結果で語る」
「そうだね。それじゃあ、第四戦を始めようか。何で耐久するのか教えてよ」
「簡単だ」
そうして、コウジは足を肩幅に開き、ゆっくり腰を落とした。
「低負荷スクワット耐久だ。浅めのスクワットを、どれだけ長く続けられるかの勝負だな」
:あー、それキツいやつ
:地味だけどガチで辛い
:やりたくねー
「いいね、それ。……あ、そうだ。ティア、こっちに来なよ」
「なに……?」
ベオ先輩が、急にティア先輩を呼び出した。
ティア先輩は、嫌そうな顔をしながらオ先輩の方へ歩いていく。
「……何の用?」
「ティア、君にもスクワットしてもらうよ」
「は?」
:え
:なんでティア?
:巻き込まれ事故発生
:ベオの無茶振りきた
「……なんで私まで?」
「だって、ルミナとコウジじゃ絶対に長引くから。一般的な引きこもりが必要かなって。あと、運動不足でしょ」
「一般的な引きこもり……」
:あってる
:正論
:引きこもってばかりで運動しないから
「よし、それでは始めようか」
「そうだな。善は急げ、今すぐやろう」
「待て、天才と後輩」
「アハハッ! いいよー、やれやれー」
:めっちゃ嫌がってる
:運動不足なのは事実だからな
:#ティア運動しろ
「ということで、第四戦、金剛コウジとルミナ・セレスティア(ついでにティア)の低負荷スクワット対決、始め!」
「……馬鹿狂狼め」
そうして、三人のスクワット対決が始まった。
:ルミナとコウジ、どっちが勝つと思う?
:さすがにコウジじゃね? 男性で筋トレが趣味だし
:ティアの応援もしろよ!
:がんばれー(棒)
「はぁ……はぁ……」
「あれ? まだ十回もしてないよ」
「まだまだだな……」
「おすすめのプランを考えておこう」
「うる、さい……!」
:早すぎだろ
:引きこもりだからな
:よわーい
「……はぁ……はぁ……無理……!」
ティア先輩が、ぷるぷる震えながらその場に崩れ落ちた。
「えっ、ティア先輩!? まだ十五回ですよ!?」
「十五回もだよ……! 普通はこんなにやらないの……!」
:ティア脱落早すぎ
:一般人の限界を見た
:いや、引きこもりだから平均よりずっと下だぞ
:なんか幼くなってる
「ふむ、ティアはここまでか。 じゃあ、ここからは――」
「そうだな、私たちの私たちの本番だ」
そうして、彼らはスクワットを続けていく。
二十回、三十回……九十回、百回――いや、もっと先二百回ちかくまで。いつまでたっても終わる気配が無く、決着がつく光景が想像できなかった。
:化け物すぎない?
:お互いにな
:コウジは筋トレしてるからわかるけど、ルミナもこれほど体力があるなんて
「……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
すると、コウジの呼吸が、少しずつ荒くなっていく。
汗が額を伝い、太ももがわずかに震え始めていた。
一方で――
「……」
ルミナは無表情のまま、一定のリズムで淡々とスクワットを続けている。
呼吸も乱れず、姿勢も崩れない。
:コウジのフォームが乱れ始めたぞ
:差が出てきたな……
;ルミナはまだ余裕そう
「……っ、くそ……! まだ……まだいける……!」
コウジは歯を食いしばり、無理やりリズムを立て直そうとする。
「コウジ」
ルミナが淡々と声をかけた。
「体重の差などがあるから、どちらかというと、私の方が有利だったが、それでも君の動きには無駄があった。その差だよ」
「……っ、言ってくれるじゃねぇか……!」
コウジは歯を食いしばり、呼吸を整えようとする。
だが、太ももは明らかに震え、汗が滴り落ちていた。
「君はどれだけ耐えられるのかな?」
ルミナは淡々と、まるで散歩でもしているかのようにスクワットを続ける。
:煽りが静かに刺さるタイプ
:ルミナ、まだ呼吸乱れてないの怖い
:コウジのフォームがもう限界近いぞ
:でも根性はあるんだよなコウジ
「……っ、はぁ……っ、はぁ……っ……まだ……終わってねぇ……!」
コウジ先輩は震える脚を叩き、無理やりリズムを戻す。
「コウジ」
ルミナ先輩が、ほんの少しだけ首を傾けた。
「何で君はそこまで頑張るの?」
ルミナ先輩の声は淡々としていた。
責めるでも、煽るでもなく――ただ、純粋な問い。
「……っ、はぁ……っ……そんなの……」
コウジ先輩は震える脚を叩き、歯を食いしばる。
「壁を越えるのは、生き物の本能だ。親でも、目標でも、昨日の自分でも――超え続けて、前に進む。それが成長だろ……!」
そして、コウジ先輩は一度息を吐いて、さらに言葉を続けた。
「だから……今日は勝たせてもらうぞ。ルミナ先輩」
「そう……せいぜい頑張りな」
その言葉とは裏腹に、ルミナ先輩は心底嬉しそうな様子で言った。もちろん、表情は全く変わってないけど、何となく理解できたんだ。
でも……。
「くっ……」
三百回を超えた時、コウジ先輩が膝をついた。
「……っ!」
本人も驚いたように目を見開く。
支えようとした脚は震え、もう言うことを聞かなかった。
:あ
:コウジ……!
:ついに来たか
:三百は化け物すぎるよ……
「終了ー! 第四戦、ルミナ・セレスティアの勝ち!」
ベオ先輩の声が響いた瞬間、ルミナ先輩はようやくスクワットを止め、静かに立ち上がった。
「……ふぅ」
その呼吸は、驚くほど乱れていない。
もちろん汗はかいていたけれど、それだけだ。疲れている気配なんて、微塵も見せない。まさか、身体能力でさえ、これほど別格だったとは……。
「お疲れ様」
ルミナ先輩は、コウジ先輩に手を差し伸べる。
その手は細くて白くて、スクワット三百回をこなしたとは思えないほど静かだった。
「……っ」
コウジ先輩は一瞬だけ、その手を見つめた。 悔しさ、情けなさ、そしてどこか誇らしさ――いろんな感情が混ざったような表情をしていた。
「……悪いな。情けねぇ姿見せちまって」
「情けなくない」
ルミナ先輩は、淡々とした声で言う。
けれど、その言葉には確かな温度があった。
「三百回も続けたんだ。普通の人なら、とっくに立てなくなってる」
「……っ、はは……そうかよ」
コウジ先輩は照れ隠しのように笑い、差し伸べられた手を取った。
ルミナ先輩は軽々と彼を引き起こす。
:ルミナ強すぎ
:コウジの体重でそれはやばい
:この二人、なんか良いな……
「コウジ」
「なんだよ」
「待ってるから、また挑んで来い」
ルミナ先輩は表情を変えずに言った。
でも、その声はほんの少しだけ弾んでいた。
「……ああ。次は負けねぇ」
コウジ先輩は、悔しさと嬉しさが混ざったような笑みを浮かべた。
:ライバル関係いいぞ
:静と熱のバランスが完璧
:次の勝負が楽しみすぎる
:ティアは?
:ティアは15回で死んでる
「悪い、負けちまった」
「いえ、凄かったですよ」
「ああ、我なら百回も持たない」
「ふっ、まだまだ」
「十五回のティアさんは言う権利ないと思うんですが……」
「うるさい」
ティア先輩はそっぽを向きながら、ぷいっと頬を膨らませた。
その仕草が妙に幼く見えて、周囲が思わず笑ってしまう。
:ティア拗ねてて草
:15回で死んだ人の態度じゃない
:かわいい
:でも運動しろ
これで、一勝三敗。僕たちの挑戦は、かなり追い込まれていた。
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一瞬足の力が抜け、よろめいてしまう。
しかし――。
「おつかれさま」
「……悪いな」
横からベオが支えてくれる。コウジたちがいる場所から見えないように、視聴者たちにも気づかれないように。
性格は悪いし、自ら進んで嫌われ役をやっているベオだけど、こういう所はありがたい。
「全く……君の悪いところだよ。限界近くまで追い込まれているのに、他人に一切隙を見せないなんて……」
「仕方がない。星になるためなのだから」
「……そういうところが、嫌いなんだよ」
そうして、ベオは私を優しく椅子に座らした。
「あと、ボクを含めて残り四戦。絶対に、途中で折れないでよ」
「当然だ。私が私であるために、絶対に最後まで戦い抜く必要があるからな」




