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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
最愛の君へ

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110/125

Fromティア

「が、頑張ってください!」

「ん」


 ティア先輩は短く返事をすると、ゆっくりと前へ歩み出た。

 その背中は小柄なのに、不思議と大きく見える。

 彼女の一歩ごとに、観客の視線が吸い寄せられ、チャット欄も再びざわめきを取り戻していく。


:初手がティアか

:一期生同士の対決だ

:どうなるんだろう?


「さぁ、ティア。勝つ自信はあるのかな?」

「うるさい。勝つから、黙って見てて」

「アハハッ! さっすがティア。期待してるよ」


:おおー!

:すげぇ

:期待してるぞ


「ティア、私に対して何で挑むんだ?」

「これしかないでしょ。ルミナに勝つためには」

「……チンチロリン、か」


:運ゲー……だと

:確かに、それなら勝てるかも

:いや、普段の配信を見てみろよ……


「べ、ベオ先輩」

「ん? ノア、どうかしたのかい?」

「これって、ありなんですか?」

「ありだよ。何でもありなんだから。でもね、ちょっと予想外かな。普段の配信では、ルミナはNeoverseの中でトップクラスに運がいいのに対して、ティアは最下位を争うほど運が悪いから」

「え?」

「入念にチェックしてるから、イカサマとかも出来ないし、どうやって勝つつもりなんだろうね?」

「だ、大丈夫なんですか……? それ」

「さぁ」


:ノアとベオが話してる……。配信じゃ初めてじゃね?

:確かに

:ほんと、ティアってどうやって勝つつもりなんだろうか?


「それじゃ、始め!」


 ティア先輩が予想外の分野でルミナ先輩に挑む。

 どうなるのかは誰にもわからない。だからこそ、全員の胸が高鳴っていた。

 

「掛け金として、チップが十枚。先に無くなったほうが負けで」

「どっちが先に親をするんだ?」

「ルミナが先で」

「いいのか?」

「うん」


:マジ?

:先に譲るの?

:でも、一対一だから、あまり関係ないのか


 そうして、勝負が始まる。


「ティア、何枚賭けるんだ?」

「最初だから、三枚からで」


 ティア先輩の宣言に、スタジオの空気が一瞬止まった。

 普通なら様子見で一枚から始めるところを、いきなり三枚、その大胆さに、観客もチャット欄も騒然となる。


:強気すぎるだろ……

:ティア、ほんとに運悪いんだよな?

:でも、こういう無謀さが好きなんだよな


「いいのか?」

「うん」


 まずは、ルミナ先輩から。ルミナ先輩がサイコロを三個持ち、器に入れる。

 カラカラカラ……と乾いた音がスタジオ中に響き、僕たちもチャット欄も一瞬息を呑んだ。

 そして、出目は――。


 三 三 五


:これは勝ちだろ

:運良すぎる

:ティア、終わったな……


「ユイ、チンチロのルールってどんなのだっけ?」

「えっと……サイコロを三つ振って、役を作るんだよ。役が揃わない限り、三回まで振ることが出来て、役はゾロ目とかシゴロ(4・5・6)が強くて、ヒフミ(1・2・3)は負け確定。あとは二つ同じ目が出たら、残りの一つが目になるの。出した役によっては、二倍以上貰ったり、逆に二倍払ったりするんだよ」

「へー、ということは……」


:五なんだよなぁ

:何出したら勝てるんだ?

:六、ぞろ目、ピンゾロ

:ティアなら無理だな

 

 観客もチャット欄も、ルールを理解した途端にざわめきを増した。

 ルミナ先輩の「五の目」は強い。これを超えるには――六、ゾロ目、そして奇跡のピンゾロしかない。


:ティアにそんな運あるわけないだろ

:いや、逆にここで奇跡を見たい

:ピンゾロ出したら伝説になるぞ


 ティア先輩は器を受け取り、静かにサイコロを握りしめた。

 その小さな背中に、観客の視線が吸い寄せられる。

 深く息を吸い込み、器を振る。


――カラカラカラと乾いた音がスタジオに響く。

 サイコロが跳ね、テーブルの上で止まった瞬間、全員の視線が一点に集まった。


 その出目は――。


 一 三 四


「次」


 二 六 三


「次」


 六 六 一


「ちっ」

「私の勝ちだな」


:弱いってレベルじゃねぇぞ……

:何で運ゲーにしたんだ?

:なんか、結末が見えて来た


 ティア先輩は手を台の上に置き、悔しそうに唇を噛んだ。

 三度振っても、強い役は一度も出ない。最後の「六・六・一」も、惜しくもゾロ目には届かず。

 その瞬間、勝敗は決した。


 ルミナ先輩は淡々とサイコロを片付け、静かに言葉を落とす。


「何故、このゲームにした?」

「言わないよ。自他共に認める天才なんだから、自分で考えたら?」

「ベオに似て来たな……」


 でも、ティア先輩は諦めた気配少しも無かった。その目は、ずっとルミナ先輩を捉えたまま、揺らぎもしない。

 負けを認めながらも、次の一手をすでに考えているような鋭さがあった。


:まだやる気か……?

:ティア、負けても全然折れてないな

:逆に怖いんだけど


「三枚」


 ティア先輩の短い宣言に、スタジオの空気が再び揺れた。

 負けた直後にもかかわらず、再び三枚を賭ける――その強気な姿勢に、観客もチャット欄も騒然となる。


:マジかよ……

:普通なら一枚に戻すだろ

:ティア、怖いくらい強気だな


ルミナ先輩は器を手に取り、静かにサイコロを入れる。

 

「……いいだろう。受けて立つ」


――カラカラカラ……コロコロ、と乾いた音が響く。

サイコロが跳ね、テーブルの上で止まった瞬間、全員の視線が一点に集まった。


その出目は――。


 五 五 六


:は?

:即勝じゃねぇか!

:運良すぎだろ……


「即勝って……?」


 僕が首をかしげると、ベオ先輩が静かに答えてくれた。

 

「チンチロでは、親が六の目を出すと、勝ちが確定するんだ。だから、これはティアの負けだね。他には、ピンゾロ、ゾロ目、シゴロが即勝。逆に、一の目やヒフミは即負だよ」


:なるほど

:へぇー

:ルミナ、強すぎるだろ……


「ティア先輩……」


 思い返してみれば、僕はティア先輩のことを全く知らない。

 コラボは二回もしたことがあるし、実際に会ったことがある。けれど、それだけだ。どんな人であるのかも、どんな過去があるのかも、何もかも分からない。

 だから、ティア先輩が何故こんなことをしているのか分からなかった。

 そして――。


「三枚」


 また、ティア先輩は三枚のチップを賭けた。


――――――――――――――――――――――――――


(わかってるよ。これが無謀ってことは)


 ノアの呟きを聞いて、私はそんなことを思っていた。

 ノアは、私の後輩の一人で、初期メンバー全員が期待している存在。本人は全く気付いていないけれど、彼女の今後は大変なことになることが確定している。


(最初は私の予定だったらしいからな……少し申し訳ないや)


 でも、今はそんなことを気にしている暇は無い。

 私は、今目の前にいる天才に勝たないといけないんだ。


「良いんだな?」

「うん、わかってるでしょ」

「ああ、ティアは一度決めたことは絶対に変えないから」


:ほんとに大丈夫か?

:今って、十六枚対四枚だよな

:今三枚賭けたから、ルミナ次第で負けるじゃんか


 そして、ルミナが静かな仕草でサイコロを三つ投げると、スタジオの空気が一気に張り詰める。

 誰もが分かっていた――ここでルミナが強い目を出せば、私の残りは一瞬で消えると。


:これ、もう決まったようなもんだろ

:ティア、残り一枚になるぞ……

:でも、ここで奇跡が起きたら伝説だな


 その出目は――。


 一 一 五


:あっぶねぇー!

:あとちょっとでピンゾロだったぞ!

:それでも、五は強すぎ


(危ない……ちょっと驚いた)


 何とか表情に出さなかったけど、背中が冷汗で濡れている。

 でも、まだ勝負が決まったわけじゃない。ここでもし、ピンゾロを出すことが出来れば、一気に優勢になるんだから。

 気を引き締めて、サイコロを投げる。そして――。


 二 二 一


「……イカサマしてる?」

「してると思うか?」

「……だよね」


:弱すぎだろwww

:なんでティアはこうなんだ?

:可哀そうに思えて来た

:二二って来たときは、ゾロ目かと思ったのに

:残りチップ一枚しかないぞ


(ああ、もう! 何がエンジェルナンバーの333だ! こんなの嘘っぱちじゃんか。いや……この場合はThelemaの「拡散・分散」のほうか。はぁ、全くチップが集まらない)


 気づけば、手元にはチップが一枚しか残っていなかった。

 次、負けてしまったら、手元からチップが無くなってしまう。本当に、がけっぶちだ。


(まぁ、1は統合の象徴とでも言うし、きっと勝てるでしょ)


 これが根拠のない自信だってことはわかってる。でも、私は何があっても勝たないといけないから、たとえ0%に近くても、勝つ可能性が一番高いと思った運ゲーに賭けたんだ。


(ベオ、心配しないで。絶対に勝利してあげるから)


 全く、あの馬鹿は自分の目的が誰にも知られていないと思ってるらしいけど、あいにく私と社長にはバレバレなんだよ。なんなら、シュウ姉も掴みかけているくらい。

 だから、私は勝たなければならないんだよ。


(ほんっとうに、めんどくさいよねぇ。ルミナの馬鹿は常人じゃ理解できないほど不器用だし、ベオはルミナが霞むほど不器用。こんな二人に囲まれた私のことを考えてほしい)


 社長がこのことを聞いたら「ティアさんがそれを言うんですか……」と呆れるんだろうけど、そんなことはどうでもいい。

 私は、友達たちのために、勝たないといけないから。


(もう、周りの人全てを救うなんて言わない。でも、私の手が届く範囲にいる人は絶対に救いたい。……そうでしょ、神様。救えなかった人がいるからって、人を救わない理由にならないんだから)


 善人であれ。自分は、そのルールを自分自身に刻んだ。

 それが成し遂げられているとは思わない。だって、私は人見知りで、ネット弁慶で、後輩たちにはきつい態度をとってるから。それでも私は、かのCRCのように善人でありたいと思っている。

 

 不器用で、嫌われても仕方ない人間だとしても、私の手が届く範囲だけは守りたい。

 だから、この勝負に負けるわけにはいかないんだ。


「ティア、準備はいいか」

「ルミナも準備はいい? だって、五枚のチップを出す必要があるんだから」

「よく言えるな」


 その言葉と共に、カラカラと器の音が鳴り響いた。

 サイコロが跳ね、テーブルの上で転がり、止まる。

 スタジオの空気は張り詰め、観客もチャット欄も息を呑んでいた。


 その出目は――四 四 五

 

:だから強いって……!

:運良すぎだろ

:ストレート負けか?


「ティアの番だぞ」

「わかってるよ、ちょっと感心してただけ」


 サイコロを両手で包み込むように持ち、ティア先輩は静かに目を閉じた。

 深く息を吸い込み、吐き出す。その仕草に、観客もチャット欄も一瞬言葉を失う。


:ティア、落ち着いてる……

:残り一枚なのに、全然怯えてない

:逆に怖いくらいだ


(Thelemaの言葉でも借りよう――汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならんってね)

 

 カラカラカラ……と器が振られる音が、スタジオ全体に響き渡る。

 その音は乾いていて、妙に長く感じられた。

 誰もが固唾を呑み、サイコロが止まる瞬間を待つ。


――コトン、と音を立ててサイコロが転がり止まった。出目は――。


 一 一 一


:おおー!

:ピンゾロきた!

:確か五倍だったよな?

:鳥肌立った……

:残り一枚からピンゾロとか奇跡すぎる

:ティア、やっぱ持ってるわ


 ルミナ先輩はわずかに目を見開き、器を見下ろしたまま動きを止めた。

 その沈黙が、逆にティアの勝利を際立たせる。


「……なるほど。これが君の意志か」

「そうだよ。だから、次はルミナが賭ける番だ」


 盤面は一瞬で逆転した。

 観客もチャット欄も、もう誰もティアを運が悪いだけの挑戦者とは思っていなかった。


 チップは十四枚対六枚。まだ私の方が不利。でも、負ける気はしない。


「ふっ、ティアがそう来るなら、私もよりこの場を盛り上げよう。――賭けるのは、六枚だ」


:六枚!?

:ルミナ、強気すぎるだろ

:これでティアが負けたら一気に終わるぞ


 ティア先輩は一瞬だけ目を細め、静かにサイコロを受け取った。

 

「……やるじゃん、さすがルミナだ」

「上から目線なのが気になるが、褒め言葉だと受けとっておく」



 観客もチャット欄も息を呑み、次の一投を待つ。

 これで負けたら、さっきのピンゾロの意味も無くなる。だから、ここで負けるわけにはいかない。


――カラカラカラ……と乾いた音がスタジオに響き渡る。


 六 五 三


「次」


:おしい!

:もうちょっとでシゴロだったのに


一 二 四


「……次」


:あぶなっ

:ヒフミになりかけてるじゃん

:次が、最後だよ


(たぶん、ルミナは次にゾロ目以上の目を出してくる。だから、これで決めないといけない)


 たとえ根拠が無くても、同期としてルミナのことはよくわかっている。だからこそ、自分の手で勝利を掴み取らないと、負けてしまうことを理解していた。


 息を止め、サイコロを優しく放つ。一つ一つが、ゆっくりと回転しながら器の中に入り、乾いた音を立てて跳ね返る。

 まずは、一つ目。


 六


 二つ目


 六


 そして、三つ目。コトン、と最後のサイコロが転がり、静かに止まった。

 観客もチャット欄も、固唾を呑んでその目を凝視する。


 出目は――六


:うわああああ!!

:六ゾロだ!!

:強すぎる……!

:ティア、奇跡続きすぎだろ……


 スタジオが一気に揺れた。歓声とどよめきが重なり、チャット欄は爆発的な勢いで流れていく。


「ふぅ」


 一気に体から力が抜けて、背もたれに体を明け渡す。

 こんなこと、もう二度とやりたくない。


「……おめでとう、ティアの勝ちだ」

「どうも、運だから、勝った実感がわかないけど」

「それは違う、運も実力の内だ。私に勝ったんだから、誇ってほしい」


:おめでとう!

:最初はどうなるかと思った……

:凄かったぞ


「アハハッ! ということで、第一戦はティアの勝利! これで、まずは挑戦者側が一勝目、熱い勝負をした両者に拍手を!」


:8888

:88888888

:凄かったぞ!


「……ベオ」


 マイクが拾わないほど小さな声で、ベオに向かって呼びかける。

 ベオは、それに気づかなくてもおかしくなかったのに、ちゃんと気付いてくて、私のそばまで寄ってきてくれた。


「どうしたの?」

「私は、勝ったよ」

「ほんと、おめでとう。同期として誇らしいよ」

「そうじゃない。これで、一歩近づいたでしょ」

「……ありがと」


 ベオは一瞬だけ目を細め、小さな声で私に感謝を伝えた。

 それは本当に小さくて、たったのそれだけ? とも思ったけど、やっぱしこの一声だけで頑張ったかいがあったと思う。


「さぁ、次は第二戦。社長VSルミナ・セレスティア。両者とも、前へ!」


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