コラボ3
テトラスでの熱い戦いが終わった後、僕は五分間くらい休憩させてもらっていた。
その間の配信は、ユイが雑談をしながら場をつないでおり、僕と戦った感想や、これからもコラボしていくのかについて話している。
:ユイちゃんの負けコメントかわいいw
:ノアちゃんとのコンビ最高だから続けてほしい!
:次はどんなゲームやるのか気になるー
「でもね、正直すごく楽しかったんだ。ノアちゃん、初めてなのにあんなに成長するなんて……これからも一緒にやったら、もっと面白いことができそうだよね」
ユイの言葉に、チャット欄がさらに盛り上がる。
僕は水を飲みながら、その声をイヤホン越しに聞いていた。
でも、それと同時に違和感を覚えた。
それは、とても小さく普通なら気付かないもの。けれど、僕は人見知りで、いつも他人の顔色を探ってしまうし――記憶はないけれど、前世の経験もどこかで引き継いでいる。だからこそ、気づけたのだ。
明るく響いているのユイの声に、ほんのわずかな沈みが混じっていることに。
それは、僕に負けてしまったから?
――いいや、そんな単純な理由ではない。
まだ出会ってから日は浅いけれど、ユイが負けただけで隠せないほど落ち込むような人ではないことは、もう理解できている。
あの沈みは、もっと別のところに理由があるはずだ。
「それにしても、ノアちゃん遅いね。何かあったのかな?」
そんなことを考えていると、配信でユイがそう口にしていた。
「あっ、早く戻らないと」
僕は立ち上がり、急いで配信部屋の方へ歩いていく。
ドアを開けると、ユイがこちらを振り返った。
画面越しの笑顔と同じように、明るく手を振ってみせる。
「おかえり、ノアちゃん! みんな待ってたよ」
その声は弾んでいて、チャット欄も一斉に沸き立つ。
:ノアちゃん復帰!
:二人そろったー!
:ここからが本番だな
僕は慌てて席に着き、マイクに向かって頭を下げた。
「お待たせしました!」
笑顔を作りながら声を張る。
けれど、ユイの瞳の奥に――ほんの一瞬だけ、あの沈みがまだ残っているように見えた。
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「気づいたら、もうこんな時間なんだね。それじゃあ、最後はカラオケにしよっか!」
ユイがそう言った瞬間、チャット欄が一気にざわめいた。
:待ってましたー!
:歌枠きた‼
:二人の歌声楽しみすぎる
「本当に歌うんですか……?」
ボクの歌を誰かに聞いてもらうなんて、母親を除けば初めてのことだった。
胸の奥がざわつき、手のひらにはじんわりと汗がにじむ。
「もちろんだよ。ノアちゃんの歌声、きっと素敵だから」
ユイが笑顔で背中を押すように言う。その声は明るいのに、どこか優しい響きが混じっていた。
:ノアちゃんの歌声楽しみ!
:緊張してるのかわいいw
:ユイちゃんナイス後押し!
「……わかりました。じゃあ、一曲だけ」
そう答えると、チャット欄がさらに盛り上がる。
画面の向こうから伝わってくる熱気に、鼓動がますます速くなった。
初めて人前で歌を歌う。もし、下手だと言われたらどうしよう。そんな思いが喉を塞ぎそうになるけれど、この配信を見てくれている人たちのことを思うと、不思議と声が出てくる。
「――――」
マイクに口を近づけ、そっと声を乗せる。
最初の一音が空気を震わせた瞬間、配信部屋の雰囲気が一変した。
自分の声が、マイクを通して世界に広がっていく。
緊張で手が震えているはずなのに、不思議と心地よい。
歌うたびに胸の奥の不安が少しずつ溶けていき、代わりに温かな熱が広がっていった。
:……え、うまい
:声きれいすぎるんだが
:なんで、今まで歌枠が無かったんだよ
歌が進むにつれて、最初にまとわりついていた緊張はすっかり消えていった。手の震えも止まり、歌声がより透き通っていく。
(歌を歌うのって、こんなにも楽しかったんだ)
いつも、ボクしかいない家の中で歌っていて、聞いてくれる人なんて一人もいなかった。
だけど、今は画面の向こうに、耳を傾けてくれる人たちがいる。その事実が、ボクに新しい力を授けてくれた。
:鳥肌止まった瞬間ない
:心に沁みる……
:涙出てきたんだけど
最後のフレーズを歌い切った瞬間、伴奏が静かに消えていく。
残響のように、透明な声の余韻だけが部屋に漂った。
静寂。
ほんの数秒の沈黙のあと、チャット欄が一斉に爆発する。
:ブラボー‼
:ノアちゃん、すごすぎる!
:初めてでこれは反則だろ……
配信を見てくれた人たちには、ボクの歌声はちゃんと届いたらしい。
――あぁ、歌ってよかった。初めて人に聴いてもらえた歌は、こんなにも嬉しくて、こんなにも心を震わせるんだ。
そして、次にマイクを渡そうとユイの方へ視線を向けた。
その時のユイの表情は、一見するといつも通りの明るい笑顔だった。でも、その奥には今まで一番の影が見える。
ボクはそれを見て、ユイの影の正体が理解できた。




