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TS転生したぼっちJK、陰キャの僕がVtuber事務所で仲間と成長していく話  作者: 月星 星成
最愛の君へ

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苦労人1

「こういう感じでよろしいでしょうか?」

「あっ……えっと――」

「ふふっ、私のことを気にしないで、自由に要望を言ってください」

「あっ、それなら、自爆用の道具を作ることは可能ですか……?」

「自爆用……いいですね。試しに作ってみます」

 

 僕は、社員さんと来月のコラボのために準備をしていた。

 今作っているのは、ルミナ先輩との鬼ごっこで使うことが出来る逃走者用の道具だ。僕には、そういう特殊アイテムを作る技術は無いから、社員さんにコマンドやmod、専用マップを作ってもらっている。……本当に、ありがたい。


(それにしても、このNeoverseって社員さんも優秀なんだ……。ブロクラをメインで配信をしている人は、ニヤさんくらいだし、そのニヤさんもRTAやPVPばっかで社員さんのサポートを必要としていないのに、専用マップやmodを作れる人がいるなんて)


 他の事務所では、専用マップを自社で作るのではなく、ブロクラをメインで動画投稿しているグループの会社に外注している例もある。なのに、このNeoverseは自社で全てを完結できる。だからこそ、僕たち配信者は安心して新しい企画に挑戦できるのだ。


「自爆用と言いますが、どのような効果を与えたいですか?」

「そうですね……一定時間の拘束はどうですか?」

「わかりました、それで調整してみます。今日は、ここまでにしますので、次回はテストプレイをしてみましょう」

「ありがとございました」


 そうして、僕は作業室を出て、事務所の廊下を一人で歩いていく。


(これで、ルミナ先輩に勝つための準備はある程度、目途が立ったかな? あとは、練習するだけだ)


 そんな時だった。

 とある扉から、大量の紙と一緒に長身の男性が倒れた。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 慌てて駆け寄ると、長身の男性は床に散らばった紙を必死にかき集めながら顔を上げた。


「あっ、大丈夫ですよ。心配かけて申し訳ございません……あれ? ノアさんですか?」

「え? 何で僕を……あっ、もしかして社長⁉」


 社長とは、半年くらい前のオーディションで一度だけ会ったことがある。


 思わず声が裏返る。半年ほど前のオーディションで一度だけ会った人物――その印象的な長身と落ち着いた雰囲気を、僕は忘れていなかった。


「覚えていてくれたんですね。嬉しいですよ」

 

 社長は微笑みながら、散らばった紙を一枚ずつ丁寧に拾い上げていく。


「すみません、こんなところでお見苦しい姿を……。資料を運んでいたら、足を滑らせてしまって」


 床に散らばった紙には、無数の文字や、たくさんの数字が並んだ表やグラフが書かれていた。少ししか見ていないからかもしれないけど、それらの内容は到底理解できないもので、見るだけで目が痛くなってくる。


「この資料って、何の資料なんですか?」


 僕が恐る恐る尋ねると、社長は一枚の紙を軽く掲げて見せた。


「わかりやすく言えば、演者方のシュミレーション資料ですよ。再生回数や登録者人数の伸びを予想した物です。これを使って、これからどのような企画をするのか決めて居たりするんですよ。……まぁ、よく外れるんですけどね」


 社長はそう言って、自虐げに笑ってみせた。


「外れるのに、使っているんですか?」

「そうですよ。合ってることもありますから、参考になりますし、外れたとしても、なぜ外れたのかを考える材料になるんですよ」

 

 社長は紙束を整えながら、穏やかな声で続けた。


「数字は未来を保証するものではありません。でも、演者の皆さんが安心して挑戦できるように、私たちはできる限りの準備をしておきたいんです」

「……準備、ですか」

「ええ。表に立つ人が全力を出せるように、裏方は土台を固める。それが事務所の役割ですから」


 社長の言葉は落ち着いているのに、不思議と胸に響いた。

 ただの数値やグラフではなく、そこに込められた意図が見えた気がしたのだ。

 ただ……。


「社長も、二期生として表に立っているじゃないですか」

「まぁ……それは、そうなんですがね」


 社長はまるで裏方だけをしているような物言いをしていたけど、彼も立派な二期生の一員で、しっかりと表に立っているんだから、裏方としての意見を言うには違和感がある。

 それに、チャンネル登録者数も他の二期生に劣ってるどころか上回っているせいで、余計にその違和感を感じてしまった。


「でも、ルミナさんやベオさんよりかは下ですから」

「……比較対象が悪いだけでは?」

「自覚はあるんですけどね」


 社長は肩をすくめて、苦笑を浮かべた。


「まぁ、目標にしている人たちですから、つい比較してしまうんですよ。……そうだ。時間が合ったら少しだけ話しませんか?」

「別に、良いですけど……」


 僕が答えると、社長は安心したように微笑んだ。


「ありがとうございます。三期生であるノアさんに聞いておきたいこともありましたから。立ったままでは疲れてしまいますし、どうぞこちらへ。遠慮なく座ってください」


 促されるままにソファへ腰を下ろすと、社長も向かいに座った。社長は資料の束を机に置き、指先で軽く整えながら、落ち着いた声で口を開く。


「ノアさんにとって、Neoverseはどうですか?」

 

 社長の問いに、僕は少し言葉を探した。


「そうですね……居心地が良くて、自由な職場だと思いますよ。それに、いい意味で放任主義というか……事務所から何かを強制されることが少ないおかげで、やりやすいなと思っています。」

「居心地のいい……それは良かったです。これはあくまで僕の意見なんですけど、こういうVtuberに対してあまり事務所の方から何かを強制したりするのは避けたほうが良いと思っていますから。……これは言ってしまうと駄目な言葉かもしれませんが、コンプライアンスも多少甘くていいと思っています」


 その言葉に、僕は驚いた。今のインターネットでは、小さなことでも炎上することが多く、よりコンプライアンスについて意識したほうが良いと思っていたからだ。

 それに僕も一度、炎上しかけたことがある。それは、五月の三期生コラボの時のことであり、あの時に四十五分も遅刻してしまったせいで、ネットが少し荒れてしまったのだ。

 それは運よく収まってくれたけど、あのことは常に反省している。


 「それで、大丈夫なんですか?」

 「もちろん、最低限のルールは守らなければなりません。でも、あれこれ縛りすぎると演者の皆さんがしたいことが出来なくなってしまいますし、負担もかなり増えてしまうでしょう。事務所が炎上を恐れすぎるあまり、役者に負担が溜まっていって、卒業や転生などするのは絶対に避けないと駄目なことだと思っていますから」


 なるほど、そんな考えがあるのか。

 確かに、言われてみればそうかもしれない。


 (僕はあの時、遅刻で炎上しかけて……ずっと事務所に迷惑を掛けたらだめだと思っていた。でも、社長の言葉を聞いていると、失敗を恐れて縮こまるよりも、挑戦を続けることの方が大事なのかもしれない)


「……少し、気が楽になりました」

「よかったです。もちろん、大きな炎上は避けないといけませんけどね。……炎上において一番参考にするべきなのは、ある意味ベオさんですから」

「……確かにそうですね。ある意味、ですけど」


 ベオさんは、あの性格の悪さも相まって、しょっちゅう炎上している。

 ただ、それらは小規模の炎上であり、中規模以上の炎上なんて二期生がデビューするより前の時代の数回しかない。

 それは、彼女のリスナーたちがベオさんに対する耐性が付いているからでもあるし、ベオさんの炎上のコントロールが上手すぎるからだ。……いや、むしろ耐性が付くようにコントロールしていたのかもしれない。


「ベオさんは、嫌われ役を買って出ているところがありますからね。彼女のおかげで他のメンバーの炎上が抑えられているという側面もあります。……素の可能性もありますけど」

「いや、あれは素だと思いますよ」


 社長がベオさんを援護しようとしていたけど……うん、あれは無理だ。あの人は素で性格が悪い。

 嫌われ役を買って出ているのは、ただ自身の性格を有効活用しているだけだろう。


「ノアさんは、このNeoverseの将来について、意見はありますか?」


 社長の問いに、僕は一瞬言葉を失った。


「将来……ですか」

「ええ、演者からの視点を知りたいので。……ああ、もちろん、絶対に言えと言っているわけではありませんし、演者からの視点じゃなくてもいいですよ。例えば、これからの時代に備えてこういうことをしたほうがいい、とか」


 Neoverseのこれから……か。うーん、どんなことがあるだろうか。演者からの視点では何も思いつかないし、最近の時代に合わせた物のほうが良いかな?


「メタバース……でしたっけ? そんなのはどうですか?」

「確かに、それは良い案ですよね。ただ、僕の考えだと、それはまだ早すぎると思っているんです。ソード〇ートオ〇ラインのような機器が発明されたら話は変わりますけど、現行のメタバースは主に視覚・聴覚中心で、十分な五感統合による高没入には未達です。だからこそ、ネットの高度な拡張として捉えるべき段階にあると考えています。僕はネットを現実に持って行くより、現実をネットに持って行った方が需要はあると思っているので、あまり挑戦しようとは思えないんですよね。……まぁ、これは僕の考えなので、間違っているかもしれませんが」

 

 そうして、社長はどんどん言葉を続けていく。

 もしかしたら、社長は自分の考えを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


「それに、メタバースで出来ることなら、ブロクラで専用のワールドを作れば、似たようなことが出来るんですよ。表現がボクセル的で世界がブロック状になりますが、初期投資と試行コストを抑えやすく、運用成功例も多いので有力ですから。……そういうことを見越して、ブロクラの技術を持っている社員を募集したのに、一向に使う機会が来なかったんですよね。ルミナさんやベオさんは僕の心情を理解して、たびたびブロクラで何かをやってくれていますが、それ以外のメンバーは滅多にしないし、協調性が少ないせいで共同ワールドで何かをするってことも出来ない。企画段階で、現在の共同ワールドとMODを使って遊べるワールドを繋げることを提案しているのに、協調性という足かせのせいで何度も却下されているんですよね……。はぁ、中々理想を現実に持ってこれない」

「だ、大丈夫ですか……?」


 あ、これは話を聞いてほしいんじゃなくて愚痴なんだ……。

 まぁ、二期生の人たちは自分が好きな分野に特化している人たちだから、協調性を要求するのは難しいよね。


「すみません、つい愚痴になってしまって」

「い、いえ。大丈夫です。何か困ったことがあれば、僕に出来ることなら、手伝いますから」


 社長は一瞬驚いたように僕を見て、それからふっと笑った。

 

「……ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、少し救われますね」

「そ、そう言えば、社長は何でNeoverseを設立したんですか?」


 話を逸らすついでに、今までちょっとだけ気になっていたことを質問する。

 僕の知る限りでは、Neoverseの設立に関する話は配信でしていなかったはずだ。

 社長が大学生時代に設立したという事実だけしかわかっておらず、誰もそれについて詳しく知らない。だから、これを機に聞こうと思ったのだ。


「あ、言いえないのなら、それでいいです」

 

 社長は少しだけ目を伏せ、机に置いた資料の束を指先で整えながら、静かに息を吐いた。


「……いえ、言えないことではありません。むしろ、誰かに聞いてほしいと思っていたのかもしれませんね」


 そう言って、社長はゆっくりと顔を上げた。


「僕がNeoverseを設立したのは、ある二人の人物の影響です。その人物とは――」



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